第89話 夏祭り「穴場」

 夏祭りの明るい道のりから少し外れて、近くにあった森の中に入っていく。


「足元注意してください」


 道自体は整備されてるが夏祭りの道から外れているので明かりがついていないので足元が見えにくい。

 俺は美月さんの手を握って進んでいく。周りには人がいなく、この道を歩いているのは俺たち二人だけだ。


「悠真さん、これってどこに向かっているんですか?」

「今日のメインが綺麗に見れる穴場です」

「もしかして」

「そうです。花火が綺麗に見える場所です。この前健一に聞いて教えてもらいました」


 そういえばどこに行くかって言ってなかったな。この後のことで頭の中が一杯で俺の中に余裕が無かったからだろう。

 暗いが見えないわけでは無い道を進んでいく。俺も下見に来たわけでもないのでどんな場所なのか楽しみだ。


「悠真さん、あとどのくらいで着きますか?」

「そうですね、あと10分くらいだと思います」

「その間お話しましょう」


 よく見えないが美月さんはこっちを見て笑っている気がする。


「悠真さんはよくこういうお祭りに来ていたんですか?」

「来ていたほうだと思いますよ。友だちといったりもしましたけど家族と行くことも多かったです」

「そうなんですね。私も下の子達が、特に弟がこういうのが好きでよく来てました。それでもこんな場所を通る穴場なんて知らなかったので楽しみです」

「へー、そんな場所良く健一は知ってるな」

「今度洸太こうたたちを連れて来てみたいです」

「弟さんでしたっけ?」

「はい。今小学二年生なんです」


 めちゃくちゃ可愛い年齢じゃないか。それに美月さんの弟だろ、目鼻立ちが整ってるに決まってる。会ってみたいものだ。


「悠真さんにも妹さんがいますよね」

花音かのんのことか。今年で中学二年生だ」

「私の妹と同じ学年ですね」

はなちゃんだっけ?一緒なのか」

「よく覚えてますね。そうです。華も私と同じ中学に通っているんです」


 もし花音がこっちに来たら仲良くしてほしいものだ。この夏休みに多分こっちに来るだろうし美月さんに言って華ちゃんと会うのもいいかもしれない。同年代の友達は多いに越したことはないからな。


「この夏休みに妹たちはこっちに来るんだよね」

「そうなんですか。ということはご両親もこっちに来るので?」

「そうです。それが一人暮らしするときの約束だから」


 他にも部屋を綺麗にしとくとか学業をおろそかにしないとかもあるけどその辺は普段から意識してるから大丈夫だ。


「ちょっと会ってみたいです」

「何の変哲もない親だぞ」

「それでもです」


 まあちょっと、いやだいぶ天然な母としっかり者の父だけどな。なにかあるとしたら今でも子供の前でイチャイチャするからそういうところを人前で見せないか心配だ。


「ご両親に挨拶したいですし、、」

「ん?なにかいいました?」

「いえ、なんでも無いです」

「そうですか。俺は美月さんの両親の方が気になります」

「私の両親ですか。父は会社の社長をしていますね。母は・・・わかりません」

「え?」


 何だ?もしかして母は別居してるから分からないとかなのか?もしそうだった場合とんでもなく気まずいことを聞いてしまったんじゃないか。


「そうなんです。母は家に居ることが多いのですが、急に部屋にこもったり、外出していたりしていて何をしている人なのかわからないんですよね」

「え?そんなに一緒に居るのに?」

「はい、母に職業のことを聞いたときはうまくはぐらかされてしまったのです」


 何者なんだ美月さんのお母さんは。そんなに子供に隠しておきたい職業って何なんだよ。


「気にはなりますけどなんだかそれも母らしいと思うんです。普段から何を考えてるのか分からないような、掴みどころのないような母ですから」

「へー、なんだか面白いお母さんですね」


 俺の母さんに少し似てる部分はありそうだけど、美月さんのお母さんのほうがしっかりしてそうだな。ちょっと、頭の中に出てきてまで文句を言わないで母さん。

 そんな話をしているうちに目的の場所についた。


「着きました。ここです」


 そこにはベンチが二つあって、祭りの会場を一望できるような場所だった。


「綺麗です」


 祭り会場は明かりが綺麗に灯っているし、その奥に見える夜景も綺麗だ。


「ここなら洸汰も来やすいですし、今度家族で来るのもいいかもしれません」


 そんな美月さんの言葉は俺の耳に入って来なかった。自分のことで頭がいっぱいになっていたからだ。

 俺は今日ここで美月さんに『  ・・』をする。


次回、遂に悠真が・・・  

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