第23話 ダークエルフの集落
「人間の町までは後どのくらいだ?」
朝焼けの森を進む3人。
「もう少しじゃな、婿殿」
「もう少しです、旦那様」
ミルティーユは人間の町まで招かれた事があるし、マハナも使いで行かされた事がある。
「・・・お前さんらのもう少し、は当てにならんのだがな」
ミカラがぼやく。
先ほどのミルティーユとのやり取りを思い出したからだ。
色々話した結果ミカラは以前、ミルティーユと出会っていた事がわかった。
確かに昔エルフの王都のほど近くに来た時に、緑の髪の可愛い女の子と出会ってたような気もする。
(あん時にゃ色々あり過ぎて、そんな小せえ事覚えてねーよ)
と、口に出したいが・・・
「婿殿とワシは出会うべくして出会ったのじゃ」
と、ぺったんこな胸を反らしてドヤるハイエルフに突っ込めずにいる。
それに・・・
(さっき俺を呼んだのは間違いなく姫さんだ。古代遺跡から転移した時も、姫さんに引き寄せられてたってー事かな?)
ならば、ミルティーユの方こそミカラの恩人であるのかも知れない。
ミルティーユの救難信号(?)をたまたま拾わなければ、ミカラは魔族領のど真ん中にピンポイントで転移させられていたはずだ。
「ミルティーユ」
「はえ?」
ミルティーユが呆けた顔をする。
そういや名前を呼んだのは初めてだったかも知れない。
ミカラは少し顔を反らしながら礼を言う。
「・・・お前さんが居てくれて良かったよ」
「お、おおおおうっ!婿殿!」
ひしりとミルティーユがミカラに抱きつく。
身長差のせいで丁度股間の辺りに顔を埋める事になるが。
「ワシも婿殿が居て良かったのじゃっ!」
「こらっ!旦那様のソレは私のモノです!」
マハナがミルティーユを背後から羽交い締めにして引き剥がそうとする。
なかなか離れない脅威の吸着ハイエルフ。
「はぁ、はぁ、あんなに可愛かった婿殿がこんなに大きく立派になって・・・ワシは嬉しい」
「そりゃどうも」
股間に頬をぐりぐりしてスーハースーハーしだすミルティーユを、ミカラがさすがに引っ剥がす。
「むふ。人間は少しの間でよう育つの〜」
ミルティーユからすれば人間の成長など一瞬らしい。
(こっちのが驚くわ)
エルフ・・・特にハイエルフにとっては、10年とかは瞬きの間に過ぎ行く年数なのだろう。
話が戻った。
(てなわけで、時間感覚の怪しいこいつらの話だと、町まであとどのくらいかわからん)
野宿もできなくはないが、なんの準備もしていないので数日ならともかく、数週間とかは勘弁して欲しい。
せめて、村や街道沿いの宿などを経由して進みたい。
この辺の土地勘が無いミカラとしてはちょっと困っていた。
「はぁ〜何処かに道案内頼めるヤツいねえかな〜」
マハナの話によれば、ミカラが使う大陸共用語はこの大陸でも十分通じるらしい。
大昔、とある超大国がいくつもの大陸や島々を支配していた名残りらしい。
ちなみにマハナがカタコトだがそれを話せてたのは、人間の町で行商のような事をやらされていたためであった。
人間の親に教わったわけではなかった。
親には赤子の頃に捨てられていたらしい。
ミカラ自身も似たような身の上だが、マハナの記憶を一部追体験していたために同情の幅がでかい。
思わずマハナを抱きしめる。
「今まで辛かったな、マハナ」
「え?え?旦那様?・・・あの、今は幸せですので大丈夫です」
何だかわからないが得をした気分になるマハナ。
「ぬおーーーっ!ずるいっ!婿殿ワシもっ!」
「はいはい」
「うわーい!高い高ーい・・・て、違うわーーー!」
ミカラがミルティーユを抱き上げ空中に放る。
「お?森が切れた?」
ミルティーユをキャッチして地面に下ろしたミカラが呟く。
いつの間にか、エルフ大森林に居た時に感じていた濃い精霊の気配が薄くなっている。
「そうじゃな。この辺りは大森林をもう抜けておる。人間領の森じゃな」
「この辺りだと、人間たちの小さい村やダークエルフの集落がありますね」
「ダークエルフか」
彼らはエルフ大森林に住まう事を許されておらず、人間領との中間辺りに居を構えているらしい。
道案内を頼むのも良いだろう。
ミカラが知ってるダークエルフを思い出す。
木や水、土や風の精霊魔術を主に操るエルフと違い、火や闇の精霊魔術を得意とする褐色のエルフたち。
「む、婿殿?ダークエルフなどと関わってはならぬぞ?」
「そ、そうですっ!旦那様、ダークエルフなどと関わってはいけません」
珍しく意見が一致する2人。
ハイエルフだけでなくハーフエルフからしても、ダークエルフには忌避感があるのだろうか。
ミカラにはその知識が無い。
「なんでそこは同意すんのよ?ダークエルフかぁ。冒険者でたまに見かけたなぁ」
ミカラが思い出すのはダークエルフの男だ。
エルフ族にしては筋骨隆々で、褐色の肌がテカテカしていた。
闇の精霊魔術とやらを見てみたかったのだが、そのダークエルフは肉弾戦を好んでおり、魔術はあまり使っていなかった。
「そうだなー。せっかくだし、ダークエルフの女の子とも会ってみたいかなー」
そうミカラがぼやくと・・・
ガサガサガサ・・・
近くの草むらから音がする。
「―――誰だ?」
気配が薄くて察知が遅れた。
ミカラが一瞬で警戒態勢になる。
(姫さんを連れ戻しに来たエルフたちか・・・アドラメレクの追っ手か?)
ザッ!
果たして、草むらから飛び出して来たのは・・・
「たっ!たすけてっ!!!」
長い耳と褐色の肌・・・そして、エルフ族とは思えぬ豊かな胸や尻をした・・・ダークエルフの少女であった。
「シャプティよ。大婆様の占いにより、ダークエルフの救い主様がもう側まで来ておる事がわかった」
ダークエルフの集落の長が、重々しく告げる。
「お主は巫女であると同時に、この集落で1番年若く、1番強く、1番足が速い。救い主様を探し見つけ、助力を乞うのだ。大婆様の占いによれば、彼の方が我等をお救い下さる可能性は五分五分。もしも、救い主様を見つけられない時や、助力を得られなかったその時は、そのまま逃げおおせよ。我等ダークエルフの血を絶やすな。隠れ潜み子を成して、我等の子孫を残し未来へ繋げておくれ」
「そんなっ!私も戦うっ!みんなと離れるなんて嫌っ!」
シャプティがポロポロと涙を流して嫌嫌をする。
「泣くな、情けない。これが1番我等が生き残る確率の高い道なのだ。早く行け」
長はそう言うと、火の精霊魔術を操り、周囲に炎を振りまく。
目眩ましだ。
敵の目をこちらに引き付ける。
「さぁ早くっ!」
「必ずっ!必ず戻るからねっ!」
シャプティは涙を拭い、走り出す。
闇の精霊の力を借りて夜闇に身を隠し、音も立てずに森の中を疾走した。
「お前さん、人間語話せるのか?」
長の指示に従い、大婆様の占いに示された方向に夜通し走って来た。
出会い頭に思わず助けを求めてしまったが、そこに居たのは妙な3人組であった。
エルフとハーフエルフと人間。
(これが救い主?違うでしょ)
シャプティは乱れた息を調えながら即座に判断する。
「ごめん。今忙しいの、じゃあね」
「ん?今たすけてって言わなかったか?」
人間の男が話しかけてくるが、それを無視してすぐにその場を離れようとし・・・
「―――ちっ!くそっ!」
迫りくる蹄の音を聴いて、歯噛みする。
シャプティを追って、馬が3頭と、それに乗った3人の男が現れる。
「逃さんぞダークエルフ。手間かけさせやがる。ん?仲間?いや、エルフかっ!こりゃ運が良いな」
その男たちはミルティーユとマハナを見てニヤニヤと笑う。
馬から降りると、武器を構えて近寄って来る。
「3人というのも丁度良い。せっかくだから、ちょいと楽しんでから戻るか」
下卑た視線でマハナとミルティーユを見定める。
「おい、良かったな。子供のエルフがいるぞ、オマエあんくらいの娘をやるの好きだろ」
「へへへ、役得だな。逃げ出したそいつを追いかけて来て正解だったぜ」
その3人の前に・・・
「なんなん?オタクら?」
ミカラが立ち塞がる。
「あ?なんだオマエ?任務の邪魔をするな。斬って捨てられたいか?」
立派な鎧を纏った3人の人間の騎士が、怪訝そうにミカラを睨んだ。
(無茶苦茶厄介事じゃん。マジかよ・・・)
ミカラは気絶させた3人の騎士の武器と片手片足をへし折っておく。
アレを潰さなかっただけ良心的・・・
「ぷぎゅるっ!」
「・・・」
と思ったら、ハイエルフ、ハーフエルフ、ダークエルフの3人が一蹴りで3人の騎士の股間を踏み潰していた。
「まあいっか。じゃ、行くべ」
「あ!まっ、待って!」
ダークエルフの少女がミカラに縋り付く。
豊か過ぎる胸部がミカラの腹に押し付けられ潰れる。
「こらっ!旦那様に触るなっ!」
「婿殿に変なモノを押し付けるでないっ!」
マハナとミルティーユが気色ばみ、シャプティをミカラから引き剥がす。
(ダークエルフの救い主が人間なわけはないけど、この人、強い―――っ!)
彼がいったい何をしたのかわからなかった。
シャプティを追っていた騎士たちは、用意周到にも精霊魔術への耐性を付与された鎧を皆着ている。
集落1番の精霊魔術師たるシャプティでも、1人では勝てなかっただろう。
そんな3人を相手にまさに瞬殺した人間の男は、ひらりと馬に乗る。
「やったー。移動手段ゲットだぜー」
ほくほく顔で喜んでいる。
シャプティは焦る。
「あのっ!お礼はなんでもするからっ!たすけてっ!お願いっ!」
「わーってるよ。ほら行くぞ?」
ミカラは馬上からミルティーユを拾い上げて身体の前に座らせる。
「話は走りながらしよう。馬は乗れるか?」
「で、何があったのさ?」
今ミカラたちはダークエルフの集落へと向かい馬を走らせていた。
マハナとシャプティはそれぞれ馬を扱えたようで、3人プラスアルファは3頭の馬を駆って森の中を急行していた。
エルフ大森林から抜けたため精霊魔術の精度威力はやや落ちている。
何より不安定だ。
ミルティーユの風の精霊魔術で4人で飛んで向かって、途中で落下したりしたらたまったものではない。
(それに馬は欲しいもん)
人間の町まで馬で移動できるのは魅力的が過ぎる。
なんか知らんが、ドサクサにまぎれてちょろまかすつもりだ。
