第4話 女盗賊スノウ
「またトラップ解除失敗だとっ!いい加減にしてくれっ!見え透いた罠も踏み抜くっ!宝箱の解錠もできないっ!オマエなんかパーティーに入れるんじゃなかった!今日限りで除籍だっ!とっとと出てけっ!」
「そ、そんな〜!こんな迷宮の中で置き去りにされたら、魔物に襲われて食べられちゃいますよぉ・・・」
「ああんっ?オマエ凄腕の盗賊なんだろう?この程度の迷宮踏破なんざ簡単だって言ってたよなぁ?なら大丈夫だろぉ?ベテランさんよぉぉぉぉっ!」
とあるダンジョン内にて揉め事発生。
険悪な雰囲気のパーティーの一団。
「はぁ、くそがっ!予定が狂ったっ!一旦町へ戻ってメンバー補充するぞ。次はまともな盗賊職を見つけないとなぁ?」
リーダーらしき男がペッと唾を吐いて立ち去って行く。
他のメンバーも罵詈雑言はしないまでも、舌打ちや無視をして歩み去って行く。
残されるのは、女盗賊独りきりのみ。
「えっくっ!ひ、ひとりになっちゃった〜〜〜うぅぅ〜〜〜っ!ゅるせなぃ〜〜〜!私を追放したあいつらに、ざまぁ展開がありますように・・・ねぇ、そこのあなた、酷いと思いません?私悪くないですよね?ね?」
「・・・・・・・・・え?俺に言ってる?」
急に話しかけられて、ミカラは不思議そうに顔を上げる。
ここはダンジョン内の安全地帯だ。
魔物避けの植物が群生していて魔物が入り込んで来ないため、ちょっとした休憩場所になっている。
少人数のパーティーが複数休めるくらいのスペースだ。
ミカラは少し前にここにやってきて、出っ張ってる木の根に座って軽食を取っていた。
そうしたら件の一団が後からやって来て、揉め始めたと思ったら女盗賊を1人捨てていったのだ。
「うーん、そうだなー。役立たずをパーティーに入れてしまった責任はリーダーにある。正式に抗議すれば違約金くらいは貰えるかもな」
「そ、そうですかっ!やったー!」
ぴょんこぴょんこ飛び跳ねる女盗賊。
「ただし、自分の能力を偽って申告していたり、それを担保に前借りで報酬を貰ってた場合、ペナルティついた上に賠償金ふんだくられたりも、する」
「あぅ・・・ 」
女盗賊がシュンとなる。
それきり会話を打ち切り、ミカラはサッと身支度を整えて出発の準備を終える。
そのタイミングでまた女盗賊が話しかけてきた。
「あ、あの〜〜〜・・・良かったらご一緒しませんか?ほら、ダンジョン内を独りなんて危ないですし・・・」
女盗賊が仲間になりたそうにこちらを見ている。
「俺は別に1人で平気だし」
ミカラは断った。
「わ、わたし盗賊ですからっ!役に立ちますよーっ!そ、そうだっ!私はスノウっ!スノウ・ドロップって言います!よろしくお願いしまーすっ!」
元気よく笑顔で名乗ってくる女盗賊スノウ。
だがミカラはため息を吐いて手をひらひらさせる。
「間に合ってるんだよなぁ」
スノウはミカラの装備を見て、自分と同じ系統の職種だと今更ながら気づく。
「でわでわっ!私を弟子と言う事でーーー」
「断る」
「ならッ!ここここ恋人ならどうでしゅかっ?」
顔を赤らめてしなを作る女盗賊。
恥ずかしいならすんな。
「ちんちくりんに欲情はしない」
「むむむっ!ならお嫁さんならどうですかっ!私、料理も洗濯も出来ないですがご飯はたくさん食べたいですっ!甘い物も大好きですっ!」
ちんちくりんが胸を張ってふんぞり返っている。
開き直ったようだ。
「デメリットしかねーじゃねーか。それに然りげ無くランク上げるんじゃない。あと変な願望混ぜるな。贅沢したいならなんか金持ちの妾にでもなれよ。世の中には、ちんちくりんに欲情する奇特なヤツもいるかもだしな」
ミカラはもう相手するのも馬鹿らしいとばかりに、スタスタとダンジョンの奥へと進んで行く。
「あっ!師匠ーーー!待ってくださいーー!」
「あへ?おかしいですね師匠。魔物もトラップも全然出てこないんですけど・・・」
「誰が師匠だやめろ。・・・ そりゃぁ、安全なルートを選んでるからな。よく見てみろ。あっちの通路、妙に綺麗だろ?死んだ冒険者の残骸やら血痕やらを掃除するスカベンジャー系の魔物がいるはずだ。つまり、致死系のトラップや強力な魔物がいる確率が高い」
