第12話


 食堂は貴族を思わせる豪華な長テーブルが置かれ、その上にサラダ、ステーキ、魚、パンにライス、数種類のスープとドレッシング、たくさんのデザートがこれでもかと並んでいた。

「今日は、バイキングっ! カズヤンの分は冷蔵してあるので、好きなだけどーぞ!」

 サキとフワリは好きなものを皿にのせて、向かい合って食べ始めた。フワリは最初からデザートを主食とばかりに、ケーキのかけらをまき散らしながら食べている。まるっきり子供だ。一方サキはサラダを綺麗に盛り付けて、フォークを使ってこれまた綺麗に食べていた。

「で、どーでした? カズヤン」

「てんでダメね」

 サキはパクリとレタスを巻いて口に運びながら、

「論外。全然初心者。試合には間に合わない。エイムも全然ダメ。戦力としては数えられない。まあ、このまま練習を続ければ、少しはマシになるだろうけど」

「ぶはは、きびしーですね! 立ち回りで多少はカバーできますけど、そんなもんでは? フワリもおんなじような感想ですけど。カズヤンやるときはやりますから」

「ま、それはわからなくもないけど」

 ここにいないチームメイトを平気で貶して、しかしフワリは訳知り顔で、

「ちゅか、さっきの質問は、ゲームの腕ではなくて。一緒にプレイして楽しかったですか? って意味でした」

「え?」

 ブロッコリーに刺したフォークを不意に止めて、サキは戸惑った。少し黙って、うなずいた。

「……そうね。楽しかった……かも、しれない」

「おお?」

 サキは一緒にカズヤとゲームをして、ダメダメな腕前に辟易しながら、昼の対決も、夜の訓練も、楽しんでいたことに気が付いた。そもそも、そうでなければ付き合ったりはしない。

 まだまだな実力。目の前のことに一生懸命な姿勢。初心を思い出すぎこちなさ。

「ああ、最初アタシもこんな風に目を輝かせて、何にでも驚いて、わくわくして、うまくいかなくて、楽しんでたなって思い出させられた。そのことには少し、感謝してるかもしれない」

「ゲームは楽しむものですからね」

 なぜだか自分が嬉しそうに、フワリが笑った。


「コネライは買ったので、三人でやるときはここ集合で。明日は学校集合でいいです?」

「そうね。そうしましょう。今日はもう帰る」

「おじいちゃんが送りますよ!」

「いいわよ。すぐ近くだもの」

「あ、そういや、そうでしたね」

 フワリは得心したようにうなずいた。

「ではでは、サッキー。すぐに帰って下さい。フワリはこれからが忙しいのです! げっげっげっげっげっげ!」

 部屋に戻る途中で、あからさまにオカシイ笑いを浮かべて、嬉しそうにするフワリ。

「……? アイツは、どうするの?」

 そういえば、カズヤはどうなるのか……サキはそこで思い当たった。

「カズヤン? しょーがないのでもうお泊り決定です。カズヤンママに許可はとったので」

「え? あのままアンタの部屋で寝るってこと? アンタは? どこで寝るの?」

「フヒヒ」

 怪しすぎるフワリの笑い。サキが顔を赤くした。何かを察したらしい。

「だ、ダメよ! 年頃の男女が一緒の部屋で! 二人っきりで、同じベッドで寝るなんて!」

「何がダメなんです?」

「言えないけど、とにかく、そんなの絶対ダメ! アンタたち付き合ってるわけじゃないでしょ!」

「サッキーは付き合わないとイヤン派? フワリは既成事実が先でもいいかな~派です」

「不純よ! 若い男女が二人なんて、何もないはずがないでしょ! やめなさいよ!」

「えー。サッキー関係ないじゃないですか」

「あるわよ、ある! ……えっと、そう! アタシはこのクランの……メンバーで! 実力から言うと実質リーダーだわ! そんなのは許さない! 責任をもって対処するわ!」

「ほー。じゃあ、サッキーも泊まります? リーダーとして責任とるなら」

「――え?」

「それなら二人っきりじゃないですし。着替えはお貸ししますから。きっと楽しいですよ! お泊まり!」

「……フワリは、いいの? それで」

「あ! サッキー、初めてフワリのことお名前で呼んでくれました!」

「あ。……うん」

「フワリは全然いいですよ。ガールズトークしましょーよ! どーせサッキー、家にいてもさみしーだけでしょうから! いぇいいぇい!」

「…………」

「そしたらさっそくお風呂入りましょー! トーーク! ガールズ! インお風呂!!」


「ふい~あったまりますなあ~」

「デカすぎじゃない、アンタんち。お風呂も。銭湯経営できそう」

「エロスパのこと言ってます? ちなみに、フワリはおっぱいもデカいですよ!」

「は??」

「ねね、サッキー! ジャグジーもありますよ! ボコボコアワアワお魚気分を味わえます」

「アンタねぇ……って、すごっ」

「溶けそうです~」

「……気持ちいい」

「……」

「……」

「……フワリはね~、感謝してるの」

「え?」

「カズヤン、ダメダメですから。カズヤン、中学で大切な居場所なくしちゃったから」

「……。アンタ、やっぱアタシのこと知ってるのね」

「そりゃあ。カズヤンはアホですからあんなですが。フワリはこれでもゲーマーですからね。ガンライフはそれなりにやってますから。ここらじゃ有名すぎますよ、サッキー」

「だろうと思った。やり方がうますぎ。最初から泊める気だったわね。やけに用意がよすぎるって思ったもの」

「バレても別に~。きっと楽しーって思ってましたし。フワリは、サッキーよりもカズヤン優先ですから。……カズヤン、部活引退してからずっと燻ぶっちゃって。やっぱりフワリは一生懸命な、真っすぐなカズヤンが好き」

「……まあ、わからなくも、ない」

「やるときゃーやりますよ。そういう時はホントかっこいいんです! サッキーもカズヤンの魅力に気づいてくれて、うれしーです!」

「ちょっとだけよ? ちょっとだけだけど……なんかいいな、って思った」

「ケンカは人のためにしかしませんからね。ちゃんとしてくれたでしょう?」

「実力がないくせに。ホント、態度だけは一人前。でも……うん。ちょっと、かっこよかった」

「カズヤンも男らしいところあるでしょ~」

「ま、少しは。少しだけよ? それ以外はてんでダメ。へたれよ、へたれ」

「ですねー! そゆとこも、可愛く見えてきちゃうんですよね。あ、でも狙うのはやめた方がいいですよ。心に幻影を飼ってますからね! 昔見た幽霊にぞっこんなんです!」

「何それ」

「なんか、昔、剣道場で一目惚れした女の子が今でも好きとか」

「……ふぅん。あっそ」

「まあ、それはどうでもよくて。燃え尽きかけていたカズヤンに、また火をつけてくれたサッキーには、フワリ、感謝してるんです。ありがとうです」

「そんなつもりも気もないけど」

「ですかね! だからいいですね! ……ねぇ、サッキー」

「なに」

 

「自分の居場所は、探すもんじゃないですよ。自分で作るものです」


「! ……どういう、意味よ」

「そんなちっちぇおっぱいでも、好きって言ってくれる人はいます――ぶひゃっ⁉」

「それこそどういう意味よそれ! 関係ないでしょ!」

「やりましたね! お返しです!」

「ちょっと! お風呂でふざけないでよ!」


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