第3話 女僧侶ピオニー
「女神様・・・俺は何か悪い事をしたのだろうか?」
ここは女神信仰の強い町だ。
魔術師と教会はそこまで険悪ではないのだが、魔術師ギルドの情報網に引っかからないようにするには、無難な選択だった。
そしてミカラは町に入ってすぐに、1番近くにあった女神の教会に行き、礼拝堂にて祈りを捧げていた。
礼拝堂にはミカラ以外にも何人か近所のジジババが居て祈りを捧げている・・・ように見えておしゃべりしたり居眠りしたりしてる。
暇なご老人たちの溜り場のようである。
「女神様は貴方の罪を許し、貴方を正しい道へと導くでしょう」
ミカラの独白を聞いていたのか、一般的な女僧侶が厳かに呟く。
神官クラスの人物は見当たらない。
町の中央には大きな神殿があるので、高位の聖職者や敬虔な信徒はそちらに向かうのだろう。
ここはどうやら末端と言うか、出張所的なものらしい。
建物もあちこち老朽化しているし。
「俺は悪くない。あの女どもが悪い」
目を瞑り祈りを捧げながら俺がさらに呟く。
女僧侶はピクリと肩を震わすが、重ねてなんか有り難いお言葉をくださる。
「・・・女神様は、万人の罪を許し、あまねく等しく導きを与えてくださいます。・・・悪の本質とは罪を犯す事でなくその心の持ちようであり、女神様は・・・」
女僧侶が少し顔を引きつらせている。
それに気づかないミカラの脳裏に、直近で関わってしまったヤベー女たちや、トラウマ級のヤバイ女どもが思い浮かぶ。
ついつい口から本音が飛び出す。
「女なんてろくなもんじゃねぇ。ちょっと優しくしたらつけあがって恋人面するしよーーー」
バキッ!
「――――女神様は、罪を許すために罰を与える事もあります」
女僧侶が立っていた説教台の端が砕けた。
握り潰したらしい。
凄い握力だね。
アレを握られたら終わりだね。
ミカラのアレがヒュンっとなる。
「女神様の与える罰とは、断罪ではなく楽園へと至るための試練です」
明確にこちらに敵意を向けながら微笑む女僧侶。
「あ、はい。そっスね。それじゃ」
ミカラは白けた顔で礼拝堂を後にする。
別に喧嘩を売りに来た訳ではない。
あくまで気分転換だ。
「はぁ、厄払い厄払い」
ミカラは教会の裏に周る。
そこで孤児たちと一緒に洗濯物を干していたマザーに、先日手に入れた大量の金貨のほとんどをどさりと手渡した。
穏やかな笑顔を浮かべていたマザーがぎょっとする。
ミカラを睨み殺すように目で追っていた女僧侶もびっくりしている。
てゆーか説法どうした?
建物の陰から見てんじゃねーよ。
怖ぇよ。
(・・・念の為、だ。金貨に『追跡』の魔術が付与されてっかも知れねぇしな)
1枚1枚『鑑定』魔術をしたり、どっかの商会でマネーロンダリングするのも面倒臭い。
「!!!あああっ!ありがとうございますっ!しょっ、少々お待ちくださいっ!今、上の者をお呼び致しますのでっ!」
マザーは慌てて誰かを呼びに行こうとするが、ミカラは適当に手をひらひらさせてそれを遮る。
「いいよー別にー」
金ならまた稼げばいい。
厄も落としてスッキリ爽快だ。
そこに・・・
「ちょーーーっと待ってくださいっ!」
横滑りしながらさっきの女僧侶が眼前へと回り込んで来た。
「何かお礼をさせて欲しいですっ!あ!私ピオニーって言いますっ!」
「えあ?いや自己紹介とかされてもな。だからさ―――」
ミカラの話をピオニーは聞いてない。
好き勝手に喋りだす。
「この教会で働いてます!ここの教会の孤児院で育ちました!貴方の寄付で、私の後輩たちがたくさん助かります!食費に修繕代に教育費に・・・本当にありがとうございます!ほらっ!あんた達もお礼っ!」
ペコリと頭を下げるピオニーが呼びかけると、よくわかってない子供たちがわらわらと集まってくる。
(うわ、なんか居づらっ・・・つーか、ガキは金より―――)
ミカラは腰の鞄から保存期間の長い菓子類を取り出す。
非常用の携行食糧である。
町のケーキ屋で売ってる物とは比べるべくもない代物だが、ここの子供たちには十分な甘味だろう。
カロリー重視のため腹持ちも良く、とにかく甘い。
「うわー!やったー!おじさんありがとーーー!」
(おじさん・・・)
ミカラが少しショックを受ける。
「あ!こらっ!食べる前に手を洗うーーーっ!」
ピオニーの叫びも虚しく、ミカラが渡した菓子を食べながら走って行くガキンチョども。
それにしてもこの女僧侶・・・
(でっけぇな)
胸がデカい。
尻もデカい。
背丈もデカい。
小柄な女性ばかりのこの辺りの地域では大女の部類だろう。
僧侶用の服は合っておらずにパッツンパッツンだ。
そのビッグサイズ女僧侶ピオニーが、軽くパニックになりながら叫んでくる。
「ああああっあのあの!子供たちにお菓子までっ!これはなんとお礼を言っていいかっ!」
さっきから叫んでると思ったが、これは地声なのか?
声もデカいのか。
「だからいいってば」
ミカラは面倒臭そうに言うと、その場を立ち去った。
「昼間からお酒なんていけませんっ!」
「えぇ〜マジでぇ〜お前なんなん?」
ミカラは町の冒険者ギルドに立ち寄り安酒と料理を注文したのだが、何故かついてきたピオニーがそこに口を挟んできた。
「昼間からお酒を飲むなんて駄目人間になりますよ?」
「おいやめれ」
周囲の視線が痛い。
ギルドが営む酒場なのだ。
今も酒を楽しんでるお仲間がこっちを鬱陶しそうに見てる。
冒険者でもない僧侶を連れて入る場所ではないからだ。
居心地が悪い。
酒を飲む気分ではなくなった。
「わかったよ。じゃあな」
「あ!待ってくださいってば!お礼をーーー」
ミカラはピオニーを無視して、そのまま近くの娼館に逃げ込む。
冒険者ギルド、酒場、娼館。
だいたいこれらは近い場所にある。
客層が被るからだ。
「え!?嘘でしょっ!?まさか昼間っから娼館に行く事ある!?」
ピオニーがびっくりして固まって動けなくなってるうちに、ミカラは娼館の支配人に話をつける。
営業時間外でもなんとかなるものだ。
金次第で。
「失礼ですが・・・当館は女性の、しかも聖職者の方の立ち入りはご遠慮願っております」
館から出てきた屈強な黒服たちが、ピオニーの前に立ち塞がる。
「悪いな」
ミカラは金貨を1枚ずつ黒服たちに投げ渡すと娼館の扉を閉めた。
黒服たちはポケットに金貨を仕舞うと、ピオニーがどんなにわめいても微動だにしなかった。
さすがプロ。
そして、娼館の娼婦たちもプロだった。
女で嫌な目に遭ったら女で解消する。
基本だぜ。
「嘘だろ」
ミカラが気分良く娼館から出て来ると、店の真正面の路地裏で膝を抱えて座り込む女僧侶が居た。
目が合った。
最悪だ。
酔いも余韻も吹き飛んだ。
「あ、待ってましたよ!」
「おま・・・ずっと居たんかい」
「いえ?一度昼食作りに教会に戻りましたよ」
「そう言う問題じゃねぇんだよなぁ」
ミカラは頭を抱える。
ピオニーがはっしとミカラの肩を掴む。
「待たされてる間、貴方へのお礼をどうするか、ずぅっっっと悩んでいましたが・・・決めました!」
「いや、マジいいから。遠慮とかじゃなくて迷惑なん―――」
ピオニーは目をキラキラさせながら天に向かって叫ぶ。
「私が更生させてあげますっ!昼間からお酒に女遊びっ!本来なら唾棄すべき人間のクズ!ですが貴方には、女神様への信仰心という唯一の救いがありますっ!ですから私が誠心誠意を込めて貴方を正しい道へと導きますっ!」
「なんでやねん」
寄付金のお礼で更生を促されるとか意味不明過ぎる。
さすがのミカラにも我慢の限界が来る。
「はぁ。そこまで言うなら・・・お前さんの身体で払ってもらおうかい。昼間っからもう、いい加減うんざりしてたんだ。酒は駄目、女も駄目。お前は俺のオカンか女房か?挙げ句に真人間にするとか何様だ?・・・ようし。寄付に見返りなんて求めてねーのにそこまでお礼お礼言うんならよぉ。身体を張って俺に報いてくれよなぁぁぁ?」
ミカラは座った目でピオニーの肩に腕を回す。
突然の展開にピオニーがしどろもどろになる。
「え?いや、それは・・・その、私は貴方の生活改善を――――」
「うるせぇ黙れ」
「は、はい・・・」
観念したのかピオニーが己の身体を掻き抱く。
腕で隠し切れずに潰された胸が、逆にエロす。
「あの、私、初めてでして・・・なるべく優しく」
「それはお前さん次第だな」
ミカラは強引に女僧侶を連れて行く。
「女神よ・・・私の純潔は散らされても、私の信仰は揺るぎません・・・」
「どうかな?ハマって夢中になって、信仰なんざ二の次になっちまったヤツは何人も知ってるぜ?」
「うぅ、あ、悪魔ですぅ・・・」
「悪魔じゃねーし。ミカラだ。まぁ一晩だけの付き合いだからな、覚えなくてもいいぜ?」
「うぅ〜ヤリ捨てられるぅ〜」
涙目で赤面するピオニーをミカラは自分の泊まっている宿屋へと連れ込んだ。
正確には、2階以上が宿屋、1階が冒険者ギルド兼酒場となってる建物に―――
「えぇと・・・ここは?」
「だから、身体張って働いてもらうって言っただろう」
深夜の森の中。
人っ子一人いない。
こんな場所には誰も来ないだろう。
二人っきりだ。
「ま、まさか、野外プレイと言うものです?うぅ、女神よ、神聖な人の営みを獣のように致す事にお許しを・・・さ、最初はせめて清潔なベッドが良かったなぁ・・・ミカラは変態さんでした・・・」
ピオニーは、ミカラに地べたに組み伏せられ、泥に塗れながら乱暴に扱われる己を想像した。
そして・・・
(・・・ちょっと・・・いいかも)
興奮した。
その怪しい気配を察して、ミカラが背筋を凍らし一歩後退る。
「おい、いい加減にしろよピオニー。クエストの説明もちゃんと聞いてたかお前?」
冒険者ギルドにて、魔物の討伐の依頼を受けた。
ここは古戦場跡地。
そこに夜な夜な出現するアンデッドの討伐依頼だ。
僧侶が居るならうってつけである。
「アンデッド討伐はすこぶる面倒だかんな。ピオニーがいんなら楽勝だろ」
「え?私、戦った事無いんですけど・・・」
ピオニーが不安そうにしている。
確かに聖職者は、人格やら経済面で役職が上がってる場合も多く、実戦で使えるヤツかの判別はし難い。
しかし!
ミカラの観察眼はピオニーの才能を見抜いていた。
(この女、強ぇぞ)
娼館には細身なのにバインバインのたゆんたゆんもたくさんいるが、基本的に胸や尻がでかいと言うのは、体格が良い・・・つまり、胸周り腰回りの筋肉が発達している。
ピオニーは背丈もミカラと同じくらいで肩幅もしっかりしている。
孤児院育ちで力仕事も多いのだろう。
顔は可愛らしいのだが、かなり肉体派だ。
(孤児院のさもしい食事でよう育ったもんだな)
そうこうしてるうちに、何処からともなくアンデッドの群れが現れる。
異臭を放ち、ボロボロの衣服を纏いながらふらふらと近づいてくる。
「ア、アンデッド!ああっ!女神様っ!我らをお守りくださいっ!」
ピオニーが両手を組んで女神に祈りを捧げる。
しかし、何も起こらない。
「おいおい、戦えよ。なんで祈ってるんだよ?」
「『祈祷』や『魔祓い』の魔術なんて私使えませんよぅっ!」
ピオニーが涙目でこちらを振り返る。
「じゃぁ無駄な事すんな」
ミカラはわかっていた。
ピオニーに魔術の才能はあまり無い。
頑張れば初歩のものなら使えそうだが、アンデッドを強制的に浄化するような魔術は習得できまい。
「自分でも本当はわかってるだろう?お前さんの才能は、祈りによる奇跡なんかじゃねぇ。お前さんに必要なモノは・・・コレだっ!ピオニーッ!」
ミカラはクエスト受諾後に町の武器屋で購入したある物をピオニーに放り投げる。
彼女はそれを受け取り困惑する。
「こっ、これは―――」
ミカラがピオニーに投げ渡した物は・・・モーニングスター。
持ち手から鎖が伸びており、棘付きの鉄球に繋がっている。
爽やかで可愛らしい名前に似つかわしくない、殺傷力の高い鈍器である。
「でも、私は暴力は・・・」
ピオニーは暴力が嫌いであった。
孤児院の中でも喧嘩などしたことなかった。
むしろ、喧嘩してる仲間たちを仲裁する側であった。
しかし何故か、仲裁した自分が怒られた。
ピオニーは誰よりも働き者で・・・力持ちだった。
仲裁するピオニーを殴ろうとした拳は受け止めたら砕け、ピオニーを蹴り飛ばしたはずの足はボキリと折れた。
フィジカルの化け物。
しかし、その才能をピオニー自身は疎んじた。
より女神様への祈りの時間が増えた。
心を穏やかに保ち、少々の事で怒ったりしなくなった。
(わっ・・・わたしが戦う?暴力を振るうの?でも・・・女神様の教えにそんな事は書いて・・・)
「しのごの言ってる場合かっ!コイツらだって好きでアンデッドになった訳じゃねぇ!迷える魂を救うのがお前さんの役目だろっ!できねぇ事に固執して
現世を彷徨わせるのが女神様の信徒なのかっ!?ピオニーっ!」
「――――――っ!!!」
女僧侶ピオニーの中で、何かが音を立てて壊れた。
(そっか。いいんだーーー思いっきり戦って、いいんだっ!)
「えいっ!」
なんとも可愛らしい掛け声とともに振るわれるモーニングスターが、アンデッドを数体まとめてぶっ飛ばす。
元々腐って脆くなっていた肉体が景気良く爆砕する。
(思った通りだ。ピオニーには暴力の才能がある。恵まれた肉体から生み出される圧倒的な暴力。それを信仰心で抑えつけていたんだな。なんて勿体無い)
ミカラは人心を操る術も修めていたが、今は別に暗示などかけてはいない。
むしろ逆に、暗示を解いたのだ。
ピオニー自身が封印していた、暴力を。
暴力に酔いしれる快感を。
ピオニーは得たのだ。
暴力を振るって良い免罪符を。
もう、止まらない。
「あははははっ!あはっ!あはははははっ!」
アンデッドを物理的に浄化してるピオニーは、まるで初めて外の世界を知ったようにはしゃいでいる。
踊るように舞い、次々とアンデッドを屠っていく。
これで彼女は自由を得たのだ。
魂の解放。
「フッ。またガラにもない事をしちまったな。だが、おもしれーもんも見れたし、昼間の迷惑行為はチャラにしてやんよ」
本来持つ埋もれていた才能を開花させたのだ。
この瞬間だけは、美味い酒や女を抱くよりも強い快感を味わえる。
(まぁ多用は禁物だけど)
ミカラの助言やサポート技能で生来以上の成果を叩き出せた者が、己の力だと過信して破滅したり、ミカラを独占しようとしたりなどの過去のトラブルは、ミカラ・デタサービにとっての黒歴史だ。
「あははっ!私のこれが、これこそが―――」
そしてこの女僧侶には、ミカラの教えは天啓にも等しかった。
孤児院でのピオニーの同期に、1人の少女が居た。
小さい頃から悪戯ばかりであったが、いつ頃からか治癒や浄化の神聖魔術を覚えて重宝されるようになる。
その娘は周囲から認められて自信をつけ、立派な神官となり大きな都市へと呼ばれていった。
しかし、ピオニーにはあまりそういった才能が無かった。
小さい頃からと同じように、肉体労働で奉仕するしかなかった。
(女神様のために、孤児院のために、もっと人の役に立ちたかった。でもどうしていいかわからなかった。そんな自分に――――)
あの人は道を示してくれた。
「ミカラ・・・私の導き手・・・運命の人・・・」
ミカラはこちらを向いて微笑んでいる。
彼はきっと、悩め彷徨える私のために女神様が遣わした使徒なのかも知れない。
(よしよし、いいね〜。楽して高収入ゲットだぜ!)