「へぇ〜〜〜」
スノウがキョロキョロしていると、先程あったような安全地帯らしき場所を見つける。
魔物避けの植物らしき枝と根に覆われた、小屋くらいのスペースだ。
「あ!師匠師匠っ!ちょっと休憩しましょうよっ!」
ミカラはその声に半眼になって応える。
「あそこの安全地帯っぽい空間、魔物避けの植物に擬態した食人植物の蔦がびっしり生えてる。本当に少しの休憩ならともかく、一眠りしたらそのままあの世行きだ」
「はぇ〜〜〜師匠物知りですねーーー尊敬しますっ!大好きっ!」
「近寄るんじゃねぇ」
背後から音も気配も無く飛びかかろうとしてきたスノウの顔面を、ミカラは後ろ手に掴んでアイアンクローする。
「あぐぐっ師匠の愛が痛いーーーっ!」
ミカラの長年の冒険者としての知識や経験。
そして他者の才能を見抜くという観察眼の副産物的な目端の効き。
あらゆるダンジョンを攻略できる訳ではないが、こんな初心者向けの迷宮ならば足手まといが居ても問題は無い。
だがミカラとて命は惜しい。
スノウが本当に足手まといなら置いて来た。
いや、置いていくつもりで進んできたつもりだった。
(・・・こいつ、俺の歩いた場所を正確に歩いて来たな・・・)
スノウは狙ってなのか、なんなのか・・・ミカラの歩く場所を正確になぞってきた。
そこはミカラが見抜いた罠の無い安全なルート。
罠も魔物も現れない、針に糸を通すような細い道筋。
(実は罠を見抜いていた?役立たずのふりをしていた?―――て感じじゃねぇな)
ミカラに置いていかれないように、必死についてきたのだろう。
(ふむ・・・)
弟子などとる気など毛程も無いが・・・ このスノウという盗賊の少女に少し興味が湧いた。
おあつらえ向きに宝箱を見つける。
「おい、試しに開けてみろ」
「え?わ、わかりましたっ!じゃあ開けたら師匠に弟子入り―――」
師匠師匠と鬱陶しい。
「ダメだ」
「あぅぅ〜じゃ、じゃぁせめてお名前を教えてくださいよ〜〜」
そういや名前教えてなかった。
教えたくねーーー。
「わかったよ」
仕方なくミカラが頷くと・・・
「やったー!見ててくださいねっ!私の腕をっ!」
「いいからはよせい」
ミカラが生暖かく見守るなか、スノウは解錠道具を取り出し、鍵穴にガチャガチャと突っ込む。
「うーん、これはなかなか手強い相手ですな・・・」
額に汗をかきながらスノウは頑張る。
宝箱は開かない。
ミカラは暇潰しに手持ちのナイフなどの手入れを始める。
そうしてしばらくして・・・
ガチャリッ
宝箱の鍵が開いた音がした。
「師匠っ!どうですどうですどうですっ?」
「ああ、いいんでない?」
「やったっ!何が入ってるかなーーー・・・あれ?」
宝箱は空だった。
「まぁよくある事だな」
「そ、そんな〜〜〜」
「魔物やトラップじゃないだけマシだろ」
涙目になっているスノウにミカラが名乗る。
「俺はミカラ。弟子の募集はしていない」
「ミカラ師匠っ!これからもよろしくお願いしますっ!」
人懐っこく可愛らしい笑顔を浮かべるスノウを、ミカラは冷淡な眼差しで見つめる。
(こいつに盗賊の才能は―――無い)
「ここがダンジョンの奥なんです?」
2人はダンジョンの最下層へと到達した。
罠や魔物には遭遇していない。
順調であった。
ここまでは。
「多分な。ギルドの情報によれば、この階層に辿り着き、この扉に入ったパーティーで・・・帰還した者はいない」
2人の眼前には大きな扉が1つ。
明らかにこれだけがこの迷宮で異質だった。
「ひえええっ!怖いです師匠ーーーむぎゅっ!」
震えながら抱きついてくるスノウの顔面を、ミカラが掴んでベリッと剥がす。
「少し待ってろ」
ミカラは扉の鍵穴に指を入れ、『探知』の魔術で鍵穴の構造を解析。
(思ったより単純だな)
風の魔術で空気の塊を鍵穴の形に固定し、回す。
ガチャン
難無く解錠する。
「えぇぇぇぇぇぇっっっ!ゆびっ!ゆびだけで開けたぁぁ〜っ!?うそっ!なんでっ!どどどどどうやってーーー!?ずるいーーーっ!」
「うるせーな。入るぞ」
ミカラは混乱してるスノウを置いて部屋の中へと入る。
てこてことスノウもついてくる。
そして―――
バタァァァン!
