第83話 ボードゲーム

 お昼ごはんを食べ終わったあと、建一けんいちは自分の家に戻ってボードゲームを取りに行った。持ってきたのは人生ゲームだ。


「よーし人生ゲームやるぞー」

「おー」

「やる気あるのは良いけど物壊すなよ」

「ふふ、楽しそうですね」


 何故か異様に盛り上がっている建一たち。こいつら本当になんでも盛り上がれるよな。まあ家のものを壊さなければ適度に盛り上がってもらったほうが俺も楽しめるし。


「あ、もちろんこの前みたいに罰ゲーム付きで」

「なんでそんなに罰ゲームを付けたがるんだよ」

「だってその方が盛り上がりそうじゃん」


 たしかに勝負に熱が入るのは良いんだけどなあ。ちょっと負けたときに罰ゲームあるのはなあ。


「前回と一緒で最下位の人が一位の人の言う事を聞くってことで」


 そこまでひどいことはしないと思うしこのメンバーなら大丈夫かな。


「私この赤いやつが良い」

「俺は青な」

「私は黄色にしようとおもいます」

「じゃあ俺は緑で」


 そして人生ゲームと言う名の戦争が始まった。だってあんなことは言ったけど建一に勝たせたら何されるか分かんないからな。


「おっ、最初から10なんてついてる〜。『えっとマンホールの穴が空いていて落ちた。治療代で500万失う』って全然ついてないじゃん」

「いや、それはついてるだろ」

「そこ、笑うな」


 最初から美由がずっこけてくれていたから楽にルーレットを回せそうだ。

 俺たちはみんな順調(?)に進んでいた。

 俺は社長になって着々とお金を稼いでいるし、健一は子供をたくさん産んで大量にお祝い金をもらっている。美月さんは宝を多く持ってるし個人資産も多い。美月さんが今までずっと一番お金を持っている。美由は、、、まあ、最初のまんまずっと借金しててダントツの最下位だ。


