第106話 神社
皆さんに質問です。もし、自分の目の前に知らない子が立っていて、こっちに来てと言ってきたら皆さんならどうしますか?
なぜこんなことを聞いたのかって?それは今の俺の状況はどうするのが正解なのか分からないからです。
俺は美月と一緒に遊園地デート(花音付き)をした次の日、俺は夕飯の買い物をしようと近くのスーパーに足を運んでいた。
「ねえお兄ちゃん、なんで花音まで一緒に行かなきゃいけないの」
「今日はこの時間までなにをしていたのかな?」
「はい、夏休みの宿題の自由研究をしていました」
「それは花音1人でやっていたのか?」
「違います、花音とお兄ちゃんの2人でやっていました」
「だからこんな時間に買い物をすることになったんだよ!!荷物持ちくらい手伝えや」
花音が買い物に対して文句を言ってきたので、全てを否定してやった。
いや、だって今日一日中、花音の自由研究のせいで何も出来なかったんだよ?そのくらいの対応はされても文句は言われないはずだ。
「それはそうとしてお兄ちゃん」
「なんだ、まだ文句があるのか?」
お、やんのか?こっちの手札はまだまだあるから負ける気はしないぞ。例えば、昨日のデートの事とかな。
「いや、不満は元々ないし、さっきのはほんの冗談だからいいけど」
「そうか?目が本気だったけど」
「・・・」
「目を逸らすな」
これはやっぱり説教ですね。お兄ちゃんに対して頭が上がらなくなるように話をしなくてはならないようだ。
「それで本題なんだけどさ」
「お前が自分で話題をそらしてたんだからな」
「まあまあ、それはその辺に置いておいて」
「お前の周り置きすぎて大変なことになってそうだな」
「お兄ちゃん、話を反らさないでください」
おっと、俺としたことが。
「お兄ちゃん、私は自由研究を頑張ったご褒美がほしいのです」
「というと?」
「お菓子がほしい」
「却下」
何を言うのかと思ったらお菓子かよ。勢いで却下しちゃったよ。まあ、ダメなものはダメなんだけどな。
「えー、なんでよー」
「もうすぐ夕飯にするんだから、今お菓子なんて食べたら夕飯が食べれなくなるだろうが」
俺が一緒に住んでる時から母さんが言ってたでしょう・・・やっぱり言ってなかったかも。なんなら母さんも一緒に食べてた気がしなくもない。
「別に今日食べるわけじゃないからさ、お兄ちゃんお願いします」
「・・・1個だけだぞ」
「やったー」
俺は花音からのお願いを許可した。
正直に言うと、お菓子を買うこと自体に文句はないし、今日の自由研究で花音が頑張ってたことも事実だから最初から買ってあげるつもりではいた。
「それでだ、花音」
「どうしたの?お兄ちゃん」
「今日の夜は何食べたい?」
「蟹!!」
「却下」
高すぎるから買えない。高校生に蟹を買えるほどの財力はない。
「鍋が食べたい!!」
「夏なのに?」
「夏なのに!!」
まあ、今日は花音が頑張ってたし花音が食べたいって言ってるものを作るか。
「何鍋?」
「闇?」
「却下」
「じゃあおまかせで」
花音は一度ボケないと死んじゃうのか?闇鍋なんてするわけが無かろうが。面白そうだから健一とならやってもいいかなとは思っているけど。
「花音、鍋を2人で食べるのは寂しくない?」
「じゃあ人を呼ぶ?」
「ってなると今から呼んでも来れそうなやつらか」
「花音はお義姉ちゃんに来て欲しい」
「美月は言ったら来れそうだな」
後は隣にいるやつを呼んで、そしたら着いてくるだろうやつも入れてってことになるから、必要な食材も多くなるだろうな。
「さて、人を呼ぶんだから荷物持ちくらいは働くように」
「はーい。花音はお義姉ちゃんのために頑張ります」
「できれば俺のために頑張って欲しいところなんだけどね」
美月と花音が仲良くなったことは良いことだし、兄としても恋人としても喜ばしいことなんだけど、俺より美月のほうが扱いが良いことに納得がいかない。
「で、お兄ちゃんは今日どんな鍋を作るつもりのなの?」
「うーん、鶏出汁かな」
今から買う食材や、シメに何を作るかを考えたときにそうするのが一番いいと考えたからだ。
そして、俺は花音と一緒に食材を買っていった。人数分ってなると食材の量も費用も馬鹿にならないからな。ちゃんと節約しながら買わないとな。
「お兄ちゃん、本当にこの量買うの?」
「だからお前にも来てもらったんだよ」
