第3話

「か~~~っ! うっめぇな~~~~~!!」

 昼休み。飲んだ牛乳パックを机に乱暴において、酔っ払いのようにフワリが言った。

「ん~、やっぱブンイ! ソンローも捨てがたい。リーマーはダメ。ミニップはゴミ!」

「お前、よく同じ物食ってて飽きないな……」

 フワリはそれぞれのコンビニで買ったオールドファッション・ドーナツを食べ比べて、感想を述べているのだった。空にした袋をランキング順に並べて遊んでいる。

「思うんだけどさ。それ、もしかして順番に食ったのがおいしいって気はしないか? 結局同じ物だから、食べるごとに飽きている可能性があるだろ」

「む、まさかの! ランキングにごねる輩が! さてはカズヤン、アンチですね!」

「客観的に見た意見だよ」

「ですが、寛大なフワリは少しだけ考慮してやります! 感謝しろよ、アンチてめー!」

 汚い言葉を吐き散らしながら「ふむぅ」とフワリは鼻息荒くも、フワリ・ドーナツ・ランキングを眺めていた。やがてうなずいた。

「……確かに、フワリ、無意識に食べた順にしてしまったかもしれません。ミニップ以外。というのも、元々おいしい気がしてた物から順番に食べてしまったという。消費者心理ですね。あ、ミニップはマジでダントツでマズいです。メシマズ。お前は論外」

「メシマズは意味が違うだろ」

「というわけで。フワリ、熟考して一つの結論に思い至ったんです」

 じっとカズヤのことを下から眺めて、フワリは厳かに言った。

「やっぱり、メンバーに誘うならサッキーがいいと思います」

「あ、そっち⁉」

 カズヤはずっこけそうになって、全然話がつながってないことに驚きながら、

「いや、まあ。可能なら……オレもそれがいいと思うけど。サキ……っ、さん。が。組んでくれるとは、限らないぜ」

「カズヤン、サッキー好きですよね?」

「おい、やめろって! そりゃ動画は見てたけどさ。好きにも色々あるだろ? 憧れとか尊敬とか! 勝手な解釈で口にするのはやめろ! 本人に聞こえたらどうするんだ!」

 後ろで静かに座っているサキをカズヤは意識してしまう。

 そんなカズヤの内心を知ってか知らずか、イタズラそうにフワリは言った。

「ほほー。その慌てよう……あやし~! もしかして、いえ、まさか、恋愛の好き?」

「はい、ちょっとストップ! ミニストップ! フワリさん少し落ち着いて。ここ、公共の場。わかるだろ? 誰が聞いてるかわからないんだぞ。憶測で物を言うのはやめよう」

「なんだぁ、違うんです? この前『ガンライフ サキ えっち画像』で検索してたじゃないですか。知ってますよ、フワリは」

「おいマジでやめろって。してねーよ!」

「ほぅ。本当に?」

「いや、まあ。……そもそも、どこにもなかったけどな。そんなモノ。全部アクセス稼ぎだよ。あからさまな嘘の記事の後、『今のところ存在は認められませんでした!』か、それっぽく見える詐欺画像」

「検索してるじゃないですか……。引くわ~!」

 フワリは顔を青ざめさせてマジトーン。それからカズヤの後ろの席へと顔を向けた。

「というわけで。話の概要はわかったかと思います。サッキー、どうですか?」

 何が「というわけで」なのか、フワリは二人でしていた会話をサキへと唐突に振った。一番最悪の振り方だ。机で一人弁当を食べていたサキは、顔もあげずに冷たく一言。

「却下」

「「ですよねー!」」

 カズヤとフワリは同時に言っていた。よくあんな調子で丸聞こえで話しておきながら、フワリは平気な顔して勧誘できるものだ。ある意味大物である。

「ちなみに、『カズヤンと付き合うのはどうですか?』の『どうですか?』でしたよ」

「やめてー! フワリさん、嘘やめてー!!」

「もちろん。だから却下した」

「何そこだけ以心伝心してんの⁉ しかも却下されてるし! 勝手にフラれてるし!」

「何よ? アンタ、アタシのファンなんでしょ。ファンはファンらしく外で応援してて。もちろん友達からなんてのも無理。絶対無理」

「フワリも同じ立場だったらそう言います」

「何? 何でオレ勝手にいじめられてるの? 泣いていい?」

 動画の天使はどこに行ってしまったのか。あの眩しい笑顔を思い出して、ズキリと胸が痛んだ。チラリとサキを見ると、想像と違わぬ、驚くほど長いまつげをした瞳が細まった。

「なに。見ないで」

 聞き馴染んだ声で、調子だけ低く、そう言った。

 そこでフワリは、伺うように、カズヤの一番してほしい質問をした。

「冗談は置いておいて。サッキー。これは真剣なお願いで。校内大会、組む相手とか……」

 答えは、聞く前から予想できた。

「それも却下」

「ですよね~。単位オワタ!」

 入学初っ端から単位が絶望的になったくせに、まるで変わらない調子でフワリ。

「やっぱ。つえー味方じゃないとダメです?」

 首をかしげるフワリに、サキは、そこだけはすぐには答えなかった。

「……そういうわけじゃない。もう、先約があるってだけ。優勝しないといけないの。ま、アタシからしたら、誰と組んだって結果は変わらないわ」

「おお、すご! 嫌味には聞こえないです! 一回言ってみてぇです! かっけ~!」

「事実だもの」

「性格は悪いですね。友達にはなれなそー。フワリはフワリって言います。よろしくです。それにしても、こんなタイミングでどうして転校を?」

「言いたくない」

「好きな食べ物は??」

「なんでそんなこと言わなくちゃいけないのよ。まあ、魚よりは肉……かな?」

 フンと鼻を鳴らして、そっけなくサキが応じる。態度は悪いが、意外と律儀だ。

「…………」

 現実っていうのは、厳しい。

 少しだけ組めるかもしれないと期待していたカズヤはガックリと肩を落として、二人の会話を聞くだけに留めた。午後の授業を思い出してさらに落ち込む。

 全然うまくいかないガンライフのゲーム実習だったからだ。間近でサキのプレイを見れるだけでも、それはとんでもない幸運のはずなのに。もしかしたら大会でチームを組めるかも、と淡い期待をした分だけ、落胆は大きくなった。

「ほほー。じゃあ、サッキーは誰と組んでも同じってことなので、次の時間フワリたちと組んでくださいよ。いつもカズヤンとフワリは余りもの二人にされて困ってるんです」

「まあ、それくらいなら……」

「おお! わーい! わわわーい! カズヤン、フワリたち余りもの脱出ですよ!」

 渋々といった様子のサキを気にした風もなく、フワリは超ハイテンションで喜んでいた。

「ちなみに言っとくけど、組むだけだから。アタシ、アンタとは友達になる気はないわよ。変な期待しないでよね」

 注意するみたいにカズヤを指さして言ってくる。現実のサキは、全然可愛くない。

「そ、そんなツンケンしなくてもいいじゃねーか。下心なんてねーよ」

「フン。どうだか」

「ぷぷっ! カズヤンもー嫌われてやんの!」

「にゃろ、フワリ! お前のせいだろが!」

「いいんですか? 言っちゃいますよ。ぷぷ……えっち画像」

 ギン! とサキの目が鋭く細まった。

「組む前から仲壊そうとすんな!」

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