第25話  いざ新天地へ

ミカラたちは人間の町へと到着した。

門番の衛兵に軽く質問され、荷のチェックを受けた後、問題無く町へと入れる。

言語も通じて一安心。

イケオジダークエルフから当面の路銀も頂いたので、しばらくは問題無く過ごせるだろう。


「いえーい久しぶりの町だぜーっ」


ミカラが柄にもなくはしゃぐ。

エルフの王都はとっとと出てきたし、大森林では魔族を、ダークエルフの集落では魔物や騎士団を撃退した。

息つく間も無いとはまさにこの事。

反面ある意味のんびりとした馬での移動も、ひたすら森と草原だけで退屈だった。

雑多な町並みと人々の喧騒は実に落ち着く。

商人の呼び込みや何処かから聞こえる喧嘩の声など、大陸を超えても変わらない。


「さーて、どうすっかな?」


ミカラは4頭の馬を町の厩に預ける。

料金を払えば面倒を見てくれる。

売っぱらっても良かったが、割と良い馬たちだったし、これからも乗れるのは便利だ。


(女の居る酒場か娼館にでもしけこみたいとこだが・・・)


ひとつ、問題がある。


「ほう、これが人間の町か。ワシが来る時はいつも馬車で王宮や神殿に連れてかれて、下町など見物できんかったからのぉ・・・む!婿殿!あの良い匂いのするモノはなんじゃ?食べてみたいぞ!・・ぬ?人間の金か?持っておらぬの。そうじゃ、この髪飾りなんてどうじゃ?あの菓子と交換してくれるかの!?」


ミルティーユが屋台で売っているお菓子を目ざとく見つけ、屋台ごと買ってもまだお釣りが来るであろう精霊の加護付き髪飾りを手に持ってそわそわしだす。

見た目は木彫りの髪飾りだが、それなりの目利きに見つかると大騒ぎになる代物なので、ミカラはミルティーユに小銭を握らせて送り出す。


「旦那様、この町なら私も来た事があります。案内なら私にお任せを。あと、もしよろしければ食材と調理器具の購入をお許しください。妻として、旦那様には精のつく物を食べて頂きませんと・・・あ、いいな、赤ちゃん可愛い・・・ミルティーユが居る以上正妻にはなれないかも知れない・・・ならば第一子は絶対私が産みますから・・・うふ、うふふ」


マハナが、なんか燃えてる。

赤子連れの年若い夫婦の通行人とかをジッと見つめて何かぶつぶつ言っている。

怖いよぉ。


「主様主様。私もこの町なら少し知ってるよ。美味しいご飯食べれるとことかさ。あ、なにそれ?歓楽街案内図?娼館割引クーポン?本日1番人気の娘をご紹介―――あ、ごめん主様。思わず燃やしちゃった。取り間違いだよね?主様が取ろうとしたのはこの恋人たち大人気デートスポット案内だよね?わかってるって!」


シャプティがミカラが手に取った、ドギツイピンクのいかがわしいチラシを火の精霊魔術で灰に変える。

己の掌の中で、儚くも灰となり散っていく風俗のサービス券を見つめながら、ミカラは世の無情を、不条理を嘆く。


「くそっ・・・俺に自由は無いのか・・・っ!」


屋台でお菓子を買ってきたほくほく顔のミルティーユの頭をなでながら、ミカラはとりあえず冒険者ギルドへと向かった。









「こいつらの登録を頼むわ」


「え?はい・・・エルフにハーフエルフ、ダークエルフの方ですか?」


「ああ、このちっこいのが1番年上だから、年齢制限は3人共大丈夫だろ?」


ハイエルフと訂正はしなかった。

面倒事になるだけだ。

王族の使者や高位の神官とかが飛んでくるだろう。


「しょ、少々お待ちを・・・」


ギルドの受付嬢は上司を呼びに行った。

エルフ族の冒険者は珍しくもないだろうが、エルフ、ハーフエルフ、ダークエルフの欲張り3点セットを引き連れたミカラは、さぞ怪しさ満点大爆発だろう。


(うーん。あんま俺の名前出したくないけど、身元保証人要るかな?ずさんなギルド支部なら金積めばどうとでもなるけど)


エルフ大森林に程近い町である。

エルフを拐って奴隷として持ち帰ろうとする輩を食い止める防衛ラインでもあるはずだ。


(まぁ、騎士団規模のエルフ狩りには対処できないだろうがな)


あの騎士団が目論見通りにエルフを捕獲していたら、たぶん大森林からの避難民を保護したとかなんとかの名目でこの関門を突破しにかかっただろう。

受付嬢が呼んできた上司にさらに案内され、ミカラと3人のエルフ族は支部長室へと案内される。


(さて、穏便に済ませられるかな?)


扉を開いた途端、1人の女エルフが勢いよく飛び出してきた。


「ミルティーユ様、よくぞご無事でっ!」


女エルフはミルティーユの足元に滑り込むように平伏す。

がばりと顔を上げると、目からダバダバ涙をこぼしながら歓喜の声をあげる。


「魔物の大群に王都が襲われていると聞き、居ても立っても居られなかったですっ!我が支部もやっと国からの支援金をなんとか確保できましたので、冒険者ギルドからの依頼として、討伐のための冒険者を募っているところでございましたっ!」


ミルティーユの知己であるようなそのエルフは、勢いよく立ち上がると、早口なエルフ語でまくし立てて気炎を吐いている。

金髪碧眼、細身で痩せ型。

ごく一般的なエルフだ。

ミルティーユはそのエルフの剣幕に呆気に取られている・・・と言うより首を傾げている。


(あ、姫さんこのエルフの事覚えてないな?)


みんなの平和のために気づかないふりをするミカラ。

結局誰か思い出せなかったのか、ミルティーユは首を傾げたまんまだ。

代わりにマハナが口を開く。


「魔物の大群ならば、旦那様が倒しましたよ。一撃でした」


えへんと胸を張り、ミカラを指し示す。

盛らないで欲しい。


「ははは。冗談はおよしなさい、ハーフエルフのお嬢ちゃん。魔物を率いているのは魔族らしいん―――」


「魔族なら婿殿が倒したぞ」


ミルティーユもミカラを指差す。

倒してない。

まんまと逃げられただけだし。


「え?はえ?倒した?ミルティーユ様がこの町にお忍びで来て、冒険者登録という名目でギルド支部長の私に会いに来たのは、対魔族の援軍の件では?」


「違うのじゃ」


「・・・あ、わかりました。ならあれですね?隣国のとある騎士団がエルフ捕獲の任を受けて秘密裏に動いてる話ですね?どうやら魔物に襲われて全滅したらしいという・・・ 」


「その連中ならウチの集落に来たよ。主様が追い払ってくれたけどね。ありがと主様―――ちゅっ!」


シャプティがミカラの頬へキスをする。

分厚い胸部装甲もミカラへと押し付けられる。

不意打ちだったのでミカラは避けられなかった。

いや嘘。

避けなかった。

所帯を持って身を固める気は毛頭無いが、おっぱいに逆らえないのが男なのだ。


「ちょっ!貴女いきなり何するんですっ!?」


「ぬおおおっ!?ずるいのじゃっ!ワシも!ワシも!婿殿っ!チューっ!チューっ!」


残り2人がギャアギャア騒ぎ出す。

我に返ったミカラはおっぱいの罠から脱してシャプティから離れると、残り2人の顔面を抑えてチューを阻止する。

ギルド支部長はたった今ミカラの存在に気付いたように、改めて話しかけてくる。


「そ、そういえば君は、誰なんだいったい?」


受付嬢からその上司を経てギルド支部長に伝達があった。

女エルフ、女ハーフエルフ、女ダークエルフと人間の男という謎の組み合わせが冒険者登録に来た。

不思議な組み合わせだが、普段なら特に警戒するほどではない。

だが時期が時期だ。

タイミング的に何か裏があるかと思い面会を求めてみたらハイエルフの姫君が居た。

エルフ王都の領主直々の非公式訪問。

人間の男はせいぜい案内役か顔繋ぎ程度だと思いこんだ。


(聞き間違いか?旦那様に婿殿?主様とは?)


3人がやたらとこの男を立てようとするし、魔物も魔族も人間の騎士団すらすべてこの男が1人で片付けたと言う。

そんな馬鹿な。


(勇者じゃあるまいし)


勇者ベオウルフ。

魔王軍相手に文字通りたった1人で渡り合った化け物。

ベオウルフ率いる勇者パーティーは軍隊と言えるほどの規模を誇ったが、そのほとんどは戦力としての扱いではなかった。

ベオウルフの力をいかに温存できるかが、勇者パーティーの役目であったと言う。

あの勇者ベオウルフと肩を並べて戦えた者は1人としていなかった。


「ミカラです。冒険者です。旦那でも婿でも主でもないです」


ミカラが棒読みで自己紹介する。


「そうか、ミカラ、私はダイヤ・モンドと言う。この町の冒険者ギルド支部の支部長だ。よろしく頼むよ」


ダイヤ、ダイヤ・モンド・・・とミルティーユがぶつぶつ言っている。

この野郎、誤魔化し切る気だな?


「えぇと?それでは魔物の件は解決?という事でよろしいので?」


ダイヤが困惑する。

ならば支援金によるクエスト内容も変更になるだろう。

魔物の大群との戦闘。

死地へと赴くは確実。

実はあまり集まりは良くなかった。

しかし出資があった以上、何か違うクエストをひねり出さねば。

騎士団規模でのエルフ狩りは滅多にないだろうが、火事場泥棒の如くエルフやその財宝をかすめ取ろうとする不埒な輩は出てくる。

その対処あたりが無難な落としどころか。


「では、王都側として冒険者ギルドへ求めるモノはございませんか?」


長老集を介さずにやり取りするのは不敬ではあるが時間短縮にはなる。

ダイヤはエルフ王都の最高責任者に問うてみる。

が・・・


「知らん」


「え?」


ミルティーユの言葉に鼻白む。


「ワシは王都の領主の任を降りた。ハイエルフもワシ1人ではない。どっかの誰かが後釜につくじゃろ。そっちに聞け」


ミルティーユはつまらなそうに吐き捨てる。

ミカラを害しようとした国民たちを思い出したからだ。

ミカラに彼女が特別な感情を持ってる事を別にしても、あの恩知らずな態度はエルフを束ねる者として許せるものではない。

人間の王族と違い、彼女には国民を正しく導く責任も義務も無い。

有事の際の決戦兵器も兼ねて君臨していただけだ。


「はぁ・・・それでは、ミルティーユ様は今いったいなんの目的で旅を?」


ダイヤの頭を?マークが踊り狂っている。

エルフ王都が魔物の大群に押し潰されていないのは重畳ではあるが、情報量が多過ぎて処理しきれない。

ハイエルフは嘘を吐かないし、ハイエルフに嘘は吐けない。

このミカラ某が魔族を退けたのは本当なのだろう。

何処か呆けた表情のダイヤに対し、ミルティーユは胸を張り堂々と応える。


「婿殿との新婚旅行中じゃ」


「旦那様との新婚旅行中です」


「主様と新婚旅行っ!うわっ!いいねその響きっ!」


ドサクサにまぎれてとんでもない事を言いよる3エルフ。


「君はいったいなんなんだ?魅了や隷属の効果のあるアーティファクトか、そのような魔眼でも持ってるのか?」


ダイヤが少しミカラから距離を取る。

ハイエルフの姫君は見た目は幼いが、他の2人は肉感的で人間が好きそうな体つきだ。

自分もエルフの割には満更でも無いと自負している。

人間は寿命が短く世代交代も早いためか、たまに突然変異のような異能の者が生まれる。

エルフを魅了する特異体質でも持ってるのかも知れない。


「・・・ わ、私には夫も子供も居るからな?」


少し警戒して言うと、ミカラは心外そうに応える。


「人妻とか嫌だよ。トラブる元だろ」


「む、娘もやらないぞ?あ、会わせないからな?まぁどのみち、ちょっと離れて暮らしてるから無理だが・・・」


ダイヤが語るに落ちる。

ミカラが悪い顔をしてニヤリと笑う。


「へぇ、留学か?優秀なんだな?」


「ははは、私に似てとても優秀でな。魔術国家国立学園に・・・」


「ほほぉ?」


ミカラがニッコリと笑い、まんまとハメられたダイヤママが青褪めている。


「そそそんな事を聞き出して私の娘をどうする気だっ!?」


魔術国家は同じ大陸にある。

この町に駅は無いが、大陸横断列車を使えばヒョイッと行けてしまう。

ハーフエルフの女の子なら人間の町でよく目立つ。

すぐ見つかるだろう。


(ななななんて事だっ!うちの可愛いリリがっ!)


