第10話 週末

 ジミーとの邂逅から一日が経ち、魔法の授業は木をすることに。木は言わずもがな鉢植えと一つの種を渡され、それを成長させるものだった。以前リードが言ってたものと一緒の内容だった。

 昔は校舎の裏手に設けてある畑で一人一人作物を育てて、魔法の感覚を掴むようにしていたそうだが、時間がかかることからなくなったという。

 教師が手本を見せることで理解をさせる。

 少しずつ成長していく植物を見てなんとなくはわかるが、いざやってみると全然出来ないものだ。

 リートは試験の時に出来ていたので、今回も難なくこなしていた。

 フィーが火の魔法の時やっていたように別の課題に移っている。

 当の自分と言えば、これっぽっちもできる感じがしなかった。日常的に見たり、触ったりしている火や水は比較的にできるが、そうではないものに関してはからっきしダメだ。

 三ツ星サルグになるのには何年かかるだろうと一抹の不安を抱えながらその日が終わった。

 そしてさらに一日。魔法授業はいよいよ最難関の雷になった。

 難しいというゆえんは他と違い、目にする機会すらほとんどないからである。目にしてないだけで身の回りでは頻繁に発生してるという。それは冬場に金属に触れた時パチと音が鳴った際に指先から微弱な雷が発生していた。それは魔法関係なく人の身体にたまっているのが出てるらしい。

 だからと言って、できるかというのはまた別の話。

 指と指を向かい合わせにして、その間に雷を発生させる。得意属性の人は肩幅くらいの距離に指を離していてもちゃんと一瞬の閃光が走っていた。それを維持するのが次の課題である。

 得意ではない人は自分含めできる人はほとんどいなかった。


 ようやく待ちに待った休日になる。朝、いつもの時間にリードに起こされていたが、今日は授業がないことから口うるさく言われる事は無かった。

 そのまま二度寝をして、起きたのは昼少し手前だった。

 寮の中にある食堂に行っても当然もうご飯は無く、昼になるまでお預け。

「んー……何しよう……」

 軽く伸びをしてからこの後どうするかを悩む。

(リードは畑に居て、フィーはどこにいるかわからない。ほかに喋れる人もいない)

 とりあえず、目的もなく寮を出て歩きだす。適当に歩いていたら、癖づいてしまったのか、一般棟に居た。授業は無いので、静かだった。

 建物を見ていると、これが二階建てである事に気づき、何があるのか気になって入ってみることにした。

 この学園に悪さをする人はいないので鍵がかかっている事は無く、普通に入れた。二階に上がると、個別の部屋があるわけじゃなく、階全体を使った大部屋だった。

 その部屋は杖を作るための場所で、壁際にいろんな長さの杖が並べられていた。

「いらっしゃい!杖作るのかい?……あ、新入生か」

「すみません。二階に何があるか気になって、来てしまいました」

「まだ作れないだろうけど、ゆっくり見ていきな」

 気さくな店主に甘え、中を見せてもらう事に。見るのはいいが、正直言って何が何だかわからない。杖以外にもいろいろな石やドラゴンの素材が並んでいた。

 その中で、窓際に置かれている赤と黒の石を見つける。特別綺麗なわけではないそれになぜだか目を引かれ、手に取る。光にかざしてみると、赤い部分はキラキラと光り輝く。

「それ気になるかい?」

「はい。何かなと思いまして」

「それは溶岩石ようがんせきだね」

「溶岩石?溶岩で出来てるんですか?」

「そうだね。長い間マナがあたった溶岩が固まっていき、石になったものだ。火の魔法を強化してくれる。でもそれ結構高いから、お金があればおすすめだよ」

 高いと言われて、そっと元あった場所に戻す。

 店主に軽く笑われて、少し恥ずかしくなる。でもそれを買える人は多くないと言われ、ほっとする。

 そのほかにもいろいろ見て回ってるうちに昼を告げる鐘が鳴る。

「もう昼か。自分はご飯食べてくるから、まだ見てるならゆっくりしていきな」

 そう言い残し、店主は出て行ってしまった。

 自分はどうしようかと思いながら、すぐに行ってもリードは畑の片づけやら服についた土を払ったりして、遅くなるだろうからとまた店の中を見て回る。

 こんどは杖を手に持つ。まずは長い杖を手に取り、掲げたり、前に突き出したりして、わくわくする。続いて、短い杖。木の枝と見間違うほど細く頼りなさ気な杖。

 それも掲げたり、前に出したりする。でもやっぱり、大きい方がしっくりくる感じがして、杖を置く。

 まだ時間があるだろうから、また並べれある石を見る。赤・黄・青・土・緑……緑?最初の四種は理解できるが、最後のだけなぜ緑色なのだろう。木という事で植物の色がその石に表れているのだろうか。

