第84話 夏祭り準備《悠真視点》
夏休みに入ったから生活リズムがガラッと変わった、なんてことはなくせいぜい時間に追われていないから朝食をゆっくり食べるようになったくらいだ。
そんな中、俺は今までにないほど真剣に悩んでいた。その内容はというと
「夏祭り誘ったのはいいけど、どうやって回ろうか」
初めて女子と二人で夏祭りに行くのだ。どうしたら良いのか自分でもわからない。
健一に頼るっていうのも一つの手段だが、今回は大事な目的がある。その内容的にも人に頼り切ったものと言うのは正直良くないと思う。
だから、今回は自分で考えるしか無い。いや、ちょこっとだけ助言をもらうのは良い気がする。
「まずは集合場所だよな」
この夏祭りって神社で開催するやつだから一番手前の鳥居を集合場所にするのも良いかもしれない。俺の家か美月さんの家の前に集合して行くのも良いかもしれない。
俺はああでもないこうでもないと悩んだ末に決めた。
「屋台を回る順番は・・・これは当日に決めたほうが良いよな」
何がしたいかはあんまりわからないし、当日の気分によってどう回るか決めたほうが盛り上がると思う。
「あと何考えれば良いんだろうか」
ある程度の予算とか決めておいたほうが良いのだろうか。学生が出せる予算なんてたかが知れてるが。お祭り価格で高くなってるだろうがあの雰囲気で買うから良いこともあるしそこは必要経費だ。
ここは俺の地元でもないから穴場スポットとかもわからないからエスコートとか出来ないんだよな。やっぱりこういうことは健一に聞いといた方が良さそうだな。
夏祭りは今週末まで迫っているし悠長に考えられる時間もない。
思い立ったが吉日ということでそのまま健一の家のインターホンを鳴らした。
「なんだこんな朝早くから」
「もう十一時だぞ。朝じゃねぇよ」
「俺は今起きたから朝なんだよ」
「いつまで寝てるんだよ」
なんでそこまで生活リズムが崩れるんだよ。まだ夏休みが始まって数日だろ。
「どうせ昨日夜遅くまで起きてゲームでもしてたんだろ」
「全然、十時に寝たぜ」
「じゃあなんでこんな時間まで寝てるんだよ」
「ん?40時間寝なかったからじゃね?」
「徹夜したのは今日じゃなくて昨日だったか」
なんとなくこいつの生活を俺が面倒見なくてはと思った一瞬であった。いや、絶対に見ないけどな。
俺はそんな健一の家の惨状を見たくなかったので着替えてから俺の家に来るように促した。
もう昼だし昼食でも用意しておいてやるかな。
俺は冷蔵庫の中から豚バラ肉を取り出して炒める。そしたらこの前買ってきた焼きそばの麺だけを取り出して一緒に炒める。
そこに野菜と他の具材、水溶き片栗粉を加えて数分煮込む。
「おっ、いい匂いがするな」
「今日の昼はあんかけ焼きそばだ」
「いいね、早く食おうぜ」
「何様だおまえは」
俺は食器棚から皿を取り出してあんかけ焼きそばを盛り付ける。一緒にインスタントのわかめスープを淹れる。
「お前毎日こんなに立派な飯作ってるのか?」
「こんなの立派なもんじゃねえよ。まあ、いつもこのくらいの物は作ってるけど」
「なあ、食材持ってくるからさ」
「だめだ」
「まだ全部言ってねえよ」
どうせ食材持ち込むから二人分作れとか言うんだろ。手間は増えないけど面倒だから嫌だ。
「さ、食べよっか」
「なぜお前が仕切る」
「まあまあ、「いただきます」」
とりあえず俺たちは昼飯を食べることにした。俺も相談したいことがあるけど、食べ物を食べないと脳も回らないからな。
「っで今日お前が俺を呼んだ要件は?」
「今度夏祭りあるじゃんか」
「ああ、あるな。この辺で一番大きな祭りだな」
あの祭りってそんなに大きな祭りだったんだ。知らなかった。
「あの祭りで花火上がるじゃんか」
「ああ、4000発上がるな」
とんでもない量の花火が上がるな。そりゃ大きな祭りになるわけだ。
「その花火がきれいに見れる穴場を知ってるか?しかもあんまり祭り会場と離れてなくて更に人があんまり来ないかつ人目につかなそうな場所」
