第21話 幕間ー出会いー
フォティア・ラルマはロゴス国の伯爵令嬢だ。
ニコラオスの婚約者であったが結婚できなかったため今の身分は伯爵令嬢のまま。
フォティアの家は伯爵家の中でも少し特殊だった。
領地としては王都に隣接する小さな土地しか持たなかったが、宮中において主に外交を担い中央政治の中では大きめの権力を有していた。
ニコラオスの婚約者として認められたのもその関係がある。
元々ニコラオスの婚約者は侯爵家のご令嬢だったが、不幸にもその令嬢は10歳にも満たない頃に流行病で亡くなってしまった。
そのことに心を痛めたのかそれとも他に理由があったのか、ニコラオスの婚約者の席はその後しばらく空席のままだった。
そこに学園へ入学する少し前にフォティアが座った。
きっかけは王宮で開かれた舞踏会だった。
ラルマ家は後継ぎである兄とフォティアの二人兄妹だ。
両親は学業優秀で人とのコミュニケーションも得意な兄をたいそう可愛がり期待をかけていた。
父親は自身が外交担当としてそれなりの成果を上げていることを自負していたし、外交を担う者としての素質が優れている兄を常に優遇した。
フォティアのことは貴族として二人は子どもを持つべきだという気持ちで産ませたくらいの感覚だったに違いない。
ついでに自分にとって有利となる家へ嫁がせるための道具になると思っていたのだろう。
その日王宮の舞踏会で、フォティアは両親から突然とある侯爵を紹介された。
元々両親が持ってくる縁談は歳が離れた当主の後妻だったり、おおっぴらには言えないが高貴な方の愛人だったりした。
もちろん、王族以外は正式に妻を何人も持てないため、身分としては勉強のために行儀見習いに出された侍女となるが、実際はそうではなかった。
貴族令嬢の務めとして政略を目的とした縁組をされることは覚悟していた。
それでもさすがに後妻や愛人になるのは嫌だったので今までは何かと理由をつけて縁談を避けてきたが、業を煮やした両親から強制的に顔合わせの場を設けられてしまったのだ。
しかも、フォティアが嫌がることを見越してかその侯爵とフォティアを部屋に二人きりにするという徹底ぶりで。
その侯爵は宮中で主に人事を担当する者だったが、フォティアとは15歳も歳が離れており、さらには亡くなった奥方との間にすでに3人子どもがいた。
これ以上の子どもも必要としない家に後妻として嫁がされる意味など言われずともわかっていた。
それほどに、両親にとって自分はどうでもいい存在なのか。
まだかけらほどに残っていた両親への思慕も砕け散る思いだった。
しかし悠長にしていられる時間はフォティアにはない。
部屋に二人きりでいる状態を誰かに見られてしまったら、貴族令嬢として致命的な瑕疵となる。
何としてでも早く部屋から出なければ。
侯爵の手を掻い潜り、扉に縋りついてドアノブを回す。
ガチャリっと鍵のかかった音が響いて、フォティアは顔を絶望に染めた。
逃げられない恐怖に歯の根がカチカチと音を鳴らす。
誰か、助けて。
その瞬間、急にドアが開いた。
ドアに体重をかけていたフォティアは自らの体を支えることができず向こう側に倒れ込む。
誰かのがっしりとした腕に支えられていることに気づいたのは少ししてからだ。
「侯爵、これはどういうことかな?」
低い声が響く。
見上げれば端正な顔をした青年が険しい表情でドアの向こうを見ていた。
フォティアとニコラオスの、思いもかけない出会いだった。
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