第122話 試食会2
「出来たぞ」
俺は焼きあがったスフレパンケーキとフレンチトーストを四人の前に並べた。
「パンケーキなんだけど、なにか乗せたいものはあるか?はちみつとバニラアイスがあるけど」
「アイス!あれなんか合うんだよね」
美由もパンケーキにアイスを乗せることに賛成派だった。やっぱりアイスとパンケーキって合うよな。
「悠真くんってこんなにフワフワなパンケーキ作れるんだね」
「スフレパンケーキだな。これは花音が好きだから作れるんだ」
小森さんは目の前にあるスフレパンケーキに目を輝かせてそう言っていた。
「このパンケーキお店のやつみたい」
「そうですね。この前クラスの皆さんが夏休みに行った写真を見せてもらったものと似ていますね」
「そうか?そこまで味は再現できないけどな」
ちゃんと膨らんでいるので見た目は店に出てくるパンケーキに似ているものは作れているのかもしてないが味の完成度まで同じだとは全く思っていない。
お店で出るものはプロが何度も研鑽してようやくたどり着けたものであって、俺はその一部の作り方を知って見様見真似でやっているようなものだ。
「俺としてはこっちのフレンチトーストも結構気になってるんだがな」
「これは昨日から浸けてたから味がちゃんと染みてると思うぞ」
女子三人がパンケーキに夢中になっているあいだに、健一は一緒に置いてあるフレンチトーストを見ていた。
「さっきパンケーキ焼いてるのを見ていたけど、よく膨らむな〜なんて思ってたけどよ、俺はこのフレンチトーストのほうが気になってたんだわ」
「やっぱりそうか。たまごベースの味付けだからお前も気に入るかもな。とりあえず出来立てのうちに食べてくれ。ほら、そのパンケーキもだんだん萎んでいくから早く食べないとフワフワしてないぞ」
俺はみんなに声をかけた。せっかく出来立てを出したから早く食べてほしいからな。それにスフレパンケーキは時間との勝負になる。だから早く食べてもらうに越したことはない。
「「「「いただきます」」」」
「召し上がれ」
俺は少し緊張していた。スフレパンケーキは花音の好みに寄せてある部分が少なからずあるだろうし、フレンチトーストもよく作るわけじゃない。だからみんなの口に合うか分かんなかった。
「ねえ悠真」
「なんだ」
「このパンケーキなんだけどさ」
みんなより一足先にパンケーキを食べた美由の手が止まった。もしかして不味かったのか?分量と材料も間違っていないし、焼く時間も大丈夫だし生焼けにはなっていないと思うんだけど、一体何があったんだ。
「めっっっっちゃ美味しいんだけど。このフワフワな食感も最高だし、生地自体の甘さがちょっと控えめだからトッピングのアイスとかシロップとかジャムとも合うし」
「お、おう。そうか」
そんな俺の悩みが杞憂だったかのように美由からは称賛された。その後も美由はすごい勢いでパンケーキを食べて、皿にあった分を全部食べきった。
「これって私も作れるの?」
「そんなに難しい手順は無いから出来るんじゃないか?レシピは書いてやるから今度家で作ってみたらどうだ」
「分かった。悠真の家に来たときに作ってもらうね」
「今の質問の意味は!?」
美由から誰でも作れるのか聞かれたので答えたつもりだったのだが、どうやら自分で作る気は無いらしい。
「それにしてもこのパンケーキも凄いけど、こっちのフレンチトーストも凄いよね。柔らかいなって思ってたら、口に入れたときに溶けるし美味しいんだよね」
「それな。まあ、俺には細かいところまで分かるわけじゃないから美味いってことしか分かんないだけどな」
小森さんと健一はパンケーキも食べてたけどフレンチトーストの方が好評だった。俺としては何か1つでも褒められたらいいなっと思ってたので、想定外ではあった。
俺も自分の前にあるパンケーキとフレンチトーストを口に運んだ。うん、我ながら上手く出来てるな。
「優真さんの料理はいつも美味しいですよ。このパンケーキもフレンチトーストも、この前食べたオムライスも美味しかったですよ」
「そんなに褒められてもガトーショコラとチーズタルトとかしか出ないぞ」
「まだ出てくるの!?」
そんな俺の言葉に美由が目を大きく開いて驚いていた。別にこれで終わりって言ってないからな。
「さっきは言えなかったんだけどさ、美月ちゃんって、いつもこんなナチュラルに惚気けてるの?」
「の、惚気けてなんていません」
「いつもいつも。なんなら美月さんだけじゃなくて悠真も惚気けるんだからこっちは大変なんだよな」
小森さんからの言葉を美月は否定していたが、健一は肯定して、なんなら俺にまで飛び火していた。失礼な、好きなのはいつもだけど、人前ではちゃんと我慢してるって。ちょっと我慢出来てない時もあるけど、ほんの少しだけだし。
「ねぇ、ガトーショコラ食べたい!」
「分かったよ。今持ってくるから待っててくれ」
俺は席を立ち冷蔵庫の中からガトーショコラとチーズタルトを取り出す。二つともキッチンで型から外して八等分に切っていく。
ガトーショコラはこの前作ったばかりだから心配ないし、チーズタルトのタルト生地も問題なく焼けていた。
ガトーショコラを切るときは、刃が入りやすいように刃を少し温めてから切ることで形を崩さないまま切っていた。
「これがガトーショコラで、こっちがチーズタルトな」
俺は、切った二つをテーブルまで運んだ。さっき使っていた皿とは別の皿とフォークを用意して。だって、今までの皿はパンケーキに乗せたアイスやシロップ、フレンチトーストの液がついてしまっているので、味が混ざってしまうからな。
「さっきのが本格的すぎたから驚かなかったけど、これも十分おかしいよね」
「そうだね〜。でも、悠真だからって納得しとくのがいいと思うよ。料理は何を作っても美味いから。だからけんくんとかよく来るわけだし、私も食べに来たいわけだから」
「なんだろう、褒められてるんだろうけど素直に喜びたくない」
ここで素直に褒められた場合、美由と健一が今以上に家に来る可能性があるから素直に受け取れない自分がいる。
「うまっ、このチーズタルト美味いんだけど」
「あー、けんくんズルい!なんで先に食べちゃうの!」
「出てきたのに喋ってて食べなかったのが悪いんだろ?」
俺と美由、小森さんがやり取りをしているあいだに、健一はチーズタルトを自分の皿に取り分けて自分だけ先に食べていた。
そんな健一に対して美由がズルいと叫んでいた。
「まあまあ、まだ残ってますし美由さんも一緒に食べましょうか」
「ほら、美月さんみたいに大人の対応が出来るようになれよな」
「けんくん?それは今の私がまるでちゃんとしていないように聞こえるんだけど」
健一があからさまに置かれていた地雷を踏んだ。その結果、美由は顔が笑っているのに目が笑っておらず、笑顔の圧が強い。その圧がこっちに向かないことを願いながら、健一に
「ほら、さっさと食べないと無くなるぞ」
「うるさい。悠真、けんくんのプリンも私の前にもってきてね」
「分かった」
「悠真!?俺のプリンは絶対に渡さないでくれ!!」
「そのあたりはお前たちで解決してくれ」
今は美由の言う通りにしとくのが一番いいだろう。それに、今回は健一自身がやらかしたんだから自分で責任取ってもらわないとな。解決してもらわないと面倒くさくなりそうだからな。
「また始まりましたね」
「そうだな。いつも通り健一が悪いんだけどな」
「そうなんだね。この二人もいつもこうなんだね。学校のときとも変わんないね」
いつも通り喧嘩(?)を始める二人を眺めながら、美月とまた始まったと話していた。そんな会話を聞いていた小森さんも学校での二人の姿と重ねたらしく、謎に納得していた。
「そういえば美月ちゃんに恋人がいるって噂が流れてたけど、その噂って何処から出た噂なの?この前の夏祭りのときに見られたからとか?」
「そういったところから出ている噂ではありますけど、私自身が聞かれたときに否定していないことも原因だと思いますね」
「そっか。噂自体が悪質なものじゃないし、なんなら本当のことだからいいんだけど、もし困ったことがあったら言ってね。学生の力でどうにかできないとき事務所動かしてでも止めるから」
「それは大事になるのでそうならないうちに解決します」
小森さんに学校で広まっている噂の原因について聞かれたが、こうなっているのは俺たちが意図したことだ。もちろん夏祭りに見られたことから広まり始めた噂だが、美月が拒否しないことがこの噂の信憑性を上げたのだろう。
あと小森さん、学校のことだけで所属もしていない生徒のために事務所を動かそうとするのはやめようか。美月も驚いて苦笑いしかできなくなってるよ。
「このガトーショコラとチーズタルトなんだけど、残ってる三切れずつは持ち帰ってくれると助かる。もちろん、口に合わなかったりしたら置いていってくれて構わないから」
