第30話
決戦の日が来た。しっかりカズヤは体調を戻して、爽やかな朝を迎えた。
ガンライフオンライン地区代表決定戦は、三つの高校同士で行われる。すなわち千丈、一草、
今回のマップは『ツインタワー』。一草にマップ選択権がある。
そこは、白乙女騎士団が公式戦で初めて負けた悔恨の地でもある。
広い四角形のマップに、二つのビルディングが中央に建っている。五階建ての高い方と、三階建ての二階分低い方。三階で一か所だけ渡り廊下が繋がっている。あの時と同じように、マップは黄昏時の設定だった。
FPSでは基本的に高い位置が有利となり、いかにそこを制圧できるかが重要となる。
また、四隅の太い柱を工兵が破壊することで、どちらか一棟のみ丸々崩壊させることもできる。どう相手を倒し、または建物の破壊をするか、様々な作戦と戦い方をチームによって取捨選択できるマップだ。スポーンはなく、空中輸送機からパラシュートで飛び降りるスタート。
飛び出し口で、すさまじい風と音を頬に感じながら、カズヤはマップを眺めていた。
「ひえ~、ちょっと怖いな。パラシュートはどうやればいいんだ?」
「ラペリングと同じ要領。ベルトのボタン一つで大丈夫よ」
今、輸送機はマップに向かって真っすぐに、三機並行に飛んでいた。飛び降りるのは五分後から、マップの上空を過ぎ去るまで。
「アタシは開幕一番に行くから。アンタたちは少しして、ロービルに」
サキが目指すのは、高い方のビルの四階である。
クレナイからの非公式の果たし状。中には三つの単語のみで『ハイビル 四階 ハンドガン』と書かれていた。それは場所と武器を指定した一対一の申し出。
もちろん罠の可能性もある。だが、いずれにしろクレナイを倒さないとカズヤたちに勝利はなく、そして相手もサキをいかに倒すかが命運を分ける。激戦は必然だ。一方の建物に、おそらく工兵による破壊が見込まれる誘いに乗るのはどうかと主張したが、サキが行くことによって相手を集中させ、カズヤとフワリを生かすのには十分だという結論に至った。
「もうちょっと待っててくださいね……」
フワリは何やら装備を悩んでいるらしく、カーテン越しにあーだこーだやっていた。
「もう。最後までしまらないわ。フワリらしいったらないわね」
「うっせーです」
カーテンの奥から反論が上がる。対戦が始まるまで、一分を切っていた。
「カズヤ」「サキ」
二人は互いに相手を見つめて、ただ名前を呼び合った。
うなずき合った。それで十分だった。気持ちは、伝わったはずだ。
「先に行ってるわよ!」
始まりと同時に、サキが降下した。
ぎゅん、と豆粒のように小さくなり、一気に降り、パラシュートを開いたのが見えた。
「おい、フワリ」
「は~い」
そろそろ降りないと、マップ外でそのままデス判定にされてしまう。フワリはがさごそと、カーテンを開けて恥ずかしそうに出てきた。
「ぷっ⁉ なんだその恰好!」
思わずその姿に、カズヤは吹き出してしまう。
「うわー! もー。フワリ、絶対そう言われるから出たくなかったのにぃ!」
フワリは、ぷんっ、とそっぽを向いた。いつもの軍服ではなく、サキと同じような白装束に身を包んでいた。フワリなりの衣装合わせということらしい。真っ白の帽子。今回もフワリが工兵で、カズヤが衛生兵だ。真っ白のランチャーを担いで、背中には大きなバッグ。
プレイヤー名も『FUWARI』から『KAZUYAN_LOVE_FUWARI』とかいう謎の名前になっていた。どう反応していいのかわからない。
「本アカです。パス忘れてたかんな~。危なかったです。サブ垢は使える武器少なすぎて。登録とコンバートが間に合ってよかった。決心も。さあ、行きましょう!」
「おう!」
カズヤは応じて戦場に飛び出した。凄まじいGが身体にかかるような感覚。現実の身体は落ちてはいないのに、加速度的に大きくなるビルと地面に、腹のあたりが引き絞られる。
「カズヤン、今!」
カチリとベルトのボタンを押して、パラシュートが開く。速度が急に緩やかになる。
「ロービル屋上に敵四人! たぶん百島ですね! サッキーはもうハイビル内! ノドッチたちは……ありゃ、あっちの地面に五人~~。あ! これどこにも行くとこねぇやつです!!」
「フワリが遅いからじゃないか!」
「そうですけど、認めるのムカつくからうっせーです! ……あ」
結局ビルのどちらにも着地できず、そのまま地面まで二人で降りてしまう。
「あー。ロービル取りたかったのに……。ちっと様子見してみましょー――あぶなぁっ⁉」
ビル入り口の柱からひょこっと顔を出したフワリの頭の上を弾丸がかすめた。チュイン! と音がして、帽子を取り落としそうになる。遥か前方のノドカがスコープを光らせている。
「ノドッチめ! とんだ挨拶です。ちなみに帽子もフワリなので今のは当たってないです。セーフ。帽子が本体ですからね。いきなり死ぬとこでした。カズヤンは危ないから見ちゃダメ!」
「よくわかったよ」
まるでカズヤが悪いとばかりに、フワリは口を酸っぱくして言った。手で大きく『×』を作る。先ほどのスナイプが当たっていたら地面にぶっ倒れていたので、かなり危険だった。
「さーて、じゃあ、どう制圧するかですね」
のんびりフワリが言って、カズヤたちはオレンジを反射させるコンクリのビルに進入した。
ハイビルの五階。サキは両手に白銀迷彩のMP5Kを携えて、部屋の中心に立っていた。
屋上からは階下を撃てるようにガラス張りの天井が数か所空いていて、夕焼け空が見えた。
「げぅっ⁉」
顔を出した相手を撃った。九mm弾は正確に顔を捉え、60ダメージ二つで絶命させる。
「――――」
瞬時に振り返り、屋上から階段を降りてくる敵の足を撃ち抜く。二発。すぐに敵が下がる。
ダッと一直線に階段に駆け、屋上へガラスを突き破ってフラッシュ。敵のうめき声。駆け上がる。同時に撃ち合う距離は約五メートル。サブマシンガンの領域。二丁持ちは安定性に欠けるが、至近距離で無類の強さを誇る。百島の敵を殲滅。これが『白銀の戦姫』の突撃力だ。素人の校内代表など、何人かかってきても負ける気はしない。左右交互にリロードする。
「百島は残り四人! ここにはいない。たぶんそっち!」
了解、と二人が答える。あとはなんとかしてもらう他ない。これからサキは四階の死闘へ向かうのだから。USPに持ち替える。白銀迷彩のそれは大会優勝の証。一対一を臨まれた以上、一丁で戦わなければならない。
大丈夫。もう一つはちゃんと、現実でカズヤに預けたのだから。
構えもせず、音もなく現れた敵と対峙した。フードをかぶった、サキと変わらぬ身長の少女、クレナイ。ワルサー社製PPKを片手に持っていた。鏡越しのような、両者同じ立ち姿。
「――――」
互いに目を合わせ、それが
二人の少女の、まさしく頂上決戦――今、その火蓋が切って落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます