第12話 フィーア

 パチッパチッと音を立てて暖炉の火がはじけて、火の粉が舞い散り、やがて消えていく。その火の粉を見つめる女の子が一人。

「キレー。ねぇお父さん、どうして火は燃えてるの?」

「んーとね、フィーは魔法があるのは教えたよね」

「うん!女神様が私たちを助けるために力をくれたんだよね」

「そう。でも、竜のように最初から魔法が使える動物たちがいるんだよ。そういう子たちがこの火をつけてくれるんだ」

「そうなんだー」と目を輝かせて再び暖炉の火を見つめる。

 そしてその飛んでいるのが、小さな妖精であると教えてもらう。

 粉が散る事によって妖精が火から出ていく事で、やがて火は消えてしまうと。でも実際には暖炉の火には妖精はいなくて、木が燃焼作用によって燃えてるだけだとのちに知る。

 しばらく見つめていてやがて火は小さくなっていく。ひと際大きな音を立てる。

 その音に驚き、フィーアは目を覚ます。

 カーテンから差し込む光はまだ弱く、朝日がまだ登り切っていない事がわかる。

 今からもう一度寝る事もはばかられるので起きて制服に着替える。

 四人部屋で自分以外は上級生。午前授業があるわけではないから、決まった時間に起きてくる事は無く、皆好きな時間に起きてくる。

 そんな彼女たちを起こさないように行動するのも、年上と一緒の部屋なのも少しばかり気が張る。

 皆いい人だし、魔法についていろいろ教えてくれもするが、やはり気軽に話せる人がいないのは負担になる。

 着替えを終え、朝食を済ませて、寮を出る。

「はぁ……」

 思わずため息が出てしまう。魔法が難しいものだとは思っていたけれど、これほどできないものなのかと。

 自分が好きな火ですら、第二の課題に苦戦するとは思わなかった。他の属性に関しては第一課題すらまともにできていない。水はまだましだが、土、木、雷は全くと言っていいほど出来なかった。土を固めるのも中心がちょっとだけ丸まるくらいだし、木では芽が出るイメージすら湧かない。雷に関しては絶望的。実物は見たこともあるし、手本を見せても貰ったけど、あれが一体どういうものなのかも全然想像つかない。

 三ツ星サルグになるには五年が平均だと言われていて、セレーネが二年。自分もそれくらいとは言わないまでも、三年ほどで行きたいとは思っていた。

 まだ授業が始まって一週間しか経ってないが、魔法授業は一日に一種類。個人での魔法練習するのも三ツ星になってからじゃないとできない。

 それでも見学は出来るので、朝から練習してる人見て参考にさせてもらう。

 この前の決闘の時見た火の鳥とは違い、様々な動物をモチーフにしていた。

 猫、犬、キツネ……その他いろいろ。自分もいつかあれくらいできる様になりたい……。いや、なるんだ。

 まだ何のモチーフにするか決めていないけれど。

 操っているキツネが走り、速度が出たところで低くジャンプすると、飛んだところを起点に火の筋が出来上がり、くるくると円を描いて回る。二回三回と回ると竜巻が出来上がり、天井近くまで上がる。

(すごいなー……三ツ星になれば、あれくらい当たり前にできるのだろうか)

 見学を朝の一般授業が始まるまでぎりぎりまで見つめる。あっという間に時間は過ぎ、授業が始まる。


「おふぁよー」

 欠伸を噛み殺しながらクロフトが挨拶をしてくる。

「おはよー。あんた勉強はしてるの?」

「ん?これからするじゃん」

「授業の話じゃなくて、終わった後とか、休みの日にって事!」

「いや、してないけど……」

 さも当然という風に返されて、呆れる。大きなため息を付いた後、「そんなんじゃ、試験合格できないわよ」と軽く注意する。

「ええっ!??試験なんてあるの!?」

「あんたっ……はぁ……何のために先生が教えてくれてると思ってるの……。文字も計算もここ出た後もちゃんとできるようにでしょう!」

 呆れ半分と怒り半分とでもう訳が分からなくなる。

「で、リードはちゃんとやってるの?」

「僕は……まぁやってるよ?」

 目を反らしながら答えるリードに二人そろって何もしてないのかと。

 リードは入る前少しは出来ていたからいいけれど、クロに関してはもっと頑張らないとちゃんと卒業できないかもしれない。

「次の週末はちゃんとやりなさいよ」

「えぇ……」

「文句言わない!」

「はい……」

 そう会話してると、授業が始まる。本を読んでいればわかるような簡単な内容。子供に教えるよな初歩的なものここに来るまでにちゃんと教育を受けれてなかった人向けだが、そんな内容でもクロフトにとっては難しい様で、今にも頭から煙が出そうな程うなっていた。

