第12話 ミカラを巡る女たち

「ミカラさんが?」


「使徒ミカラ様が?―――」


「ミカラ師匠が〜〜?」


「ミカラがっ!?」


「ミカラが行方不明!?・・・て、あれ?貴女たちも―――まさか・・・」


ミカラの名前に同時に反応する5人。

そしてそれぞれの追いかけてる人間が全て同じ人間だと・・・今更ながらに気づく。

無用な詮索を禁じる冒険者の暗黙のルールと、全員が全員自分の世界に入り浸って出てこない事、世間話や身の上話に花を咲かせるはずの休息タイムをマジで一瞬休憩してすぐ戦闘、のルーティンを繰り返してきた事が主な原因だろう。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


それぞれがそれぞれの顔色を覗う。

張り詰めた空気がその場を支配し・・・


「おお、もしかしてミカラの知り合いかい?」


男パーティーのリーダーが空気を読まずに明るい声を出す。

彼女たちがミカラの知り合いなのだとしたら、捜索隊に加わってくれるかも知れないからだ。


(希望が湧いてきたぞっ!)


リーダーが握り拳を作り意気込み。


「じゃあ、やはり捜索隊に加わってくれないかな?顔見知りがいるなら心強い。早く町へ帰って作戦を・・・――――て、いや、ちょっと待て。何処に行くんだ?」


女性5人が無言で回れ右し、ダンジョンの奥へと引き返して行く姿にリーダーが困惑する。

さらになにかこう、魔術でもないのに5人の間に火花が散っている幻覚が見える。

なんだかよくわからないが自分では止められない気がする。

すると、女僧侶の手を引っ張って向こうのリーダーが戻って来る。


「あのすみません。可能な分で良いので食料譲ってください。手持ち無いのでこれ小切手です。鑑定士ギルドのアナ・ライズと申します。とりあえずコレでうちのギルドが立て替えてくれますから」


アナは戸惑うリーダーから食料を一部買い取り、代わりに小切手を押し付ける。

ピオニーに荷物の全てを押し付けて他3人の後を追いかける。

ちなみにピオニーは、大の男が二人がかりで運んできた食料を片手で持ち上げ、走っていった。

足も早い。

通路の先でアナが抜かされ最後尾となり―――ちょっと待ちなさいアンタたちっ!―――と叫ぶ声が聴こえてきた。

そのうち5人の姿は迷宮へと消えた。

リーダーは困惑しつつも、少しだけ納得した。


「ミカラって確か・・・」


「女から逃げてたよな?」

 

実はミカラはこのパーティーでそんな事は言っていないんだが、男達の邪推は的を射ていた。

5人全て見目麗しい美少女揃いだ。

男なら、こう、少し悪い事しちゃっても仕方無いよね?と擁護したくなる。

金を騙し取ったとかならまだいい。

まさか、まさか全員と寝てるとか、全員と結婚の約束をしちゃってたりするとか、実はすでに誰かと結婚してたり、中には子供が居る女がいたりなんてした日には・・・


「死んだわ、あいつ」


行方不明の遭難者の仲間に対して不謹慎な発言を誰かが言うが・・・誰も咎めない。

あんな化け物みたいな女たちの身と心を弄んでいたとして、そいつらが徒党を組んで追いかけてくるなんて・・・。

恐ろし過ぎて未知の古代遺跡すら霞んで見えてくるというものだ。


「・・・ミカラとユノの救出を急ごう。出来るなら彼女たちよりも早く発見しなければ・・・」


リーダーの発言に、男達は無言でコクコクと頷きあった。












「・・・・・・・・・・・・」


アナたち5人は無言のまま先へと急ぐ。

一刻も早く、ミカラに会うために。


「ギシャギシャギシャアアアアアアアッ!」


今まで相手にしていた魔物たちよりも、一回りもデカイ魔物の群れが現れる。

通常のパーティーなら撤退の判断をするだろう。

しかし―――


「邪魔よ」


「邪魔ですね」


次の瞬間には先頭に居た大型の魔物が斬られ潰され殴られ刺され、細切れのぐちゃぐちゃにされる。


(すごいっ!)