「ねえ悠真、私と変わらない?」

「やだよ、一位ならともかくなんで最下位のやつと変わるんだよ」

「え、だってこのままじゃ私負けちゃうもん」

「交換したら俺が負けるんだよ」

「まあ、落ち着いて負けて罰ゲームを受けるんだな」

「むー、悠真とけんくんのケチ」

「勝負だからな」


 俺だって負けるわけにはいかないんだよ。だって無茶振りされるの嫌だもん。怖いもん健一の目がなにかしようとしてる目なんだもん。負けたら終わりだよこれ。


「あ、私ゴールしました。一番最初なので8000万ですね」

「うわぁ、これ俺勝てないじゃん」


 美月さんがゴールしてほぼ一位を確定した。てか絶対一位だ。所持金も一位だし、資産も一番多い。


「くっそ、俺は悠真にやってもらおうと思ったことあったのに」

「あぶねえ、健一が一位に本当に良かった。まあ俺は最下位にならなそうだし大丈夫だけどな」


 健一が一位にならなくてよかったと思ったんだけど、よくよく考えたら大量に借金を持っている美由にが居るから大丈夫だけど。


「俺もゴールっと。二着だから3000万。一応美月さんよりお金持ってるけど資産的に負けかな」

「じゃあ次で俺がゴールして美由が最下位か」

「ふっふっふっ」


 美由が何故か笑っている。自分が負けるから自暴自棄になって笑っているんだろうか。


「これをみたまえ悠真くん」

「こ、これは、、、なんだ?」

「ちょっと、ちゃんとしてよ」

「いや、読めなくて」


 美由はそんなことを言いながらあるカードを見せてきた。でもごめんな、細かい効果の文まではこっから読めないんだ。


「このカードの効果で私の借金を悠真に移せるの。移したから私の借金は0になったし、悠真の所持金より私の借金のほうが多いから悠真は借金を手に入れたのだ」

「なんだそれ!?」


 何そのチートカード。てかさ、人の所持金より多い借金ってどんなに不幸マスに停まってるんだよ。ちょっと待てよ。


「これ俺逆転出来なくね?」


 この後ゴールしてお金をもらってもこの借金がなくなることはない。そして、美由の前には不幸マスがない。つまりこのまま俺が最下位から脱却することは出来ない。


「いやー、さっき停まったときにこのカード引いて勝ったって思ったんだよね」

「そのカードズルすぎないか」

「言ったでしょ、私はついてるって」

「いや、ずっと借金してたんだからついてはないだろ」

「むー、けんくんこういうのは最後に勝っている者が正義なのです」

「いや、三位だからね。優勝は美月さんだから」

「悠真くんよ、負け犬の遠吠えは聞こえんな」


 たしかに負けた俺がとやかく言うことではない。


「こうなると本当に健一が一位じゃなくてよかったわ」

「チッ、美月さん美月さん」


 そう言って健一は美月さんに耳打ちをした。おい、そこ近すぎるぞ。じゃなくて何吹き込んでるんだ。美由も悪乗りするんじゃないぞ。


「それ良いですね。その案にしましょう」

「美月さん!?」


 なんで健一の話しを受け入れちゃったのよ。健一が言ったならどうにかして断れたかもしれないけど、そんなキラキラした目で言われたら断れないじゃん。


「悠真さん」

「はい」

「今週は私の言う事を絶対聞いてください。あと、女装してください」

「・・・はい?」


 今なんて言ったの?美月さんの言う事を絶対に聞くっていうのはまだ理解が出来た。でも、女装してくださいって言った?え?


「ですから、今週は私の言う事を絶対聞いてください。あと、女装してください」

「せめて一つにしてください」

「では女装してください」

「なんでそっちなの!?」


 いや、普通は言うこと聞いてもらうでしょ。ここは俺が無理言って二つから一つにしてるしこれ以上断れないしな。ここはあれで逃げるか。


「でも俺は女性用の服なんて持ってないよ」

「俺の部屋にワンピースあるから大丈夫」

「何であるんだよ」

「私がけんくんの部屋に服を置いてるから」

「お前のかよ」


 しっかりと逃げ道も塞がれた。


「良いじゃねえかよお前は割と中性的な顔で整ってるんだし似合うと思うぞ」

「そこじゃねえんだよ」


 女装するのが嫌なんだよ。なんかこう、男子としての尊厳の一つをなんか失う気がして。あと女装が似合うのもなんか嫌なんだけど。


「悠真さん、罰ゲームですので絶対です」

「、、、はい」


 珍しく美月さんが引いてくれないしこれはするしか無いのか。


「じゃあ私、服持ってくるから悠真はその間に心の準備をよーくしておくように」

「そのまま戻ってこなくていいぞ」

「残念、私も早く見たいから超特急で戻ってくるから」


 どうやら仲間はどこにもいないらしい。これはとうとう覚悟を決めるしか無いようだ。

 でも嫌だよこんなの。よく考えてみて、好きな人から女装姿に『似合ってるね』なんて言われたら男子として何かを失ってる気がしない?

 美由は一瞬で俺の家から出ていって服を持って帰ってきた。


「じゃあ早く着替えてね〜」

「これって断ることは」

「悠真さん、お着替えしてきてください」

「はい」


 美月さんからものすごい圧を、いままでに感じたことのないほどの圧がかかっている。これ断ったら大変なことになりそうだ。


「悠真よ、諦めろ。お前に逃げ道は無い」

「うっ、なあ健一お前も」

「俺はやらないぞ」


 せめて地獄に落ちる道連れがいればよかったんだけどそれも断られた。

 俺は覚悟を決めて美由から渡された服を持って自分の部屋に向かう。

 うっ、この服本当に俺が着るのか?ええい、もうこうなったらヤケクソだ。どうにでもなれ。

 俺はもう心を無にして着替えた。

 着替え終わって部屋をでてあいつらの前に行く。俺はもうヤケクソで女装している。したがって、


「ごきげんよう。私、ゆう子ですのよ」

「・・・ブハハハ」

「健一さん、私そんなにおかしいですか?」

「いや、お前吹っ切れてるなあ」


 そうですわよ。もうこうなったらどうにでもなれですわ。


「悠真さん」

「ゆう子ですわ」

「可愛いです。写真取らせてください」

「・・・え、」


 写真ですか?この姿を残すってことですよね。私の姿が今後も残るって考えると、


「だめ、ですか?」

「良いですわよ」


 ここまで来た俺の中に理性なんて言葉はない。もう写真にでも撮られてしまえ。


「悠真が可愛い。このまま学校のみんなに見せてもモテる気がする」

「ゆう子ですわ。それでも女装姿でモテるのはとても複雑ですわ」

「あのモデル姿はめっちゃモテてるんだけどね」

「・・・」


 せっかくモテるなら女装姿ではなく普段のままでモテたいのですわ。美月さんは黙って写真を撮っていた。


「次は女装した姿で外に出てみようぜ」

「絶対に嫌ですわ」


 俺はこのタイミングで完全に思考する脳がショートした。そしてこの後の記憶は無いがおそらくこのまま解散したはずだ。

 夜に思考が元に戻った後に、グループに送られていた自分の写真を見て再び思考が止まった。そしてそのままベッドの上に倒れ込んだ。

 もう絶対に女装なんてしないですわ。私は固く覚悟を決めましたわ。

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