第6話 魔法授業
昼ごはんを食べおえ、ようやく待ちに待った魔法授業が始まる。午前の疲れが吹き飛ぶようだ。
一般教育棟を出て火魔法棟へと入る。その中はかなり広く、一般授業をしていた教室の二倍の広さがあった。
そのすべてが石造りで出来ていて、火を使うのに適している事がわかる。
ただ、椅子までもが石なのは少し嫌だ。
「はーい、授業始めますよ」
わかめの女の先生が声を上げ、皆を静かにさせる。雰囲気も見た目も優しそうな先生で少し安堵する。
「今日は火の基礎魔法を教えます。火が得意な人にお手本を見せてもらいたいので、こちらに来ていただけますか」
「はいっ!」
フィーが自ら進んで先生のところへ行く。本当にこういう事に関しては真面目だなと感心する。
「試験でもやってもらいましたが、この蝋燭に火をつけてください」
言われるままに火をつけていく。さも当たり前という感じで付いたその火に関心する。自分とは、全然比べものにならない位早く正確な魔法。
「さすが、お上手。ではこのくらいの大きさまで膨らましてください」
先生が手で大きさを作る。大体、先生と同じくらいの横幅。
膨らませるなんて試験の時にはしてなかった。ただ大きくしてとは言われたけど。
そんな事、意にも介さない様子で、フィーが両手を前に出して火をつける時よりも集中した顔をする。
蝋燭に灯った火が少しずつ大きくなり、ちょうど同じ幅になったところで止まった。
「ふぅ……」
だいぶ集中していたフィーは息を吐き、腕を下す。
ぱちぱちと先生が拍手をして「素晴らしい」と満面の笑みを浮かべる。
「皆さんもこれくらいできると火の大部分はできるようになります。さぁ、頑張っていきましょー」
みんなに蝋燭が配られ、各々魔法を使っていく。昨日気になっていた眼の模様が気になって回りの人を見てしまう。
フィーが魔法を使っていた時にはわずかに赤色に光っていた。隣に居たリードは茶色だった。
得意な属性によって色が違うのはなかなかに面白い。自分は昨日見そびれたから何色なんだろう。やっぱり赤色なのかな。
「はい集中してください」
いつの間にか目の前に来ていた先生に注意され、蝋燭に意識を向ける。
まず目を瞑り、蝋燭に灯る火をイメージする。ゆっくり目を開け蝋燭に火をつけていく。ここまでは試験と同じなので簡単にできた。
回りは「うわっ」とか「やばっ」という声が聞こえてくる。
さて、問題はここからだ。火を膨らませて大きくする作業……。試験の時に大きくしすぎて、怒られ危うく入学まで見送りになるところだった。
そう思うと急に怖くなり、魔法を中断してしまう。
「うわあ、あちち……」
後ろの方でボンと音と共に蝋燭が燃え盛っていた。幸い人との距離があるために人に危害が加わる事は無かったけれど、それでもやっぱり怖いものは怖い。
その失敗した彼は目を見る限り、雷の属性のようだった。
参考にしようとフィーを見てみると、自分達とは別の課題をしていた。目の前に蝋燭が三本。
「うーん、難しい……」
そして、何やら悩んでいるご様子で。
そのままどんな内容なのかと見続けていると、左の蝋燭が付いた後間隔をあけて右の蝋燭が付いた。
「また駄目だ」
またも失敗だったみたいだ。何をするのかわからないけれど、大変そうだ。お手本の時にはあんなに簡単そうにやってのけていたのに。
「ブレイワース君。魔法が止まってますよ」
「す、すみません」
二度目の注意を受けてしまう。せっかく楽しみにしていたのに、ビビッてても仕方無い。
パンと自分のほほを叩いて、気合を入れる。
もう一度蝋燭に火をつけて、それから火に意識を集中させる。
(大きく……少しずつ大きく……)
モッと音が出て、自分の視界全部が火に覆われる。
「わぁっ!」
とっさに手で顔を覆い魔法を中断する。
(あれ……熱くない?)
