第5話 授業

 フィーと中庭から歩いてリードのところへ向かう途中で「やぁ」と声をかけられる。

 声のした方を見ると、振り分けの時の教師がそこに立っていた。

「そういえば、君に何も説明してなかったので、これから話をしようかと思ったのですが、いいですか?」

 隣に居たフィーを見ると、小さくうなずいて「行ってらっしゃい」といくことを促してくる。

「では、行きましょうか」

 教師に連れられて、先ほど居た一般教育棟へと戻っていく。

 どうせならそっちで待っていてくれたらよかったのにと思う。

「いや、すみません。そちらに行こうと思ってたのですが、外での仕事がなかなか終わらず、終わった時に来たら中庭行くのが見えたので、話終わるまでこちらで待たせてもらいました」

「仕事?なにをしてるんですか?」

「それは言えません。あなたが三ツ星になれば教えれると思います」

 一人前となるのが三ツ星なのだろう。それまではまだまだ未熟という事。早くそこまで行って、父に報告できるようにならなければ。

 あのセレーネですら二年はかかったというし、それほど難しい事がわかる。

「どうやったら、星の数を増やせるのですか?」

「それは、魔法をいかに操れるかで決まります」

 魔法の操作……。試験の時に、蝋燭の火を小さいものから大きくするのもそれの一環か。あの時にやらかしてしまっているのが今でも思い出される。

「では、どこまで操れるようになれば二つ星になれますか」

「その話は、また今度授業があった時にでも聞いてください。今はこの場所についての説明をしますので」

 にこやかに微笑まれ、答えを教えてはくれなかった。今教えてくれてもいいのにと思い、顔をむくれさせる。

「はは。そう怒らないで。普通の授業の事を自分がしゃべるのはいけない事になってるので。まあ、自分は魔法授業は担当してるので、そこであったらなんでも聞いてください」

「魔法授業!いつからですか!」

 ここに来て、試験の時以来魔法というものに触れて無かったので、ようやく魔法を使える事にテンションが上がる。

「普通授業が午前からお昼まで、その後魔法授業ですね。僕が君たちに教えるのはだいぶ後だと思います」

「それはどういう事ですか?」

「それは後ほどわかります。まずは教室についてからで」

 歩きながらの会話はしにくいのか、それとも話をするのが苦手なのか、自分が質問しなければ、先生が何かを喋ってくることはなかった。

「さあ、着きました。どうぞ中へ」

 扉を開けてくれ、案内された教室につくと、授業していたところと造りも備品の数も全く一緒だった。けれど、教卓の上に何やら荷物が置かれていた。

「昨日、急に連れてきてしまいましたから、あなたの荷物は何もなかったでしょう?ですから、あなたの父に頼んで服などいるものを見繕ってもらいました」

 寝巻とかどうしようかと思っていたので、これでリードに借りたものを返せる。ずっと借りているのも申し訳ないと思っていたところだ。

「それはそれとして、皆が受けた説明を今からしようと思います。さぁ、座って」

 なんか今日一日ずっと授業を受けていて疲れているのに、また授業が始まる雰囲気に嫌気がさしてくる。

「大丈夫。そんなに難しい事は言いませんから」

 さわやかな顔つきのまま言われ、なんだか余計に信用ができなくなってくる。

 最初の授業も簡単だと言ってたくせに、あんなに時間がかかるものをしてきたからな。

「立ったまま聞いていたいなら、別にいいですが話長いかもしれませんよ」

 そんなことを言われたら、嫌でも座らないといけない気持ちになる。仕方なしに座ると、すぐに説明が始まる

「まず、この学園は魔法と一般教育の二つあります。一般の方は三年で終わるものになります。それゆえ試験の実施が三年周期で行われます。この学園の主たるものは魔法ですから、そちらに人員を割けないのが原因なのですがね。そして、一般学にも階級的なものがあり、成績に応じて受ける授業のところが変わり、黄が一年次いで緑、青と来て最後に終了したものは赤に。ここまででわからない事ありますか?」

 小さく首を横に振る。確かにまだ難しい事は言われてない。

「じゃあ続きを。私たち加護を受けた者の目に模様があり、これが五つまであり、一は見習い。二が未熟。三が一人前。四が達人。五が星天。となります。ここにいる教師は四ツ星以上の人しかいません。」

「じゃあ先生も四ツ星なのですか」

「それも授業の時にお楽しみに」

 振り分け試験の時にもこの人の目には模様が一切見えない。あの時は加護がないからだと思ったが、どうやら違うみたいだ。この人だけじゃなくここにいる全員見る事が出来ない。自分の目ですら見えない。

「どうやったら人の模様を見る事が出来ますか」

「それも……。まあそれくらいは説明してもいいか。普段自分達が魔法を使わないときは目に模様は現れず、使おうとしたときに光り見る事が出来ます」

「それで誰の目にもなかったわけか……」

 誰かが魔法を使っているところなんて見なかったし、自分も使う機会がなかった。

 寮に戻ったら、鏡の前に立って魔法を使ってみようと思い、今からわくわくしてくる。

「そして、卒業までに三ツ星になれなければ、加護を剥奪はくだつされるので頑張ってください。それで、これがこの学園の地図です。覚えておいてください。道に迷ったら大変ですからね」

 改めてこの学園の大きさに唖然とする。正面玄関の門があり、そこからまっすぐ北に行くとあの噴水付きの中庭があり、その少し後ろが今いる一般棟。そして寮があり、それを囲む形で五個の大きな建物がある。北側から順に火水土雷木がある。一般棟と寮の二つを合わせた大きさよりも二倍くらい大きさがある。

 一個一個は大きいが、ものが解ってしまえば全然迷う事は無い。知っているのと知らないのとでは大きな違いだ。

「説明はこんなところでしょうか。何か聞きたい事は?」

「んー。とりあえずは大丈夫です」

「ではこれで終わります。明日からの授業も頑張ってください」

 授業……。一般学は嫌だけれど、一日丸々それじゃないのが救いだ。しかも魔法も練習できると来ている。

 頑張るしかないじゃないか。

 そうして教室を出たころには、もうすっかりあたりが暗くなりかけていて遠くの方がかすかにオレンジ色になっていた。

 寮に帰ってからは、今日の疲れのせいですぐに眠りに落ち、泥のように眠るのであった。



「……きて。おきて!クロフト!」

 バサッと勢いよく布団がはがされ、まだ春先の朝で冷え込む部屋の空気により、強制的に目を覚めさせられる。

「早く起きないと遅刻するよ!」

 朝からリードの怒った声が耳に痛い。昨日もさんざん怒鳴られながら起こされた。

「んー。後ちょっと……」

 寒さに体を丸めてまだ眠ろうとしているクロフトをリードが腕をつかんで上体を起こさせる。

「早くしないと朝ごはん食べれなくなるよ!」

「うーん……」

 それでもなお眠さに目をこする。

 起きるのが苦手な自分にとってはリードはいなくてはならない。もしほかの人と一緒の部屋だったら、朝起きれていないだろう。

 うつらうつらした意識の中、リードが着替える音がかすかに聞こえてくる。そして、また軽く寝て首がうなだれたころ、バンと背中を叩かれようやく目を覚ます。

「シャキッとして。ほら行くよ」

「はーい……」

 ゆっくりとした動きのまま、制服に着替えて部屋を出る。

 朝ごはんを食べ、教室に入るとフィーがすでに席に座っていた。

「あなた達今日も遅いわね。どうせクロが起きないんでしょう?」

「そうなんだよ。毎朝これだと嫌になるよ。もう明日からは起こさないでおこうかなって考えるよ」

「ま、待ってリード……俺お前がいないと朝起きれない……」

 リードの腕にしがみ付き必死にお願いをする。

「じゃあ、もうちょっと寝起きよくしてくれないか」

「うう……。頑張るよ……」

 涙目になりながら決意を固めていると、教師が入ってきた。

「はい!席について!」

 ぞろぞろと生徒達が席に着いてから授業が開始される。

「今日の授業は歴史についてです。皆さんも知ってるかもしれないが、今一度復習をいたしましょう」

 教科書を開きながら教師が黒板に板書を初めて行く。

「我々が今使っている力。それは女神による加護のものと、この世界にあったマナという力を借りて魔法を発動できるようになりました。それまでは魔族に対抗するすべも、倒す手段もありませんでした。人は竜に頼り支配という形で何とか生き残り、およそ百年が経った頃、女神が人々を助けるために力を授け、今の社会が形成されるようになった」

