第82話 優良なお店(?)
「なあ、これどこに向かってるんだ?」
俺たちは夏休み前最後の学校を終え、いつもの四人で昼食を食べに向かっているはずなのだが、俺が知っているファミレスとは逆方向に進んでいる。
「うんとね、出来立てが食べれてシェフにオーダーまでできるの」
「それに学生のお財布にも優しいところだな」
そんな場所があるならぜひとも行ってみたい。でもこっちの方面にそんな店あったっけ?
「あ、食材買いたいからスーパーよるね〜」
「ん?食べに行くんじゃないのか?」
「あれ?聞いてないんですか?行く場所は・・・」
「持ち込み可能なんだよ。てか、持ち込んだもので料理を作ってもらうんだよ。な、美由」
「そういうこと」
なんだか美月さんの言葉に対して健一たちが言葉を被せていて何かを隠しているようだった。でも言葉自体に違和感は無かったし俺は気にしないことにした。
俺たちは食材を色々買った。途中美由がいなくなってお菓子を買いに行っていた。
「なんでお菓子なんかも買ってるんだよ」
「え、だってご飯のあとはお菓子パーティーでしょ?」
「お、いいね。俺も持ってこよーっと」
「おい、店でそんなことやって良いのかよ」
「良いんじゃないでしょうか。おそらく許可を出されると思いますし」
どうやらそこの店主は余程寛容らしい。食材の持ち込みからお菓子の持ち込み、大方そこに長時間居座るのも許可しているのだろう。
そして、いままでの話から察するにその人は三人の知り合いっぽいな。じゃないとこんなに知らないだろうし。
「そんなに買って大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。余った食材は保管するか持ち帰るかしていいから」
なんだその神店は。
「その店には三人で行ったのか?なんかみんな詳しいし」
「あー、三人で行ったといえば行ったし行ってないといったら行ってないな」
「何だその答え」
「そう答えるしか無いんだよね~」
「まあそうですね」
なんだそれ。でも全員がそう言ってるし正しいんだろうな。
この話から俺が予想するに個人経営のカフェなんじゃないかなって思う。個人的には個人経営のカフェなんて行ったこと無いし、興味があるし、あわよくば店主さんと仲良くなりたい。
「じゃあ会計ね。他に欲しい物ない?大丈夫?」
「あ、俺まだ選んでない」
「早くしろよな」
「じゃあ、卵とケチャップで」
「悠真さん、もしかして」
「うん、オムライス」
「やっぱり」
この前美月さんに言われてから改めて思ったけど俺はオムライスが好き何だと思う。だからプロがどうやって作るのか目の前で見てみたいし、材料持ち込みなので自分のものに引き落とせればいいかなって思ってる。
「お会計は3652円です」
「とりあえず俺が払うから後でちょうだい」
「了解」
「オッケー」
「分かりました」
建一がその場でまとめて支払ってくれて俺たちは後で払うことになった。
「一人何円だ?」
「うんとね、1200円だな。端数は俺が払うから」
「なあ、それ三人で分割してないか?」
明らかに一人1300円では無い。
「あれ?言ってなかったっけ?今日は悠真の分は俺達で払うんだよ」
「なんで?!」
「ちょっと色々あってね」
「まあお金のやり取りは後で食べた後にでもやろうぜ」
なんで俺はお金を払わないんだ?
外でやるのも店の中でやるのもどっちも良くない気がするが、よくしてくれている店主なんだろうし店でやるほうがいいか。
「よし、じゃあ行くか」
そう言って俺たちはそのまま歩き始めた。
普段から見ている光景の中を進んでいき、いつも帰っているマンションの前についた。
「よしじゃあ入るか」
「ちょっと待て、ここにあるのか?」
「ああ、まあ焦るなって」
このマンションの中にそんなカフェがあるなんて知らなかった。そんな場所にあるならちょくちょく通わせてもらおうかな。なんなら募集してるならそこでバイトしてもいいな。
エレベーターに乗り4階で止まる。そのまま四〇一号室の前に行き、健一が鍵を取り出し中に入っていく。
・・・・・・・・・
「いや、ここ俺の家じゃねぇかよ」
「あれ?言ってなかったけっけ?」
「一言も言ってねぇよ」
何なの君たちは。え、本当になんなの!?
「食材持ち込みっていうのは」
「お前に家に持ち込んでお前に作ってもらうんだよ」
「リクエストの話は」
「お前に俺達がリクエストする。俺は鯖の味噌煮ね」
「お菓子の話は」
「このままお前の家で遊ぶだろ。ほら、隣から俺がボードゲーム持ってくる予定だし」
たしかに嘘はついてないけど。ちゃっかりリクエストするなよ、俺は作ると言ってないからな。
「個人経営のカフェじゃないのか?」
「そんなこと誰も言ってないぞ」
「は?でも今から店に行くって」
「誰も店なんて言ってないぞ。まあ、お前がシェフだからシェフとは言ったけど」
う、思い返してみるとたしかに誰もお店だなんて言ってない。
「勝手にお前が勘違いしただけだ」
「違うでしょ。けんくんがあいつには黙ってて驚かせようぜって言ったんじゃない」
「そうなんですね。私は聞いていなかったので話しそうになってしまいました」
「だから無理に話し被せたんだよね。ごめんね」
本当にコイツらは何も打ち合わせしないでしかもとんでもないことをやってきやがるな。
「で、俺はさっき言ったように鯖の味噌煮ね」
「あ、私は天津飯」
「私はカルボナーラでお願いします」
「本当にバラバラだな!?」
食材に統一性がないと思っていたけどここまで和洋中がバラバラだとは思ってなかったよ。これ作れるわけなくね?
「よし、建一お前は手伝え」
「まあそのくらいはやってやるか」
俺はキッチンに向かい下ごしらえを始める。健一にもやってもらうので包丁とまな板を渡す。
俺は魚の下処理をしながら一緒に味噌に用のタレを作る。天津飯の餡用に水溶き片栗粉を用意する。
「おーい、鶏肉はまだ切れないのか?」
「ちょっとまってろ。くっそ皮がなかなか切れない」
健一はもう少しかかりそうなのでその間にサバをフライパンで焼く。ちゃんと火が通ってから用意していた味噌のタレと絡めていく。
溶き卵の中に割いたカニカマを入れてフワフワの卵を焼き上げて白米の上に乗せてたっぷりと餡をかける。
卵を焼いたフライパンをどかして鍋に水と少量の塩を入れて沸騰させる。沸騰したお湯に生パスタを入れて茹でる。茹で上がる前に隣にフライパンでベーコンを焼いたあとに牛乳を煮詰める。
茹で上がったパスタをソースに絡めてさらに盛り付けて上に卵黄を乗せる。
「鶏肉切り終わったぞ」
「サンキュー。じゃあそこの鯖の味噌煮完成してるから自分でお好みに載せてソースでもかけてくれ」
「もう出来たのか。おっ、めっちゃうまそうじゃん。ちょっと多めにかけておこ」
俺は受け取った鶏肉を炒めてそこに白米とケチャップをいれる。
「あ、天津飯とカルボナーラも出来上がってるから持っていって」
「はーい」
「分かりました。すごく美味しそうです」
俺は残った自分の料理に集中する。鶏肉と白米、ケチャップを炒めてチキンライスを作ったら皿に盛り付ける。
フライパンに卵を注ぎ込んで綺麗なオムレツを作りチキンライスの上に乗せる。俺もテーブルの上にオムライスを運ぶ。
テーブルの上に並んだ自分の料理を見て我ながらいい出来だと感心する。
「よし、食べるか」
「「「いただきます」」」
美味しそうに食べるみんなの姿を見たら作ってよかったと思った。やっぱり料理は楽しいな。
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