第96話 報告

「おいーす」


 インターホンが鳴り確認するとそんな挨拶をする健一がそこに映っていた。


「鍵は空いてるから入ってこい」

「相変わらず不用心だな」

「お前が来るから開けておいたんだよ」

「知ってるよ」


 そんなやり取りを終えた後に健一は扉を開けて中に入ってきた。そしてリビングに入る扉を開けて驚いて止まった。


「こんばんは」

「・・・こんばんは」


 ソファーに美月が座っていた。


 時は少し遡る。


 俺は美月に健一から来たメッセージを見せた。


「そういえばあいつ今日俺の家で晩飯食うとか急に言ってきてな」

「そうなんですか。では私も親に連絡しますね」

「ん?今なんて?」

「ですから、私も一緒に夜ご飯を食べるのでそのことを連絡しようと」

「あ、美月も食べていくんだ」

「はい。なにか問題がありますか?」

「いえ、何も」


 なんだかもう一人追加になった。美月も食べていくことには問題がないのだが、問題が出てくる。


「実はさ、食材が無くて美月を送った後に帰りにスーパーで買おうと思ってたから冷蔵庫にも何も無いんだよね」

「なるほど、それは重大な問題ですね」


 俺の冷蔵庫の中には何もない。さっきの冷麺風そうめんでほとんどの具材を使い切った。冷蔵庫の中には万能食材の卵すら残っていない。


「唯一残ってるのはきんぴらごぼうだけですね」

「なぜきんぴらごぼうだけが?」

「それはしりません」


 この前は健一のせいってことにしたけど、実際問題なんでなんだろう。おそらくごぼうのささがきが気分良くなって毎回一本全部やるからなのかもしれない。


「ということで今から買い物に行きながら献立を考えようと思うけど美月はどうする?」

「どうしましょうか。・・・あ、良いこと思いつきました」

「なんですか?」

「美由さんも呼んでパーティーをしましょう」

「なんで!?」


 まあ、もし美由に美月と健一と三人で集まって夕飯を食ったなんてバレた場合『なんであたしだけ呼んでないのよ』なんて怒り出すかもしれないし呼ぶのは良いかもしれない。


「お二人に私達が付き合い始めたことを伝えたほうが良いと思ったのでこうすればまとめてお話できるなと思いまして」

「そうだな。俺も健一に相談に乗ってもらってたからな」

「はい。私も美由さんと美咲さんに相談してました。流石に美咲さんを急に呼ぶのは美由さんたちに何も伝えてない手前、危険な気がして」

「美咲さんのこと話すってなると本人から許可でないといけないしな」

「それに仕事もあるので急に呼んでも来れないと思いますしね」


 美咲さんは同じクラスの委員長であると同時に大人気女優でもあるから予定を予め聞いておかないといけないだろう。ということで美咲さんには後日ということで。


「じゃあ健一に美由のことも呼んでもらうか」

「そうですね。その方が面白そうですしね」


 俺は健一に美由も連れてきてもらうように連絡した。

 俺たちはその後家を出て近所のスーパーに向かった。



「ってわけで今日は美月と一緒にいるときにお前が連絡よこしたからそのままみんな集まって夕飯食べよってなった」

「なるほどな」

「サプライズです」

「てかさ、今更だけど美由のこと呼んでよかったのか?」

「というと?」

「お前は一人暮らしだし美月は親に言ってあるから良いけど、急に呼んで来れるもんなのかなって思って」


 俺と健一は一人暮らしだから急に呼んでもその日の予定さえなければすぐに集まることは出来る。ただ、親と一緒に暮らしている人たちはそうはいかないだろう。

 今日だって美月は親に連絡して許可が出たからここに来ている。美由もそうなるんだろう。


「それなら大丈夫だ。うちの親は学生のうちは遊んどけって考えだから」

「なるほど」


 そんな話をしていると『ピンポーン』とインターホンが鳴る音がした。この音はエントランスからの呼び出しだ。


「ほら、来ただろ?」

「お前は来るって連絡きてるんだったらちゃんと伝えろや」


 俺は美由をエントランスを通した。そのまま美由はこっちに向かってくる。


「そういえば俺も言ってないし美由は美月さんがいないと思ってるから面白いリアクションが見れるかもよ」

「それは良いな。じゃあ美月はソファーじゃなくて俺の部屋で待機してて美由が来たらそれとなく出てきてみてくれ」

「そんなことしていいんですか?でも面白そうなのでやりましょう」


 全員ノリノリで美由を驚かす準備に入った。

 俺は健一が来たときから料理をしてるのでそのままキッチンに、美月は俺の部屋で待機を、健一はソファーに座りながら俺のゲームを勝手にやってる。

 おい、お前はくつろぎ過ぎだ。ここはお前の家じゃないぞ。

 そして二分後、美由が入ってきた。


「タダで美味しい夕飯が食べれると聞いて来たであります」

「よし、帰れ」

「お邪魔します」

「話聞いてたか?」


 あ、当たり前のように帰れって言っちゃった。てか呼んだ俺なんだけどね。


「けんくんはやーい」

「お、美由か。俺はゲームに集中してるから悠真の手伝いしてやって」

「えー、それは、、、悠真たのんだZE☆」

「おいこら」


 少しぐらい手伝えやタダ飯喰らい義兄妹きょうだい。よし、じゃあそろそろ美月に来てもらうか。

 俺が自分の部屋の扉を開けるとそこには俺のベッドのところにいる美月がいた。そしてなにやら俺の掛け布団を持ってるような気がする。


「美月、美由が来たしそろそろ」

「スゥーー・・・は、悠真さん!?いつからここに?」

「いつって、今だけど」

「そうですかなら良かったです。け、決してゆうまさんの匂いが落ち着くし嗅ぎたいと思ったわけではありませんですからね」

「?とりあえず美由のところ行こっか」


 美月がなにか言ってたけど早口だったし美由に聞こえないように小声で喋ってたから何も分からなかった。わかったことは美月が動揺してることだけだった。

 俺は美月と一緒に部屋を出る。そして美月は椅子に座り俺はキッチンに。


「悠真、今日のご飯はなに?」

「今日は夏だしクレープをメインにしよっかなって思って」

「クレープか、いいね。でもさ、クレープって夏なの?」

「いや、言いたいから言ってみた」

「そんな適当な!?美月ちゃんも言ってやっ、、、え!?美月ちゃんがなんでここに!?」


 話し流れのまま目の前にいる美月に話題を振った美由がさっきまでいなかったはずの美月が居ることに驚いていた。


「いやいや、俺が来る前からいたぞ」

「うそ!?」

「ちなみに昼から居るぞ」

「そうですね」


 美由は空いた口が閉じないようだ。うん、実に面白い顔をしている。ただ、女子がそんな顔をして良いのだろうか?


「まあとりあえず飯にしよ、俺腹減ってしかたないんだ」

「お前は何もしてないくせになんで偉そうなんだよ」


 俺はある程度出来上がったクレープ生地と色んな具材をテーブルの上に並べた。


「生地のおかわりはあるから言ってくれ」


 そう言って俺も座った。座席としては俺の隣に美月、正面に健一で斜めに美由という座席だ。


「それでさ、今日は夕飯を食う前に一つ言うことがあってさ」

「ん?なんだ?」

「なになに?」


 俺は緊張して手が震える。そんな俺の手を美月が隣から握ってくれる。そうだ、俺には美月がいてくれるんだ。


「俺と美月さ」

「付き合うことになった」「お付き合いさせていただくことになりました」


 そう言うと健一と美由は一瞬固まったが、


「おめでとう。やっと悠真が重い腰を上げたか」

「良かったね美月ちゃん。悠真ってば遅くない?」

「なんで俺だけディスられるんだよ!?」


 せっかくのいい報告でそれを祝ってくれてるのになんで俺だけディスられなければならんのだ。


「でも本当に長いようで短いようで長い時間だったね」

「そうだな。こいつ入学式のときから美月さんに一目惚れしてたんだぜ」

「おま、健一」

「なにそれ、初耳なんだけど」

「そうなんですか?なんで教えてくれなかったんですか」


 そんなことを純粋な瞳をこっちに向けながら聞いてくる。


「う、本当だよ。あの時、新入生代表の挨拶をしてる美月に惹かれたのは事実だ」


 恥ずかしいから絶対に言わないって思ってたのに健一のやつふざけるなよ。


「さ、とりあえず冷めないうちに料理を食べよっか」

「だからなんでお前が仕切るんだよ」

「まあそんなカッカすんなって」

「誰のせいだよ!?」


 まあ夕飯が冷めちゃうのも事実だ。俺たちはてを合わせて挨拶をする。


「「「「いただきます」」」」


 そのままクレープの生地の上に思い思いの食材を乗せて巻いて食べ始める。



「そういえば二人が付き合ったならこれで遂にダブルデートが出来るな」


 こいつまだそんなこと言ってたのかよ。

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