人間の町で育てた愛娘のリリアンは、ハイエルフのような箱入りではないが、大切に育ててきたのだ。

エルフキラーみたいな男の4番目の妾みたいな位置に嫁がせるつもりはない。


「くっ!・・・わかった。私の体で勘弁してくれないか?夫には、黙っていて欲しい・・・」


ダイヤはそう言って衣服を脱ごうとする。

ミカラは慌ててその手を止める。


「悪かったよ。冗談だ冗談。でもかなり誤解があるようだな?話し合おう」


ミカラがダイヤと腹を割って話し合いをしようとした時・・・


「あの・・・すみません」


ギルドの受付嬢が5人に話しかけてきた。

今の今までエルフ語で会話していたので、人間である彼女が内容を理解しているかはわからない。


「ああ、うるさかったかな?」


ダイヤが部屋から飛び出てきたため、部屋前の廊下でわーわーぎゃーぎゃー騒いでいた。

苦情でも来たのかと思ったら・・・


「モンド支部長。またあの、ラピスさんが・・・」


「ああ、またか・・・」


その名前を聞き、ダイヤがあからさまに嫌そうな顔をした。

ミルティーユに向かい、平身低頭で謝ってくる。


「申し訳ありませんミルティーユ様。お狭いですが、こちらのお部屋でお待ち頂けますか?」


そう言ってからダイヤが冒険者ギルドの受付ロビーへと向かおうとすると・・・


「あ!何よ!エルフのパーティーいるじゃない!」


1人の女エルフがこちらへとやってきた。









「なによ〜勿体つけて。ちゃんとエルフだけのパーティーだし、女だけだし、私の要望通りじゃない」


現れたのはエルフの女冒険者だった。

値踏みするように3人のエルフ族を見ている。

背中に弓矢、腰に長剣、太腿やスネにはナイフ。

おまけに手には杖を握っている。

歴戦の猛者と言うより、初心者の勇み足感が半端ない。


(オールラウンダー・・・と言うにはとっ散らかり過ぎだろ?)


きっと1人でなんでもやりたがるタイプなのだろう。


「控えよ、ラピスラズリ。このお方をどなたと心得るっ!エルフ王族ハイエルフが1人、ミルティーユ・シャーフィーユ様であるぞっ!」


「え?ハイエルフ?嘘でしょ?そんなに凄い精霊の加護とか感じないんだけど?」


大森林から離れたミルティーユはその本来の力を失っている。

疑わしそうにミルティーユを見て、無礼千万な評価を出すラピスラズリに、ダイヤがわなわなと震えだす。


「おまっ!お前なぁっ!この方が本気を出したら町ひとつ樹海に飲み込まれるんだぞっ!やめろマジでっ!」


割と大マジだ。

ミルティーユには絶対その気は無いだろうが、このくらい大森林と近ければ、強引に領域を拡大してこの町ひとつくらい飲み込めるだろう。


「そんなんせんわ面倒臭い。それにワシは寛容なのじゃ。若輩者の無礼など笑って許すわい。かっかっか」


ミルティーユがそう言って笑う。

ハイエルフは長命過ぎて細かい事にこだわらない究極の面倒臭がりなのだ。

人間領に勝手に手を出すと、やれ賠償だ、やれ戦争だと色々な事案が発生する。

もしもこの町で怒り狂う事があっても、せいぜい大木を増やしまくって建物をめちゃくちゃにするくらいで済むだろう。

樹海化して精霊で場を満たせば、人間の住める環境ではなくなる。

そこまではしない。

たぶん。


「まぁいいわ。確かに子供のエルフにしては精霊の加護が強いものね。確かにハイエルフなのかもね。はじめまして、ラピスラズリよ。大森林出身じゃないけど、エルフ同士よろしくね」


