第20話 思惑

ルーカスがなんとか公爵家の仕事に慣れ、少しだけ心のゆとりが持てるようになったのはニコラオスの死から3ヶ月も経とうという頃だった。


それまでアリシアとは手紙でしかやり取りすることができず一度も会えなかったことがルーカスは気がかりだった。


それでも、やっと会いに行くことができると思い先触れを出そうとすると、なぜかどこかからか横槍が入る。

仕事か、もしくは義母やフォティアの用事か、その時々で違うがアリシアに会いに行く妨げになっているのは間違いなかった。


今日もなんとかやりくりして時間を作れそうだったからカリス伯爵家に先触れを出そうとしたところ、義母からフォティアの買い物への同行を頼まれてしまった。


フォティアはニコラオスが亡くなって以降ずっと公爵家に滞在している。

今まではまだ婚約者でしかなかったこともあり実家である伯爵家で過ごしていたが、何か事情があったのか今では公爵家で一室与えられていた。


そういった内向きのことは前公爵夫人である義母の管轄であったし、今のルーカスに口を出すことはできない。


ルーカスとしてはフォティアの買い物につき合う時間があるのなら少しでもいいからアリシアに会いに行きたいのだが、義母からの頼まれごとを断るのは難しかった。


また、義母はことあるごとにフォティアのお腹にいるニコラオスとの子を心配し、ルーカスには言外に次の後継者はその子であると告げてきている。


今までは考える時間すらなかったが、確かにこのままでは当主であるルーカスとアリシアの子がディカイオ家を継ぐことになると考えると、義母の思惑は考えるでもなかった。


どうにかしてニコラオスとフォティアの子を後継に据えたいということだろう。


ルーカスとしては公爵家を継ぎたかったわけでも継ぐつもりがあったわけでもないので次の後継者がニコラオスの子であっても構わなかった。

ただその場合はどういった環境でその子を育てていくのかが難しくなってくる。


一番簡単なのはニコラオスとフォティアの子をルーカスとアリシアの子として養子にすることだが、様子を見る限りフォティアに子どもを手放す意思はなさそうだった。


かと言ってルーカスとアリシアの家族の中に子どもと共にフォティアも加わるわけにはいかない。


アリシアが公爵夫人であるにも関わらず後継者の母であるフォティアも一緒にいるとなれば使用人も混乱をきたしかねないし、指揮系統が乱される。

アリシアとフォティアの意見が分かれた場合使用人も困るだろう。


また、ルーカスとアリシアの間に子どもが産まれれば後継者争いが起こりかねない。


考えれば考えるほど悩ましく、かと言って棚上げしておける問題でもないためルーカスはここのところ頭を悩ませていた。


(まずはフォティア嬢の買い物を済ませてからか)


ルーカスはアリシアに絶対の信頼を寄せていたから、自身の行動が周りにどう受け取られ、自分の知らぬ間にそのことがアリシアの耳に入ったあげく彼女がどう思うかまで思いいたらなかった。


手紙を送り気持ちを伝え、近況も知らせているから自分の事情をアリシアはよくわかってくれているだろうと思っていた。

だから周りが言うような変な邪推が入る隙などないと思っていたのだ。


考えが足らなかったと、何をおいてもまずはアリシアに会いに行くべきだったと、後悔するのは後になってから。


まさしく、後悔先に立たず、だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る