第113話 夏休み最終日
今日は約一ヶ月あった夏休みの最終日。まだ外は夏の暑さが残っているし、明日もまだまだ暑くなる予報だ。
そんな暑い中でクーラーをつけながら俺は、俺たちは家の中でゆっくり夏休みが明けるのを待つ、、、なんてことはなく
「あーもう、終わんない!」
美由が俺の家の中でそんなことを叫んでいた。
「まあ、今までやってきてなかったツケだな」
「そういうけんくんだって終わってないでしょ」
「ざんねーん、俺はあと1ページだけなんだよな。毎日コツコツやってたのよ」
「う、裏切り者!!」
美由の横では健一も夏休みの宿題をやっていた。
「なあ、なんで俺の家なんだ?お前たち二人ならお前の家でやれよ」
「私たちだけだったらサボるからね」
「そうそう。特に美由がやらない」
「でも、当日になって急に、それもアポ無しで来る必要なくない?」
家でいつも通りゆっくりしてたら急にインターホンを鳴らされて押しかけられた俺の身にもなってくれないか?
「そこ、間違ってますよ」
「え、本当だ。んー、ここはどう解くの?」
「そこはaの値を場合分けすると解けますよ」
「あ、本当だ!流石だね美月ちゃん」
美由の宿題で間違っていた部分を美月が修正していた。
「最初から連絡くれれば良かったじゃねえかよ」
「だって、そうしたらお前一人しかいないだろ?俺は美月さんにもいて欲しかったからな」
たしかに、前もって健一から宿題をやりに行っていいかと聞かれたら俺だけで教えることになっていただろうな。
今日は夏休み最終日だったので、最後に二人でゆっくり過ごさないかということになり、美月が俺の家に来ていた。
ちなみに、花音はお盆休みが終わった後に父さんたちのところに帰った。夏休みは続くが部活動が再開するかららしい。そういえば中学の時は部活動が夏休みより先に再開していたし大変だなと思った。
「こうやって当日急に乗り込んだら予想通り二人でイチャついてたから助かったけどな」
「イチャついてなどいない。ただゆっくりしていただけだ」
断じてイチャついてなどいない。まあ、二人で一緒にいていい雰囲気になったのも、お互いの距離感が近かったことは否定しないけど。
「はいはい。俺達の宿題、もといみぃちゃ、、美由の宿題が終わったら俺達は帰るからそれから精一杯イチャイチャしてくれ」
「だからイチャついてなんかいない」
健一とそんな会話をしている間に、健一は自分の宿題を終わらせた。
「よし、一足先に開放されてるからなー」
「ずるい!けんくん、私の分も半分やって」
「美由さん、それはいけないですよ。それでは美由さんの宿題ということにはなりませんから」
美由は健一に助けを求めて、美月に咎められていた。うん、それは美由が悪い。
「というか、なんでみんなは宿題が終わってるの!!私と一緒に遊んでたじゃん」
「私はコツコツやっていましたから。夏休みの宿題は7月の間に終わらせて自主学習の時間に当てていましたね」
「俺は成績を落とさないことがこっちで一人暮らしをする条件だからな」
「俺は最終日に徹夜するのが嫌だったからやるようにはした」
美由は俺たちが夏休みの宿題を終わらせていたということに対して怒りをあらわにしていた。
俺と美月は学校でも優等生な部類に入る、というか優等生なので当たり前のように終わらせていた。健一もやれば出来るやつなわけだし、今回は徹夜したくないという動機があったから終わらせていた。
美由はずっと「ズルい」と叫んでいたが、美月に「はい、やりましょうね」となだめられていた。駄々こねる娘とそれをなだめる母親にしか見えなかった。
「なんだか母娘みたいだな」
「俺も同じことを思っていた」
俺が思っていたことを健一が口に出したので俺は賛同した。
そんな母娘は注意されながらも順調に(?)夏休みの宿題を進めていった。
二人が俺の家に押しかけてきてから時間がたって昼過ぎの時間になっていた。
「もともと二人分の食材しか冷蔵庫の中にないんだけど、お前たちは昼はどうするつもりだったんだ?」
「ん?悠真の家で食べるつもりだったけど」
「そそ、私はオムライスが食べたい!」
「だから具材がないって言ってるだろうが」
どうやら二人はあたかも当たり前のように俺の家で食べていくつもりだったらしい。
前もってそういうことは言ってもらわないと用意出来ないんだよ。
「で、その食材はお前の家に」
「ない」
「だろうな」
そして、健一の家にも食材はないらしい。俺はこの前うちに来たときに、食材を持ち込んでくれって言わなかったっけ?
