第11話 火種は火薬庫へと近づいて行く・・・!ふぁいやー!

「むぅーん。師匠の気配が遠のいちゃったー」


暗殺盗賊スノウがナイフでジャグリングしながらぼやく。


「使徒様のお導きが感じられません」


破壊僧侶ピオニーがモーニングスターを祈祷の杖のようにかがげている。

ちなみにモーニングスターの鎖に魔物の生首が何個か絡まっており、その祈りはまるで邪神に捧げているかのようだ。


「ふっ!はっ!ふっ!えいやっ!」


武道家アテゥーマは魔物退治後のクールダウンとか言いつつ、いつまでも型の修練を行っている。


「少しここの魔物を斬るの飽きてきましたね。もっと深層に参りましょう」


狂騎士クッコロは大剣で未開封の宝箱を突き刺している。

宝箱はビクリと震えると、血を流し出す。

擬態した魔物だったようだ。


(いや、どうしたもんかしら、ホント・・・)


アナは仲間たちを見て軽く頭を振る。

ハッキリ言ってまとまりが無い。

協調性が無い訳じゃないし、連携も取れている?

ただ、何か違和感がある。

信頼関係が出来ていないとか以前の話。

アナは彼女たちに同じ匂いのようなモノを感じて声をかけ、パーティーを結成した。

それは間違いではないだろう。

だけど・・・


(何かしら?同じ立ち位置なのに、決して相容れない相手みたいな?まるで―――)


「やぁ、助かったよ。どうもありがとう」


アナが思考の先に至る前に、何者かの呼びかけにより邪魔をされる。


「いえ、ご迷惑じゃなかったかしら?獲物を横取りした事になってなければ良いのですけど」


彼は男だけで構成されたパーティーのリーダーだ。

先程魔物の群れと睨み合い、牽制していた。

恐らく退路を確保して撤退するつもりだったのだろう。

そこにウチの戦闘狂どもが勝手に突撃してむちゃくちゃにした。

突然の事に面食らっていた男性たちも、みるみる魔物が駆逐されるのを見て討伐に参戦する。

男たちが力を合わせて魔物を一匹倒してる間に、うちの娘たちは1人で数匹片付けていった。

他のパーティーの連携を見ても、やはりうちの娘たちは異常だ。

誰かが足止めして、牽制、フェイント、本命攻撃に後詰めのサポート。

そんな彼らのような連携攻撃が基本的で安全なのだ。

単身飛び込み魔物を多対一でドンドコ蹴散らすのは普通ではない。

連携というか、個人個人の縄張りがあって、そこで存分に殺戮を楽しんでるかのようである。

向こうの男性陣からなんかボソボソ聞こえてくる。


―――おい、すげー上玉揃いだぜ?オマエかましてこいよ?―――


―――馬鹿言うな。あの女騎士、俺の両手剣よりデカい剣4本持ってんだぞ―――


―――あの女僧侶見ろよ。ぶち殺した魔物の生首コレクションして笑ってやがる―――


―――魔物倒したってのに、あの盗賊はなんで素材回収しないでナイフで遊んでんだ?まるで殺すのが目的みたいじゃないか―――


―――あの武道家の女、すげー好みなんだけどやめとくわ。拳で魔物を貫通する女なんて初めて見たよ。―――


―――あのリーダーはまともそうじゃないか?ちょっと声かけて来よ・・・いや待て待て、あの女たちをまとめてる頭だしな。1番イカレてるに違いない―――


「・・・はぁ」


思わず溜息が漏れる。

カタチ的には一応助けた事になるのに、怖がられるとは如何なものか?

特にアナの風評被害が酷いが、気にしない事にする。

女だけだからとなめられるよりマシだ。


「いや、本当にすごいよ。みんな可愛くて若い女の子たちなのに、これだけ戦えるのは優秀だよ」


リーダーは笑顔で手放しで称賛してくれる。


「いえ、どういたしまして」


「ところで、どうだろうか?一緒に町へ帰還しないか?」


(おっと、本題はそれか―――)


その申し出は、実はありがたいものだった。

アナも一旦帰還する事は考えていた。


(―――いい提案ね。渡りに船ってヤツ?)


アナの誤算はいくつかある。

4人の戦闘能力が思ってたより高かった。

出会った時の『鑑定』でステータスのようなモノは一応確認してるが、より深い内面まではわからない。

例えば閉所恐怖症で狭いダンジョン内ではまったく戦えなかったりとか。

トラウマを抱えていて昆虫系魔物とは戦えないとか。

そういった弱点は現場で浮き彫りになる。

そして4人は逆だった。

覚悟がガン決まり過ぎている。

退くべきところで踏込むいかれ具合がある。

イケイケゴーゴー過ぎるのだ。

ペース配分とか体力温存とかをする気が無い。

索敵で見つけた魔物をやり過ごしたりしない。

先に魔物を見つけたら、奇襲して殲滅するだけだ。

あと魔物の素材とかまるで興味が無い。

より多くの魔物を殺すため、余計な荷物を持っていかない。


(素材回収じゃ利益は出そうにないわね。・・・ダンジョンのマッピングか、魔石持ちの魔物を倒して核を持ち帰るか、当たりの宝箱を見つけたりするしかないか・・・)


魔石持ちの魔物は強大だが、ドロップする魔石はコンパクト且つ軽量で持ち運びし易い。

そして希少で高価。

まさに宝石だ。

このパーティーメンバーなら魔石持ちもぜんぜんいけるだろう。

しかし今はお試しの、軽い探索のつもりであったため食料をあまり持ってきていなかった。

なのに4人は人一倍よく食べる。

丁度良いので、一度帰還して買い物がてら作戦を立て直した方がいい。

しかしそれはアナたちの事情。


「見たところ貴方たちのが装備も人員も余裕ありそうだけど、何かトラブル?」


男性パーティーの面々は疲れてはいる感じだが、怪我人などもいない。

食料でも失くしたのだろうか。


「いや・・・ 実は仲間2人とはぐれてしまったんだ。俺達は一旦戻ってからパーティーを編成し直し捜索隊を組む。はぐれた2人は加入したばかりとはいえ、大事な仲間には違いないからな」


拳を握り締めて俯くリーダー。

最悪、遺体の一部分か遺品を回収できれば・・・と言った悲壮な決意がある。


「そう思うなら引き返さないで探したらいいんじゃないの?」


アテゥーマが揶揄する訳でなく普通に聞いてしまう。

強者の理論だ。

それと魔術に頼らない者の視点でもあろう。


「やめなさいって、アテゥーマ」


「いや、その通りだよ。耳が痛いね」


悔しそうにするリーダー。

アナもダンジョン探索など久しぶりだし、リーダーを務めるのも初めてなので気持ちがよくわかる。

魔術が使えず、持ち前の肉体のみで攻略に挑まねばならぬ困難さ。

この古代遺跡の難易度は相当なものだろう。


「てゆーわけで、町へ帰還するわよ?アンタら燃費悪過ぎよ。もう食料がほとんどないんだからね!」


アナのその言葉に4人は素直に頷く。


「わかりました。一旦町へ戻りましょう」


「ええ、女神様のお導きも今は感じられません。これ以上進んでも今は何も得るものは無いでしょう」


「異議なーし。お腹も空いたしー?」


「そうね。私もダンジョンて初めてだったし少し疲れてるかも。ちゃんとした寝床で筋肉を休めたいわ」


それぞれ同意してくれた事にアナはホッとする。


(やっと休める)