今確かに、自分の顔まで火が燃えていたような気がしたけれど、気のせいだったのだろうか。
「皆さん苦戦してますね。少しずつ少しずつ大きくなるようにしてみてください。膨らますのはその後でも大丈夫ですから」
そうは言うものの、少し大きくするのだって結構大変なのだ。
リードはどんな様子かと隣を伺うと、蝋燭の火はゆらゆらと動き、大きくなろうとしてる事がわかる。
がんばれと念を込めて見つめていると、ボッと急に大きくなり、「はあぁー」とため息を付き天を仰いでしまった。
「難しいよね」
「うん……全然できる感じがしない。木の試験はいい感じだったんだけどね」
「そうなの?どんな試験だったの?」
「鉢植えと種一つ貰って、その種咲かせる試験」
それもそれで難しそうな試験だ。得意属性とそうじゃないのでは難しさはそこまで違うのか。
自分は何が得意なのかもわからないのに。そうなるとなんで自分がここに入れたのかと不思議に思わなくもない。
そうこうしてる間に、リードがまた蝋燭に火をつけ膨らませる事に挑戦していく。
(負けてられない。自分も頑張ろう)
蝋燭を見つめ、火をつける。ここまではもう目を瞑る事なくできるようになってきた。
小さい火を大きくする事に集中する。リードと同じく、揺らめいて変化が起きそうな雰囲気になる。右に左に大きく揺れる。
その火を見つめてうなっていると、三回ほど左右に揺れた後また急激な大きさになる。今度は顔までは来る事は無かったけれど、それでも思うような大きさにはなかなかならない。
「だめだー……全然うまくいかない」
うなだれて、頭を抱えてため息が出る。
「ねぇフィー、君はどうやったの?」
「んーちょっと待って、今集中してるから……」
後ろから声をかけたけれど、今は話しかけるなという雰囲気が漂っている。
あれは絶対眉間にしわ寄せて、すごい顔になっているのがわかる。こうなったら終わるまで待つしかない。もしまた話しかけでもしたら、怒られるのは間違いない。
待ってる間にもフィーの課題を見ている事にする。そうしてみてることちょっと後、今度は全部の蝋燭に火が一斉につく。
「っはー。駄目……」
息を吐きだし、こちらを振り返り、少し不機嫌そうな顔を向けてくる。
「で、何?」
「いやー、あの火を膨らませるのってどうやるのかなーって……」
その顔に気圧されてタジタジになってしまう。
「どうといわれても、私は最初からできたし、何か教えてあげられるような事は無いかな……」
「さ、最初から!?」
「そうよ。最初っから。火を大きくしてって言われたけれど、どれくらいの大きさにして良いかわからなかったから、だんだん大きくしていけばいいかなーとやってただけだし……」
まさかそんな返答されるとは思わず、空いた口が塞がらなくなる。
なんという才能だ。ほかの火の人達ですら小刻みに大きくするのが精いっぱいだというのに。フィー以外にあの三つの蝋燭のやつをやってる人がいない。
「大きさがあいまいになるなら、自分の手でも被せて、その中に納まる様にしたらいいんじゃない?」
「おおっ!それだ!」
教えれないとか言っていた割には、適切な事を言ってくれる。怒っていてもちゃんと優しいのは相変わらずだ。
言われた通りに、蝋燭の少し横に自分の手をかざし、小さな囲いを作る。その大きさに納まるくらいの火をイメージしていく。
すると、ちゃんと自分の手のギリギリまで大きくなった火が出来上がり、先ほどのつまっていたのが嘘のようだ。
「やった!できたよフィー!」
「んーん」
自分の事でいっぱいいっぱいのようで、生返事しか返ってこなかった。
自分も自分の事をしようと、手の幅を少し広くする。またその中に納まる火をイメージするも、今度は失敗して手を通りこして燃え上がる。
「わあっ!」
パッと手を引いてから魔法を止める。
(あれ……やっぱり熱くない……)
顔に来た時とは違い、確かに手に火があたっていた。でも、自分の手には何も感じなかったし、火傷してる様子でもない。
ますます自分が今使ってる魔法というものが何なのか分らなくなってくる。
正直、怖いとも思うし、危険じゃないなら怖がらなくてもいいとも思ってしまう。その両方が自分の中でせめぎあい、どうしていいのか……。
震える両手を握り閉めて、うつむいていると、先生に心配される。
「大丈夫ですか?火傷しました?」
「あ……。大丈夫です……」
こんな事相談もできない。もし自分だけが影響がなくて、回りの人にはふつうに熱さを感じてしまったら、女神の加護の影響が眼に出てしまう。
「焦らず、ゆっくり頑張りましょう」
肩に手を優しく置かれ、微笑みかけらる。
なんと優しい事だろう。一般学のとは大違いだ。あの人も見習ってほしいものだ。
「どお、できた?」
「うん。ちょっとだけね」
フィーもさっきの声で自分の様子を心配してくれたみたいだ。
「そお。ならよかった。でもそんな調子じゃ私が先に
「な、なにをー!」
大した事がないと分かるや否や煽ってくる。
それに感化されて、だんだんとやる気がと湧き上がってくる。
「やってやるぞー!」
その後も何度も挑戦してみたものの、全然できる気がしないまま休憩時間となる。
「リード、調子はどんな感じだ?」
「んー全然ダメだね。大きくする感覚が全然つかめないや。草木なら毎日見てきたからわかるんだけどね……」
小さくため息を付いてうつむく。
初日の授業でここまで難しいとは思ってもいなかった。簡単なのばかりだとは思って無かったけれど、改めて魔法の難しさがわかる。
「そういえばフィーはどんな事してるの?」
「私は、三つの蝋燭の両端を同時に火をつける課題」
あのフィーがてこずっているなら難しいんだろう。
「一個に集中すると、もう一つがおろそかになっちゃうのよね……」
まだやってないからなんとも言えない。この調子なら自分はどれだけかかるんだろか。今から不安で仕方無い。
「はーい、それでは続きやっていきますよ」
話しもそこそこに後半の授業が始まり、一回間が空いた事で火属性の人が何人かコツをつかんだらしく火を膨らませる事が出来ていた。
けれど、それ以降は何も起こらず、授業は終了していった。
「はー……疲れたー」
かなりの集中していたから身体も頭も疲れ切っている。これはまた帰ってすぐに寝るやつだ。
寮に帰ってから、一つだけやりたい事を思いだし、鏡の前に行く。
眼を瞑り、魔法を使う状態になる。
「……。な……」
あまりの衝撃に言葉が出てこない。
そこにはなかったのだ。光が━━。
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