「はぁ~……」

 永遠としゃべり続ける先生の話に眠気が誘われて、ついつい欠伸が出てしまう。

「女神の力によって独立できた事で魔法を使う人を減らし、良識あるもの以外には加護を与える事は無くなった。それは、人同士で争わず、平和に暮らしてほしいという女神の願いのもと。一時期は人同士で魔法の使用があり、それと同時に魔族の進行によって滅びた国はいくつもあるという」

 こんな長々した話を誰が真面目に聞いてるかと回りを見渡すと、最初から勉強できた組は真面目に聞いて、居残り組だった人らはもう聞く事を諦めて、すっかり寝ていた。

 それはそうだ。初日にあれだけ頭を使えば頭の容量がなくなりもする。

「それで、200年たってからこの学園が設立され、星の階級が付くようになった。一般的には一つ星というが、そのちゃんとした名前を知っているものはいるかね?」

 ずっとしゃべるのかと思われた教師がいきなりの質問をしてくる。

「えー、じゃあ君」

 自分の座っている所から左に二つほど離れたところに座っていた人が当てられた。

「す、すみません。わかりません」

「はい、減点一点」

 急な減点と質問に息がつまる。あてられたのが自分じゃなくて本当によかったと心底安心する。

「じゃあ次は……」

 教師指を動かし、別の人を指名しようとしていた。

「はい!」

 そこにすかさずフィーが手を挙げ、自ら当てられに行く。

「じゃあ君で」

「はい」

 見事に自分に指名が入り、意気揚々と話しだす。

「一がシグルそれからセスト、サルグ、クラド、ヴェルテと続きます」

「完璧です。三点加点です」

 またもや点数付けをする。あれは何があるのだろうか。

「その点数は何ですか?」

 自分が思った事をほかの誰かが質問していく。

「この授業が終わった時にわかります。後、勝手な発言は一点減点です」

「ちょ━━」

 また何か言おうとして、これ以上の減点をされるわけにもいかない事に気づいて、途中で黙る。

 下手なことをしない方がよさそうだ……。

「はい、皆さんも知ってる通り、この学園に居る間に三ツ星サルグまで行かないと加護の剥奪となり、魔法を使う事が出来なくなってしまいます。それは一般人と一つ星シグルでも力の差は計りしれません。力をきちんと使えないものにそのような危険な力を残して置けませんから。もちろん、この学園に居る間にも危険な兆候があればどうなるか知ってますか?はいじゃあ君」

 間髪入れず、振り返りざまに隣に居たリードが当てられて行く。

 本当に生きた心地がしない。この先生は悪魔か何かだ……。初日の授業もきついものだったのに、さらに悪化している。

「はい、魔法により少しでも相手に危害があれば加護を受けた眼の模様が痛みだし、相手に死の恐れがある場合、失明をします。そうして、マナを見る事が出来なくなり、魔法を使えなくなります」

「正解。三点」

 その後も長い話と唐突な質問があり、ようやく歴史学は終了した。

「減点したものはこちらに来るように」

 何やら紙の束を渡されている。

「今日の授業の内容の宿題です。明日提出するように」

 出されたものを渋々受け取りとぼとぼと席に戻っていく。

「何か文句でも?」

 追撃と言わんばかりに教師が投げかけるので、生徒達は「いえっ何も!」と声をそろえて早歩きになる。

「じゃあ次はロスタリス君」

 一番に答えていたフィーが呼ばれ何やら小瓶を一つ貰ってきた。

「何それ?」

「私もよくわからないの。明日の授業でわかるみたいだけれど」

 瓶の中には赤い粉が半分ほど入ってるだけで、何かに使うのか、はたまたただの綺麗な粉なのか……。

 明日になればわかるというから、あまり気にしないでいいだろう。

 そして少しの休憩を挟んでから、計算の授業へと変わった。それが終わると、ようやくお昼になり、一般教育学は終わったのだった。

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