この4人の体力バカはあまり休息を取らないのだ。

ちょっと休めばまたすぐに戦闘ができてしまう。

このままだと戦っていないはずのアナの方が先に潰れる。


「そうだ。君たちも捜索隊に加わってくれないか?報酬は出す」


「ごめんなさい。私たちは迷宮の踏破が目的だから・・・ただ貴方のお仲間は一応気にかけておくわね」


「すまない、恩に着る。その2人の男の特徴も言っておこう。1人は魔剣士の少年で名前はユノ。もう1人は盗賊で名前は――」


その名前を聴いた5人の女たちの・・・


「ミカラ」


目の色が変わった。











「すごいっ!すごいですミカラさんっ!」


舞い踊るようにユノが魔剣を振るう。

すると、周囲に居た魔物たちは一瞬で八つ裂きのバラバラだ。

剣の風圧で飛ばされ、血飛沫ですら彼女を汚せない。


「おう、凄いな」


ミカラは反応こそ薄めだが、内心舌を巻いていた。


(この女、強ぇぞ)


戦闘センスがずば抜けている。

いかにミカラのバフがあろうと、剣の技や体のキレは変わらない。

女の子らしい性格と穏やかな気性とはかけ離れた才能だ。


「さっきかけたバフ、結構長いな・・・」


条件がよくわからない。

相性もあるのかも知れない。

バフが切れた時に攻撃を受けたら大変なので、一応すぐフォローできるポジションにはついている。


「どうだ?まだ行けそうか?」


「はいっ!ぜんぜんいけますっ!」


まさに魔剣士の面目躍如と言った活躍に、ユノ自身が喜んでいるようだ。


(そうか、ずっとまともに戦えなかったからなー。ストレス溜まってたんかな)


ユノのはしゃぎっぷりにミカラが首を傾げる。

優れた戦闘センスの有無とは別に、あまり好戦的な性格には見えかったのだが・・・意外な一面である。

ちなみに実際は・・・


(えへへっ。やっとミカラさんのお役に立ててるっ!嬉しいっ!)


ユノは恋する乙女全開な理由で喜んでいた。

デートに持ってくお弁当を作ってあげるくらいの感覚で、古代遺跡の魔物を皆殺しにしていく。

しかもそれは、ミカラからキス(バフ)してもらってのパワーアップだ。

いつもの戦いとはモチベーションが桁違いだ。

彼にいいとこを見せたい。


「そうか。ならまだ追加のバフは必要ないな」


「!!!」


ミカラのその言葉に、ちょうど最後の魔物を斬り伏せたユノが、剣を振り下ろした姿勢でピタリと止まる。

そしてスススと近づいてきてミカラに縋り付く。


「ミカラさんっ!バフが切れましたっ!」


「嘘吐け」


魔術封じのダンジョン内だとそこまで正確に把握は出来ないが、今ユノにかけたバフが健在なのは見れば解る。


「持続時間の確認も兼ねてるんだし、それに魔物倒しきったタイミングじゃやる意味なんて・・・」


「いえっ!ぜぇったいバフ必要ですっ!早くっ!魔物が来ちゃいますよっ!」


筋力強化してある腕でガッチリと首にかじりつくユノ。


(うお。逃げらんねぇーー)


「ミカラさん。はやくぅ・・・お願い・・・です」


「・・・ったく」


ユノが目を瞑り顎を上げてバフ待ちになる。

ミカラは抵抗を諦めて、恋する魔剣士にキスをする。


「―――んっ―――」


必要が無いのでバフはかけなかったが、そのキスは長くなった。

ユノが満足するまでミカラを離さなかったからだ。


(・・・ミカラさんキス上手いなぁ。もう病みつきになっちゃったよぉ・・・)


ミカラの首に巻いた腕に力が入る。


(・・・でも、誰とキスして・・・こんなに上手くなったのかなぁ?・・・)


少しだけミカラの舌に歯を立てて噛み切る。

顎の噛む力も強化されており、簡単な事だ。


(でもまぁいっか―――)


愛しい男の血の味を楽しみながら、ユノは気を取り直す。

ミカラをやっと解放し、唇から流れる血を舐め取り、幸せそうに・・・微笑む。


(もう、ミカラさんは僕のモノなんだから―――)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る