 一方のリードは入る前から勉強はしていたというだけあって、ちゃんと内容は理解できてるようだった。

 これなら試験は大丈夫そうだろう。クロには勉強を教えてあげないといけなさそうだけど、魔法の練習もできないし、ちょうどいいだろう。


 さてそんな魔法の授業は自分は蝋燭を二本同時につけるというもの。それだけ聞けば難しくなさそうだが、実際にやってみるとかなり難しい。魔法を使うには集中しないと出せないし、その集中を分散しないといけない。

 右の蝋燭を見る。そして左を見る。右が付き、その後遅れて左が付く。やっぱり同時にはまだまだ時間はかかりそうだ。

 火を消して、チラッとクロフトの方を盗み見る。彼も第一の課題である火を膨らませるので躓いているようだ。

 ふぅと息を吐きもう一度集中しようとして、後ろからの「あ~だめだ~」という声に邪魔される。

「ちょっとは静かにやりなさいよ」

「だって、全然できる気がしないだもん」

「だからちょっとずつ大きくなるイメージすればいいって言ってるじゃない」

「それでも難しいんだよ……もうちょっと具体的なのないの?」

「はああぁ……」思わず大きなため息が出てしまう。別に敵同士というわけでは無いけれど、五ツ星ヴェルテを目指して競いあってるいるのに、こう何度もアドバイスをするのは。

「頼むよ……」

 頭を下げられ、必死なお願いについアドバイスしてしまった。

「仕様が無いわね……。あれよ、暖炉とかの火をつけてもすぐには温かくないでしょう?それで火を大きくするために風を送るでしょう?そうすると風を送ってる間は大きく、なくなれば小さくなるでしょ?それと同じようにすればいいじゃない?」

「ごめん、うちに暖炉は無いだ……。炉の熱であっためてたから……」

「じゃあそれでもいいわよ。それも風で火付くでしょう?そういう感じ」

「なるほど……。やってみるよ。ありがとうフィー」

 そういってクロフトは手をかざして、息を吐いて風を送るみたいに口をとがらせる。

 その様子が可笑しくて、思わず笑いそうになる。

 いつまでも見てないで自分の課題に集中しなきゃ。

 蝋燭をにらみつける。右、左。見てすぐに火はつくけれど同時にはつかない。

 自分も最初の時みたいに手をかざしてみる。

 それでもやっぱりできなくて、その後も何回もやっては失敗して、授業は終わった。

 またできなかったと少し落ち込む。まだまだ二回目ではあるけれど、それでも自分ならできる気がしていた。でもできなかった。

 うつむきがちに寮に入る。

「んーどうしたの?悩み事かい?もしかして恋とか?」

「えぇっ!?ち、違いますよ!そ、そんなんじゃありません。別に好きな人なんていません」そうは言いつつも目が泳いでしまう。

 それを聞いて「ふーん」といった後、疑いの目を向けてくる。

「じゃあどうしたの~暗い顔しちゃって」

「ちょっと魔法がなかなかうまくならなくて……」

「慣れだよ慣れ。そう焦っちゃダメだよー」

 前と同じ答えが返ってくる。やってればそのうちよくなる。とも教えて貰った。

 でも、明確な答えが欲しい。こうすればいい。こうやればできるという答えが。

「そうなんですけど、得意な属性なのにそれすらも全然で、二つ目の課題すらどうしていいのか……」

「二つ目って何だっけ?」

「蝋燭二つに同時に火をつけるやつです」

「あー、あれねー私も苦手だったなー。まぁ私は水が得意ってのもあったんだろうけどね」

「じゃあどうやったんですか!?」

「こうやって」

 両手の平を上に向けてすぐにポッと火がともる。

「こら、寮で火は使っちゃダメでしょ」

「はーい……」

 すかさずもう一人の人に注意され、火を消していく。

「まぁ、要するに手を動かすときに何か考えて動かさないでしょ?それと同じで魔法も考えなくても出来たらすぐにできるよ」

「なるほどっ!ありがとうございます!」

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