「ミルティーユじゃ。むしろ、姫様領主様と畏まれるよりマシじゃ」


そうなのだ。

恋敵としては邪魔でしかないが、マハナもシャプティもハイエルフだからと遠慮をしない。

そちらの方が気は楽なミルティーユである。


「それでこいつなんなん?」


ミカラがダイヤに話を振る。

いい加減とっとと要件を済ませたい。


「ウチの1番の問題児にしてエルフの面汚しだ」


酷い言われようだ。

しかしラピスラズリと名乗ったエルフは気にも留めない。


「はん!将来有望な若手への嫉妬なんて見苦しいわね。私という才能を活かしきれてないこのギルドが悪いんでしょ?」


腕を組み尊大な態度を崩さない。


「なるほど、問題児だな」


ミカラが頷く。


「それより、貴女たちも冒険者なんでしょ?私と一緒に組みましょうよ?エルフ族で女だけのパーティーなんて最高じゃない」


小躍りするようなラピスラズリに対して、3人の反応は冷淡だ。


「いえ、私たちはまだ未登録です」


「主様が登録しといた方が良いって言うから来たただけだし」


「なら早く早くっ!そしてクエスト開始よっ!」


彼女の中ではエルフ族4人の女パーティー設立は決定事項のようだ。


「ワシらは婿殿の妻じゃ。ワシらを誘う前にミカラ・デタサービに話を通せ」


年長者として・・・正妻として・・・ミルティーユが3人を代表して口を開く。

それを聞いて、ラピスラズリが眉根を寄せる。


「は?人間の男なんかお呼びじゃないんですけど?え?パーティー組んでるの?こんなみすぼらしい男追放してよ追放。あと妻ってなにそれ?つまらな・・・い、じょう・・・ だ」


ラピスラズリがセリフの途中で口をパクパクさせて目を白黒させている。


「のぉ、お主。ハイエルフを敬う必要は無いが・・・婿殿ヘの罵倒は看過できぬぞ?」


ミルティーユが風の精霊魔術でラピスラズリの喉を詰まらせてるのだろう。

ダイヤが冷や汗をダラダラかいている。

ギルド支部内で人死になど勘弁だろうが、苦言を呈した後に自らああなる姿を容易に想像できるからだろう。


「おい、そのくらいにしろ。死ぬぞ」


「んんっ、婿殿、こそばゆいぞ」


ミカラがミルティーユを抱き上げて耳元で囁く。

長い耳に吐息がかかり、ハイエルフがもじもじと身もだえる。

なんか面白いので、耳を甘噛みする。


「かぷっ」


「ひゃんっ!ひ、人前でなんて事をっ!せめて、せめて湯浴みをさせて欲しいのじゃ・・・ 」


ミカラがミルティーユの耳を唇と歯と舌で弄ぶ・・・つまりもぐもぐしていると、ラピスラズリへの魔術が解ける。


「ぶはぁっ!ぜはぁっ!はぁっ!はぁっ!」


解放されてラピスラズリが廊下に崩折れ、荒く呼吸をしている。


「な・・・ に、今の・・・?精霊がっ、はあっぜぇっ言う事、聞か・・・ゴホッ、なかった・・・?」


今まで格上のエルフと出会った事が無かったのだろう。

場の精霊を掌握され魔術を剥奪された恐怖と混乱で震えている。


「ひっ」


そのラピスラズリを左右から挟むカタチでマハナとシャプティが見下ろしている。


「エルフ風情が、よくも旦那様に無礼な口を・・・」


「ねぇ?こいつシメたら主様がぎゅってしてかぷかぷしてくれるんだよね?やっちゃっていい?」


2人ともやる気満々だ。


(このままわからせてその鼻っ柱をへし折るのもコイツのためだが・・・)


いずれは格上とぶつかり身の程を知る時が来るだろうが、その時の相手次第では、失うモノは貞操か生命か。

ここで痛い目に遭った方が良いだろう。

しかし・・・


「せっかくだぁ。使わせてもらうか〜」


ミカラがニヤリと笑う。


「おい、凄い悪い顔しているぞ?」


ダイヤが不安そうな顔をする。

問題児かも知れないが、同胞には違いないのだろう。

ハイエルフすら顎で使い(耳を噛んだりとかで)、ハーフエルフやダークエルフも従える人間の男など怖過ぎる。


「よぉ、姉ちゃん」


ミカラが床にへたり込んでいるラピスラズリへと、膝を曲げて顔を近づける。


「な、なに?なんなのアンタ?」


怯えて耳を垂らすラピスラズリに、ミカラが優しく甘く・・・悪魔のように囁いた。


「あんたの話、飲んでやるよ。俺はパーティーを抜ける。新リーダーは・・・あんたがやれ」



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