「え?扉がーーー」
「閉まったな」
2人は部屋に閉じ込められた。
「どうすんですかっ!?どうすんですかっ?」
「うっせーよ。落ち着け。周りを見てみろ」
「えええ・・・あれ?なんか壁に書いてある?」
古代語で書いてあるが、そう難しいものではない。
「読めるか?」
「あ、はい。えぇと・・・『男と女が』『まぐわい』『すれば』『開く』ですって!良かった〜〜〜読めたぁ〜・・・えああー!?」
「性交すれば扉が開く部屋、か」
スノウを見やると、彼女は己の身体を抱きしめ身震いしている。
「ああっ!師匠っ!師匠に女を教わるんですね・・・ うぅ、こんな迷宮の中でなんて・・・」
熱っぽい視線でこちらを見つめてくるスノウを、ミカラが冷たい眼差しで見据えている。
そしてそのままスノウに近づき・・・
「師匠。私はいつでもいいですよ・・・あべしっ」
トロンとした目つきのスノウの頭をポカリとはたく。
「あ痛ぁ〜何するんです?」
ミカラはスタスタ歩くと壁をあちこち触り始める。
「壁は違うか・・・そこら辺見てみろ」
「?死体ですね?」
植物の根が絡まり、干乾びた死体。
恐らくは男女だろう。
絡まったまま干からびている。
これは未帰還の冒険者たちの成れの果て。
「性交して扉が開くトラップなんかあるかバカ。催淫効果のある煙が微かに出てる。一度交わったら最後、死ぬまで交わり続ける事になるぜ」
「えぇ〜そうなんです?うぅ、師匠が凄くいい男に見えます。抱いてくだみぎゃっ!」
スノウの額にデコピンをしたミカラが床板を1枚剥がす。
そこには異様に太い根があった。
「見つけた」
その木の根を掴む。
『筋力強化』で引っ張り上げる。
「『炎』よ」
魔術を唱える。
セリンのようなド派手な範囲攻撃ではない。
あれでは威力があり過ぎて、この密閉空間ではミカラもスノウも焼け死ぬか、酸素が燃え尽きて窒息死する。
(細く伸びろ。根の先、根のすべてへ届くように―――)
イメージは蛇。
ミカラの握った木の根の内部から熱線を走らせ、全体へと火を放った。
ゴゴゴゴゴッ!