「え、持ち帰ってもいいの?じゃあ一個ずつ持ち帰ってお母さんと食べよっと」
「では私も華と洸汰に食後のデザートとして持ち帰りたいです」
俺は残ったガトーショコラとチーズタルトを持って帰ってもらう提案をすると小森さんと美月が持ち帰りたいと言ってくれたので後でプラスチックのパックに入れて渡すことにした。
「とりあえず一旦試食するものは終わりだな。まだプリンもが残ってるけど、今は口が甘くなってるだろうから後でな」
「そういえば美由ちゃんがプリンって言ってたね」
「健一からのリクエストでな。初めて作ったけど悪くない出来だったぞ」
「さっきまで食べてたから味の心配は全くしていないけどね」
まだ冷蔵庫の中に入っているプリンはもう少し時間が経ってから食べることにした。パンケーキにフレンチトースト、ガトーショコラにチーズタルトと甘いものが続いていたので少し休むためにも時間をあけることににしたのだ。
「そういえばコーヒーを淹れようと思うけど、ふたりとも飲める?」
「ミルクを入れてほしいな」
「私はミルクと砂糖を入れてほしいです」
「はいよ」
俺はキッチンに向かい、さっき挽いておいた豆にお湯を入れてコーヒーを作っていく。そのコーヒーをマグカップに入れていく。小森さんと美月のものにはミルクを入れて、角砂糖も一緒にテーブルの上に運んだ。砂糖は自分で入れてもらった方がいいだろうからな。
「あれ?俺のコーヒーは?」
「お前たちが言い合ってるあいだにいるか聞いてたんだよ。あと、お前はどうせ飲むと思って用意してある」
「流石だな悠真」
小森さんと美月のコーヒーを運ぶと、美由との話し合い(?)を終えた健一が自分の分のコーヒーはどこにあるのかと聞いてきた。
もちろん健一が飲むことは分かっていたので用意していた。ただ、まだ言い合っていたら渡さなくていいかと思っていたからな。
「プリンはいつ出てくるんだ?」
「もう少し経ってからだ。その方が口の中もいい感じになるだろうからな」
「じゃあその間に・・・」
「お前の課題を見ててやるよ」
「げっ」
明日提出の課題があるのだが、どうせ健一は終わっていないだろうから言ってみたら、案の定、終わっていなかったらしい。もちろん課題を写させてやる気はないからちゃんとちゃんとやるように見ててやる。
「持って来いって言った理由はそれかよ」
「ああ、お前はどうせやってないと思ったからな」
プリンを出すまでのあいだに課題を終わらせるように進めていくか。
「なんでここでまで課題をやんなきゃいけないんだよ」
「お前がやってなかったのが原因だ。ほら、課題が終わったらプリン出してやるから」
「さっさとやるぞ悠真」
「終わってないのお前だけどな」
さっきまでやる気なさそうにしていた健一がプリンを出すって言った瞬間に、すでに課題に取り組み始めていた。うん、プリンの力は偉大だな。
健一は今までに無い速度で課題を終わらせていた。プリンの力って偉大なんだな。
「じゃあ今からカラメルかけてくるから待っててくれ」
俺はキッチンに向かって、冷蔵庫の中で冷やしていたプリンを取り出してさっき用意したカラメルをかけた。
「これプリンな」
五人分のプリンを運んで来た。昨日食べた感じだとプリン自体の出来は悪くなさそうだったし、カラメルも成功してるから大丈夫だろう。
「美味っ」
「それは良かった」
健一からの要望でプリンを作ったので健一からの評価が好評でとりあえずは良かった。
「ねえ悠真、ホイップクリームとかってある?」
「あるよ。トッピングするか?」
「うん」
美由に言われたので冷蔵庫からホイップクリームを取り出してきた。一回ショートケーキを作るのも考えたのでホイップクリームを買っていた。まあ果物は日持ちしないってことで諦めたのでホイップクリームだけが残ったというわけだ。
「驚かないって言ったけど、こんなにいろんなスイーツが作れるのは反則だと思うな」
「そうですね。ちょっとずるいと思います」
小森さんと美月からも好評(?)だったし今回の試食会は大成功と言えるだろう。
やっぱり自分が作った料理を美味しいって言って食べてくれて、笑顔になってくれるのは嬉しいものだな。
まだ試食会の話は続きます。
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