第17話
後半戦は、上位一〇チームと、マップを中央の約四分の一区画に縮められ、三分後に開始される。準備時間のうちに、ポイント、敵などによって装備を変えて、戦い方を変更できる。
また、点数が上位のチームから出撃地点を選ぶことができ、そこで優位を取ることができる。カズヤたちは、マップ左下の角を選んだ。少し先に塹壕と洞窟のある、戦闘主要地点の一角だ。
「後半は復活あり。最初五分の内はポイントが全て二倍になる。残り五分で三倍」
作戦はすでに話し合った。三人は気持ちを一つにしていた。
サキは塹壕の入り口、開始まで侵入可能ギリギリの端に立った。カズヤはもう一度M200の感触を確かめるため、遠くの木を的に見立て、そのスコープを覗く。集中。ここが勝負時。
「やあやあカズヤン」
「うわあっ⁉」
フワリがスコープの前に顔を出したので、半端なく拡大されたフワリの瞳が覗いていた。
「フワリを覗いているとき、フワリもまた覗いているのだ!」
「ふざけんなよ! 練習にならないだろ!」
「ほい~。近くも練習になるかなと思って。サッキー狙ってみてください。どうですか?」
まだ時間があるので、一〇メートルほど前に立つサキをスコープに収める。憮然とした表情でサキが振り向いていた。
「よし、感覚はだいたい分かった。最終確認、オッケー」
「サッキーのおっぱいも拡大されてました?」
「ん?」
言われて、そのサキの胸を覗いてみる。
「うん。小っちゃいけど拡大されておっきくなってるな――イダァッ!」
正確なヘッドショットで撃ち抜かれた。
「殺すわよ」
冷淡なサキの声。
「カズヤン、この様子じゃサッキーハートはしばらく撃ち抜けそうもないですねぇ」
「フワリが余計なこと言うから怒られちゃったじゃないか」
「ねね、カズヤンカズヤン。フワリ、モップちゃん」
「わはは! フワリ、なんだよそれ!」
フワリは荒野の枯れ草を手で折って、頭や体に器用に乗せて伏せていた。兵装のギリースーツを模しているらしい。にっこりの笑顔だけが隠れていない。
「ふざけてんじゃないわよ! もう始まるわよ!」
カズヤの真横で立ち上がるフワリは、もう元気を取り戻して、にっこりしていた。
後半戦が始まった。一番にサキが飛び出し、塹壕へ駆けていく。洞窟へと目掛けて、一直線。
現在一位が25ポイント。こちらは19ポイントで二位。三位は12ポイント。インターフェースの左側に、上位三チームのポイントが表示されている。
カズヤとフワリも追従する。サキが最初に殲滅し、比較的安全な場所で裏取りを警戒する手はずだ。激しい銃声が洞窟から聞こえてきた。
「倒した! 一チーム六人!」
チームのポイントは、12増えて31。一気に一位に返り咲く。
「さすがサッキー。作戦通りですね」
「これじゃ前半と変わらないと思うけど? これがチームなの?」
連携して動く、と三人は決めたが、今のところサキが突っ込んだだけだ。
「いえいえ。だからこそです。前半と変わらない、と敵も思いますから。おりゃっ!」
ぴょん、とその場で跳ねて、フワリはグレネードを宙に放った。
ぽこーん、と洞窟の上にそれが飛んでいく。
爆発物も投擲物も、ゲームの決まりとして飛距離は一定だ。つまりプレイヤーはどれだけ力強く投げても、また軽く腕を振ってみても、同じ地点から投げた物は必ず同じ場所に落ちる。公平さを保つため、個人差を無くすため。では、離れた敵にどうやって正確に当てるか、それは射角の問題である。投げる本人が空中のどこを目掛けて投げるか、で飛距離を変えるのだ。
今、フワリが投げたのは頭上斜め四五度。一番飛距離が出る角度。ジャンプをすることにより、強引にさらに最大飛距離を伸ばしている。グレネードは綺麗な放物線を描いて、洞窟を飛び越え、少し広くなった塹壕の――そこで待ち伏せしていた敵の眼前に落ちた。
「ぐあっ⁉」「おごぉっ!」「ぎゃっ」
三人が同時に息絶える。続けざまに、激しい銃撃音。
「よっと。倒した!」
爆破による煙が消える前に、サキが飛び出して、待ち伏せをしていた残り三人も屠った。
「いぇーい。これぞチームプレイ!」
「アタシなら、六人いても一人で倒せたけど?」
「……今のは、『自分だけでも問題ないけど、一応助かったわ。ありがとう』ってところか?」
「ですね。だいたい合ってます。カズヤンもサッキーのことわかるようになってきましたね!」
「ちょっと⁉」
後方で傍観しながら分析したカズヤにサキが抗議した。
「フワリ、今のはどうやったんだ?」
「ふっふっふ。ここは洞窟前の待ち伏せにグレ投げ入れられるスポットなんですよ」
ぴょん、と目印もない塹壕内広場でもう一度フワリが跳ねた。
「ここでジャンプして、昼設定の空ではあの雲あたりを狙うのだ! そうすると、殺(や)れます」
「わかんねー……」
フワリのたとえは、あまりに感覚的かつ抽象的すぎる。
「サッキーが突撃するのは、相手もわかっていますからね。後半は待ち伏せメインでしょう。そうやって膠着を作ってくれるだけで、こっちも倒せる場面が出るのは、サッキーサマサマ」
「後ろ、ちゃんと警戒してよね」
サキは言って、さらに前に出る。
完全に待ち伏せしていたもう一チームを、やはり一人で倒した。
「ありゃ。やっぱ、援護はいらなそうっちゃそうですね」
何もしなくても、一人で六人を倒してしまうサキに、フワリはのんびり言った。
「ねね。ねねね、見てみてカズヤン。パズー砲~! キラリーン!」
周りを警戒していたカズヤに近づいて、フワリは金ぴかのランチャーを構えて見せた。
「ん? ってすげえ! 金色の迷彩か⁉ かっけーーーー!」
「です。一〇〇〇マルチキルするともらえます。銃の場合はヘッドショット一〇〇〇回」
「めっちゃほしいな!」
「やりこみの一つですね、迷彩は」
あのねえ、とサキの呆れた声が聞こえてくる。
「迷彩は隠れるためにつけるものなの。後ろで警戒してるのに、目立つゴールドなんかバカでしょ。アタシはそういう『やってれば誰でも取れる』『時間かければ技術は必要ない』迷彩の自慢が一番馬鹿らしいと思うわけ。承認欲求の塊じゃない」
「ムカチン」
フワリは言って、手に持った金のランチャーを上空にめがけて構えた。
「死ね、サッキー!」
ポン、と気の抜けた音がして、弾が放たれて放物線を描いた。
フワリの言うパズー砲――M79グレネードランチャーは単発・中折れ方式のグレネードランチャーだ。四〇mm擲弾は半径一.五メートルが確殺範囲となり、フラググレネードと同じ威力一二〇に設定されている。違いは着弾と同時に爆発するか、時限式か。そしてランチャーなのでサブウェポンに分類されるということだ。
ひゅるるるるるる、と音がして、正確にサキのいる塹壕の中に吸い込まれていった。
同時、ボゴォ! という爆発音。
「何すんのよ! 危ないでしょうが!」
「ダメージは食らわないから痛いだけでしょう。敵も誘えるかなと思って」
完全にケンカである。
「おいおい、落ち着けって。ケンカすんなよ。迷彩とかなんでもいいだろ。その人の好きで」
「そもそも、サッキーだって大会優勝者限定の白銀迷彩でマウントとって『アタシ強いのよ?』みたいでウザいですよね。あんな目立つ格好なのも、全然隠れてないです」
「確かに!」
「アンタたち殺すわよ⁉ アタシは目立つのが仕事だし、戦場の華だからいーの!」
「自分で言ってやがります」
「ああ見えて結構自意識過剰だよな」
「あとでぶっ殺すから!」
そうしている間に、残り五分を告げる音声が流れた。
敵はサキを避けているのか、接敵回数が目に見えて減っている。遠くで銃声が聞こえた。
そこで、異変が起きた。
「何よ、これ⁉」
サキの驚きの声。カズヤもそれを見て、やっと事態に気づく。
二位のポイントが、突然動き始めたのだ。
31ポイントが、34へ、すぐに37。カズヤたちの一位である55ポイントを、軽々と超える。60でも止まらず、どころか100も超え――121ポイント。ポイントにして90。三倍になっているので、三〇人。五チームを全員倒したのと同じ数だ。
一位、121ポイント。二位、55。その差は、66ポイント。22人分。
「どういうことだよ」
「あー、これ、談合ですね。どう見ても」
「残りチームで『うまく戦ってるように見せてハイエナさせた』ってところかしら。やることがしょーもなすぎるわ」
カズヤたちを意地でも敗北させたいらしい。こんな真似をする可能性があるのは――
「サライたちの指示か」
「証拠はないけど。まあ、ほかに考えられないし」
「倒した時の音はほとんどしませんでしたね。たぶん、サイレンサーつけてます」
「このアタシにナメた真似するとどうなるか、思い知らせてあげましょ」
「ですね! あ、サッキー。次から、アタシ『たち』って言ってくださいね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます