第5話 武道家の町
(なんでだろ?)
「うおおおおっ!喰らえ灰色熊殺しパンチッ!」
目の前の大男が大振りの拳を放ってくる。
ミカラはひょいと躱すと、足払い。
「ぶげっ!」
倒れた大男の首に腕を回す。
「よいしょー」
きゅっと締めるとカクンと首が落ちる。
気絶、よって―――
「勝負ありっ!ミカラ選手2回戦進出決定ーーーっ!」
どっ!と沸く観客席。
審判に腕を持たれて上げさせられながら、ミカラは
もう一度己に問いかける。
(どうしてこうなった?)
「祭りか〜。へぇ〜」
この町は丁度お祭りの真っ最中らしい。
道を行き交う人々も何処か楽しげで浮足立っている。
「しかし、なんか・・・体格良いヤツ多いな?」
老若男女問わず、なんだかみんなガッシリとしている。
冒険者や傭兵の類には見えない一般人の方々もなんだかガタイが良い。
「そしてなんか・・・道場多いな?」
商店が立ち並ぶ大通りに突然武術道場が現れ、中から気合いの入ったかけ声と素手と素手で打ち合う音が響いて来る。
「まぁいっかー。祭りはいいぜ。酒も女も楽しく頂ける」
ミカラの今の懐は割と暖かい。
町の陽気な雰囲気も相まり、財布の紐も緩くなるというものだ。
ミカラは取り敢えず目に入った酒場に入る。
適当に酒と肴を注文し、歓楽街が賑やかになる夜までどう過ごすか思案していると・・・
ガッシャーン!
「なんだなんだ?」
店の一部で誰かが暴れている。
暴れているというか・・・
「よぉし!今日の本戦前に、てめぇをのして景気づけにしてやらぁ!」
「上等だぁ!かかってこいやぁ!」
筋骨隆々の男2人が素手で殴り合いを始めている。
(お祭り気分だと騒ぐバカも出てくるよな)
よくある光景ではある。
しかし・・・
「なんか、変だな?」
不思議な事に、周りの誰も迷惑がってない。
他の客は手に手に料理や酒を持って立ち上がり野次を飛ばしている。
ウエイトレスたちも店の椅子やテーブルなどが壊されないように手早く片付けている。
男2人の周りは自然と円が出来上がり、客も店員も嬉々としてギャラリーになっている。
これが賭け事ならまだわかる。
しかし何か違う。
突発的な喧嘩を即興の賭け試合に仕立てた・・・という訳でもなさそうだ。
(なんだ?コイツらの目―――)
熱狂。
そこにはただただ戦いへの熱狂がある。
(気持ち悪ぃ)
ミカラには理解出来ない心理状態だ。
「店変えるか」
ミカラが立ち去ろうとした時、運悪く・・・
「ゴハッ!」
「おっと・・・」
戦っていた片方の男が、ミカラの前に殴り飛ばされてきた。
その男の後頭部が床に叩きつけられる寸前・・・
ガシッ
(―――しまった。つい・・・)
ミカラは足の甲でその男の頭を支えて助けてしまった。
決闘に手(足)を出してしまったのだ。
それすなわち・・・
「おおっと!乱入だーーーっ!」
「いや、俺別にコイツの知り合いでもないし」
「ガハハハッ!ワシの目は誤魔化せんぞ!今の無駄が無く素早い動き!男1人を片足で受け止めてもぶれない体幹!貴様っ!強者だろう?」
勝ち残った男がニヤリと笑い拳を構える。
「えぇ〜嘘だろ」
自分の顔面に向かって振り下ろされてくる握り拳を、ミカラはうんざりした目で見つめた。
「―――それで、そのまま次々と喧嘩相手を叩きのめし、最終的には酒場に居た男たちのほとんどを倒した、と?」
「正当防衛だ。俺からは喧嘩は売ってない。それに半分くらいは勝手に喧嘩して潰れてっただけだぞ?」
「そんな事はどうでもよろしい。君は生き残った。勝ち残ったのだ。強者よ」
「はぁ・・・」
ここはこの町の領主の屋敷である。
そして眼の前にいる、厳のような武骨な男が領主らしい。
件の酒場にて、最初の男を軽くいなしていると別の男が名乗りを上げた。
その相手含めて2人合わせて適当にあしらってるうちに・・・いつの間にか俺も俺もと戦いに参加し、店の中は大乱闘の坩堝と化した。
気付いた時にはミカラ以外の男たちは倒れ伏しており、どうしたもんかと思っていると・・・領主の使いと名乗る男が現れた。
その男に連れられ馬車に乗り・・・今に至る。
(乱闘を責められてる訳じゃねぇんだろが・・・なんか気持ち悪いな?)
領主からはミカラを品定めするような視線を感じる。
ただご機嫌は良い。
それは良いのだが・・・この感じは―――
(アレだ。あの酒場の連中と同じ匂いを感じる)
目の前の男は、ミカラと戦いたくてうずうずして仕方無いといった塩梅だ。
(ダメだこの町、全員おかしいぞ)
ミカラがこの町に来た事を後悔し始めた頃・・・
ガチャリ
と扉を開けて・・・
「その人なの?お父様?」
見目麗しい美少女が現れる。
素材が良いのはともかく、鍛えられたしなやかな肢体を動き易そうな武道着に包んでいる。
(この女・・・自分の才を理解している)
ミカラは一目見ただけで、この娘が武道の才があり、尚且つ日々弛まぬ鍛錬を続けている事を理解した。
自分が望む才を持ち、それを磨き続けている。
原石なのではない。
カッティングされた宝石のような少女だ。
「おお、私の可愛いアテゥーマよ、今日もとても素晴らしい大腿四頭筋だ」
「ふふっ。お父様の僧帽筋には負けるわ」
何今の?
この町の挨拶なの?
寒気を感じたミカラは、筋肉父娘の会話に割り込む。
早く帰りたい。
「それで、俺はどうなるんです?」
「おお、その話だったな。本戦出場権を持つ武道家を何人も倒したんだ。ミカラ君、君には穴を埋めるために大会に参加してもらう」
「いや、俺は別に格闘家でも武道家でもないんだけど・・・」
「大会優勝者には賞金は出ないが名誉は与えられるぞ」
「メリットゼロやんけ」
「そうでもないぞ?この町で道場を開ける権利が与えられる」
(い、いらねー)
素手での格闘。
(それにどれだけ意味があるんだ?)
この世界には、武器があり、毒もあり、何より魔術もある。
わざわざワン・オー・ワンのステゴロ勝負など無意味に等しい。
コロッセオの拳闘士じゃあるまいし。
ちなみに武器だけでなく魔術も禁止されているそうな。
大会が行われる武道会場には魔術封じの仕掛けがなされており、本人が使うのはもちろん、観客席からの支援魔術も無効化するらしい。
魔力はれっきとした身体機能のひとつで、魔術はそれを使いこなすための技術体系に過ぎないのだが。
知り合いには、無意識に魔術で身体強化を行い戦う前衛職がいる。
呪文を唱えるような普通の魔術は使えない、天然の無詠唱魔術師とでも言える存在。
彼らはどうなるんだ?
それと、どっかの魔術師が出した論文だと、有機物無機物すべて、空気中にすら魔力が内在してるらしい。
つまり魔術禁止、魔力禁止とは、世界を全否定することになる。
人間は息をする事も、存在する事すら禁止になる。
(まぁ、釣り勝負で投網漁使うのは興醒めだし。そんなもんかな?)
ミカラは難しく考えるのを止めた。
それと、ここはあまりゴネない方が良いだろう。
この男もその娘も、脳筋は脳筋だが脳筋貴族なのだ。
あまり反抗的な態度で不興を買わない方が良いだろう。
お貴族様がその気になれば、乱闘騒ぎの原因としてミカラを牢屋に入れる事も容易い。
「・・・わかりました。参加させて頂きます」
ミカラは観念して武道大会への参加を表明する。
目の前の脳筋貴族父娘が満足そうに腕組みして微笑んでいる。
「ふふっ。流れの武道家か。貴方と戦うのは・・・この組み合わせだと決勝になるわね。楽しみだわ」
楽しげなアテゥーマを、父である領主様は少し羨ましそうに見ている。
「残念だよ。私は10年連続優勝して殿堂入りしてしまったからな。もし私が戦うなら領主の地位をかけなければならん」
何その謎ルール?
勝ったヤツがリーダーとかさぁ。
ここは未開の奥地の蛮族の集落なの?
その蛮族の長の娘のアテゥーマは、友好的半分、好戦的半分の笑みを浮かべて微笑んでくる。
「私はアテゥーマよ。決勝戦で会いましょう?」
「ミカラだ。あんま期待しないでくれよ?」
そしてそのまま武道大会が開始され、ミカラは特別枠として参加する事になったのであった。
「はぁ・・・あと何回やりゃいいんだ?中衛職に格闘なんてさせんなよ・・・」
ミカラから見てもキチンと鍛えてる武道家たちを、ミカラは難無く撃破してきた。
魔術による身体強化もしていないが、十分に戦えている。
(重い物持ったり、腕相撲とかの単純な力比べなら勝てやしないだろうがな)
どんなに人間として強かろうと、一撃で人間の命を刈り取る魔物の爪より怖くはない。
冒険者ミカラにとっての敵ではなかった。
対戦相手の攻撃を避けては一撃で倒すミカラのスタイルは、派手さはなくかなり地味だ。
だがそれがかえって玄人好みに映るのか、通気取りの観客たちにはそれなりにウケていた。
勘弁して欲しい。
「私はゾラ。蛇拳のゾラよ」
何回戦目か忘れたが、次の対戦相手は女だった。
手足がスラリと長く、深いスリットが入った服からは艶めかしい素足が覗いている。
「ミカラだ」
「流派は無いの?」
女武道家ゾラが蛇のようにシュルシュルと移動して、指を揃えて鎌首をもたげた拳を突き放ってくる。
「しがない冒険者なんでね」
「ふーん。冒険者なんて、群れて粋がってるヤツばっかだと思ってたけど・・・やるじゃない」
ゾラの攻撃は戻すのも早く手数が多い。
ミカラでも捌くのが手一杯で隙を突けない。
(強いな)
大会の大半を占める筋肉ダルマたちよりも余程手強い。
(この姉ちゃんになら負けても不自然じゃないよな?)
ミカラはそれこそ初戦でわざと負けてもいいぐらいの気分だったのだが、相手が弱過ぎて遺憾ともしがたかった。
(さぁ、姉ちゃん。食いつきな)
ミカラはわざと隙を作ってみる。
誘い、釣りだ。
そこに・・・
「隙ありっ!」
ゾラが必殺の踏み込みをしてくる。
片腕をミカラの腕に絡めて逃さないようにして、必殺の一撃を見舞おうとしてくる。
(はぁ・・・ ようやく終われる・・・)
この攻撃を食らってダウンしたら、痛くて起き上がれない感じにして、審判役に負け判定を上手く貰えれば・・・
「おっと・・・!」
その時、砕けていた床の窪みに足を取られる。
大会中の試合で出来た、ほんの小さな穴。
しかし、それにより―――
「しまっ―――」
ズシンッ!
「がっ―――」
結果としてミカラの掌底がカウンターでゾラの腹へとめり込んだ。
運が悪い事に、ミカラに蛇のように絡めた腕が彼女の身体を逃さない楔となる。
何倍にも増幅された衝撃が、ゾラの体内に浸透する。
皮膚を貫き筋肉を飛び越え、内部を破壊する、まさに必死の一撃。
「ガハッ!」
血を吐いて崩折れ、倒れ伏すゾラ。
(やっちまった!)
思わぬ展開に血の気が引いていくミカラとは真逆に、観客席は大いに沸いた。
そこに進行役が叫ぶ。
「ゾラ選手ダウンっ!勝者ミカラっ!ミカラ選手準決勝進出です!」
大興奮の大会会場で、当事者のミカラだけは冷や汗を垂らしてゾラを見下ろしていた。
「なんという男なのっ!」
アテゥーマは興奮と悦びを抑えきれない。
野にあのような男が埋もれていたとは。
最初は、いつも変わらぬ面子の大会に少しアクセントが生まれればおもしろい・・・くらいの気持ちだった。
しかし、彼の戦い方を見て考えを改めた。
戦いたい。
戦って自分の実力を試したい。
そこではたと気づく。
「―――試したい、ですって?」
それはつまり、無意識にミカラを格上だと認めている事だった。
確かに今の試合ではその片鱗を見せたが、彼の実力の底は未だ見えない。
今の未熟な自分では勝てるかどうか、いや、まともな試合になるかどうかさえわからない。
(血湧き肉躍るとはまさにこの事ね・・・)
「ふふっ。決勝が楽しみね・・・ん?なにかしら?」
ミカラが今しがた倒したゾラを抱き上げて慌てて何処かへと行こうとしている。
次はアテゥーマの試合だ。
勝てばミカラと同じく準決勝。
自分の戦いに興味が無いのだろうか?
意識してる相手から自分は意識されていない事実。
少しムッとしたアテゥーマはミカラの後を追った。
ゾラを抱えたミカラは大会の医務室へと向かった。
そこには包帯や湿布塗れのムサ苦しい男たちがわんさかいる。
怪我人の中には、折れて固定された腕で筋トレを始めてるヤツもいる。
バカなの?
そして、魔術師らしき者の姿が何処にもない。
嫌な予感がする。
治療に当たっている大会関係者に問いかける。
「おい?治癒が出来る魔術師は何処だ?」
「・・・ え?いや、この大会に―――と言いますか、この町に治癒が出来る魔術師など居りませんよ?たしか女神教の司教様なら、簡単な治癒なら出来たはずですけど・・・」
教会も当てにできないらしい。
ミカラは舌打ちして、低い声で唸るように問う。
「・・・なら上級ポーションはないのか?錬金術師の工房は何処だ?」
ミカラの焦った声と、傷一つ無いゾラを見比べて、大会スタッフがのんきに笑い声をあげる。
「ははは。気絶してるだけですよね。それでもまぁ、どんな怪我でも病でも、鍛えた筋肉で治せぬものなどありませんよ。私も現役の頃は大会上位ランカーとして・・・」
「もういい」
ミカラはそう吐き捨ててから医務室を出て、そのまま会場の外へと――――
「待ってミカラ!何処へ行くの?準決勝はどうするつもり?」
アテゥーマが出入り口への通路に立ち塞がっていた。
「どけ」
「今会場の外に行けば棄権扱いになるわよっ?私との約束は―――」
「どうでもいい」
大会前に会った時とは別人のようなミカラの冷たい視線に、アテゥーマは気圧される。
「そ、その女のが、私との約束より・・・」
「どけと言っている」
取り付く島もないミカラの態度に、アテゥーマは焦りを募らす。
(せっかく・・・せっかくお父様以外で私の全力をぶつけられる相手を見つけたのに・・・)
彼が壊れ物を扱うように大切に抱きかかえているゾラが羨まし・・・恨めしい。
ゾラは強いが、アテゥーマのが勝ち越している。
他の対戦相手も含めて、トータルの戦績でも上だったはず。
一発で負けたくせに彼に抱かれているなんて・・・
(―――っ!・・・いけないわこれじゃ・・・)
醜い嫉妬心を自覚したアテゥーマは、父から教わった呼吸法で精神統一を図る。
マインドセットで落ち着いたアテゥーマは、ミカラに毅然と言葉を放つ。
「・・・わかったわ。なら明日の朝・・・町外れの森の広場で待ってる。私の秘密の特訓場所よ。そこで約束の仕合いを果たしましょう。私はこれから必ず準決勝、決勝を勝ち上がり優勝する。明日こそ、真の勝者を決めるわよ」
もはや振り返らない。
約束は果たされなかったが、新たな約束で塗り替えられた。
自分はこの後の2戦で確実に強くなれる。
ならば、明日の朝にはこの男に届きえるかも知れない。
アテゥーマとミカラは、お互いそれきり言葉も視線も交わさずに通り過ぎる。
「ちっ。やっべーな。」
ミカラは適当な宿屋にゾラを連れ込む。
服を脱がして患部に手を当てる。
ゾラの腹は綺麗なもので痣ひとつ無い。
しかし皮膚の下の内臓にはミカラが与えた衝撃が残っているはずだ。
(治癒術は専門じゃねぇんだぞ)
擦り傷程度の外傷ならともかく、内臓や血管に重篤なダメージを与えていた場合、ミカラには手に負えない。
手持ちのポーション類も効果は期待薄だ。
「こんなアホみたいな大会で女殺すなんて勘弁だぜ」
ミカラは全神経を集中してゾラの肉体に『探知』の魔術を放つ。
(ここか・・・)
自分の打撃で傷つけた臓器を見定める。
(『治癒』)
深く、体内の奥に染み渡らせるように『治癒』の魔術を浸透させていく。
それを何回か繰り返していると・・・
「げほっ!」
ゾラが再び血を吐いた。
しかし・・・
「〜〜〜〜〜っ!焦ったぁ〜〜〜っ・・・」
ミカラがベッドのゾラの身体の上に突っ伏す。
先程の吐血で悪い血はすべて吐き出させた。
