第18話 おいでませエルフの国

「うおおおおおおおおおおっ!!!」


空間転移が完了し、暗黒の球体から放り出されるミカラ。


「何処だ!ここはっ!」


全身を苛む痛みや疲労を無視し『探知』で周囲を確認する。


(息が出来る、空中、森、人里から離れてるっ!)


「よぉしっ!当たりだっ!」


ミカラがガッツポーズを取る。

座標の特定は無理だったが、賭けには勝ったようだ。

もしも転移先が人口密度の高い王都とかだったら、ミカラは大量破壊大量殺人の国家レベルのテロリストになっていただろう。

即ち―――


「遠慮なく・・・散れ」


古代遺跡から連れてきた魔石ゴーレムから、眩いばかりの光が放たれる。


(やはり、自爆かっ!)


ミカラは全身を包む『障壁』を張って、その爆発をやり過ごす。

魔石ゴーレムの自爆の威力は凄まじく、眼下に広がる森の中に巨大なクレーターをいくつも作る。

ミカラの攻撃によりバラバラに分解したパーツごとに爆砕してるらしく、少し離れた位置に落ちた部分が山の頂を消し飛ばす。


(!あの山に登ってた人、いませんようにっ!)


真下に見える森にも人間がいないか一応広範囲に『探知』をしてる。

やたら魔物の数が多く、散発的に弾けるゴーレムのパーツが、魔物の大群を次々に消し飛ばしているようだ。


(なんか魔物多いなここ?魔界か?えー嫌だなぁ・・・)


索敵する限り、魔物はやたら多いが人間らしき魔力反応は無い。

人里からも離れているらしい。

ホッとするミカラ。

しかし―――


(―――ん?なんかひっかかるな?)


ひとつだけ、魔物とも人間とも違う反応を感じる。


(何だこいつ?)


ミカラは取り敢えず、その反応の前に降り立ってみた。


「げ」


そこには緑色の髪をした、ちっちゃい女の子が居た。


「あちゃー巻き込んじまったい」


ぺちんと額を叩き天を仰ぐミカラ。

その女の子は着てる服はボロボロのビリビリで、涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃだ。

恐怖で顔を引きつらせてこちらを見て、ガタガタ震えている。

ミカラは自分の上着を脱ぎ・・・血と焼け焦げでボロボロなのに気づき一瞬躊躇して・・・ 女の子に着せてあげる。


「いてて」


気が抜けたら、なんだか身体のあちこちが痛み出した。

クッコロに斬られたりピオニーに殴られたりユ丿に頭突きされたりセリンに燃やされかけたり。

酷い目にあった。


「ご、ごめんねぇ?」


ミカラは女の子を怖がらせないようにぎこちない笑顔を見せる。

頭をなでなでしてみる。

女の子はこちらを見上げて口をぱくぱくしてる。

大怪我はしてないが身体のあちこちに軽い打撲や擦り傷を発見。

癒やしの魔術で治してあげる。

もうこのくらいでよいでしょ?


「じゃそゆことで」


そのままそそくさと立ち去ろうとするミカラ。


(クレーターだらけにしちゃったけど、どっかの国有林とか国立公園だったらクソまじぃしな。とんずらとんずら―――ん?)


ミカラのズボンを掴んだ女の子がズルズルと引きずられている。


「いや、流石にコレはあげれないかな?・・・もしかしてお腹空いてる?」


ミカラは腰の鞄・・・かろうじて残ってた最後のひとつから携行食を取り出す。

確か蜂蜜とか使ってる甘いヤツを女の子にあげる。

女の子はその蜂蜜味の甘い携行食にぱくつくとあっという間に平らげる。

リスさんかな?

彼女は笑顔を見せてお礼を言っている・・・ぽい?

女の子の喋ってる言葉がわからない。


「げ?外国人?・・・いや、この場合俺のが外国人か。大陸共用語が通じないとかどんだけ離れたとこ来たんだ俺・・・。密入国とかんなったら嫌だなぁ・・・」


ミカラがぼやいていると、女の子が今度はミカラの股間辺りに顔を埋めてスーハースーハーしだす。 わんこかな?


「こらこらやめなさい」


ミカラは猫の仔をつまむように首根っこを掴んで持ち上げる。

しかし、サイズ違いのミカラの上着を着てるので、ずり落ちそうになる。

仕方なく抱き上げるカタチに持ち直すと・・・


「うわ、やめろってば」


彼女はこちらの顔にちゅっちゅちゅっちゅとキスの雨を降らせてくる。


「あはは。君みたいな可愛い娘にされるのは嬉しいけど、あと10年後くらいにね?」


女の子はなんだかキラキラした瞳でこちらを見てくる。


「なんかなつかれたなぁ。絵面ヤバいけど」


転移先で起こした大爆発で衣服をボロボロにし、お菓子をあげて、かどわかす。


「警邏の騎士とかに見つかったら逮捕案件やんけ」


それはそれでかなり嫌だが、だからといってこんな場所に女の子を放置するのも忍びない。

ミカラは女の子を抱っこしたまま森を歩く。


「あっちに人の気配するな。町でもあんのかな?」


ミカラがなんとなく歩いていると、抱えてる女の子が何か話しかけてくる。

取り敢えず、笑顔で頷いておく。


「娼館とかあるかなー。優しいお姉さんに癒やされたぃ・・・あー、小銭しかねぇ。そして通貨違うよなきっと・・・ギルドないと預金も下ろせないし・・・」


さっきから女の子がミカラの身体をまさぐり、自身の身体を擦り付けてくる。

にゃんこかな?










その日、エルフの王都は上を下への大騒ぎとなる。


「魔物の大群が倒されたぞーーー!」


喜びに満ちる群衆の中、事情を知る上層部は気落ちしている。


「あの爆発は恐らく・・・」


「ええ、きっと姫様が禁術にて魔物もろとも自爆したのであろう・・・」


しかし―――


「姫様がご帰還されたぞーーー!」


「さすが我らがハイエルフっ!英雄だーーー!」


ハイエルフの姫のまさかの生還に王都中が沸く。

慌てて駆けつけた側近たちは、姫を抱き上げている見知らぬ人間の男に不審な目を向ける。


「姫様?その人間は?」


年老いて老け込んだエルフの長老集の1人が訝しげに訊ねる。

姫はえへんと起伏の乏しい胸を張り、大声で言い放つ。

わざわざ精霊魔術で王都中すべてのエルフに聞こえるように。


「このお方は先程の魔物の大群を殲滅した人間族の英雄だ」


その発言に皆が戸惑う。

人間の援軍?

しかもたった1人で?


「私は彼に命を救われた。彼がいなければ、魔物どもに辱められた挙げ句嬲り殺されていたろう」


ハイエルフの威厳を損なうような内容に、庶民のエルフたちは戸惑い、長老たちは慌てて姫の口を塞ごうとする。

だが、間に合わない。


「ワシは彼を夫に迎える。ワシはこの方と子を成し人間族との同盟の礎とし、さらなるエルフの繁栄に尽力する事を・・・ハイエルフが1人、ミルティーユ・シャーフィーユの名において、エルフ大森林に誓おう」


ハイエルフの姫の爆弾発言により、王都に今日何度目かわからない激震が走る。

その大歓声を浴びながらミカラは・・・


「え?何?お祭り?」


なんだかよくわからずきょろきょろしていた。

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