第18話

 リスポーンをするのには、一分の時間を要する。

 先ほどのカズヤのように、その場で仲間に蘇生してもらえばその限りではないが、敵に倒されてしまって近くに仲間がいない場合には自動復活を待たなければならない。チーム全員がやられてしまうと、全員復活まで最低で一分かかるということだ。

 時は金なりルール、残り三分半。

 復活した五チームが、同じ戦闘場所へ再集結しようとしていた。

 その、南方の二チームが、撃ち合い始める寸前で崩壊した。

 ガガガガガガガガガ! と、両の手から九mm弾をまき散らし、サキが均衡を破った。

 後ろを警戒していた二人を屠り、残りの弾で前三人。ハンドガンに切り替えて、最後の一人。

 18ポイント。その前に一チーム途中で見つけたので、チームポイントは91だ。

「塹壕にはあと四チームいるわ!」

 わざとやられるつもりの三チーム。一位の、敵を一方的に倒す算段のチーム。

 塹壕を別方向に駆けながら、サキは敵の足音を警戒し、銃声に耳を澄ませる。二チームやりあっている。合間に、パシュン、というサイレンサーの狙撃音。

 そこに、一位がいる。

「だああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 『白銀の戦姫』に引きの一手はない。

 全突撃。待ち伏せすら正面から捻じ伏せ、倒してこその戦姫だ。

 六対四になっている拓けた塹壕で一チームを倒した。残りの六人に銃を向けた瞬間。

 ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ――!

 断続的な機械音の銃声。同時、広場に無数の弾痕が咲き乱れる。

 これは、固定威力40のマップに設定された固定機銃。

「くっ! やっぱり・・・・、使ってきたわね」

 通路に身を隠し、待っていたチームと、他の五人に注意しながら、サキがニヤリと笑った。


 マップに利用できる道具として設置された固定機銃はミニガン。六連の銃先を回転させて、唸るように七.六二mm弾を吐き出す殺戮兵器だ。サキは一瞥するとすぐに通路へ身を戻し、隠れた。そこへ援護射撃と、いくつもの爆発物、投擲物が放り込まれる。

 カズヤとフワリは、その固定機銃のすぐ後ろの岩で息をひそめていた。

 広場で戦闘になった場合、一番に抑えるべき有利地点。敵を撃ち抜ける固定機銃。もちろん使ってもいいし――使う相手を狙うのもいい。フワリとカズヤに与えられた作戦だった。

「挟み撃ち!」

 サキの鋭い叫びに、カズヤは岩から身を乗り出し、フワリと連携しようとして、彼女がとっくに隣にいないことに気づいた。

「フワリ……⁉」

 ヴィイイイイイイイイン! と激しい機械音を立てて撃ちまくる固定機銃の銃手。

 その後ろをそろりそろりと中腰で歩いて近づくフワリの姿。手には金ぴかのM79グレネードランチャー。フワリは無心で前だけを見て撃っている兵士へ密着するほど近づいて、ゼロ距離で頭へ向けて武器を構えていた。

 ――ポンッ!

