第11話 魔族
クロフト達が週末での休みを楽しんでいる中、学園の在学生・卒業生による南の森の魔族捜索及び討伐部隊が編制されていた。
本来であれば、学園周辺の地域に魔物など存在するはずがない。定期的に見回りが行われて、魔族の居る兆候などがあればその日のうちに対処し、日が沈もうとも見つかるまでは捜索、対処をする。
それゆえ、今回なんの兆候もなく魔族が現れ、荷馬車を襲うという異常事態が発生した。幸い小型ゆえ、兵士により対処は出来たものの、中型以上であれば被害はもっと甚大であっただろう。
魔族とは光を嫌い、闇に生き、その邪悪な力により中型以上は普通の武器は通用しない。魔法による攻撃でなければ倒す事は出来ない。
編制された部隊の中には当然セレーネの姿があった。部隊人数はセレーネ含め12人。在学生4人、卒業生6人、教師2人からなる。
「それでは今から出発する!発見した魔族は小型だが、そのほかにもいないとは限らない。気を引き締めて行動するように!」
「「「はい!!」」」
全員が一斉に返事をし、学園の門から出ていく。早朝より出発し、朝のうちに森に入ったのにも関わらず、奥に行くにつれ徐々に暗くなっていく。森の街道をを進み丁度中間地点についたあたりで、二人一組での行動をし、手分けして捜索する事になった。見上げる空は薄暗く曇っていてさっきまでの晴れていたのが嘘の様だ。
「い、行きましょうか」とやや緊張した面持ちで
一方のセレーネは「ええ、そうね」と冷めた態度で返事するだけであった。
そうして、歩きだしたセレーネの後を追いかける。
「セレーネさんはこういうの慣れてるんですか?」
「そうね。初めてじゃないわ」
「怖いとかは無いんですか?」
「平気よ。……それよりも、喋ってないでちゃんと探していただけますか」
「す、すみません……」と返事した声はか細く今にも消えてしまいそうだった。
何も痕跡がなくただただ時間だけが過ぎ、もうすぐお昼になろうという頃合いに北の方で悲鳴にも似た声が響いてくる。
「く、くるな!!!」
いきなり襲われた事によて完全にパニックになっている。
火の柵を自分の周りに張り、回りにいるものを一切近づけないようにしている。
「お、落ち着け!」学園の先輩が落ち着かせようとするも、火の手が強すぎて近寄る事が出来ない。
あたりは暗くなっており、燃えてるところの数メートルしか見渡しがきかない。
そんな中でも構わず攻撃はされていく。
「ぐっ……、くそっ」
素早く動く敵に翻弄され、爪のひっかきにより服もボロボロになっていく。
「はあっ!」
地面に手を付き、森の根に魔力を流していく。木の根が伸びて二人を囲い完全に外と中を遮断していく。
敵が来ないと分かった事で、火の魔法を止め、しりもちをつく。
いくら学園で決闘をし、戦闘の経験を積んでいると言えど、いざ実戦になると緊張感が違う。
根の檻の中に入ってこちらも攻撃できないので、相手は一方的に攻撃を仕掛けてくる。上に乗ったり、何度も同じ場所に攻撃してりと。
「ど、どうしたらいいんだ……」
先ほどパニックになっていた在学生が赤い宝石の付いた杖を握り占めながら、動揺を隠しきれないでいる。
「まずはこの中で落ち着いて、対処策を考えよう」
卒業生である彼も、実戦をした経験がないのだろう。学園を出たからと言って、皆が皆魔族と戦闘するとは限らない。
学園の最たる目的は魔族に対抗しうる人材を生み出すことであるが、木の魔法をメインにしてる人はそのほとんどが戦闘よりも薬学に進む。
それにより、火の彼が攻撃役をするはずだったのだが、経験が浅すぎた。
もちろん学園で選別をしてから派遣をしているが、それでもイレギュラーは存在する。
「まず、上にいるやつを落として、中に入れる。それで一匹ずつ倒していこう」
そう提案するも、自信なさげに「わ、わかった」と震える声で返事をする。
座っている状態から立ち上がり、杖を檻の中心に構えて火の玉を作りだす。
「三で開ける。準備は良いか?」
静かにうなずき、生唾を飲み込む。
「一……、二……、三っ」
あけ放った天井からは何も落ちてこず、代わりに眩いほどの光が檻の中を照らしだしていた。
「そのまま!」
悲鳴が聞こえた方へとセレーネは走っていく。
その後を一歩遅れて男子生徒が追いかける。
何もかもを後手に回って、男である自分がリードする事が出来ず、ふがいなくなってくる。
走り続けていくうちに、空がだんだんと暗くなっていき、森の奥の方に小さな光が見える。
日中でなら見える事が出来ないほどの小さい光。今が昼間であるのに、空は覆われ、夜と言っても過言ではないほどの暗さがある。
近づくにつれ、その光の中心に一人の生徒がいるのが見える。そして、その周りにぼんやりと三体の小さな影が囲んでいた。
「あなた、あそこの周りを照らせる?」
ふいに聞かれて、「え、ええと……」とあいまいな返答をしてしまう。
「どっち?」
どっちつかずの返事にいら立ち、ついセレーネの語気が強くなってしまう。
「で、できます!」
そうは言ったものの、距離がまだ遠い。
「それならいい。回りは私がやるから、あなたは回りを照らしてて」
私がやる。という事は、自分は必要ないと言われてるのと一緒である。
「じ、自分も手伝います!」
「いい。邪魔になるから」
噂の通り、周りを一切受け付けない。最年少で
それが今セレーネと男子学生の力の差である。
「わかりました……」
落ち込んでしたを向いていると、ふっと目の前の明かりが消える。
まさかやられてしまったのかと思い、先ほど光っていた方へ急いで目を向ける。
心配とはよそに、ただ身を守るために木の根を回りから生やしているのが見えて安堵する。
だが、セレーネは安心するよりも不満気だった。
薄くでも敵の姿が見えていた状態から、一切の視界が消えたことで狙う事が出来なくなったからである。
走り続け、ようやく魔法を当てれそうなところへ来たところで、「照らして」とぶっきら棒に言われる。
「はい」
素直に答え先ほど光っていたあたりの上空に大きな火の玉が出来上がり、昼の光ほどとは言えないが辺りが明るくなる。
立ち止まったセレーネが、左手を前にかざしてから数秒と立たず氷のつららが出来上がり、檻の上に居た影に向かって飛んでいく。
つららが貫き、そのまま向こう側に飛んでいくのを見て、よしっと思ったときに少し気が緩み、火の玉が少し小さくなってしまう。
「そのまま!」
照らしてとは続かずにまたつららを作り、今度は下に居たやつを突きさす。
後一体……。檻によって見えなくなっていたやつ。二体目と同様に壊そうしていたのであれば、反対側にいるはずだが……。
男子学生もただ火の玉を作っているだけじゃなく、残りの魔族がどこにいるのかを目で探していた。
その時ふいに上からガサっと音がしたかと思うと、いきなり右肩に痛みが走る。
「ぐあっ……」
痛みに悶え、火の玉が消えそうになるも「やめないで!」というセレーネの声により、何とか消さずにいた。
だが、最初よりも半分の大きさしかなく、見通しが悪くなる。
木の上ではあちこちからガサガサと音はすれど、どこに居るのかが分からない。
音のなる方へ目を動かし、また来るかを男子学生が警戒してるが、セレーネは顔を巡らせる事なく、ただじっと立っていた。
右手を胸の前に持って行ってしばらく、木々の葉が白く色づいていく。
そうして葉だけでなく、枝をも凍り付かせると、飛び回っていた影が「ギエっ」と声を上げて足を滑らせたのか、地面に落ちていく。
そうなる事を予想していたのか、受け身を取る前につららで突き刺し、倒していく。
安全になった事を確認してから、檻に近づき、「もう大丈夫です」と声をかけていく。
中から出てきた二人に話しを聞き、それから周辺の捜索をしたが、まるで異変というものが見当たらなかった。
通常魔族がいた場所はマナが乱れているはずだが、先ほどの戦闘していた場所以外にはそういった兆候が見られなかった。
結局その森をほとんどすべて見回したが、何も分からずに調査は終わりを迎える事になった。
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