第9話 商会
「おーい、それはそっちだ」
晴れ渡った空の元、指示を飛ばす男の声が響く。
「こっちは終わりました。何かしましょうか?」
「いや、いい。こっちもそろそろ終わる。出発できるようにしてくれ」
そうして作業は続き、昼前までかかり、いよいよ出発の時が来た。
10台の荷馬車がぞろぞろと街道を進んでいき、その両脇に護衛の兵士達が6人ほど付いている。順調に進んでいたかと思われたが、森に入る手前から空が徐々に曇りはじめ、やがて雨が降り注いだ。
「天気を読み間違えたか。降るはずじゃなかったんだが……」
雨が降った事であたりはすっかり暗くなり、視界も悪くなる。
「気ぃ付けろよ!」
先頭に居た馬車から声がかかる。
それに伴い並走していた兵士が警戒し始める。
森を半分ほど進んだところで、後ろから「あ゛あ゛あ゛」と短い悲鳴が聞こえてくる。
「何事だ!」
兵士の一人が焦ったように聞くも、「わからない」と返ってくる。
「盗賊か?」
「違う。弓の音は聞こえなかった」
そうこう話しているうちにまた小さく悲鳴が聞こえる。
「確認急げ!」
「はい!」
兵士が二人後方に行く。最後尾に居た馬車はいなくなっており、9台目の馬車は
「何があった?」
「わからねぇ。いきなり何かがとびかかってきた。それだけしかわからない」
何かというあいまいな返答。その何かが一番重要なのに。
「ぐっ!」
殺気に近いものを感じすぐに盾を構えると、腕に重たい衝撃を受ける。衝撃は一瞬だけだった。何とか馬から落ちる事は無かったが、御者の言うように何かがぶつかったとしか言えないものだった。
盾を見ると、ひっかいたような三本線が残っていた。
剣を抜き取り、戦闘態勢を取る。
「戦闘用意!」
危険と判断して、号令をかける。そのすぐ後にそれぞれの地点に居た兵士達の声が聞こえてくる。
不意打ちされた時と違い、今度は盾で受けた後何が来てるのかしっかり見る。
そこに居たのは闇を形どったようなものだった。
午前授業が終わり、次の魔法授業が始まろうとしていたところで、正門の方が騒がしく、大勢の人がいた。
それは学園の人だけじゃなく、外部の人も多くいた。
人だけでなく、馬車が並んでいて、生徒と数名と外部の人達が積み荷を降ろす作業をしていた。
商人の代表と思わしき人と、学園の人が共に歩いていく。その代表の少し後ろに子供が一人ついていっていた。
噴水の近くまでその3人が来たところで、子供が立ち止まる。
「あれー?お前本当に入れたんだな」
やや背があるその子供はある一人に向けて言い放っていた。
「ジミー、なんでお前がここにいるんだ……」
見下される様に言ったジミーに対いて、おびえたような、警戒しているような態度でクロフトは返答する。
「なんでって?そりゃ、パパの仕事の付き添いに決まってるだろう」
付き添いという事はさっき居た小太りでいかにも金持ちそうなのがジミーの父親という事だろう。
「こら!ジミー!何してる。早く来なさい」
父親に呼ばれ、仕方無くその場を後にした。
お互いにらみ合いっていた。
部屋に入って椅子についたところで、ようやく話しをする。
「ずいぶん馬車が傷ついておられましたが、何があったのですか」
「実は、襲われまして……」
「野盗ですか?」
「いえ、それが、黒い影のようなものだったと聞いてます」
「影……。魔族ですか……」
小太りの商人は静かにうなずく。
「昼間ですよ。しかもあのあたりは最近いなかったはずです」
「それが急に雨が降り、あたりも暗くなったと」
昼間の襲撃だけでもおかしい事なのに、急な雨も。
「幸い低級だったので、兵士によって撃退したと。でも馬車を3台も失ってしまった」
「魔法使いの人達が見逃したんじゃないですか」
「こら!なんてことを言うんだ」
今まで黙っていたジミーが口出しをした。
「だってそうでしょう?この街の近くの森で起きた事ですから」
パーンと高い音を立ててジミーの頬が叩かれる。
「大事な取引様に失礼な事を言うんじゃない!」怒りをあらわにした顔で叱った後、「すみません。まだ子供なもので……」と謝罪を入れる。
「いえ、起きになさらず」
「それでこちらが納品したものになります」
リストを手渡す。それを受け取り、上から順に見ていき、渋い顔をする。
「魔法関係が狙われている……」
不信に思いながらも、その場はそれで納得しお金を渡していく。
「それではこれで。次回もクラヴィアス商会をよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
お互いに握手をして商人は部屋を出る。
扉が完全に締まった事を確認してから、息子を奥の壁に追いやり「良いか、あの魔法使いどもは人を疑う事を知らん連中だ!多少吹っ掛けても金を積んでくれるんだ!お前の一言で取引がなくなったらどうするつもりだ!」声を潜めながらも怒気を含め言い放つ。
「すみません……」
「もっと考えてから発言をしろ。ところでお前と一緒に居た取り巻き達はどうした」
「試験終わった後にそれぞれ家の事をすると言って去っていきました」
「まずはそいつらを手なずけろ。それで人を掌握する方法を身につけろ」そういい息子の腕をつかみ進む方向へとつき放つ。
怒られたジミーはうつむきながら帰路につく。
ジミーとのにらみ合いが終わった後、魔法の授業が始まったクロフトは全く集中する事が出来ずにいた。
土の授業をしていたのだが、これがまた魔法操作の要求が高く、目の前に置かれた土くれをブロックにする。この物質にマナを流すのはマナから火や水を作るのとはまた違った難しさがある。
物質にマナを流すのは杖を作るときにとても重要になるのだそう。
土くれの両方に手をかざして固まる様にやるも、中心地点だけ少し形造るだけで終わった。
それ以降もしっかりとしたものは出来ず、授業は終わりを迎える。
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