第91話 夏祭り「帰路」

 俺は美月さんと二人並んでベンチに座り花火を見ていた。夜空に上がった花火が今まで見たどの花火よりもきれいに見えた。


「・・・」

「・・・」


 花火を見ている俺たちのあいだには会話は無かった。花火の音でかき消されてしまうのもあるが、直前の出来事が主な原因だろう。


「「ん、、」」


 二人で同じタイミングで顔をみて目があってしまい目をそらしてしまう。恥ずかしくて目を合わせていられなかったからだ。

 さっき晴れて恋人になったのだが、恋人になったことでより意識してしまってさっきまでより緊張している。


 あああああ、さっきなんで抱きしめたりしたんだよこのアホが。いきなりすっ飛ばしすぎだろ。そういうのは段階をふんでだな、、、でも感極まったのから仕方ないとも言

 える。


 それでも俺たちは二人並んで花火を見ている。さっきより距離が少し縮んだような。

 やっぱり気の所為じゃない。美月さんとの距離が縮んでいる。

 俺はそっと美月さんの手に自分の手を重ねる。美月さんも身体をビクッとさせたが払い避ける様子はない。いいじゃないか、だってもう恋人になれたんだから。



「花火終わっちゃいましたね」

「そうだね。祭りも終わったね」

「・・・」

「・・・」


 また不自然に沈黙の時間が出来る。でも今はそんな時間すら心地よかった。


「帰ろっか」

「そうですね」


 ベンチを立ち上がり二人で来た道を下っていく。

 俺はさり気なく、そして意識しながら美月さんの手を繋ぐ。暗い夜道だが美月さんがこちらを見ていることははっきり分かる。


「恋人だから」

「・・・はい」


 お互いに顔が赤くなる。手を繋いだのは迷子にならないようにするためでも暗くてからでもない。恋人なんだから手を繋いだ。

 恋人になったからこんなふうに手をつなげる。こんなふうに手を繋いで改めて付き合えたと実感する。


「・・・」

「・・・」


 手を繋いだが会話も無く下っていく。お互いに意識していて喉から声が出なかった。そのまま下っていき祭りの明かりがついている場所まで来た。


「楽しかったね」

「花火綺麗だったなー」

「ママーりんご飴食べたかった」

「なあ、この後どっかに集まんね」


 人が増えて周りの人たちの会話がよく聞こえる。みんな祭りを楽しんだ声ばっかりだ。

 俺も夏祭りを楽しんだ。それでもそれ以上に幸福感が凄かった。だって美月さんと付き合えて恋人同士になれたのだから。


「・・・」

「・・・」


 俺たちは無言のまま駅に向かう。花火を見た後の電車で混んでいると思っていたが案の定ホームは人でごった返していた。それでも夏祭りがあるということで電車が臨時で増えていて、満員電車に無理に乗る必要はなさそうだ。

 電車に乗り最寄り駅まで行き電車から降りる。


「家まで送っていくよ」


 そう言って美月さんの家まで送っていく。


「今日はありがとうございました」


 美月さんが急にそんなことを口にした。


「悠真さんと二人で行けてよかったです」


 そんな言葉を口にした美月さんの頬は赤らんでいた。


「めっちゃ楽しそうだったもんね。たこ焼きとか勢いよく食べてたし」

「そ、そのことは忘れてください。あれは悠真さんが悪いんです」

「さいで」


 頬を膨らましている美月さんが可愛い。この美月さんならいつまでも怒られてて良いな。


「もう終わったんですよね」

「花火も見たしこれも帰り道だからね」

「名残惜しいです」

「そうだね。俺も終わんないで欲しかったです」


 本当にこの夏祭りが終わるのは名残惜しい。もうすぐ夏祭りが終わるってことは美月さんと解散するってことだから。


「、、、あ、明日悠真さんの家に行っていいですか」

「え?急にどうしたの?」

「特に意味はないです。ただ、せっかくこ、恋人になれたのですから一緒にいたいだけです」

「、、!?」


 美月さんの口からそんな言葉が出てくると思わなかった。


「いいです。待ってます」


 断る理由もないし断るわけもない。俺も一緒にいたいし大歓迎で俺の方から誘いたいくらいだ。もちろん誘わなかったわけは告白したばっかでがっついてると思われると引かれる気がしたからだ。


「それでは、私はここで」


 そんなふうに会話をしている間に美月さんの家の前に着いていた。


「ああ、ここで」


 俺は美月さんを見送って自分の家に向かって進んでいく。

 ああ、今日は本当に色々あったな。初めて女の人と二人で夏祭りに行ったし学校の知り合いとも遭遇した。健一から教わった穴場から綺麗な花火も見たな。


 そして何より美月さんと付き合うことが出来て晴れて恋人になることが出来た。


 なんだか良いことが起きすぎて何か起きそうで怖いくらいだ。

 でも今日はこの幸せを噛み締めていたい。上をむくと星が輝いている綺麗な夜空が広がっていた。




 私は家に帰るとすぐに部屋に向かいます。


「本当だよね、本当に付き合えたんだよね」


 さっき花火が上がる直前に悠真さんに告白されました。私は何回もこれが夢じゃないか確認しました。それでも夢じゃなかったのです。


「でもさっきのはやりすぎでしょうか」


 急に家に行きたいとかはしたないと思われたでしょうか。嬉しすぎて思考が上手くできていなかったのです。

 今でも嬉しすぎてベッドの上でバタバタしてしまいます。こんなところを誰かに見られたらはしたないと怒られると思うのですが、自分の興奮が抑えられないのでしょうがないのです。


「悠真さん、もう我慢しませんからね」


 今まで付き合っていないから抑えていたことももう我慢しません。覚悟していてくださいね。


「お姉ちゃん、浴衣のままベッドに飛び込まないの!!」


 そんな言葉を言いながら華が入ってくるまで私はこの状態が続いていました。


 こんにちは狐の子です。2話連続の追記失礼します。

 この話で第3章が完結です。次からは2人が付き合ってからの話です。夏祭りで付き合った2人、ここからどんな関係を築いていくのか。

 夏休みなので話でも少し触れていましたがあの人たちが登場します。そして、その人たちが一波乱起こすようで…、夏休み明けは文化祭を計画しています。楽しみにしていてください。

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