ミカラはアンデッド討伐の報酬を考えてほくほくしていた。
そんな男の心の裡など知る由もなく、解き放たれた少女は感謝と喜びを全身で表現する。
恵まれた肉体より放たれる暴力。
暴力。
アンデッドたちはピオニーが振るうモーニングスターで粉々にされていく。
「これが、私の信仰・・・」
アンデッドたちからも気のせいか感謝の念が聞こえてくるようだ。
ありがとう。
ありがとう。
わたしたちを浄化してくれてありがとう。
ピオニーには確かにそう聞こえた。
(伝説の聖女様のように、祈りだけで浄化させてあげたかったけど・・・そんなのは関係無い。気にしなくていいんだ!)
結論、成仏昇天できれば、祈りでもトゲ付きの鉄球でも変わらないのだ。
すべてが終わる頃、丁度朝日が昇ってきた。
陽の光がアンデッドの残骸を塵へと変えていく。
ここは古戦場。
(すべてのアンデッドを浄化したとは思えないが、アンデッドの大量発生はしばらくあるまい)
クエストクリアだ。
ミカラが、朝日に照らされながら祈りを捧げているピオニーに近づいていく。
「・・・私は目覚めました」
「良かったな。それじゃ、ギルドに戻って報酬貰ったら解散だな」
ミカラの当然の言葉に、ピオニーが重ねてくる。
「待ってください。私も・・・ミカラの旅に連れていってください」
「駄目だピオニー。俺は女神様を信仰してねぇ。昨日のは気まぐれだ。だからパーティーは組めない」
少し嘘を混ぜた。
信仰が違ってもパーティーは組める。
トラブルの種にはなるが、違反でもなんでもない。
あくまで本人たち次第。
「まぁ、そうなのですね!でも大丈夫です!」
覚醒した女僧侶には、男のつまらない打算など通じない。
「え?」
ミカラの胸に嫌な予感が去来する。
「話せば解り合えます」
ピオニーがモーニングスターをぶんぶん振り回す。
「ミカラは私の世界を広げてくれました」
「そ、そうか、そりゃ良かったぜ」
「どうか、このお礼を」
「要らんっ!またこの流れかよっ!この依頼で寄付の件はチャラだってば!お前と俺の関係はこれっきり!」
ミカラは学んだ。
曖昧な態度はやはり良くない。
キッパリ拒絶する。
ピオニーは涙を流して己の身体を抱きしめる。
「うぅっ・・・私に、この身体を使って奉仕する悦びを教え込んだのはミカラでしょう?私を見捨てるのですか?」
顔が上気し、熱い吐息を吐く。
きっと、アンデッドを思うさまに破壊した暴力の余韻を思い出して興奮しているのだろう。
「やりたきゃ1人でやれって・・・ギルドにはもう登録した。こんだけの実績ありゃ誰とでも組めるだろ?」
「私はミカラがいい。貴方しかいないの。貴方は、私を解放し、導いてくれた私の使徒様・・・」
ピオニーの目には、信仰とはまた違った狂気が宿っている。
(やべぇ。逃げ切れるか?)
相手はフィジカルモンスター。
ミカラのすべてのスキルを使っても逃げ切れるかどうか―――
どさりっ・・・
「ん?」
ピオニーが倒れた。
「ああ、そういやそうだな」
恐らく生まれて初めて、全力で暴れたのだろう。
スタミナ温存などの後先考え無しで。
それは倒れる。
「ああ、楽しかっ・・・ぐ〜すぴぃ〜」
ピオニーは幸せそうに寝息を立て始める。
「・・・ ・」
ミカラの判断は早かった。
『筋力強化』で一時的にパワーアップしピオニーを抱えるとギルドへ帰還。
報酬を受け取ると、全額を教会へと寄付。
恐縮しきりのマザーに・・・
「俺は東に向かうつもりだ。もし俺と共に歩みたいなら追いかけてこい」
そう伝言を残して、ミカラは西へと旅立った。
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