これで峠は越えたのだ。
「ああ〜もう、疲れたーーー」
正直今の治癒魔術連発が今日イチでしんどかった。
ミカラは下着姿のゾラに布団をかけると、自身は床に寝転がって仮眠を取る事にする。
少しでも休んで魔力を回復させておかねば、もしもゾラの体調が悪化した時に対処できなくなるからだ。
ミカラは目を瞑り、意識を閉じた。
「・・・よせ。リベンジのつもりか?」
深夜、床で寝ているミカラの上に覆いかぶさるように、一糸纏わぬゾラが跨っていた。
「ふふふっ・・・どうかしらね?」
熱っぽい声でゾラが応え、ミカラの唇に己の唇を重ねる。
薄暗がりの中、瞳を合わせる。
「あんなに完膚なきまでに負けたのも・・・あんなに必死に命を救われたのも、初めて・・・」
ゾラが自分の身体をミカラに重ねてくる。
「朦朧としてたけど覚えてるわよ?助けてくれてありがとう」
「いやまぁ怪我さしたの俺なんだがな」
「勝者は敗者の健闘は称えるけど、抱きかかえて走り回ったり、自分で治療したりなんかしないわ」
ゾラはミカラの衣服を脱がしにかかる。
「よせって。傷に響くぞ?」
「ふふっ。なら優しくして?」
「・・・ 善処する」
ミカラは今日、繁華街にも娼館にも行きそびれていた。
それだけならまだしも、よくわからん殴り合いの大会に参加させられストレスはマックスだ。
ゾラの治癒も、相当に神経をすり減らして疲れた。
それに、命のやり取りはなくとも、ずっと戦っていたために、ミカラもさすがに昂っていた。
こうゆう時は女を抱きたくなる。
ミカラはゾラを抱き上げベッドへ移る。
ミカラ・デタサービとしてはかなり珍しく、その夜は娼婦でない女を抱いた。
そして翌朝、というか昼。
2人は遅い起床をする。
ゾラがミカラにベタベタと絡まってくる。
「ねぇ、もう1回いいでしょ?」
「その前になんか食え。食わねーと治らないぞ」
「はーい」
素直に返事するゾラが可愛らしい。
ミカラの胸に頭をこすりつけて甘えてくる。
武道大会では赤いアイラインや真っ赤な口紅など、やや攻撃的な化粧をしていたゾラ。
今はそれが落ちていて、言動も含めてやや幼く見える。
妖艶に見えただけで、思ったより若いのかも知れない・・・初めてだったし。
「じゃ、ゴハン食べたらもう1回戦!いや何回でも!」
伊達に鍛えてる訳ではなく、スタミナも底無しだ。
(搾り取られそうだな)
部屋を出る2人。
ゾラはミカラの側に近寄ると蛇のように腕を絡めてくる。
「―――強い男は好きよ。―――ミカラと私の子なら絶対強い子になるわ・・・」
ゾラの目が怪しくギラギラ光る。
胸に指を這わせてなんか怖い事言ってる。
「ふー、この町の人間はそれしかねぇのか?」
そうは言いつつもゾラを邪険にはせずにそのまま歩く。
宿屋の一階の食堂で食事を取る。
なんか甲斐甲斐しく世話をされる。
尽くすタイプらしい。
裏切ったら怖そうだ。
蛇だけに。
その後2人は夜中過ぎまで激しく戦い、最終的には辛くもミカラに軍配が上がる。
・・・ところで、町外れの森の奥にてその夜・・・
―――許さないわっ!あの男ぉぉぉぉっ!ミカラぁぁぁぁっ!―――
という、謎の咆哮が聞こえたそうな・・・
そして、次の朝方。
武道大会から2日後となる。
幸せそうにスヤスヤと眠るゾラを残し、ミカラは宿を出る。
激しい戦いだった。
負けたら、この町で道場を開いて所帯を持つ未来が待っていただろう。
恐るべき未来は回避された。
朝方の人通りのまばらな大通りをミカラが歩く。
「・・・なんか忘れてるな?まぁいっか。めんどくせー事ばっかで予定とは違ったけど・・・いい女とも出会えたし。結果オーライだぜ」
ミカラは晴れ晴れとした気分で天を仰ぎ、次なる旅へと向かった。
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