まあ地元民だと言ってもこんな無理難題の場所なんて知ってるわけがないよな。俺も無理難題を押し付けている自覚はある。正直なところ花火が綺麗に見える穴場さえ知れるだけでもラッキーだと思っている。
「まあそんな場所無いだろうけど聞いてみただけだ」
「あるぞ」
「そうだよな。さすがのお前でも知って・・・え!?知ってる?!」
「ああ、知ってるぞ」
まじでそんな場所があるのか。絶対に無いと思ってたから驚きすぎて頭が正常に動いていない。
「俺にこんなこと聞くってことはついに決めたのか?」
「うっ、そうだよ」
「ついに悠真にも決心がついたんだな」
なんだかこいつの顔めちゃくちゃ腹立つんだけど。でも今殴ったら教えてもらえないから我慢しろ。いま大事なのはその穴場を健一から教えてもらうことだ。
「で、どう回るんだ?」
「それはだな・・・」
俺はさっきまで考えていた夏祭り当日のプランを話す。
どこを集合場所にする予定で、どの順番に移動するのかを。屋台の回る順番は大きく決めてないけど、どうやってどこを歩くかは決めている。
「ああ、その計画通りで良いと思うけどな。でも一つだけいいか?」
「なんだ?」
「当日どんな服装で行く気だ?」
「え、普通に私服だけど」
何言ってるんだ?制服で行くわけ無いだろ。目立つし学校のやつに見つかったら面倒くさいだろ。
「やっぱりそうだよな。お前はそうなるよな」
「何?俺が裸で行くとでも思ったのか?」
「そんな訳ねえだろ。馬鹿かお前は」
せっかくボケてやったのにその言い方はないだろ。
「もう一度聞くぞ、お前本当に私服で行くのか」
「そうだよ。制服でも全裸でもなく私服を着ていくよ」
そう答えた俺の事をやれやれという目で健一が見てくる。なんでだよ、ちゃんと服着るぞ。
「いいか、女子はほとんどが浴衣を着て夏祭りに来るわけだ」
「そうかもな。そういう女子をよく見かけるしな」
「ここで重要なのは美月さんも浴衣を着ることだ」
「着るだろうな。だって絶対似合うもん」
「お前の感想は聞いてない」
だってあの美月さんだぞ。スタイルもいいし顔もいい、あの長い銀髪だって浴衣用のヘアセットでもっと輝くだろう。
「そこまで分かってなんでお前は」
「なんだよ、何が言いたい」
「よく考えてみろ。浴衣を着た美月さんが来るだろ」
「ああ、めっちゃ可愛いな」
「そこじゃねえよ」
おいなんだと。浴衣を着た美月さんなんて光り輝いてるだろ。
「そこにお前が私服で並ぶ」
「うん」
「どうだ?」
「違和感しかない」
「だろ。女子が浴衣を着てるんだお前も着物を着るべきだろ」
確かにそう考えると変だ。せっかく美月さんが浴衣を着てるんだし俺も着るべきなのかもしれない。でも
「俺そんなの持ってないぞ」
「そう言うと思ってお前の分用意してある」
「なんで!?」
相談したのは今日が初めてなのになんでそんな用意までしてあるんだよ。怖ぇよ。
「俺の親がデザイナーだろ」
「さも知ってるかのように言われても初耳だよ」
「そうか?まあそこは置いといて、二人で行かなくても四人では夏祭り行くことにはなるだろ?だって
「そうなるかもな」
「だから母親からお前に合うデザインとサイズのもの作ってもらった」
「話が飛躍しすぎな」
なんでそこで一から作ってもらうって発想になる。
「まあ俺からの餞別だと思って受け取っといてくれ」
「でも、」
「いいから受け取っとけ。ただ付き合ったらちゃと教えろよ」
「分かった。ありがとう」
俺は健一の好意を素直に受け取ることにした。
俺は後日健一から甚平を受け取った。
これで準備はだいたい出来た。あとは俺が当日緊張して変なことしないように気をつけるだけだ。
週末までの時間がものすごく長いものと感じた。そして、俺の今までの人生の中で一番重要な一日となる夏祭り当日を迎えた。
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