アナが驚嘆する。

驚いた事に、この時ほど綺麗に連携が決まった事は無かった。


「次」


ほぼ同時に思えるほどの瞬きの時間差攻撃が次々に魔物に突き刺さり、順々に各個撃破していく。

先程までのクッコロたちなら、それぞれが自分の獲物を定めて別々に戦っていただろう。

しばらくして殲滅は完了する。

気休めだが聖水を巻いて安全地帯を作る。

一旦休息を取る事になる。

アナが料理を作り、皆無言のまま配膳をしたり得物の手入れをする。

無言のまま食事を取る。


(き、気まずい・・・ )


アナは年長者として、リーダーとしてこの空気をなんとかせねばならない。

だがいかんともしがたい。

そんな時・・・


「皆さんは、ミカラさんとはどういうご関係なんですか?私は実は・・・ 一回クエストをご一緒しただけでして・・・その、皆様と比べたらあまり親しくはないのかもしれません」


クッコロがいつも通りの、一見人畜無害そうな顔で問いかけ、先陣を斬るように自らの事を語る。

まさに修羅場への斬り込み隊長だ。

狂騎士などと呼ばれているが、恐らくは高位貴族の出なのだろう。

野営での食事風景も、彼女の所作は優雅で、まるで宮殿でお茶会をしているような錯覚さえ抱く。


「使徒ミカラ様は、私に新たな信仰の解釈を教えてくださいました・・・そういえば私も一回クエストをご一緒しただけですね」


ピオニーも穏やかに微笑みながらモーニングスターを抱きしめている。

彼女も戦い方がヤバいだけで女神への信仰の熱い僧侶でしかない。


「ミカラ師匠はねー、ブラックなパーティーから追放された私を拾ってくれたの。私に違う生き方を示してくれたんだー・・・あー私もそうだね。一回一緒に戦っただけだー」


スノウはナイフで干し肉を削っては口に入れている。

この中で1番小柄で1番年若いだろう。

その瞳には憧れや尊敬などが見て取れる。


「羨ましいわね。私はミカラとは残念ながら戦ってないわ。決闘の約束をすっぽかされたのよ?酷いと思わない?」


アテゥーマは、ミカラとそれなりに交流があったらしい他の面子に対して、頬を膨らませて言い放つ。

戦うどころか会話もろくにしていない。

脳筋だが貴族領主の娘であるアテゥーマとしては、礼を欠いたミカラへ正当な抗議をしているに過ぎない。


「私はミカラと―――」


なんとなく話の流れ的に自分の番になったっぽいアナが口を開き――――


「良かった〜〜〜。では誰もミカラさんと、恋仲にはなっていないのですね?」


――――クッコロの言葉で続きを飲み込む。


「彼と接吻などもしていない。ましてや同衾なんてもってのほか―――ですよね?」


仲間の顔を順繰りに見つめながら、ニコニコ笑っているクッコロ。


(・・・海の近くで一晩中ヤりまくった後、なし崩し的に一緒に暮らしてました。毎日好きな時にキスしたりアレしたりコレしてました・・・)


「わ、私はミカラとぉ〜・・・そうそうっ!!私にかけられた〜とある事件の濡れ衣を〜晴らすためにぃ〜真犯人探しをした?・・・のよぉ・・・。いやぁ〜ミカラがいなかったら、大変な事になってたわ〜・・・たはは」


冷や汗をダラダラ垂らしながらアナが言う。


(ヤバいヤバいヤバい)