お盆期間に入るということで、俺は家から出たくないので、というかこんな真夏に買い物のためだけに何度も家を出たくないから買いだめをしようと思っていた。
「重い、暑い、疲れた」
「誰のせいでこんな時間に買い物に来てるんだっけ?」
「誠心誠意働かせていただきます」
「よろしい」
買いだめするには荷物持ちの人がいた方がいいというのは事実だが、今日は夕飯の食材のせいでいつもより多くなっている。
ただ、持っている荷物が重いのは事実だし、ここは一つ、花音のやる気が出そうなことを伝えてみるか。
「そういえば、美月は来てくれることになったぞ」
「そういうことは早く教えてよお兄ちゃん。私、お義姉ちゃんのためにならいくらでも頑張るから」
美月が今日の夕飯を一緒に食べると伝えると、さっきまでの姿はどこへ行ったのか、今日一番の元気を見せた。
最初からやってくれとは思うが、そこら辺も花音の可愛いところなのでそういうことは口には出さない。
「お義姉ちゃんが来るなら家を片付けなきゃ。ということでじゃあねお兄ちゃん」
「え、あ、ちょっと」
行っちゃった。
花音は、美月が来るから掃除をするみたいなことを言って、走って家の方に向かっていった。
そんなふうに走る元気は、一体どこから出てきたんだよ。
俺は花音を追いかけ・・・なかった。
1つは、この猛暑の中、外を走りたくなかったということ。食材も持っているし、疲れるから走りたくない。
もう1つは、家の鍵も花音が持っているし、迷子になる心配もない。だから、先に花音が帰ってくれるなら、家の掃除を任せてしまおうと考えた。だって、今日の家が散らかってる原因は花音だから。
俺は、家に急にやってくる隣人さんがいるので、常に家を綺麗にすることを心がけていた。
だから、普段ならいつ家に人が来ても困らないのだが、今日は花音の自由研究をしていた影響で、家が散らかっている。その後片付けを先に帰った花音にやってもらおう。
「お兄ちゃん」
近くからそんな声が聞こえた。お兄ちゃんと呼ばれて反射的に反応してしまいそうになったが、花音の声ではなく、もっと幼い声だったのでスルーした。
「おにいちゃん、おにいちゃん」
またそんな声が聞こえた。そして、その声を発していた幼い少女が俺の前に立ってきた。
え、俺?もしかして何か落としていたのか?
「俺の事?」
「おにいちゃん!」
少女は俺の事を指さしているし、どうやらこの少女は俺の事を呼んでいたらしい。一体、なんの用なんだろうか。
「おにいちゃん、こっち」
俺の目の前で少女はそんなことを言って指を差していた。俺はどうするべきなのだろうか。
目の前に立っているのは名前も知らない少女。でも、何処か見覚えがあるような無いような。
俺は今、さっき買った食材が入ったエコバッグを持っている。この食材が悪くなる前に帰らなくてはいけないし、今日の夕飯の仕込みだってしなければならない。
「おにいちゃん、こっち」
「・・・」
それでも、目の前にいる少女をここで無視した場合、他に人もいないしこの子は一人きりになってしまう。ここはこの子を親のところに連れて行くのが先か。
「親はどこにいるの?」
「とおいばしょ」
どうやらはぐれてしまったらしい。ここにこのまま放置していくのも気が引けるし、ひとまずこの子を親のところまで送り届けてあげるのが先なのかもしれない。
幸いにも、家には先に帰った花音がいるわけだし、人様を家にあげられるような状態にはなっているだろうから。
俺は少女のことを送り届けることにした。
「お母さんのところに行こっか」
「おにいちゃん、こっち」
俺がそう言うと、少女はまた同じ方向を指差した。もしかしたら、さっきから俺に対して親がいる方向を指差していたのかもしれない。
「じゃあ行こっか」
「おにいちゃん」
俺は少女の手を握った。これ以上はぐれて迷子にならないようにというのが一つと、この子が心細いだろうから人肌に触れて欲しかった。
少女の手は冷たかった。この猛暑の中でこんなに手が冷たくなるってどんだけの時間外にいたんだろう。俺はその少女に買っていたお菓子を渡した。これは花音のために買ったお菓子だ。ごめん、花音。後でまた買ってやるからな
「どのくらい外にいたんだ?」
「初めて」
「初めて?どういうことだ?」
知らない人と外にいるのが初めてという意味なら分かるが、この質問の流れでそうはならないだろうし、外に出ることが初めてという意味だろう。外に出たこと無いってどういうことなんだ?