「よし、食材を買いに行くぞ。悠真さっさと準備しろ」
「なんで俺までいくことになってるんだよ」
「え、だって食材わかんないし。大丈夫、材料費は俺が出すから」
「よし、今日は高級オムライスにしよう」
「ちょ、待てよ、おい」
よっしゃ、健一の財布で大量に高級食材を買って料理出来るなんて今日は最高の1日になるじゃないか。
「じゃあ、俺達が帰ってくるまでしっかり進めておけよ。美月、美由のことをちゃんと見ておいてくれよ」
「はい、分かりました。ビシバシ指導していきますね」
「お、お手柔らかにお願いします、ね」
俺達は美月に美由のことを見張っておくようにお願いしてから家を出て近所のスーパーに向かっていった。
俺は家を出て数分歩いただけで額に汗が滲んできた。まだ夏の暑さが残っているのが肌で感じられた。
「なあ、お前たちは結局どうするんだ?」
「どうって?」
スーパーに向かっている最中に健一がそんなことを聞いてきた。俺は主語がないその言葉に対して何を答えればいいのかさっぱり分からなかった。
「学校での立ち回り方だよ」
「ああ、その話か。考えては無くはないけど、臨機応変にって感じかな。俺のクラスでの立ち位置とか、どこまで美月の彼氏の話が広まってるかによるかな」
「まあそうなるよな」
俺たちが夏祭りに行った際に何人か学校のやつとすれ違っているので、美月に彼氏がいるという噂が学校で広まってるかもしれない。
そしてその噂はおそらく相手が誰か分からないという状況で広まっているだろう。直接会話をした錦戸さんと一ノ瀬さんも相手が俺だってことは分かっていなかったからな。一緒にいた小栗にはちゃんと俺だとバレていたが、小栗は俺のことをわざとバラすようなことはしなそうだから大丈夫だろう。
「そういうお前たちはどうなんだ?」
「俺と美由か?」
「他に誰が居るんだよ」
「うーん、まあ今は現状維持かな。どっちも困ってるわけではないからな」
もともとこいつらは仲の良い二人として学校では通っている。そのため、二人が一緒にいることに周りの奴らは疑問を持たないし、夏休み前より距離感が近くても『あいつら付き合ったんだな』としか思われないだろう。
「もし、美由にちょっかいかけるような変な虫が現れたら考えるさ」
「おー怖い怖い」
「そういうお前は美月さんがちょっかいかけられたらどうするんだ?」
「相手を滅ぼす」
「お前のほうが怖いじゃないか」
俺の美月に手を出そうとしたんだ。それ相応の結果があって然るべきだ。
美月は俺と違って学校での人気度も高いし、ファンクラブまである。いつ誰に告白されてもおかしくない。やっぱり俺のものだって言いふらしたほうがいいのかもしれないな。
そんなことを話してるうちにスーパーに着き、中に入るとクーラーが効いていて涼しくなっていた。
「で、何買うんだ?」
「卵と鶏肉かな。あと、玉ねぎとグリンピースだな。ケチャップは家にあるから大丈夫だ」
「りょーかい。グリンピースは却下で」
「なんでだよ。まあいいけどよ」
俺と健一は別れて食材を取りにいく。俺は鶏肉とその他のちょっとしたものを。健一は卵と玉ねぎを。
俺の目の前にはグリンピースがあるが、健一が嫌いらしいので今回は入れないで作ることにする。
「なあ、玉ねぎってこの5個入りのやつでいいのか?」
「ああ。玉ねぎは料理でよく使うからな。全然使い切れるからな」
「そうか。じゃあよくお邪魔することにするわ」
「なんでだよ」
健一は卵を2パックと玉ねぎを一袋持って合流した。
「なあ、そのひき肉は?オムライスにひき肉は使わないよね」
「ああ、使わないな。今日の晩飯のカレーに入れようと思ってな」
「今日の晩飯はカレーか。俺は大盛りに目玉焼きトッピングで」
「なんで食っていく気でいるんだよ。お前さっき宿題が終わったら帰るって言わなかったか?」
「俺は帰るとは言ったけど、戻ってくるとは言っていないぞ」
よし、こいつが来ても鍵を閉めておこう。それなら入ってこれないし、食べられないだろうからな。
「合鍵あるぞー」
「そんなことのために使うために預けたんじゃないんだけどな」
「まあまあ、冗談はそこら辺にしておいてそろそろ帰りますか」
「お前が始めたんだけどな」
俺たちはカートに商品を入れたかごを乗せてレジに向かう。俺は財布を出そうとしたが、健一に止められた。
「俺が払うから。流石に食材費までもってもらって急に作れっていうのは違うだろ?」
「普段の食材まで買ったけど」
「その辺は今までの分と、手間賃ってことで」
そう言って健一が今回の会計の全額を負担していた。まあまあ馬鹿にならない金額になっていたので、少し申し訳ない部分もあった。
買った荷物は2つに分けて家まで運んでいった。やっぱり夏の暑さはまだ抜けていない。