「あっふん⁉」と、突如変な声をあげて敵が絶命する。

 コツン、と頭にグレネードランチャーが直撃し、爆発はしない。自身の一定距離内で撃つと安全装置が働くのだ。余談だが直撃は爆破と同じダメージ『120』で一撃である。

「いただきぃ~! オラオラオラオラオラオラ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

 死体をどかして奪った固定機銃にフワリはついて、一瞬止まった射撃音を再開させた。

 目の前の塹壕に立って、背中を晒す敵に弾丸を浴びさせていく。

「おっほっほっほっほっほっほ! これ、やばいです! ひゃっはーーーーーーーー!!」

 二人、三人と敵が倒れる。残り二人は盛り上がった荒野に身を隠し、こちらを撃ってくる。

「四連キル! そんなん当たるわけねぇです! 死ね死ね死ね死ねぇぇ~~~~~い! うっひょお~~~~~~! 楽しすぎておしっこちびりそーです! ヒーハー!!」

 ヴヴヴヴヴヴ、と銃の振動と一緒にフワリも小刻みに揺れている。少しだけ顔を出した相手に制圧射撃を行って、一方的に撃ちまくっている。まるっきり悪役の顔だ。

「ああん? どうしたどうした?? おお??? 怖くて撃てねえですか?? ホラホラホラ、フワリはここですよ~~~~~~~~~! オラオラオラオラ――ほんっぐ!!」

 パシュン! という音が鳴り響き、突然フワリが仰向けに後ろにぶっ倒れた。スナイパーライフルによる狙撃――それもヘッドショットだ。

「フワリ⁉」

「出ちゃダメ! 狙われてるわ! こっちの残りと、そこの一人は倒した!」

 立ち上がりかけたカズヤをサキが牽制する。倒されてしまったフワリはバカみたいに口を大きく開けて笑いながら、白目でこちらを向いている。ちょっと怖い。

「すぐに心臓マッサージすれば復活させられる。けど、たぶん来た仲間も撃つ釣りだわ」

 実際の戦場でもスナイパーによる狙撃は即死を避け、足などを狙って負傷させ、助けに来た仲間も芋づる式に倒す戦法が取られる。スナイパーが卑怯者と言われる所以だ。

 仲間の死に顔をカズヤは歯を食いしばって眺めているだけだった。心臓マッサージを施すべき、その大きな胸が天を仰いでいる。重力を無視するかのような、大きな盛り上がりだ。

「クソ! すぐ目の前にあるのに、フワリのおっぱ――マッサージはできないのか!」

「……アンタ、この状況で何考えてんの?」

 一分が経過して、フワリの死亡が確定された。死体が一瞬明滅して消えていく。

「もーカズヤン、なんでマッサージしてくれないんですか。フワリはよかったのにぃ」

 すぐ近くに復活したフワリが口をとがらせる。

「バカなこと言ってんじゃないわよ。状況は?」

「右から撃たれました。右脳飛び出ましたもん」

「広場に敵はいない。一一人倒したかな? フワリがやられて、151」

「一位は172。残り一分」

「直接倒すほかないわね。右側ってことは……」

「廃屋の屋根上ですかね。場所的にそこからしか狙えんし」

 ちょうど東側には、倉庫が一軒立っている。カズヤが一番最初にスナイプされた場所だ。

「あのときは屋根に三人スコープが光ってた。全員スナイパーかも」

「でしょうね。さて、どう全滅させるか」

 21点、7人差。敵を一チーム全滅させても、まだ足りない。一位を倒して得失点で埋める他ない。

「相手はサイレンサーのスナイパーね。ヘッショ一撃。固定威力を低下された80ダメージの倍、『160』ダメージね。ヘッドさえなければ、一撃はない。身体ならどこでも二発」

 淡々とサキは情報を告げる。

「逆に言えば、止まった相手にはちゃんとヘッドで一撃で倒してるともいえる。この塹壕を東側から見張ってる。立ってると、頭だけは出るの。だから、移動は必ず中腰で」

「たまたまですが、フワリ、岩から右に出なかったのはラッキーでしたね。左でカズヤンと見てたから、位置バレしてなかったぽい」

「どうすればいい?」

 緊張した面持ちで、先ほどの失敗も反省できない状況で、されどカズヤは静かに問うた。

 そういう意味では、気持ちの面はしっかり戦場に染まり、落ち着いていた。

「三方向から攻めるわよ。今から作戦を伝える。突撃は合図の一〇秒後」

 

 カズヤは変わらず塹壕の出口に隠れて、その時を待っていた。

 大きく息を吸って、緊張を落ち着ける。遠くにいるサキの声が聞こえてくる。

「なに? アンタのすることは緊張するほどないでしょ」

「うるせー。するもんはするんだよ」

 カズヤがすることは、ただ敵の位置を告げるだけ。単純な囮。それを狙う相手をサキが倒すというただそれだけの作戦。時計を確認する。あと一分。静かになった心臓がまた跳ねた。

「剣道の試合なら慣れてるんだけどな。初めてだからバクバクだよ」

「意外と小心者」

「サキはしないのかよ」

「そうね。これに負けたらって思うと――怖いわ。だから、頑張るの」

 フワリは、何も言わない。次に、サキが合図をする予定だった。試合は残り四五秒。

 そこでなぜか、パシュンパシュンと敵の狙撃音が聞こえてきた。

「いぇいいぇい!」

「フワリ⁉」

 なぜか、塹壕の中央に、作戦を無視してフワリが仁王立ちしていた。

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