古代遺跡へ

第8話 ドキッ!男だらけの肉体派パーティー!

「ミカラだ。よろしく」


新しく入ったパーティーのメンバーにミカラが挨拶する。

パーティーリーダーの戦士の男が、笑顔を浮かべてミカラの肩を叩く。


「盗賊職は大歓迎だ。例の未発見だった古代遺跡あるだろう?魔術が使えないらしいからね。お宝を見つけても『解錠』魔術が使えないんじゃしょうがないからな」


(・・・お嬢から逃げて違う町に来たのに、まさかあそこに戻るハメになるとはな)


特に深く考えずに、男だけのパーティーを選んで加入した。

そうしたら彼らは例の古代遺跡へ向かうと言う。

と言うか、冒険者界隈は新発見のダンジョンの話題で持ち切りだ。

このパーティーを辞めても、ほぼだいたいの依頼は例の古代遺跡に繋がるだろう。


(どれも一緒ならここでいいか。他探すのも面倒だしな)


ミカラは盗賊職らしく、フードを目深に被って口元をマスクで隠している。

変装とも言えない姿だが、遠目には誤魔化せるだろう。


「そういえば、ウチ以外にも盗賊職募集してる連中は居たが、どうしてウチを選んで来てくれたんだ?」


リーダーの当然の質問にミカラは誤魔化さずに答える。


「女がいないからな」


その言葉に一瞬呆けた空気が流れるが、みんなが笑い出す。

冗談だと思われたのだろう。


「おいおい〜!女に酷い目に合わされたんなら娼館に行くのが1番だぜーー!よーしっ!新入りの歓迎会だっ!今から全員で娼館に行くぞーーーっ!」


ノリの良い狩人の男がそう提案するとみんながワッと盛り上がる。


「俺はパス」


と、ミカラが手を挙げる。


「あ、僕も・・・」


追従する者がもう1人。


「なんでだよっ!」


狩人の男が突っ込む。

ミカラは娼館へのお誘いは辞退した。

しばらくは女を抱く気分になりそうにない。

ミカラの歓迎会と言いつつ、残りのパーティーメンバーはみんな娼館へとしけこんだ。

1人を除いて。

その残った1人と連れ立ち、ギルド内の酒場の一席に落ち着く。


「あ、あの僕、ユ丿って言います!魔剣士ですっ!まぁ、今回潜るダンジョンだとただの剣士になっちゃいますけどね」


ユノが少し不安そうにしている。

魔術でのバフが出来ない魔剣士など、アドバンテージが無きに等しい。

このユノ以外のメンバーはみな騎士や戦士系の者ばかりで、それほどの不利は無いようだ。

治癒や初級魔術なら前衛職でも使える者はいるようだが、今回はみな己の肉体のみで戦う事になる。

回復等のサポートをアイテムに頼る事になり、ユノとミカラが、その役割を担うのだ。


「ああ、可能な限りサポートするさ」


二重の意味でのサポートだ。

普段は前衛で戦っているユノにいきなり中・後衛で立ち回れと言うのも無茶な話だ。

ユノへのサポートも、ミカラの仕事なのだろう。


「ありがとうございますっ!でわでわ!ミカラさんの加入を祝してカンパーイっ!」


2人は果実ジュースの入った器を打ち合わせて乾杯する。

ギルド居残り2人組の、ささやかな新人歓迎会。


「ミカラさんお酒飲まないんですか?」


「今は絶ってる」


「そうなんですね。僕もお酒あんま得意じゃなくて」


ユノははにかんだように笑ってジュースを飲む。


(こういうのもたまには悪くないな)


ミカラもジュースを飲み、ユノとの会話を楽しんだ。











「ぐあっ!ちくしょー痛ぇっ!」


「下がれっ!交代しろっ!回復頼むっ!」


「わ、わかりましたっ!」


魔物たちを肉弾戦でぶちのめす。

ミカラとユノはポーションや薬草を持って走り回る。

ここは古代遺跡ダンジョン。

ミカラたちのパーティーは慎重に探索を続けていた。

このダンジョンは、とにかく疲れる。

普段冒険者が、いかに魔術に頼っているかが浮き彫りになる。

『照明』の魔術が使えないので手に松明を持つ。

『探知』の魔術が使えないので索敵は耳に頼る。

『治癒』『毒消し』が出来ないので、ポーションを飲んだり薬草を塗って包帯を巻く。

『強化』系バフが使えないので地力で戦うしかない。

『弱体化』デバフも使えないので、魔物を倒すのも一苦労だ。


(・・・ここでなら、あの町の武道家たちが大活躍しそうだな・・・)


