第20話
幕間 紅に染まる黄昏
真っ赤な夕焼けが、マップを、ビルを、連絡通路を、照らしていた。
通路には、少し先の出来事。自分を含めた、二人の死体が横たわる――未来視。
また、あの夢だ。決勝リーグ戦。大切な一戦。意識に纏わりつく悪夢。終わらない苦悩。
いつだって深く眠ると、この夢は訴えてくる。
お前が悪い、と。
遮蔽物から突き出る無数の軽機関銃。
ガチガチに固められた、制圧すべき目標に向かって。決して勝てない戦いへ。死地だ。
無限にも思える弾丸が身体へ吸い込まれ、倒れるその時まで。何度も何度も、繰り返される。
「ボクとユミがやる。この距離は二五メートル。サキじゃ、射程に入れない」
「うん。サキちゃんは敵が減ったら倒して。わ、私が頑張るからっ」
正確なエイム力のグレン。副クラン長。狙撃手のユミ。一番仲良くしてくれた、仲間。
ただ、突撃するだけを全てとしていた自負を、あんなにも呪ったことは、ない。ちゃんと、練習しておけば。みんなの意見を聞いておけば。傲慢じゃなければ。……もう、戻れない。
「アタシがやる」と、それでも記憶と違いなく、現実と狂いなく、アタシは告げた。
グレンとユミが目を見開く。
「なんで⁉ 倒せるわけがない!」
「サキちゃん……」
「アタシが全部倒す。突っ込む。足を止めて撃つ二人じゃ、一人も倒せないに決まってる。そもそもユミが外したから、こっちの二人が先にやられちゃったんじゃないの。わかってる?」
「おい、サキ! 仲間の失敗は試合中口にしないのが決まりだろう!」
「それは、グレンのクランの時の話でしょ。今はアタシがクラン長。命令は絶対」
「サキちゃん……ごめん。ごめんね。本当に……ごめん、なさい……」
ユミは抱えるように、彼女の武器であるM200 Interventionを握った。彼女の手は、記憶と同様、震え切っていた。それを、アタシだけが知っている。
味方を守るのならば。アタシが強くなれば良い。それだけなのに。
それを止める術を、アタシは現実がそうだったのと同じように、持たない。
「そもそもこんな程度の窮地を越せないようじゃ、プロなんかなれない」
口にしたくもないあの言葉。届かなかった『白乙女騎士団』――その夢の果て。アタシは、いつから口癖のように言う『それ』が目的になってしまったんだろう? 最初は、そんなじゃなかったはずなのに。ただ、そんなものじゃなくて。本当に心の底から欲しかったのは――
「わかった。もういいよ、サキ」
銃をおろすグレンの目は、冷めきっていた。
何かが決定的に壊れる、音がした。
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