 そのどれもに値段がなく、杖一本にどれだけかかるか怖くなる。あれこれ見ていると、ぐぅーとお腹の音が鳴り、そろそろ自分も昼を食べようかと寮に戻る。

 寮に戻ると、そこにはもうリードの姿があった。

「どっか行ってたのかい?」

「一般棟の上に。あそこに杖作れるところがあって、すごいいろんなものがあったんだ。知ってた?」

「うん。ここ来た時に案内してもらってるからね」

「なんだ……」

 なんだか一人で盛り上がってるみたいじゃないか。知ってるなら最初から教えてくれれば授業終わりにでも……は疲れて行かないが、一週間のやる気が変わったのに。

「この後も畑いじりするの?」

「うん、そのつもり。あそこ使ってる人が多くないみたいで、結構広い場所使わせてもらえてるんだ。一人でやるには大変で、まだ半分も終わってないよ」

「そうなんだ。大変そうだね。ところで、フィーはどこにいるか知ってる?」

「それなら、一般棟の地下にある図書室じゃないかな」

「ちか!?」

 上だけじゃなく下にもそんな施設が。地図でここの全体は見たけど、細かいところまでは全然あの教師は教えてくれなかった。他にもまだ知らない事がありそうだ。

「それで、クロフトにも手伝ってもらえないかと思ってたんだけど、どうかな?」

「んー……。畑かー」

 正直ほかにやる事があるわけじゃないが、作業が終わってないという事は、耕すところからだろう。畑仕事の中で一番大変な作業だ。

「やっぱりだめだよね。一人でやるから好きなところ行ってきなよ」

「いや、行く!やる事もないし、フィーのところ行っても相手にしてもらえないだろうし」

 昼を食べ終え、リードと一緒に畑に向かう。昔に生徒全員に植物育てさせてただけあって、面積が広い。校舎の三分の一くらいの幅に奥行きは校舎と同じくらいか、やや短いくらいの長さがある。

 何故これほどの広さを一人でやろうとしたのか。今からする作業の多さに頭が痛くなってくる。

「はい、これ」

 そういって鍬を渡される。少しずつ耕していき、日が傾く前に何とか全部終わらせる事が出来た。

「よし、おわったー」

「まだ終わってないよ。種植えしてないじゃない」

「明日でいいじゃん。もう疲れたよ」

「早く植えた分早く育つんだから」

 たった数時間だけでそこまで変わるかと言いたいけど、有無を言わさず進めるリードにより、その後も手伝う事になった。

 種植えも終わり、いよいよこれで最後だとバケツを渡され、水やりをする事に。

 手で水をすくい、植えたところにちまちまかけていく。

「これを全部にするの?」

「あたり前じゃないか」

「時間かかるし、手間が多すぎない?ほかの人はどうしてるの?」

「先輩たちは魔法で雨みたいに降らせてたけど、自分はまだそんな事できないし、地道にやるしか……」

「それだよ!」

 リードが「え?」といい。どれの事だという顔を向けてくる。

「だから、雨みたいにするんだよ!バケツに小さい穴をあけてさ」

「でもそれだと持ってくる間に水なくなっちゃわない?」

「そうか……」と一瞬諦めたような雰囲気になるが、はっとひらめいたように「じゃあ小さいバケツ作って、それに穴開けて流せば雨を降らせられるじゃないか」

 いうのとほぼ同時に駆けだし、どこかへ行ってしまう。

 その間もリードは地道に水やりをし続け、一畝ひとうねの半分を終えていた。全部で三つあるので、一バケツ半分の作業である。

 そうして一つ半終わったころにようやくクロフトがかえって来て、作ったバケツを見せてくる。

「昔から思ってたけど、そう言うのよく作れるね」

「まぁ、昔父さんが作ってたの見てたし、もの作るのは好きだからね」

 作った小バケツはクロフトが使い、リードはそのまま手でやる作業をしていく。当然作業速度はクロフトの方が早く済み、日が沈む前に全部の作業が終わった。

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