第79話 お昼ごはん

 俺たちは健一けんいちに連れて行かれた場所は、空き教室だった。


「どうだ?ここ日当たりもいいしテーブルもある」

「健一さんはこのような場所を知っていたのですね」

「放課後たまに使ってるからな」


 そういった健一はこの教室を開けるときに使った鍵を壁にかける。


「こんな空き教室何に使ってるんだ?」

「ん?ここは写真部の部室だぞ」

「は?」


 え?どうゆうこと?


「俺写真部に入ってるぞ」

「え、お前マジ?」

「マジよ」


 お前、隠し事多すぎだろ。美由みゆの事といい、今回のことといい。てかこいつが写真部?本当に活動してるのか?


「お前何かしてんの?」

「え?普通にしてるけど?放課後とかイベントのときとか」

「運動会の時とかか?」

「ああそうだな。ちょくちょくお前の隣から抜けてただろ」

「そういえばそうだな」


 隣の席にいた健一は時々席を外していたし、クラスのテントからもいなくなっていたな。その時に写真を撮ったり仕事をしてたんだな。


「まああの日は何もしてないんだけどな」

「ぶっ飛ばしていいか?」


 なんなのこいつ。散々言っておいてお前はやってないのかよ。今の俺のお前に対する感動を返せ。


「まあまあ、あの日は健一さんたくさんの競技に出ていましたから仕事をする時間が無かったのでしょう」

「そうそう、美月みつきさんの言う通りだ。俺は運動会の担当じゃなかっただけだ。この前の林間学校のときは色々撮ってたぞ」

「あ、だからカメラ持って私達のグループの方にも来てたんだ」

「え?こいつ来てた?」

「いえ、来ていなかったと思いますけど」


 俺だけじゃなくて美月さんまで見てないっていうんだしやっぱりこいつ何もしてないんじゃないか?


「ちがうちがう、私達が山菜取りをしてるときに来たの」

「じゃあ知らなくて当然か」

「林間学校ってことで森の中の写真を撮る必要があったんだよ」


 そう言って健一はカメラを取ってきててメモリーの中にある写真を見せてきた。そこには神秘的で綺麗な写真が写っていた。


「これはお前が撮ったのか?」

「そうだよ。なかなか上手く撮れてるだろ?」


 悔しいがこいつの撮る写真は綺麗で上手いものだった。


「でも、そんな部室を部員でもない私たちが使っていいんですか?」

「それは大丈夫。先輩たちも勝手に使ってるしいいって言われてるから」


 そう言って健一はテーブルの上に弁当箱を広げた。


「時間もなくなるしもう食べちゃおうぜ」

「それもそうだな」


 俺も弁当箱を広げて椅子に座る。隣に同じ弁当があるのも嫌なので健一の向かい側に。正面にあるのはまあいいだろう。

 美由は健一の隣に、美月さんは俺の隣に座る。


「悠真さん、私のおかずと悠真さんのおかず少し交換しませんか?」

「良いですけど、急にどうしたんですか?」


 前に何度かしたことがあるもののこんなことをすることはほとんど無い。それこそ美由と建一がやってるところは見るが、美月さんにしては珍しい提案だ。


「いいじゃないですかどんな理由でも、内緒ですから」

「あ、はい」


 そんなふうに言う美月さんは隠し事をする子供のような顔をしていた。俺としても断る理由は無いので交換することにした。


「私卵焼きが食べたいです」

「この前もそうだったね。どーぞ」


 そう言って美月さんの弁当の白米の上に卵焼きを乗せる。


「悠真さんは何が良いですか?」

「そうだな、じゃあそのピーマンの肉詰め頂戴」

「分かりました。ここに置きますね」


 俺は自分の弁当を見ておかずに肉が入っていなかったので美月さんの弁当に入っていたピーマンの肉詰めをもらった。


「こうなるなら自分で弁当を作っておけばよかったです」

「ん?何か言いました?」

「何でもないです」


 美月さんが何か言ったのだが俺は何を言ったのか聞き取れなかった。


「そういえば今日お前委員長に絡まれてたよな」

「ん、ああ朝のことか。別にちょっとしたようがあっただけだよ」

「え、悠真もしかして何か問題起こしちゃったの」

「そんなんじゃねえよ」


 健一が話題をふってくれたのだが、なんで俺が何かやった前提で話が進んでいくんだよ。俺クラスでもそんなことやりそうな雰囲気出してないよね?