家に帰ると目の光が抜けている美由とそんな美由を監視しながら教えている美月がいた。うん、この様子だと美月にしごかれていたっぽいな。
でも、俺たちが買い物に行く前より明らかにページ数が進んでいる。このままのペースで行ったら二時間かからないで終わるだろう。
「悠真さんおかえりなさい」
「ただいま」
「お出迎えできなくてすみません」
「そこまでしなくていいって、美由の勉強をみていて忙しかっただろ?美由の宿題に終わりが見えて良かったよ」
「そうですね」
俺たちが帰ってきたことに気がついた美月がこっちに近づいてきてくれた。俺は会話をしていて、健一は買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れていた。
「なあ、そこのバカップル二人、とりあえずこんな暑い中でお熱いところ申し訳ないんだけど、美由がそろそろ限界らしいから昼飯作ってもらえないか?」
健一に言われて美由の方を向いてみると、
「インスウブンカイ、サンヘイホウノテイリ、カエリテン、サクサンナトリウム、リキガクテキエネルギーホゾンノホウソク、カコブンシ・・・」
などとボソボソつぶやいていた。うん、そうとうキテるなこれは。これは急いで昼食を作って休ませる必要がありそうだな。
「さっきまでは大丈夫だったのですが、、」
「おそらく美月さんが目の前からいなくなってから自分の中で分からない問題に出会って頭がパンクしたんだろう」
「ま、とりあえず急いで作るから、先に休ませてやってくれ」
俺はキッチンに立ち、食材を調理し始める。いつもオムライスを作る時はチキンライスを作ってからすこし休ませているのだが、今日は時間もないしその工程は飛ばして作る。
小さく切った鶏肉とみじん切りにした玉ねぎを炒める。ある程度火が通ったらコンソメキューブを入れてさらに炒める。
飴色になって、コンソメキューブでまんべんなく味が染み込んだら、そこに白米とケチャップを入れて炒める。米が赤くなり、酸味がある程度飛んだら火を止めてチキンライスの完成だ。
「なあ、オムライスだけど卵ってどれがいいんだ?」
「どれって?」
「ドレスかオムレツかだな。あと堅焼きも出来るぞ」
俺はオムライスをよく作っていたので、卵の焼き方も複数できる。個人的にはどれも違った良さがあるので、食べる人に合わせようと思う。
「私は、堅焼きがいいです」
「俺はオムレツがいいな。あの切り込み入れてパカって割るやつがやりたい」
「・・・堅焼き」
それぞれの要望を聞いて、その通りに卵を焼き始めた。溶いた卵に少し牛乳を入れて、フライパンにはバターと油を引いておく。卵を流し込んで、焦げないように注意しながら焼いていく。火が通ったら卵の上にチキンライスを入れて包み、皿の上に盛り付ける。堅焼きオムライスの完成だ。
オムレツは中が半熟じゃないといけないので火を少しだけ通したら、持ち手の部分を叩きながら形を作り、用意しておいたチキンライスの上に半熟のオムレツを乗せる。ここで切ってオムレツを開いてもよいのだが、健一がやりたがっているしオムレツのままテーブルに持っていく。
「出来たぞ」
俺がそう言うと、三人はテーブルに来ていつもの定位置に座った。
「「「「いただきます」」」」
美月と美由が順番にケチャップをかけている間に、健一がナイフで切り込みをいれてオムレツを割っていた。
「ウヒョー、綺麗にオムレツ割れたし、とろとろのオムライスが出来たぜ」
「まあ、なかなか家でこんなふうにオムライスを作ることがないだろうからな。俺はちょくちょく家で作ってたからできるようになったけどな」
「流石だな。味も上手いしおかわりはあるか?」
「あるけど、次は自分でやってみたら?」
「俺には出来ん!」
「はっきり言うんだな」
健一はあっという間にオムライスを平らげて、おかわりをねだってきた。しょうがないから作ってやるか。
昼食を取り終わった後、美由は残っている宿題を終わらせるために取り組んでいた。俺と美月、健一の三人でそんな美由を監視しながらワイワイしていた。美由も息抜き程度に遊んでいた。終わりが見えているから大丈夫という見込みがあったからな。
「ん?どうしたんだ悠真。そんなふうに笑みなんか浮かべて。なんだか気持ち悪いぞ」
「気落ち悪いはひどいだろ。まあ、なんでもないよ。この日常がいいなって思っただけ」
「何言ってるのか分かんないけど、そうかよ」
俺は今日のこんな日がいいと思った。
ゆっくり過ごす夏休み最終日もいいと思ったが、こんなふうにみんなで盛り上がって過ごす夏休み最終日も悪くないと思った。
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