第112.5話 健一と悠真

 健一とは同じクラスで、クラスの中でもしつこく話しかけていた。俺は最初から健一と距離を置いていて、態度も素っ気ないものだった。そんな俺にも健一は変わらずに話しかけ続けた。

 そんなある日の放課後、俺は思わず聞いてしまった。


「なあ、なんでそんなに俺に話しかけるんだ?」

「え?なんでそんなこと聞くんだよ」

「いや、鬱陶しいから」

「ひでーな。俺はお前のことが放っておけないんだよ」


 なんだ、こいつは余計な正義感から俺に話しかけていたのか。


「だってお前、何もかもがグシャグシャになった子供みたいな感じがすんだよ」

「は?」

「いや、自分の中に引きこもって周りを拒絶してるような感じ」


 そう言われて俺は心当たりにか無かった。俺は高校三年間、誰とも深くわ関わらずに過ごしていこうとしていた。それに、これ以上俺を誰にも見せないで一生を終えるつもりでいた。


「それにさ、俺知ってるよ」

「は?」

「いや、お前に何があったか。俺さ、あの日バスケの遠征でそっちに行ってたんだ」

「え、、、」


 あのことがバレてる。そんなことになったら中学の時みたいにまた、、、

 俺は全身の血の気が引いていく感じがした。


「すまん、あのとき何も出来なくて」

「え?」

「あの時近くにいてお前がやってないこと見えてたんだ。でもさ、怖くて体が動かなくて何も出来なかった。目の前で同学年のやつがとんでもない目にあってるのに」

「・・・」


 なんでこいつが謝る必要があるんだ。こいつは何も悪くない。あのときに見ていた人はもっと多くいた。それでもこいつはその時のことをわざわざ謝ってきた。


「それで俺に話しかけ続けてたのか?」

「いや?。俺はお前がそんなふうに引きこもって高校生活を過ごすのがもったいないと思ったからだ。せっかくだからやりたい放題やろうぜ。一度きりなんださ」


 そんなこと言う健一の笑顔は夕焼けを背景にきれいなものだった。


「なあ、明日はお前の家に行っていいいか?」

「なんでだよ」

「お前の家から毎晩いい匂いするから夕飯が食べたいの」

「何いってんだお前。いや、」


 いいのかもしれないな。信頼できる人を一人ぐらい作っても。それに、健一は俺のことを知ってるようだし大丈夫かもしれない。


「しょうがねえな。その代わり食材は持ってこいよ」

「ああ」


 そんなふうにして俺は健一と関わり始めた。

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