ミルティーユとマハナを襲おうとした事は許せないが、股間も酷い事になってるだろうし、馬もくれたのであの3人の騎士には一応感謝しておく。
「ええと、それは助けてくれるって事?」
シャプティと名乗ったダークエルフが不安そうに尋ねてくる。
まだこのミカラと言う男を完全に信用できない。
強そうではあるが、それでも、たった1人で武装した騎士団相手に勝てるとも思えない。
そして、もし勝てるほどの化け物だったとして、救い主かどうかはまたわからない。
(もしも、災いをもたらす者であった場合・・・私の集落は滅ぶ・・・)
「事情次第かなぁ?もしもお前さんらが人間に対して犯罪行為をしてて、騎士団が正式に討伐隊として派遣されていた場合は、見捨てるぞ?」
「違うっ!私たちはひっそりと静かに暮らしてただけよっ!」
シャプティが憤って叫ぶ。
悔し涙も目に浮かんでいる。
「昨日の夕方くらいに突然、武装した一団がダークエルフの集落を襲撃してきたの。ダークエルフを拐おうとする人間はたまに来るわ。そんな野盗みたいな連中ならいつも返り討ちに出来るんだけど・・・今回は違った」
シャプティは口惜しげに手綱を握りしめる。
「奴等は人間の騎士団だった。それも、対精霊魔術の装備を揃えていたわ。私たちの魔術じゃ火傷ひとつ負わせられない」
ダークエルフもエルフの一種。
見目麗しく、何より肉体的に普通のエルフよりもふくよかで人間には人気が高い。
合法非合法問わず売り買いされる事がある。
「私たちは闇の精霊魔術で音と身を隠して移動して、土の精霊魔術でバリケードを作り、火の精霊魔術で炎の壁を生み出し、長の屋敷に籠城したの」
しかし、多勢に無勢。
いずれ魔力が尽きればあっという間に攻め落とされてしまう。
シャプティはそんな中、助けを求めて脱出させられた。
長から聞かされた大婆様の占い・・・救い主の部分は敢えて伏せてミカラに説明した。
(この男がダークエルフの救い主かどうか、見極めなければ―――)
「けど奴等には魔術師もいたみたい。逃げ出す者を見逃さないように『探知』魔術でも使ってたんじゃないかしら。絶対に見つからないはずの抜け道を使って集落を出た途端に追いかけられたもの。・・・あっ!さ、さっきは助けてくれてありがとう。お礼が遅れたわ。ごめんなさい」
シャプティは一息で喋り終わった後、先ほどのお礼をちゃんとしてなかった事に気づいて青褪めた。
(しまった、礼を欠いた。・・・怒らせたかな?)
シャプティは自分の振る舞いを反省する。
切羽詰まって冷静さを失っていたとはいえ、恥ずべき態度である。
「あーまぁ成り行きな?俺の女に手ぇ出そうとしたしな」
ミカラは特に気にした様子は無い。
「俺の女・・・」
「良い響きじゃな」
マハナとミルティーユがなんか感慨深げにニヤついている。
「ところで貴方たちは、いったいどんな関係なの?」
シャプティが出会った時からの疑問を投げかけてみる。
「妻じゃ」
「妻です」
「違うぞ?」
ミルティーユとマハナが即答し、それをミカラが否定する。
(わけわかんない。いったいどんな関係なの?エルフとハーフエルフと人間って一緒に旅できるものなの?)
シャプティはミルティーユを普通のエルフだと思ってるし、ミルティーユも別に姫の名乗りを上げてない。
何故なら彼女は・・・
(婿殿の妻であること。それよりも価値のある肩書なぞないのじゃ!)
ハイエルフの姫である事をとっくに捨てていたからだ。
そんな会話も唐突に終わる。
「着いたわ」
ダークエルフの集落へと到着した。
木の枝に馬を繋ぎ、気配を殺して進む。
集落を高台から見下ろすようなカタチだ。
「良かった!まだバリケードは破られてないよ」
シャプティがホッとする。
土を隆起させた壁と、その周囲に散らばる炎は未だに健在だ。
ダークエルフたちは長の屋敷やその周りの建物に閉じ籠もっているのか姿が見えない。
人間の騎士団は見張りは立てているものの、特にバリケードを突破する作戦のようなものを取っている気配は無い。
かと言って攻めあぐねている感じでもない。
焚き火をしている者たちはのんきに雑談をしている。
指揮官クラスは恐らく、奪った無人の家で休んでいるのだろう。
今すぐどうこうなる雰囲気ではないが、それが逆に、ミカラにある確信を持たせる。
(この感じは多分・・・まずいな)
ミルティーユが長いお耳をぴこぴこさせながら呟く。
「んーーーあそこの兵士の会話を聴いた。・・・はぁ、なんとも業腹な事よ」
ハイエルフの姫君が深々と溜め息を吐き出している。
かなりの距離だが、風の精霊魔術で声を運んだのであろう。
「奴等はどうやら、エルフ大森林が魔族からの侵攻にさらされていると知り、エルフを大量に奴隷として確保するために攻め込んで来たらしいの。しかし大森林には、エルフに災いをもたらす者を拒む力がある。何故ならば、太古よりハイエルフたちが精霊化を行い大森林に溶け込んでいるからじゃな。そのためあやつらは大森林を彷徨いエルフの王都には辿り着けなかった。しかし・・・」
その後をシャプティが引き継ぐ。
やや悔しげに、ミルティーユを見ている。
「・・・大森林に住む事を禁じられていた我らダークエルフはその恩恵に預かれない。人間の騎士団が集落を襲ったのは・・・エルフを襲えなかった腹いせか八つ当たりか・・・。拐われる理由などに上下など無いと思ってたけど、エルフが駄目ならダークエルフで我慢する?ふざけないでよっ!人間なんて嫌いっ!大嫌いっ!!!」
シャプティが涙を流しながら怒る。
「人間とはかくも愚かで欲深き者よ」
ミルティーユが蔑むように言う。
しかしすぐにパッと輝かせて笑う。
「あ、婿殿は違うぞ?」
「あ、ご、ごめんなさい・・・」
シャプティが慌てる。
その大嫌いな人間に頼って、同族と戦わせようとしているところなのだ。
機嫌を損ねて帰ってしまったら元も子もない。
(駄目ね私は。失言ばかり・・・なんで私なんかが巫女なの?)
落ち込むシャプティを他所に、ミカラと女2人は会話を続ける。
「そうです。旦那様は困ってる女を片っ端から助けるような愚行をしますし、私1人では満足できないくらい欲深いですが・・・他の人間とは違います」
「それ褒めてるの貶してるの?」
ミカラは適当に応えながら、あまりしたくない覚悟を決める。
(人はあんま殺したくないんだけどねぇ)
気の進まない展開に頭を悩ませる。
場合によっては、先程の3人も引き返してとどめを刺し、死体や遺品も処分せねばならないかも知れない。
「夜まで待って夜襲をかけるつもりかしら?」
シャプティは、今すぐにも飛び出してしまいそうなほど落ち着きがない。
突然やってきた襲撃者たちが、自分の集落を我が物顔で占領しているのだ。
当然ではある。
シャプティの考えをマハナが否定する。
「いえ、夜はダークエルフの闇の精霊魔術が威力を増すわ。でも、ならなんで日の出てるうちに動かないのでしょう?」
ミカラにはひとつ予想がついていた。
「そら来たぞ」
土煙を上げ、地響きを立てて大量の騎馬がこちらへやってくるのが見える。
「騎士団の援軍だ。恐らく、昨日ここを見つけた段階で早馬を出したんだろ。ダークエルフの里を見つけた、援軍求む・・・ てな」
「そんな・・・こんなの無理だよ・・・」
シャプティが絶望してへたり込む。
「ねぇ?ミカラ強いんだよね?あ、あいつらやっつけて?」
