第85話 夏祭り準備《美月視点》
「どうしましょう」
私の頭の中はそれだけでいっぱいでした。悠真さんに誘われて二人きりで行くことになった夏祭りのことがずっと頭の中にあります。
「お姉ちゃん、また考え事してる」
「ど、どうしたの華」
「最近お姉ちゃん上の空になってること多いから」
家でも考えてるしそうなっていることが多かったのかもしれません。もしかして、華の話も聞いてない部分があったのでしょうか。
「そんなに悩むんだったら誰かに相談してみたら?」
「その手がありましたね」
「我が姉ながら思考が単純になってこんなことも思いつかないとは」
「うるさいです」
いつから華はこんなにひどいことを言うようになったのでしょうか。もっと素直で優しい子だと思っていたのですが。
「そんなにその彼のことで頭がいっぱいになってるんだ」
「そ、そんなことありません」
そうでした。華はこうやって私のことをよくからかってくるのでした。
それでも華から言われたことで気づいたことがあります。私が一人でこれ以上考えても答えが出ないことです。なので相談しようと思います。
「それで私のところに来たってことね」
「はい、助けてください」
私は近くのカフェに美由さんを呼んで話を聞いてもらうことにしました。
「でもそっかそっか、今度の夏祭り二人きりで行くんだ」
「はい、大きな祭りじゃないですか。ですので私はどうしたらいいのか分からなくなって」
「デートに誘ったりしてるのに?」
「うぅぅぅぅ」
別に初めて悠真さんと二人きりで出かけるわけではないのですが、今回は初めて誘ってもらったわけですし、今までと違って私が先導してるわけじゃないので緊張してるんです。
「今までは気を引くために色々やろうとして、そのことに集中していて緊張しないようにしていたんですけど、今回は悠真さんの方から誘ってくれたのでそういうわけにもいかないじゃないですか」
「なるほどね〜。そういえば集合場所とかってどうなってるの?」
「それはまだ・・・あ」
テーブルの上に置いていたスマホが振動してメッセージが届いたことを知らせます。相手は悠真さんからです。タイムリーな名前が表示されて驚いてしまいます。
「いま悠真さんから連絡が来ました」
「お、なんて来たの?」
「夏祭りの集合場所についてです」
「どこどこ?」
「一番最寄りの駅に集合になりました」
祭りはこの辺で一番大きな祭りなので歩いていける場所にも屋台などがあるのですが、この祭りの主となるのは歩いていくには少し遠くにある神社です。今回はそこまで行くということでしょうか。
「じゃあ神社まで行くんだね。いやー悠真にしては色々考えてるんだね」
「花火が近くで見れるので良いですよね」
「そうそう。ちょっと離れたところで河川敷から見る花火も綺麗だよ」
「では来年はそこで見るのもいいですね」
「もう来年のこと考えるなんて余裕だね」
「そうしてないと心に余裕が出来ないんです」
だって二人で夏祭りに花火を見るなんて憧れのシチュエーションじゃないですか!?今からもうドキドキしてしまってます。
「美月ちゃんってさこの夏祭りでまた悠真に告白しないの?」
「え!?し、しませんよ」
「えー、この前は好きって伝えたって言ってたじゃん」
「それはそうですけど」
林間学校に行ったときに悠真さんのことが好きと伝えましたが、それはそれこれはこれです。それに、あのときは勢い任せで言ってしまった部分があります。
「それに、あの時悠真さんに言ったんです。悠真さんが好きになったときに返事をくださいって。だから私から告白はしません」
「へーそんなこと言ってたんだ。でもさ、悠真が他の人のことを好きになるかもとかは思わなかったの?」
「今も不安ですけど、それでも良いんです。これが私が出した答えですから」
私はもう決めてます。これ以上告白してしつこいと思われるのは嫌なのでしないんです。いや、あと二回はしても良いかもしれません。そうしないと私がどのくらい好きなのかが伝わらないかもしれないですので。
「じゃあ悠真から早く返事が返ってくると良いね」
「はい、でももう少しだけ好きって伝えても良いかもしれません」
「あ、もうさっきまでの決まり破っちゃうんだね」
もしちゃんと伝わっていなから困りますから。私は口下手なので。
私は次の日に別の方に連絡を入れました。予定が詰まっていて直接会うのではなく、ビデオ通話でお話しました。
「やっほー、美月ちゃん。急に連絡くれたけどどうしたの?」
「美咲さん、この前はありがとうございました」
「感謝するのはこっちの方だよ。ありがとね。社長はいつもより売れ行きが良くて美月ちゃんのこと本気でモデルにスカウトする気だよ」
私が連絡したのは美咲さんです。先日、急遽来れなくなってしまったモデルさんの代わりに悠真さんと一緒に撮影したときに初めて話したのですが、その写真が載った雑誌を渡してくれる際に連絡先を交換しました。
「今日は聞きたいことがありまして連絡しました」
「お、どうしたの?私で良ければ何でも答えるよ」
「今週末に夏祭りがあるじゃないですか」
「あるね。あの祭り人が多く集まるから集めに変装しないとバレちゃうんだよね」
有名になるってことは良いことばかりでは無いようですね。でもそんなに変装するのなら知っていると思います。
「そのお祭りで浴衣を着ようと思っているのですが」
「え、いいじゃん着なよ〜。美月ちゃんの浴衣とか絶対似合うじゃん」
「それで、浴衣を借りれる場所が知りたいのですが」
「あーなるほどね。それなら私に任せなさい」
「もしレンタルがなければ購入でも大丈夫です」
そう言うと美咲さんは後ろの方を振り返って「社長〜」と呼び始めました。そして田端さんの声が聞こえてきました。
「美咲ちゃん今日は何やらかしたの?」
「何もやらかしてません〜。可愛い浴衣が借りられる場所が知りたくて」
「美咲ちゃん今度祭りにでも行くの?この前の撮影で使ったやつ企業さんから渡されてたけどあれじゃダメなの?」
「知りたいのは私じゃなくて美月ちゃんで」
美咲さんがそう言ったら後ろの方から田端さんがもの凄いスピードでやってきました。
「冬城ちゃんが着るっていうのは本当なの?」
「は、はい。今度夏祭りがあってそこで着る浴衣を探していまして」
「そういうことなら私じゃなくて彼女のほうが適任だわ」
そう言って田端さんはどこかに連絡をしました。すると、奥の扉から一人の女性が入ってきました。
「どうしました社長、、ってあれ?冬城ちゃんじゃん。久しぶり」
「お久しぶりです渡邊さん」
彼女はこの前の撮影のときにメイクを担当してくれた方で、衣装の方の知識ももの凄く持っていた方です。
「美月ちゃんが今度の夏祭りに着ていく浴衣を探してるんだって」
「それならこの前事務所に届いた浴衣とかでどう?」
「あー、あれね。たしかに冬城ちゃんに似合うわね」
「そ、そんなものいただけません。それに、この前の撮影のときにたくさん服をもらいましたし」
「良いのよ。この前の雑誌の売れ行きは順調なんだから。それにあれじゃ報酬が足りなかったところだもの」
「いいね。この浴衣きて少年との夏祭り楽しんできな」
渡邊さんにはどうやらすべてがお見通しのように感じます。もしかしたら私達の状況をはっきり知ってるのかもしれません。
「じゃあ今度私が持っていくから家の住所だけ教えてね」
「わかりました。メッセージで送ります」
そうして私は夏祭りに着る浴衣の準備は出来ました。
週末の夏祭りが楽しみで仕方がありません。
「あ、いつものお姉ちゃんに戻ってる」
「華はいつになったらノックして入ってくるの?」
「いつになってもその時は来ないよ」
「ノックくらいしなさいよ」
相変わらず華はいつの間にか私の後ろに立っています。ノックくらい出来るように躾けなければならないかもしれません。
「どうせまた彼のことでしょ」
「な、なんのことです?」
「お姉ちゃん隠すの下手すぎ。じゃあねお姉ちゃん」
そう言ってどこか寂しそうな横顔をしながら私の部屋を出ていきました。
早く週末にならないかな。
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