ミカラは魔術使用不可の縛りでどつきあいをしている脳筋の町の武道家たちを思い出す。

スクロールや魔道具、無詠唱での魔術も効果を無効化される。


(・・・ この感じ、術式無効化ってより『吸収』か?)


感覚的なものだが、かき消されるというより、ダンジョンに魔力を吸い取られる感覚がある。


(縛りはキツイが、条件次第なら限定的に魔術も使えそうだが・・・)


試してみたいが、他人の目があるうちはやめておく。

1人きりになった時にやってみよう。

魔物との散発的な戦闘を繰り返して奥へ進むと、少し広くなった空間があり、そこから通路が伸びている。

その通路の進んだ先に、道を塞ぐような扉があった。


「どうだ?開きそうか?」


「んーーー少し時間をくれ」


ミカラが即答を控える。

普段は魔術で『鑑定』『解析』『探知』で内部構造を確認して『風』や『土』の魔術で合鍵を複製して解錠している。

何も無しだと少々骨が折れそうだ。


「わかった。ゆっくりやってくれ。丁度いいから、今夜はこの手前の広場で休もう」


通路手前の広場は十分な広さがある。

野営には丁度良いだろう。

ミカラが扉の解錠作業をしてる間、残りのメンバーが野営の準備をし始める。

しばらくすると何か良い匂いが通路の扉前まで漂ってきた。

パーティーメンバーに料理の腕の良い者がいるようだ。


「ミカラさん、どうですか?あ、コレどうぞ」


ユノが食事を持ってミカラの様子を見に来た。


「ありがとう。まぁ、もう少しかな?」


実はもう開ける寸前まで進んではいた。

残る作業は、罠がないかのチェックだけだ。

開けたら魔物の大群が押し寄せて来るとか、たまったものではない。


「お、美味いなコレ」


ミカラが碗によそられたシチューをかきこんで食べる。


「え、えへへ。そうですか?それ僕作ったんですよ」


ユノがもじもじしながら照れ臭そうに笑う。


「おう、ユノはいいお嫁さんになれるぜ?」


「な!何言ってるんですかもーーーっ!」


ユノが声をあげて・・・


「よいしょ」


しゃがみこむ。

その時ユノのお尻が、鍵穴に刺さったままだった、ミカラの解錠道具を押してしまう。


ガチャリッ!


「――――げふっ!」


扉から鍵が開いた音がし、ミカラがシチューをむせる。


「あ、開いたっ!開きましたーーー!」


ユノが背後を振り返りパーティーメンバーに声をかけ・・・


「!―――しまった!」


ミカラが気づく。


「え?」


やはりトラップがあった。


ガラガラガラ!ドドオォーン!


扉が開いた反対側、つまり、今来た道を塞ぐように壁が天井から降りてきた。


「あーーーしまったな。先へ進むしかねぇ」


「そ、そんな・・・ぼ、僕のお尻のせいで・・・ 」


ユノが自分のお尻を抑えて顔を青くする。

仲間と分断されただけでなく、食料やアイテムも壁の向こう側なのだ。

腰に吊るした魔剣がユノの唯一の所持品になる。

呆然としてるユノとは正反対に、ミカラはスタスタと道の先へと進む。

基本ソロ活動なので、仲間との分断にも大して慌てていない。


(むしろあっちが気になるな?) 


ミカラならユノを連れてダンジョンから脱出も可能だ。

リーダーたちが、2人を救出しようと無茶をされた方が怖い。

一旦帰還してから捜索隊を組むべきだ。

それを見捨てたと感じるミカラではない。

リーダーがそのセオリー通りに動いてくれることを願う。


「よし、俺らもここで休もう」


「ど、どうしてそんなに落ち着いてるんですか?」


「水場があるからな」


通路を抜けた先には水場があった。

基本石畳が続くタイプのダンジョンだが、割れた壁の隙間から地下水が流れていたりする。

丁度この場には池のような溜まり水がある。

川のように流れており澱んでもいない。

良い水場だ。

これから先にこんな水場があるかわからないので、今休むべきだ。

そうユノに説明してやると、なんだか恨めしげにこちらを見てくる。


「・・・うぅ、なんでそんなに落ち着いていられるんです?」


(僕はこんなに不安なのに・・・)


盗賊職のミカラと、魔術が使えない魔剣士の自分、未知の古代遺跡に2人きり。

この先、罠や魔物をその2人でなんとかしなければならないのだ。


「落ち着かないと死ぬからな」


ダンジョン内では冷静さを欠いた者から死ぬ。

常識だ。

適当に床を整えて寝転がる。

ミカラの冷静さに影響されたのか、ユ丿も先程よりも幾分落ち着いている。


「・・・また2人きりですね」


「そうだな、何かと縁があるもんだ」


ミカラは目を瞑り、意識を閉じた。










パチャン・・・


水音で意識を取り戻す。

仮眠を切り上げ、音を消して水場の方へと歩く。

水場で誰かが水浴びをしている。

この場にはミカラの他にはユノしかいない。

しかし・・・


(ユノ?いや、こいつは・・・)


「あへっ!?ミ、ミカラさんっ!?」


水浴びをしている、容姿端麗な裸の少女がこちらを振り返り声をあげる。

中性的だなとは思っていた。

男だけのパーティーがいいとオーダーした。

小柄なのは年若いからだと思った。

娼館に行かないのはまだそういう事に興味が無いからだと思った。

料理が得意で、褒めたら嬉しそうにした。

はにかんだ笑顔は可愛らしかった。


(いや、気づいてないフリをしてたのか俺は)


「ユノ、お前さん・・・女だったのか?」 


「あ・・・ う・・・ みなぃで、くださぃ・・・」


顔を赤らめて手で隠している胸元からは、女の証である豊かな双丘がこぼれ落ちそうになっていた。










とある町の冒険者ギルド。


「強い魔物の討伐クエストはありますか?」


「えぇと、貴女がこの周辺の魔物たちをだいたい片付けてしまったので・・・今は特には」


「そうですか・・・」


受け付嬢の言葉に残念そうに俯く騎士職の女。

そのギルドではあちこちで勧誘や仕事の斡旋が行われている。


「えぇと私、治癒とか浄化とかできないんですけど・・・」


「え?君僧侶だろ?」


「はい!このモーニングスターで迷える魂を女神様の元へご案内致します!」


「そ、そうか、頑張ってね」


やたらガタイの良い女僧侶を勧誘していたあるパーティーのリーダーは、顔を引きつらせつつそそくさと離れる。

受け付嬢の1人が、小柄な盗賊職の少女に仕事を紹介している。


「盗賊職の募集ですか〜?私、鍵開けとか無理無理〜〜。私は暗殺者なんで〜〜殺しの仕事がいいな〜?」


「・・・ウチにはそんな物騒なクエストはありません」


「えーーー師匠に教わった殺しの技が錆びついちゃうよーーー」


盗賊少女が天を仰ぐ。

隣のカウンターでは別の受付嬢が、困った顔をして1人の武道家の対応をしている。


「ねぇ、冒険者のランクアップってどうやってするの?上位冒険者を倒せばランク上がるんじゃないの?」


「やめてください。道場破りじゃないんですから。理由も無い冒険者同士の私闘はペナルティになりますよ?」


「やはり冒険者は肌に合わないわね」


女武道家が嘆息する。


「ねぇ、貴女たち・・・」


そこに、未知の古代遺跡へと期待を膨らませる鑑定士が現れる。


「私とパーティー組まない?」


鑑定士アナの呼びかけに・・・

狂騎士クッコロ。

破壊僧侶ピオニー。

暗殺盗賊スノウ。

武道家アテゥーマ。

四人が同時に振り返った。

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