第80話 雑誌

 次の日教室に入ろうとするとクラスの女子が集まってざわざわしていた。

 なんだか中学ののような面影があって足が固まってしまった。でも、今の俺はあのときと違う。そう心持ちができたことで足を動かし教室の中に入る。

 俺が席にカバンを置こうとすると既に人が机に座っていて置くことができなかった。


「おい、何してんだ?机から降りろバカ」

「お、来たな悠真ゆうま


 そう言って健一けんいちはこちらに振り返る。いや、返事するのもだけど早く降りろって。俺が荷物を置けないんだよ。


「なあ、早くどけろ」

「怖いぞ悠真、目元にシワが寄ってる」

「誰のせいだと思ってるんだ」


 こいつまじで机から突き落とすぞ。

 机の上にカバンを置いて教科書を机の中に入れようとする。その机の中には一冊の雑誌が中にはいっていた。この雑誌は俺が買ったものでは無い。それでも俺が知っているものだ。

 元々は二冊俺が受け取って渡す予定だったが、直接美咲さんが美月さんに渡してくれるという事になったと連絡が入っていた。


「やっぱりお前も買ってたか」

「なんの話だ?」


 俺が机の中から取り出した雑誌を見て指さしながら健一が言った。俺は冷や汗を垂らしながら答える。


「この雑誌がどうしたっていうんだ?」

「とぼけんなって。美月みつきさん載ってたからだろ?」

「なんだそのことか」

「それでこの教室も大騒ぎ。あの美月さんがついにモデルデビューもしたのかってな」

「この騒ぎはそれが原因だったのか」


 俺は実際の写真はまだ見ていない。そのためどのような出来なのかわからないが、美月さんのあの美貌と、田端たばたさんのカメラマンとしての腕、それに加えてこのクラスメイトの反応から非常に良い写真が撮れていることが分かる。

 それに健一が言っていたことがもう一つの方じゃなくてよかった。


「なあ悠真」

「ん?なんだ?」

「お前さっぱり驚かなかったな」

「そのことか。たしかに驚きはしてけど美月さんから事前に話を聞いていたから今日はそこまで驚かなかったってだけだよ」


 俺は嘘をついた。理由はたった一つ、絶っっっっっっ対にこいつに俺も一緒に映ってるってバレる訳にはいかない。でも、こいつも美月さんが出てるってことを知ってるってことは見たんだよな。それでも気づかないって田端さんの技術すげえな。それでもバレる美月さんも凄いけど。


「俺もまだ見てないけど・・・お、めっちゃ綺麗にしかもデカく半面全部が美月さんがモデルの写真じゃん」

「ほんと凄いよな。これが数ページにも渡ってるんだぜ」


 俺は自分の姿と美月さんの姿を確認するためにも雑誌を開いた。デカデカと数ページに渡って特集されているブランドのモデルなのでこの雑誌だけでも数枚の写真がある。

 ただ、よく写真を見てみると撮った覚えのない写真まで載っていた。


「特にさ、この美月さんの顔よくないか?」


 そう言って健一が指さしたのは、俺の撮った記憶のない写真だった。


「この写真どうやって撮ったんだ?」

「いやあ、俺もどうやって撮ったか分からなくてな」

「やっぱりそうだったんだな」

「え?・・・あ、、」


 まじで油断してた。俺も健一に聞かれて答えられなくて普通に答えっちゃってるし、こいつは後ろでニヤニヤしてやがる。


「なんで知ってるんだ?」

「いや、なんとなく?」


 そもそもなんでこいつが俺が載っていることをなんで知ってるんだ?俺はもちろん美月さんも美咲みさきさんも言っていない。


「この写真を見たときになんだか既視感を感じてお前にカマかけてみたら見事に引っかかてくれただけだ」

「まじか。やっぱりバレるよな。あんまりこうゆうので目立つの嫌なんだけど」

「安心しろ、俺以外は多分気づいてない」


 そう言う健一には疑問しか浮かばなかった。そんな俺の前で健一は右手の人差し指を立てた。


「まず第一に美月さんと写真を取った人物はみんなはモデルだと思っている」


 たしかにそこら辺の一般人を使うのではなくモデルを使うという考えになる。


「そして第二に学校でのお前とこの写真のお前は同一人物だと思われないだろう」

「は?なんで?どっちもちゃんと俺だぞ」


 モデルは替え玉をしていたわけじゃないし、学校でも替え玉をしているわけでもないし、ましてや双子に変わってもらっているわけでもない。まあ、双子じゃないんだけどね。


「いいか、人は目元の印象が強く残ることが多い。お前は普段長めの前髪で目元を隠しているし、こんなに姿勢も良くない」

「猫背だからだよ。これは姿勢だから頑張っただけだ」


 たしかに俺の髪型が全く違うのは認めよう。姿勢も気を付けてるから多少のズレが有ることも認める。でもそれだけで気づかないもんか?


「あと、お前この写真みたいに優しい顔してないんだよ。特に普段学校の中で」


 そう言われると俺が返す言葉はなかった。だって今この写真を自分で見て何この緩んだ顔って思ったもん。


「周りが気づかないと思う理由も分かった。でも、これだけは約束してくれ」

「なんだ?」

「絶対に美月さんと一緒に写真に写ってるのが俺だって誰にも言わないでくれ」

「なんだそんなことか。言われなくてもそのつもりだよ。俺だってお前が嫌がることはしねえよ」


 普段はあんなにからかってくる健一もこういうことは決してしない。だからこいつのことは信頼できるししている。


「そのかわりなんでこんな事になったのか教えろよ」

「分かったよ」


 俺は事の顛末を健一に話した。この前でかけた日にショッピングモールに行った時に声をかけられて撮影したこと。そのときに撮った写真が今回のものだということ。

 もちろんクラスの委員長の小森こもり美咲みさきがあの倉之内くらのうち美咲みさきだということは隠しながら。


「まじでそんなことってあるんだな。でもいいな、あの倉之内美咲と会ったんだろ?今一番勢いのある女優の一人だからな」

「その雰囲気は撮影中も感じたよ」

「なあ、写真とか持ってないか?」

「残念ながらないな」

「ちぇ、俺も実際に会ってみたかったな」


 そのことを聞いた俺の頭の中は、『いや、めちゃくちゃ会ってるぞ』と言いたくて仕方がなかった。


「なあ、お前も普段からこんなふうにしてればもっと印象良くなるんじゃないか?」

「いいんだよ今のままで。あんまり目立つと好感ももたれるようになるが同時に反感も買うことになるからな」


 俺は今のこの立場がちょうどいい。俺がしっかり着飾るのは大切な人のためだけでいい。


「まあ、お前は元が良いんだから自信もてよ」

「あんまりお前に言われても褒められてるように聞こえね〜」


 健一自体周りからイケメンだと言われているし、イケメンからイケメンと言われるのはなんだか素直に褒められてる気がしない。これも俺の心の持ちようなのだろうけど。


「まあ好きにするといいさ。謎のイケメンモデルさん」

「うるせぇ」

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