そうだ。
やはりミカラこそダークエルフの救い主に違いないのだ。
自分の判断が間違っていて、ミカラが救い主ではなかった場合はもうお手上げだ。
(この人が救い主、間違いない)
自分に言い聞かせる。
しかしそれでも、救い主の助力を得られる可能性は五分と五分。
シャプティ次第で、これから家族も親族も友人も、集落の仲間全員が殺される。
この場で殺されても、奴隷として生かされても大差は無い。
「ねぇなんでもするから助けて?人間は私達ダークエルフの身体が好きなんでしょう?ね?私を好きに犯していいから、お父様を・・・お祖母様を助けて・・・」
泣いて縋るシャプティを、ミカラは難しい顔で見下ろしている。
ミカラの中では、もうここまで関わってしまった以上シャプティを見捨てる事はしない。
(しかし、できるか?ダークエルフを助け、人間は殺さず、且つ、俺の正体がバレないようにする・・・キツイな)
騎士団が正式に王命で動いてる以上、どんな理不尽な振る舞いでもそれを邪魔すればミカラは国の敵だ。
魔術師が伝令を兼ねている場合、早馬とかよりまずは魔術師を殺さないといけない。
ミカラにとっては見も知らぬ魔術師だ。
そして・・・
(魔術師が可愛い女の子だったら殺せん)
家屋に引きこもってるらしい指揮官も、実は嫌嫌任務をやらされている女騎士とかだったら・・・
(やはり殺せん)
男なら躊躇無く殺せるわけでもないが、ダークエルフの女の子を助けるために、違う女の子を殺すのは、ミカラの中では帳尻が合わなくなる。
襲われて命の危険があるわけでもないのに、ミルティーユやマハナを戦わせるつもりもない。
(どうしたもんかなぁ)
縋るシャプティを抱きしめる事も振り解く事も出来ずに熟考していると・・・
「魔物じゃ」
「何?」
ミルティーユの声にミカラが騎士団の援軍を見やる。
精霊魔術で光を屈折させて遠目を操るミルティーユに対し、ミカラは直接『視力強化』して騎士団を見る。
「あーあ、魔物の巣でもつついたんか?」
騎士団の援軍は物凄い速度でこちらに向かって来ていた。
それも、魔物の群れを引き連れて、だ。
数はそんなでもないが、オーガやトロールなど、割と巨大なサイズの魔物が多い。
後衛にて殿を務めているらしい騎士が棍棒で騎馬ごと殴り飛ばされたり、魔術を放っていた魔術師が捕まったかと思ったら頭からまるかじりにされている。
ダークエルフの集落へ、奴隷を捕まえに行く簡単なお仕事だと思って来たのだろう。
練度も装備も覚悟も足りていない。
先発隊には、援軍なのに逆に助けを求めてやってきたはずだ。
ダークエルフの集落にてのんべんだらりと援軍を待っていた騎士たちも異常に気付いたのか、わらわらと広場に集まり慌てて陣形を組んでいる。
「なんてこと・・・に、人間だけでも手に負えないのに・・・この上あんな魔物の群れなんて・・・わ、わたしの故郷が、みんながっ!!!」
シャプティが頭を抱えて絶叫する。
パニックを起こしかけている。
下手をすればそのまま崖を駆け下りて、仲間を助けに向かいそうだ。
「シャプティ」
「え?―――んっ」
ミカラはシャプティの唇を奪い、優しく抱き締める。
『鎮静』魔術にて、落ち着きを取り戻させる。
唇を離したシャプティが戸惑った声をあげる。
「あ、あの・・・?」
目をぱちくりするシャプティの頭を優しくなでつける。
「報酬はお前さんを一晩抱く事」
「え?あ・・・はい」
先程口走った自分の言葉を思い出して赤くなるシャプティ。
「依頼内容は・・・ダークエルフたちを救う事」
「すくう・・・え?や、やってくれるの?」
シャプティが微かに見えた希望に縋る。
「そのクエスト、このミカラ・デタサービが承った」
頼もしげに笑うミカラに、シャプティは恐怖や恐慌とは違う、自身の心臓の高鳴りを感じた。
「救い主、様・・・」
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