「悠真さん悠真さん」


 隣にはそう言って俺の袖を引く美月さんがいた。


「もしかしてこの前の撮影の話ですか?」

「うん、明日映ってる雑誌を持ってきてくるからどこで渡せばいいかだって」

「そうですか。それでどうするんですか?」

「俺がまとめて二人分朝に受け取るからその後渡しに行くよ」


 そういえば美咲さんからの話について美月さんに何も伝えていなかったのでちゃんと話しておかないとな。


「この前デートしたからって目の前でイチャつかないでくださーい」

「そ、そんなことしてません」

「そうだぞ美由、どう考えても悠真が振り回されてるだけだろ」

「おい、それも違うだろ。それこそ美咲さんに話しかけられたことと美月さんも関係ががあったんだよ」


 ったくこいつらはからかわないと生きてられないのか?あと建一、俺が振り回されてるってのは認めるけど認めないからな。


「ねえ、けんくん聞いた?」

「ああ、バッチリと」

「ん?何がですか?」

「いやあ、あの悠真が女子のことを名前で呼ぶもんですから」

「・・・あ、、」


 やらかした。こいつらはあの時にいなかったわけだからなんで俺が名前で呼んでるのかは知らないし、知られるわけにもいかない。

 普段から仲いいわけでもない女子を俺が急に名前で呼んでたらそれは変だよな。


「美月ちゃんのことを名前で呼ぶまでもあんなに時間がかかってたのにね。それについてはどう思いますか、当事者の美月様」

「様付けはやめてください。美咲ちゃんのことを名前で呼ぶのは事情もありましたしいいのですが、私のことはもっと早く名前で呼んでほしかったですね」

「それはすみません」


 これでも頑張ったほうだよ。正直に言うとこんなに仲良くなれるとも思ってもいなかったし、いまだに女子を下の名前で呼ぶのは数人しかできないし少し緊張する。

 え?美由はなんですんなり最初から呼べたのかだって?それは、美由が、、、


「ゆ・う・ま・く・ん・?今何考えてるのかな?」

「なんでも無いであります軍曹」

「だ・れ・が・軍曹だって???」

「美由さん、落ち着いてください」


 うん、これ以上考えるのはやめよう。この部室の無事を保証できなくなる。おい、隣りにいるお前は笑ってないでそこの軍曹・・・間違えた義妹の暴走をとめろよ。


「それにしても悠真なんでけんくんの分まで作ったの?」

「昨日の晩飯は残ってなかったし、昼と同じものを夜食べるのはなんか嫌だったから詰めてきてみた。みんな弁当持ってくるし建一ぐらいだからな昼用意してないのが」


 特に深い理由もない。


「いいだろ、悠真の弁当はうまいぞ」

「まあまあ、そこまでにしときなよ。美月ちゃんも落ち着いてね」

「・・・」

「おーい、美月ちゃん帰っておいで~」

「・・・ハッ」


 美月さんは何かを睨むように見つめながらこちらの声が届かない世界に入っているようだった。美由の声かけで帰ってきた。


「けんくんが煽るから悪いんだよ」

「まあ、否定はしない」

「美月ちゃんもちゃっかり交換してるし今日は我慢しよっか」

「それはいいんですよ。でも、今日私が持ってきてなければと思ってしまう部分がありまして」

「あー、これは悠真が悪いね」

「なんで!?」


 全く話の概要が掴めないのだが!?俺何も悪い事してないと思うんだけど。俺は何をしたんだ?


「悠真がけんくんに弁当作ってくるから悪いんだよ」

「よし、これからは作らないから安心してくれ」

「なんで!?また作ってくれよ」


 いや、原因が健一に弁当を作ったことらしいからやめようかなって思っただけだけど。

 食事を終えて部室を出て教室に向かった。


「さて、午後の授業も頑張るか」

「体育だからやる気でねぇ」

「悠真って本気で動かないよね」


 疲れるし、目立ってちゃうからな。まあは別にあるんだけどな。


「まあ、評価に影響がないくらいには真面目やるよ」

「頑張ってください」


 美月さんからそんな言葉をもらったから、今日の体育はいつもより動ける気がする。


「悠真って案外単純だよね」

「それな」


 単純で悪かったな。

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