アナにこの化け物どもと拮抗するだけの戦力があれば・・・


――――あらみんなそれだけなの〜?お子ちゃまでちゅね〜。私な・ん・て、彼と毎日イチャイチャちゅっちゅして暮らしてたわよ〜〜〜はっはー!―――


とか言えたかも知れないが今それやったら絶対挽き肉にされて魔物の餌にされる。

証拠も残らない完全犯罪だ。


「師匠に寝てるところ頭なでなでされたよっ!」


「あら〜羨ましいです〜」


「私も使徒様になでなでされたいです」


「べ、別に私は羨ましくなんてないわよっ!?」


ぎこちないながらも少しずつ打ち解け始めたパーティー内で、アナだけは冷水を浴びたように微かに震えながら食事を取った。










「はぁ、はぁ、ミ、ミカラさんの味〜〜〜」


「その言い方やめい」


ユノがミカラが作ったご飯をじっくり味わって食べている。

ミカラの鞄に仕舞ってあった干し肉を削って焼いただけた。

料理なんて呼べるシロモノではない。

そして食べ終わった頃に・・・


「よいしょっと」


ユノがミカラの膝上に乗っかって来る。


「おい。何故当たり前のように膝に乗る?」


段々遠慮が無くなって来る。


「それは〜もちろん―――あ、ミカラさぁ〜ん。抱っこ」


「はいはい」


ユノが正面を向き、抱き合い見つめ合うカタチになる。

ミカラの腕がユノの腰に周り、ユノの腕はミカラの頭の後ろに回る。


「ふふっ。それは〜バフをし易いためです。僕にはミカラさんの支援が必要なんです。ミカラさんが居ないと僕はかよわい女の子なんですからね?」


ユノが小首を傾げて舌舐めずりする。


「ああ、そうだな」


バフの効果時間は何回か検証して仮説を立てれた。

よりキス(バフ)に時間をかければかけるだけ長く効果時間がある。


「ふふふ。こっちのミカラさんの味も頂いちゃいますーーー・・・ んっ」


ユノがミカラの唇を奪う。

最初の時の初々しい少女はそこにはいない。

何度もキスを重ねたせいで、ユノの方も上手くなっている。

口に残る肉の味がより野生の本能を刺激するのか、今回のユノは特に激しい。

バフがけが終わった後も、ユノが満足するまで付き合ってやる。

やがて2人は唇を離し、ユノが妖艶に笑う。

ユノの全てが強化されている。

この体内からバフをかける魔術式。

2人で何度も繰り返す事で、より強力になっている。


(俺の知る限りの魔剣士で、今のユノに勝てるヤツいないぞ?)


魔剣士の枠でなければ何人か勝てそうなのはいるが、同じ土俵での戦いで遅れを取る姿は想像できない。


「んっ・・・ ふふっ。キタキタ〜身体の底から力が漲りますっ!・・・ねぇミカラさん?キスだけでこんなんなるなら・・・もっと凄い事したら―――」 


ユノが自身の衣服の胸元を緩め、ミカラのズボンをまさぐる。

ミカラはその手を掴み、ひょいっと立ち上がる。


「たぶん変わらないと思うぞ?口移しで十分だな」


「ぶーーーっ!ミカラさんのケチーっ!」


ユノがぷんぷんしている。


「それに・・・」


―――ズシンッ・・・ズシン・・・ズシン!


「こんなとこじゃあムードも何も無いだろう?」


1体の魔物が近づいて来ていた。

最初の頃のユノなら緊張で青褪めていたはずだが・・・


「むぅ〜僕とミカラさんの邪魔するなんて許さないぞ〜〜〜っ!・・・えへへっ。じゃあさじゃあさ。ダンジョンクリアしたらご褒美って事で、キスより凄い事を―――・・・」


頭の中お花畑と化した魔剣士は、完全に油断していた。

目の前の魔物は―――


「!?―――おいっ!気をつけろっ!そいつぁ魔石持ちだっ!」


「え?」


巨大な魔石持ちの腕がユノに振り下ろされ、咄嗟に庇ったミカラがその直撃を受ける。


「―――ぐぉっ!!!」


「ミ、ミカラさんっ!」


ミカラに転がされたユノが慌てて跳ね起き駆け寄ろうとしたが―――


・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


地響きを立てて床に亀裂が走り―――


バゴッ!


「ミカラさん!ミカラさぁぁん!」


魔石持ちと共に、ミカラは破壊された床を抜けて、さらに下層へと落ちていった―――

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