「ふぇはっ!?地震っ!?」
スノウがあわあわ慌てだす。
「お出ましだ」
床板を貫き、巨大な根の塊が現れる。
バキバキと乾いた音を立てながら蠢動するそれは・・・
「ダンジョンボスだな。やるぞ」
巨大な根の塊であった。
それを見て泣き叫ぶスノウ。
「ええーっ!無理ですよぉぉっ!」
(催淫効果のある煙を吸った男女が欲望の赴くまま絡み合い、行為に夢中になってるうちに木の根が絡まり、養分を吸い取り殺す)
「悪いが似たようなタイプの罠はさんざん経験済みなんでね。それに・・・」
ミカラがナイフをくるくると回し、パシリと構えて決め顔で言い放つ。
「ダンジョン潜る前に娼館でスッキリした俺の身体は、ちんちくりんには欲情しねぇっ!」
「あーーー!師匠不潔ーーー!それとなんか私の悪口言ったよね?泣くよ?泣いちゃうよ?」
わあわあ騒ぐスノウを放置しミカラは、らしくも無く前衛に立つ。
(こうなるのは仕方無ぇ。スノウは前衛向きじゃねぇ、後衛にも向いてねぇ。さらには中衛にも力不足・・・パーティー組める素質はゼロなんだ)
「最後のトラップを看破したらダンジョンボスのお出ましか。いい趣味してやがるぜ、ここ作ったヤツはよぉ」
ミカラは火の魔術を操る。
威力は高く、範囲は狭く、魔力消費は少なく。
「『炎蛇』」
炎の蛇が鞭のようにしなり、木の根に突き刺さり内部から焼き尽くす。
木の根の塊は本体に飛び火するのを恐れてか、燃える根を千切って分離していく。
ミカラへと伸びてくる木の根は、ナイフに纏わせた炎の剣で切り払う。
それを繰り返すうちに、木の根の塊がどんどん小さくなっていく。
「はっはーっ!ダンジョンで干乾びてた木の根はよく燃えるぜーっ!」
さらにミカラは、ここで広範囲に向けて炎を放つ。
細く絞っていた火炎を広げただけなので実は見かけだけで威力は低い。
しかし、火を嫌がったダンジョンボスが根を駆使して防御する。
その分、本体の塊はさらに体積を減らしていく。
(そろそろいいか)
ミカラが―――
「あわあわあわ」
慌てふためくスノウに叫ぶ。
「スノウッ!!!」
初めて名前を呼ばれてスノウがびっくりする。
「師匠?」
ミカラの真剣な眼差しを受けて、スノウはむしろ落ち着く・・・というか、キョトンとした顔をする。
そのスノウに向かい、ミカラが言い放つ。
「殺れ」
「あ、はい」
スノウはそう言われ、足音も立てずにスイスイと進む。
ミカラが派手に暴れていたため、ボスはスノウに気づいていない。
気づいていても脅威と感じていないのだろう。
それが、明暗を分けた。
(えぇと、ここかな?)
スノウは大分小さくなった木の根の塊の一点に、なんとなくナイフを突き刺した。
「えい」
ギャギャギャギャギャギャギャギャッ!
「うわあっ!」
木の根がベキボキとへし折れながらのた打ち回る。
そして、動きを止める。
「ありゃりゃ?」
ダンジョンボスを倒したスノウ本人は、不思議そうに小首をかしげている。
一撃死。
即死攻撃。
やはりか。
「スノウ、お前さんの才能は・・・暗殺だ」
「暗殺?・・・えーたまたまですよぉ?師匠がいっぱい火を点けたからじゃないんですか?」
「気配を殺すのは何処で覚えた?」
「いやその、目立つの嫌いで・・・影を薄くして生きてきた―――くらいですかね?」
「適性とか見てもらわんかったんか?」
「見てもらいましたよ?したら盗賊職が良いだろうって」
「はぁ、まぁそれは仕方無いか」
暗殺者は職業として認知されては居るが、やはり忌避感はある。
未来ある少女に示すような道標ではない。
そもそも適性検査など、デカイ神殿で高い金払って
マジックアイテムを使ったりしないとハッキリしない。
ギルド職員の面接程度なら・・・ちんちくりん、身軽、よし、盗賊!
てな具合だろう。
ミカラはスノウに探るような視線を送る。
「で、どうだった?ダンジョンボスを倒してみて」
「いえ?別に・・・これと言った感慨は特に何も」
スノウはまた小首を傾げる。
癖なのだろうか。
(やはりか。戦闘の興奮も、大物を仕留めた達成感も無い。あくまでニュートラル。正常のままいられるという異常性)
生粋の暗殺者だ。
才能の原石。
殺しの天才。
その才女が、ウキウキしながらミカラに迫ってくる。
「あのあのやっぱり!私たちって〜すっごくすぅっごく相性の良いコンビだと思うんですぅ〜。もう、運命の2人って言うかぁ〜。絶対に切れない糸で結ばれてるって言うか〜」
鼻にかかったような甘ったるい声を出しながらスノウがしなだれかかってくる。
催淫効果の煙はもうとっくに散ってるはずなんだが。
「いやいや、より無しになったわ。暗殺者なんかと組む気は無ぇよ」
サポート職と暗殺者のコンビて、なんの裏組織の鉄砲玉だよ。
ごめんだよ。
「ブーブー!師匠のケチンボ〜!」
可愛らしくブーイングする少女を、暗殺者に堕とす気は、ミカラには無い。
なんとなくスノウから視線を外してしまう。
その視線の先には・・・
「お、宝箱だ」
瓦礫の中から、なんだか不自然なくらいに立派でキラキラ光っとる宝箱が出てきた。
スノウはその綺羅びやかさに目が曇ったのか、鼻息荒く駆け出していく。
「わーい!これ!ダンジョン最奥のレジェンド級アイテムってヤツですよねっ!私たちが最初のーーー」
「あ、バカ―――」
パクリッ!
「みぎゃあああああああっ!」
宝箱は擬態型の魔物だった。
「ボス倒してこれ見よがしに出現してくる宝箱なんて罠に決まってんだろうが・・・はぁ」
ミカラは、宝箱から下半身を出してジタバタ暴れてるスノウを助けてやる。
「・・・ きゅぅ・・・」
スノウは命に別状は無いようだが気絶していた。
ところで・・・種類にもよるが、口が身体の大半を占める魔物は、口と胃袋が直結している場合が多い。
この宝箱モンスターもその類のようだった。
「あーあ。ひでー有り様」
消化液でやや溶かされた衣服から露出する素肌。
ボロボロの布地からは、以外にもちんちくりんな割に豊満で立派なものがはみ出ている。
粘液でぬめぬめした状態も妙な艶かしさがある。
だが・・・
「うぇ〜〜、ばっちぃなぁ。それに臭ぇ・・・触りたくねぇなぁ〜・・・運ぶの?俺が?」
ミカラはあられもない姿になったスノウの足を掴むと、ズルズルと引きずりながら部屋の中を移動する。
「お、あったあった」
見つけた。
壁の一部が扉になっており、その先には地上へと続く階段があった。
無い場合もあるが、迷宮を踏破すると出口へショートカット出来る手段があったりもする。
ミカラはそれを登り(さすがに階段はお姫様抱っこでスノウを運んだ)無事地上へ脱出すると、迷宮の入口付近にある宿屋のひとつへ入る。
ミカラが泊まっていた宿だ。
宿の親爺が、粘液塗れでボロボロの衣服のスノウを見て嫌そうにする。
ベッドが汚れるからだろう。
「いや、俺はこんなんなった女抱く趣味は無ぇぞ」
部屋に戻って、ミカラがそう独りごちる。
(後でチップでも渡しとくか)
粘液女をベッドへと寝かす。
すると・・・
「・・・うぅん、師匠・・・」
「ん?」
スノウの手が自分の服の端を掴んでいる事に気づく。
「・・・ひとりはいや・・・おいてかないで・・・」
狸寝入り・・・ではなく、うわ言のようだ。
「すてないで・・・パパ・・・ママ・・・」
涙を流してうわ言を呟くスノウ。
「ちっ・・・ 」
ミカラが舌打ちする。
同情は危険だ。
身を滅ぼす。
冒険者をやる人間には色々な人間がいる。
一攫千金の夢を追い求める者。
刺激が欲しい者。
強さを求める者。
そして、行き場が無くて仕方なく危険な冒険者となる者。
「・・・暗殺者向きのヘボい盗賊・・・か。もっと普通の才能がありゃ良かったのにな」
明るくて魅力的な少女ではあった。
普通に結婚して家庭でも持てば、その才能を開花する事も無く一生を終えたかも知れない。
「才能は選べない、か」
ミカラはスノウの頭を撫でてやる。
そうすると安心したのか、安らかに寝息を立て始める。
ミカラはそっとスノウの指を自分の衣服から外す。
そして冒険者ギルドに赴き、迷宮の脱出ルート確保の依頼の報酬を受け取り・・・そのまま町を出発した。
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