第107話 鍋パーティー(?)

 俺はが家に変えると、不機嫌そうな顔をした花音が出迎えに来た。


「遅いよ、お兄ちゃん。もう家の片付け終わっちゃったんだから」

「散らかってたのは誰のものだったんだ?」

「全部花音のものです」

「じゃあ、片付けるべきなのは?」

「・・・お兄ちゃん?」

「馬鹿たれ」


 なんでお前が散らかしたものを俺が片付ける必要があるんだよ。自分で散らかしたんだから自分で片付けなさい。


「それで、なんでそんなにお兄ちゃんは帰ってくるのが遅くなったの?」

「あ、それは・・・何だったんだ?」

「ん?どういうことお兄ちゃん?」


 本当にあれは何だったんだ?よく分からない少女に連れて行かれて、存在すら分からない神社に行って、気がついたら何も無くなっていた。あの正体は一体何だったんだろう。


「よく分からない子とよく分からない場所に行ってた」

「本当に何してたのお兄ちゃん!?」


 妹には驚いていた。俺自身も意味がわかっていないし、そんなふうになるのも分かる。


「後でここに来る人に聞いてみるか。ここが地元らしいからな」

「お義姉ちゃんでもそんなこと分かるのかな?」


 うーん、美月には分からないかもしれないけど、そういうのは健一が詳しかったりするんじゃないかなって思ってる。夏祭りのときのスポットを見つけてくれたのも健一だったわけだし。

 そんなことを考えていたら、家の呼び鈴がなった。


「あ、お義姉ちゃんが来たんだ。早く開けなきゃ」

「ん?ああ、開けてきてくれ」


 花音はそんな呼び鈴を聞いて勢いよく玄関に向かって走っていった。

 花音は美月が来たと思っているが、今の呼び鈴はこの家の前のについているインターホンが直接押されたときの音だ。

 俺は美月にこの家の鍵を渡していないし、ここに来るにはエントランスを通れないはずだ。健一とバッタリあったりしない限りこの呼び鈴の正体は美月じゃないだろう。

 ってことは、この呼び鈴の正体はあいつだろう。

 そんなことを考えていたら、玄関の方から花音が帰ってきた。なぜか一人で。


「あれ?人が来たんじゃないのか?」

「不審者が立ってたから閉じてきた」

「ん?んん??」


 どういうことだ?このマンションはセキュリティがしっかりしてるのに、こんなところまで不審者が来るはずが無いんだけどな。


「その不審者って男だったか?」

「うん」

「身長は俺と同じくらいだっただろ?」

「そうだけど、もしかして何回もお兄ちゃんのところに来る不審者なの?」

「うーん、俺の家に何回も来てることには間違いないんだけど・・・」


 そんなことを話している間にもう一度呼び鈴がなった。


「ったく、あいつは不審者でも何でもねぇよ。ちゃんと俺の知り合いだ。俺が出てくるから、ちょっと火を見といてくれ」


 俺は花音に料理を確認してもらうことにして、俺は玄関に向かってそいつを招き入れにいった。


「すまん、そういえばお前が来ること伝えてなかったわ」

「そういう大切なことはちゃんと伝えておけよな。お陰で何が起こってるのかさっぱり分からなかったわ」


 玄関を開けると、目の前には健一が立っていた。


「それでだ」

「?」

「美月さんという贅沢な彼女がいながら、女を連れ込むなんてずいぶんと偉い身分になったもんだな」

「ん?」


 一体何のことだ?俺はそんなことした覚えもないし、今後もするはずがない。あんなに立派な恋人がいて、なんでそんな事する必要があるんだよ。


「とりあえず中入れよ」

「そうだな、話は中でしたほうが良さそうだな」


 なんでこいつはこんなに不機嫌そうなんだよ。もしかして、こんな真夏に鍋をするのがそんなに嫌だったのか?


「ちょっとお兄ちゃん」


 そう言って、俺は花音にキッチンに引きずり込まれた。


「なんで、不審者を家に入れてるの?」

「いや、だからあいつは不審者なんかじゃなくてだな・・・」

「おうおう、俺が居てもその知らない新しい女に夢中なんだな」


 花音に健一のことを説明しようとしてると、健一がこっちに来てなんかキレていた。


「健一?」

「お前はそんな事するやつじゃないと思ってたんだけどな」

「ちょっと待て、何を誤解してるんだ?」

「お兄ちゃん、その不審者はけんいちって言うの?」


 なんだか修羅場になっていた。一体何が原因なんだ?

 俺の妹と親友が修羅場ってる。なんだか作品のタイトルみたいだな。

 そんなこと考えている間にもう一度呼び鈴がなった。今回は、エントランスからの方だ。


「お前は一体悠真の何なんだ?」

「それは花音の言葉です。あなたこそ何なんですか」

「俺はあいつの親友だ」

「花音は大切な人って言われてます」


 俺は言い合っている2人のことを置いて確認しに行くと、そこに映っていたのは予想通りの人物、美月だった。

 俺は美月のことをエントランスを通して、家の鍵も開いているからそのまま入ってきてと伝えておいた。


「お邪魔します」

「いらっしゃい」


 美月が玄関を開けて入ってきたので、出迎えにいった。その間、俺の後ろにいる2人は美月のことに気づかずに言い合いを続けていた。


「悠真には彼女が居るんだよ。そんなことお前になんか言うはずがないだろ」

「知ってますよ。彼女が居ることなんて」

「ってことはお前は(悠真のことを)奪おうってのか」

「はい。(お義姉ちゃんのことを)奪おうと思っています」


 いつまでやってるんだこの2人は。しかも、なんだか主語が微妙にズレて会話が進んでいる気がして仕方がない。


「悠真さん、これは?」

「ああ、なんだか健一が来てからこうやって騒がしくてな」

「健一さんの声で、『彼女が居るのに』なんて聞こえてきましたけど、もしかして女の子を呼んでいたんですか?」

「違う、違うから」


 健一が変なことを言っているから美月が勘違いしたじゃないか。後で健一には説教だな。

 そして、美月の目が怖い。人の目ってそんなに光を消せるんだ。絶対に怒らせないでいようと心に誓った。


「そこのドア開けたら分かるから」


 そう言ってドアを開けて中に入っていった。そして、ドアが開いてようやく美月が来たことに気がついたの健一と花音が同時にこっちを見た。


「あ、美月さん。そのー、いや、隠しても無駄だよな。そこの悠真のクズが家に女を連れ込んでましてですね、、」

「お兄ちゃんはクズなんかじゃ無いもん。ごめんね、お義姉ちゃん。すぐにそこに居る不審者を追い払うから」

「・・・なるほど。そういうことでしたか」


 そんな2人のことを見て美月はこの状況に納得してくれた。


「なあ、ふたりともちゃんと自己紹介はしたのか?」

「人の彼氏を奪うようなやつにする挨拶はない」

「花音も不審者にする挨拶なんて無いもん」

「花音は自分の名前言ってるけどな」

「あっ、」


 どうやら2人のすれ違いの原因は、お互いの素性が分からないことが原因のようだ。


「でも、なんとなく俺の勘違いだってことが分かった。だってこいつは美月さんのことをお姉ちゃんって言ってただろ?ってことは美月さんと姉妹なんだろ。まあ、悠真が大切な人って言ってるところについては色々聞かなきゃいけないけどな」

「『お姉ちゃん』じゃなくて『お義姉ちゃん』」

「ん?今の何が違うんだ?」

「大丈夫だ。俺にもあんまり分かっていない」


 別に音にしたら一緒なんだから、区別つける必要なくね?って思ってる。


「まあまあ、花音さん落ち着いてください。健一さんは不審者ではありませんよ」

「え、お義姉ちゃんの知り合いなんですか?」

「そうだけど、それより悠真さんのお隣に住んでる人ですよ」

「そうだぞ花音、こいつは隣人さんだ」


 俺はそろそろ紹介したほうがいいなと思ったからちゃんと話すことにした。まあ、もともと話そうとしたところを2人が聞かなかっただけだったんだけどな。


「健一はクラスメイトだし、俺の過去のことを知ってるよ」

「え?お兄ちゃんが話したの?」

「いいや、もともと知ってたんだよ」


 健一は俺のことをもともと知っていたから、俺は話しやすくて仲良くなれたのかもな。


「そして健一、花音は美月の妹じゃないよ」

「は?」

「俺の妹だ」

「は?」

「この前、というか昨日一緒に出かけたときに美月のことをお義姉ちゃんと呼びはじめたんだよ」


 俺は健一にも花音が俺の妹だということを説明した。

 そして、ようやく2人は落ち着いて向かい合った。


「お兄ちゃんの友達だったんですか」

「最初から言ってたんだけどな。まあ、俺も話を聞かないでキミのことを決めつけてた部分があったから人のこと言えないんだけどな」

「そうだぞ、お前らが冷静だったらこんなことは起きなかったんだからな」

「お前が説明してくれてればよかったんだよ」

「俺は何回も言おうとしたのにお前らが聞かなかったんだよ」


 俺は言っても聞かないから諦めたんだよ。ちゃんと周りが見えてるならこんなことにならなかっただろうけどな。


「お兄ちゃんとは本当に仲が良いの?」

「ああ、これは疑われてるな。ちゃんと仲いい、、はずだ」

「なぜそこで詰まるんだよ」

「だって、最近のお前は美月さんに付きっきりで他のことが疎かになってるだろ?俺とも最近は遊ばなくなったし」

「それは、、、」


 認めます。最近の生活の中心は美月になってて、健一とは遊んでないです。はい。

 でも、この前みんなで夕飯を食べたような?


「ふふ、健一さんもダメですよ。寂しいからって悠真さんのことをからかうのは。悠真さんは本気にして落ち込んじゃうんですから」

「え?」

「は、ばっ、そんなんじゃねえよ。だって、俺がお前たちがくっつくように動いてたんだから」


 健一は、いかにも美月からの指摘が図星だったかのように早口で喋っていた。


「健一さん、あなたがお兄ちゃんとお義姉ちゃんがくっつくように動いてくれたんですね」

「俺の他にも動いてくれた人が居るけどな」

「花音は健一さんのことを誤解していたようです。花音のお兄ちゃんとお義姉ちゃんのために動いてくれる人に悪い人はいません」

「お前の妹の価値観大丈夫か?」

「俺も今の一言で心配になった」


 花音よ、もう少し周りを疑うんだ。健一はお前が思っているよりも腹黒いぞ。すぐに俺のことをからかおうとするし、急に家に来て飯を食おうとするやつだぞ。


「まあ、お二人が仲直りできたなら良いんじゃないですか」

「そうだな」


 この一件によって仲良くなった健一と花音が、健一が俺の家に夕飯を食べるたびに、なにか悪そうな顔をするようになったのは別の話。


「いや、私のこと忘れないでよね」


 その後、自分だけがここに居なかった美由がやってきてもう一波乱があった。うん、いつになったら夕飯が食べれるんだろう。

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