第95話 初めてのお菓子作り
「そろそろご飯でも食べますか」
「あれ?もうそんな時間ですか?」
「もう12時半ですよ」
「時間がすぎるのは早いものですね」
いつの間にか美月がこの家に来てから二時間近くが経っていた。いや、やっぱり美月呼びが慣れないな。
「今日のお昼はそうめんです」
「夏ですし良いですね」
「ということで、美月、一回俺の膝から降りようか」
「えー、もう少しだけ」
美月はさっきまでと同様に俺の膝の上で横になっていた。
「俺の上にいたらいつまでもご飯食べれないんだぞ。それにご飯食べ終わったらまたしてやるから」
「しょうがないですね、ここはひとまず降りてあげます」
「はいはい」
「・・・えいっ」
そうして美月は俺の膝の上から降りたと思ったら、その直後に俺に飛びついてきた。
「美月、これは?」
「悠真さん成分をチャージ中です」
「さっきのでは足りなかったと?」
「いえ、さっきのは今までくっつけなかった分です。そしてこれは今日の分です」
そう言って俺に抱きついていた。俺の鼻は美月から香る甘い花のような香りに、俺の肌は触れている美月の肌のやわらかさに心臓の動きを加速させられ心臓が弾けそうなくらいにドキドキする。
「はい、オーケーです」
そう言って美月さんは俺を抱きしめていた腕の力を緩めた。
「とりあえずはこのくらいで満足しておきます。続きはご飯を食べたあとにです」
そう言って美月はソファーに座った。いやいやいや、今の台詞は反則でしょ!?俺はそうめんを茹でながら自分顔も茹で上がったように赤くなっていくのを感じた。
「できたよ」
そう言って俺はそうめん料理をテーブルの上に置いた。
「悠真さん、これって本当にそうめんですか?」
「ふっふっふっ、今日のそうめんはいつも食べているものとは一味違うんだよ」
そう言って俺は胸を張って話した。
「おそらく夏に入って何回もそうめんを食べる機会があっただろ?」
「はい、そうですね」
「だから今回は冷麺風にアレンジしてみたんだ」
と言ってもやったことは茹で時間を少し変えたのと使うタレを変えたこと、トッピングの食材を乗せたことくらいだ。
「まあ、親からそうめんが送られてきたはいいものの飽きたんだよね」
「わかります。同じ料理が続くと飽きてしまいますよね」
俺たちは昼飯を食べ始めた。初めて作った料理だたから人に出すのは正直気が引けたけれど、料理自体は美味しそうだったしこの暑い時期にはちょうどいいと感じたからそっちを優先した。
「同じそうめんなのにいつもと全然違います」
「そうだな。味つけと調理方法を変えるだけで別物に変わるっていうのも料理の面白いところだよな」
「悠真さんは本当に料理が好きなんですね」
「うーん、どうだろうな」
「好きじゃないんですか?」
好きかどうか聞かれると素直に好きとは言えないかもしれない。もちろん料理を作ることが嫌いということではない。
「俺の中で料理っていつまでも研鑽が終わらないものだと思ってて、そういう部分に色んな可能性を感じるから楽しいとは思うけど、出来ないと死ぬかもっていう思いが何処かにあるからなのか好きって素直に言えるかは微妙だな」
「なるほど。それでも楽しんではいるんですね」
「楽しく料理を作ってないとこんなに続けてられないからね」
実際に料理を作ってるときは楽しいし気分も良い。自分で食べるときだってそうだけど、こうやって人に出したときに美味しそうに食べてもらえるときは努力が報われた感じがして気持ちよくなる。
「それよりもお菓子とか作るのも良いなって最近は思ってるんだよね」
「お菓子ですか!?」
美月はさっきよりも食い気味で返事をした。
「うん。もしかして美月もよく作るの?」
「いえ、華は作るのですがあいにく私は料理が得意ではないので」
「そうですか。じゃあ今から一緒に作ってみますか?ちょうど今度作ろうと思っていたガトーショコラの材料があるので」
「でも私上手く出来る自信がないんです」
「大丈夫だよ、お菓子って分量を間違えなければ余程のことがない限り失敗しないから料理より簡単なんだ。それに最初から出来る人なんていないし、俺も一緒に作るからさ」
「そうですか。では一緒に作ってもいいですか?」
「ああ。まず昼食を食べちゃおうな」
「はい」
俺たちはまずは目の前の冷麺風そうめんを食べることにした。早く食べないと麺が伸びちゃうからな。
「「ごちそうさまでした」」
「とりあえずこの食器を洗っておくからソファーにでも座ってまっててくれ」
「わかりました」
そして俺は食器を持ってシンクに運び洗い物を始めた。そして、その洗い物をしてる最中はずっと美月がこっちを見ていた。
「どうしたんだ?」
「いや、なんか新婚みたいだなって」
「はぁぁ!?」
その言葉に俺は素っ頓狂な声しか出なかった。い、いきなり新婚だなんて、まだ俺たち付き合って一ヶ月なのにいくら何でも進み過ぎでは。
「悠真さんは面白いですね。からかいがいがあります」
「そういうイタズラはやめてくれ」
「まあ、そう思ったのは本当ですけどね」
最後の一言は何言ってるのか聞こえなかったが嫌ですみたいなことを言ったんだろう。まあこんなやり取りも心地良いからいいんだけどな。
「さて洗い物も終わったしガトーショコラを作りますか」
「はい、お手柔らかにお願いします」
俺は卵と生クリーム、チョコレートにグラニュー糖、バターを用意してテーブルの上においた。二人でキッチンに入るというのはこの家じゃ狭く、お菓子作りをするには向いていないと考えたので材料をリビングに持ってきた。
「まずは卵黄と卵白に分けようか」
「わかりました悠真シェフ」
「俺はシェフじゃない」
「雰囲気が大事かなって」
「そしたら卵白とグラニュー糖を混ぜて。あ、湯煎をしながらっていうのも忘れないでね」
美月の隣で俺も同じ作業をする。一緒に同じものを作るのも考えたけど、美月が作ったものは自分の家に持って帰ってもらおうと思ったからな。
「そしたら別のボウルを使って湯煎しながらチョコレートを溶かす」
「はい。あれ?上手く出来ません。どうしたら良いですか?」
「そうだな、ちょっと待ってて」
そう言って俺はキッチンからまな板と包丁を持ってきた。
「これでもう少し刻んでから湯煎するともっと簡単に溶けるよ」
そうして上手くお菓子作りは進んでいった。ところどころで美月が少し失敗してしまう部分もあったが俺が修正できる範囲での失敗だったし、二人でお菓子を作るのは楽しかった。
「よし、後は型に入れてオーブンで焼くだけだ」
「はい。ようやく最後ですねシェフ」
「だから俺はシェフじゃねえっての」
そうして二つの型にそれどれが作った生地を流し込んだ。オーブンの大きさの影響もありまず焼いたのは俺の方だけだった。
本当は美月のを先に焼こうと思ったのだが、頑なに先に折れが焼くと言われてしまいそのまま焼くことになった。
「どうでした?お菓子作りは」
「難しかったけど楽しかったですね。悠真さんありがとうございました」
「俺も一緒に作れて楽しかった」
そして俺たちはオーブンでガトーショコラが焼きあがるまで雑談をしながら待っていた。うーん、いい匂いがするし我ながらいい出来になった気がする。焼き上がりが楽しみだ。
そんな時にテーブルの上に置いてあったスマホが通知音を出しながら震えていた。
確認するとあいつからの連絡だった。
そしてその連絡を美月に見せた後に一つ要望を加えて返信してやった。今夜は長くなりそうだ、そんな感じがした。
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