「わたし、びょうきなの」
「うん」
「それで、いままでベッドのうえでずっとせいかつしていてそとにはでたことがなかった。だから、こうしてそとをあるけるのはきょうがはじめて」
この子の手が冷たかった原因はその病気のせいなのかもしれない。俺はこの子を早く親のもとに連れていきたいと思った。
そして、俺が少女に連れて行かれた場所は、少女の親がいる場所でも少女が言っていた病院でもなく、神社だった。
その神社はただの神社ではなかった。
「なに、この神社」
「おにいちゃん、こっち」
そう言って少女は俺の手を引いて神社の中に入っていった。
俺はこの神社が不思議だった。俺はこの道を通った記憶はあるし、こんな神社があった記憶は無かった。それに加え、この神社は突風が吹いてきて目を閉じ、開けたときに突然目の前に現れた。
神社の名前がなければ、鳥居とその横に狛犬が一匹づつ置いてあるだけだった。奥には賽銭箱と鈴が設置してあった。
「おにいちゃん、おねがい、したい」
「ん?なんのお願い?」
「わたしじゃない。おにいちゃんがおねがいする。わたしは、もうおねがいしたから」
少女はそんなことを賽銭箱を指差しながら言ってきた。
「ここは、ねがいをかなえてくれるじんじゃ。おにいちゃんのねがいごともかなう」
「俺の願い事、、」
正直、そんな願いが叶うなんて胡散臭いし信用していない。それに、今の俺には願い事という願い事がない。それでも、この少女が願い事をしろって勧めてくるのだから何か願い事をするべきだよな。
俺は願い事をする・・・のではなく、日々の感謝を伝えることにした。
今日も健康な日々を送れていることに。周りの人が優しく接してくれていることに。自分の過去と向き合う機会をくれたことに。そして、美月と付き合えたことに。
「おにいちゃん、おわった?」
「ああ。それで、お母さんは何処に居るの?」
「ここにはいない」
じゃあなんでここに来たの?この神社に居るから来たんじゃないの?
「ここのおそとにいるよ」
「じゃあ行こっか」
俺は、もう一度少女の手を握って歩き始めた。神社を出た辺りでもう一度突風が吹いてきて目を瞑った。
そして、目を開けると右手の感覚に違和感を感じた。右手の方に目を落とすと、手を握っていたはずの少女がそこにはいなかった。
俺は驚いて周りを確認してみると、そこにあったのはなんの変哲もないこの街の風景だった。そう、今までそこにあったはずの神社も無くなっていた。
俺は今までの出来事すべてが現実では無く、妄想の中で起きたものなのだと考えた。でも、俺のエコバッグの中に入っていたお菓子が無くなっていた。少女にあげたはずのお菓子だけが。
俺は消えた少女と神社の関係性を考えて・・・諦めた。これはただの非科学的な現象だ。だってそうだろ?
神さまが目の前に現れて、その神社に向かったってことなんてありえないんだから。
「ヤバッ、もうこんな時間か。急いで夕飯の用意をしなくてはな」
俺は不思議だなとだけ思って、急ぎ足で自宅に帰宅した。
今日の空は、なんだかいつもより暖かく俺のことを見守ってくれている、そんな感じがした。
「おにいちゃん、やさしいひと。このまえも、きょうもあそんでもらった。またあそんでもらう。だから、おにいちゃんになにかあったらわたしがまもってあげる」
空に浮かび、雲のカタチをした椅子を作った少女(?)がそんなことを口にしながら、特徴的な赤い目で地上に居る少年をみていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます