第14話
ガンライフオンラインの公式戦。特に代表を決める校内戦はある程度学校に裁量を任されている。参加人数やチーム数、日程などを勘案し、期日までに代表が選出されればそれでいい。
今回、千丈高校が選んだルールは『
学校代表『紅血ノ狢』を除いた約一〇〇チームが単純に二〇チーム×五マップで分けられ、広大なマップに
今、目の前に荒れ果てた大地が広がっている。『
カズヤたち三人は、ランダムに配置された塹壕の中に立っていた。
「……」
サキは腕を組んだまま、カズヤとは逆方向を見ている。カズヤも同じように、やはり腕を組んで、サキとは逆を睨んでいた。
「あのー、カズヤン?」
二人の間に立って、下からフワリが見上げてきた。
「なんだよ」
と、ぶっきらぼうに返す。
「機嫌直して?」
「別に、悪くなんかねーよ」
投げやりに言う。それもこれも、朝食時に行われた作戦会議でのサキの発言が原因だった。
サキが得意とするルールとマップだったので、彼女が突撃して点数を稼ぐことに決まった。おおよそ話し終わったところで、カズヤは「自分はどうすればいいか?」と聞いたのだ。
サキの答えは、簡潔なものだった――『好きにしていい。結果には関係ないから』。
「もー、カズヤン。せっかく仲良くなりかけてたのに」
「何だよ。サキに言わせれば『それとこれは別!』なんだろ」
『それ』は普段話せるようになったことで『これ』は実力のことだとカズヤは受け取った。
「……」
言い方を真似て言うカズヤに、サキが睨んでくる。でも、それだけだ。
フワリはカズヤの元を離れ、とっとこ歩いて、後ろからサキへと飛び付く。
「もー。……サッキー!」
「っ! くっつかないで。何よ」
「サッキーがあんなこと言うから、カズヤンがスネヤンになっちゃったじゃないですか!」
「知らないわよ、そんなん」
カズヤから見えている場所で、チームなので全然声も聞こえるのだが、フワリとサキはヒソヒソ声で続ける。耳のスピーカーから丸聞こえだ。
「ええと……なんちゅーんでしょ。ほら、物には言い方ってもんがあるっていうか」
「優しく言って実力があがるなら、アタシだって優しく言うわよ」
「あー……」
フワリはガックリと顔を下に向け、それから、
「そういうとこなんだよな~。ちょっと直接的な言い方すぎたんですよ。実力はなくても、カズヤン、気持ちだけは先行してるから。頑張って働きたいって思ってたから……」
「あれでも十分気を遣ったんだけど?」
「ぶはは! マジですか! ホントはなんて言うつもりだったんですか?」
「……『マップの端で一切動かないで』」
「それはさすがに大草原」
説得にいったはずのフワリが爆笑していた。
おい、もうオレやめるからな、とカズヤは本気で言いそうになった。
「サッキーは対人がへたっぴですねぇ。殺すことに特化してるから、素直になれない魔法とか、仲良くなれない呪いでも掛けられてるんです?」
「は? どういう意味? 殺すわよ」
「その発言ですよ」と、楽しそうに返すフワリ。
「……じゃあ、どう言えばよかったのよ」
「えぇ? んー……『伏せて敵の捕捉だけして、アタシに教えなさい!』とか?」
「ほとんどアタシと一緒じゃない」
「ありゃ、そうですね。やっぱここは趣向を変えてご褒美戦法で行きますか。『死ななかったら、ちょっとえっちなことさせてあげるわよ!』って言えば、一生隠れてると思いますけど」
「させないわよ、そんなこと! っていうか趣旨変わってるじゃないの!」
「おっぱいぐれー触らせてあげればいいじゃないですか。それで勝てるなら儲けもん」
「そんなの、ちょっとどころじゃないわよ! めちゃくちゃえっちじゃないの!」
「えぇ~。じゃあ、どんくらいにしときますか? サッキーのちょっとえっち基準」
「そりゃ……そ、そうね。ちょっと、ってくらいだから。……え、え~っと。直接お腹に顔をくっつけさせてなでなでしてあげる? とか? ……ちょ、ちょっとえっちすぎるかな⁉」
「はい?? いや、そのフェチはフワリにはわかんねーです。エロいかどうかすら謎」
話が逸れすぎている。
「まあ、あれですよ。サッキー、もう少し言い方をマイルドに! あとご褒美は大事!」
「なんでアタシが歩み寄らなきゃいけないのよ」
「サッキー」
口をとがらせるサキに、窘めるような口調のフワリ。しぶしぶ、サキが折れた。
「……わかったわよ」
サキは大きく深くため息をついて、カズヤをチラリと見た。カズヤも、その視線を感じながら、気づいてないふりをしてあえて無視する。サキが憮然とした態度で歩み寄ってきた。にわかに、緊張する。
「アタシのために、無理せず無茶せず、勉強してきなさい」
「あン?」
「自分が今の実力で戦えると思っていることそれ自体が、驕りなのよ」
全然、さっき聞いていた言葉と違う。態度も言い方も。
「なんだと」
「少しは思い知れば良い」
冷たい言葉と目線。サキはこのゲームに人生を懸けているほど熱中しているのだ。カズヤの出過ぎた思いと足りない実力など、彼女から見れば不快に感じるのかもしれない。
「サッキー」と、不安な表情のフワリ。
「いいさ。言われたとおり、オレはオレで好きにやって、」
「だから、これ、貸したげる」
ふいっと視線をあからさまにそらして、サキが何か操作する。
「!」
ウィンドウから、クランを通じて武器が貸し出された通知。その銃を知っていた。それはかつて、サキの所属していた『白乙女騎士団』で唯一スナイパーを張っていたプレイヤーの愛銃。
アメリカ、シャイアン・タクティカル社M200
ストックまで含めれば全長一四〇〇mmにもなる大型の狙撃銃。端から端までせいぜい数百メートルのマップでは射程が短すぎる、超長距離狙撃を目的とした最先端科学の結晶だ。実銃としては二km超の狙撃を誇る、スナイパーライフル・システムの総称名。
「なんで、これ。超レアな、初心者じゃ触ることもできない武器だろ!」
「アタシと一緒に戦うって言うなら、使ってみせて。道は示した。あとは、やるだけ」
ガンライフオンラインにおいて、ステータスも、スキルも、その人間個人によって強さが変わる数値上の変化は、ただの一つもない。
されど一人ひとり、武器も戦略も得意も違うプロが確かに存在する。
あるのはひたすらに鍛え上げた反射神経、場数、勝負勘、エイム力。
全ての兵士たちは、みな同じ条件で、自分という個を叫んで、戦っているのだ。
プロ一歩手前まで登り詰めたプレイヤーの武器。条件は五分。使用者によって結果は変わる。
「やれるって言うならやってみなさい」
自分を示せとサキは告げた。
「上等だ」と、カズヤは静かに答え、その銃を握った。
あるいは、今の自分を思い知れと、言外にその小さな背中が語っていた。
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