第78話 お弁当
目が覚めると、セットした目覚まし時計がなる十分前だった。ベッドを出てカーテンを開けると朝日が昇っていて部屋に光が差し込む。今日は気分も良く、気持ちがいい朝だ。
「さて、弁当でも作るか」
昨日の晩飯を詰め込むのはいつものことなのだが、昨日は健一が急に来たから晩飯の残りがほとんどない。だから今日は一から作らないといけない。
「さて、今日は何にしようかな」
唐揚げとかは下味つけてないし間に合わないから無しだな。生モノは夏だし衛生的にも駄目出しな。麺類でもいいけど梅雨を入れるボトルが・・・あるか。
「あ、いやこれにしよ」
冷蔵庫の中から昨日のスーパーで買った値引きされているサケの切り身を取り出してグリルの中に入れる。
その間に卵を二つ取り出してお椀の中に入れてかき混ぜる。ある程度混ざった後に砂糖と白だしを入れて卵焼き用のフライパンを使って焼き上げる。
さらに、ちくわに青海苔と衣を付けてフライパンに油を引いていい感じに焼いてなんちゃって磯辺揚げを作る。
俺はいつも通り作り置きしていたきんぴらごぼうを冷蔵庫から取り出す。ねぇ、なんでいつも冷蔵庫の中にきんぴらごぼうがあるんだ?俺そこまできんぴらごぼう好きじゃないんだけど。おそらく
俺は弁当箱に白米をよそって鰹節を上に振りかける。その上に海苔を乗せる。さっきまで作っていたおかずを詰めればのり弁の完成だ。
「ふう、我ながら上出来。それにしても作りすぎたんだよな」
俺はキッチンに広がる料理した残骸を確認する。帰ってきてから今日の晩御飯にしても良いんだけど正直飽き飽きするからなぁ。
「あ、そうだ」
どうせあいつは弁当なんか持ってくるたちじゃないしあいつに処理してもらうか。
俺はもう一つの予備の弁当箱を取り出し、こっちにも同じように盛り付ける。
「それにしても今日は気分が良くて早く終わりすぎたな」
いつも家を出る時間まではまだ時間がある。何しようか考えたときに、最近は掃除も簡単にしかしてないし片付けるか。この前は急に人が来た事もあったし、そんなときのためにも片付けておかないとな。まあ、この前のは軽い事故みたいなものだけどね。
片付けをしていると良い時間になったので家を出る。
「お、
「おはようさん」
「なんか機嫌良い?」
「俺はお前が怖いよ」
俺が家を出ると隣の家から健一が出てきて挨拶を交わした。その一言だけで俺が機嫌がいいなんて言い当てる健一のことが怖くなった。
「今日は一緒に行くか?」
「そうだな。今日は俺も自転車で行こうと思ってたしな。でもいいのか?
「ばかかお前は。学校では
「まあそっか」
それなら大っぴらに一緒にはいられないか。コイツらは一緒にいるときのほうがイキイキしてるし、その方が良いと思うんだけどな。
「まあ、こうやって悠真と一緒に登校できるのも今後はなくなるかもしれんしな」
「ん?なんでだ?」
「だって付き合ったら
「はあぁ!?」
俺は動揺のあまり漕いでいた自転車から落ちそうになった。
「な、なんでそんなに話が飛脚するんだよ」
「えだってお前、美月さんのことが好きだろ?」
「・・・否定はしない」
「なんだその言い方。まあ、お前にしては素直になったほうだと思うけどな」
「うるせぇ」
「話は戻すけど、それで付き合った学生カップルのほとんどは登下校を一緒にするということが多い。それに、お前らの場合は学校中でも知られているだろう。どうせ一緒に帰ってるところとかを見られたくらいじゃ『あのふたりやっとくっついたんだな』としか思われねぇよ」
そんなふうに言う健一はかつての自分と重ね合わせているようだった。
なんだか朝から考えさせられる一日だった。いや、覚悟を決める一日だったのかもしれない。あ、健一に弁当を渡すの忘れてた。教室で渡してもめんどくさいし食べるときでいいか。
教室に入って荷物を机の隣にかけると、一つの人影がこっちに近づいてきた。
「おはようございます高橋さん」
「おはよう
そういって挨拶をしてきたのはこの前会ったときとは全く違う姿をした美咲さんだ。
本人曰く、これは身バレ防止の変装らしく、案の定誰も気づいていない。かくいう俺もこの前言ってもらうまでは気づかなかったんだけどな。
「この前の話なのですが、明日写真の載った雑誌が発売されるということです。私は参考用として今日の夜に届くのですが、高橋さんと
「あ、それなら朝ください。早く来て受け取ったほうが良いですか?」
「じゃあ机の中に入れておくので確認してください」
「了解です」
連絡だけして美咲さんは去っていった。そんな姿はこの前のことは幻覚だったんじゃないかと勘違いするほど別人にしか見えない。
あんなふうにメガネをかけて後ろでひとつ結びをしているだけなのに全くその面影を見せない。
「悠真、委員長に話しかけられるってお前何したんだ?」
「なんでもねえよ。ちょっとした用事があっただけ」
「それにしてもさ、お前と一緒で委員性も隠れてるけど顔整ってるよな」
「お前に言われてもそれは嫌味だぞ」
健一は俺のもとに来てそんなことを言い出した。健一みたいに美咲さんが可愛いと気づいてる人は結構居るのだが、あの
正体は隠してても漏れ出てしまう可愛さ、女優ってすげえな。
俺だけが知ってるという優越感があるのと同時に誰かに言いたいもどかしさがある。
午前中の授業も終わり、お昼ごはんの時間になった。
「悠真、学食行くぞ」
「建一、ちょっと待ってくれ」
「ん?どうした?」
俺はカバンの中から弁当箱を二つ取り出して一つを健一に向かって差し出す。
「ん?これは?」
「お前の分だよ。今日作りすぎちゃったからお前の分も詰めてみた」
「まじか!?サンキュー。お、俺の好きなきんぴらごぼうまで入ってるじゃんか」
「やっぱり俺の考えは正しかった」
「ん?なんか言ったか?」
「こっちの話だ」
やっぱり建一が好きだから俺の家にはずっときんぴらごぼうがあったらしい。
「あ、いたいた。まだここにいたんだ」
「お、きたな美由。あと美月さんも」
「早く行かないと学食の席なくなっちゃうよー」
「フッフッフッ、美由よこれを見るが良い」
そう言ってさっき俺が渡した弁当箱を美由の前に突き出す。
「え、あのけんくんが弁当だって?もしかして明日は槍が降るの?!」
「俺が作ったわけがないだろ」
「そうだよね」
「これは悠真が作ったやつだよ」
「え、、」
そういって自慢する健一に、後ろから美月さんが声を漏らした。
「いいなぁ」
「ん?」
「なんでも無いです」
「美月ちゃんが悠真の手作り弁当いいなぁだってさ」
「美由さん!?なんで言っちゃうんですか」
何か美月さんが声を漏らしたのだがうまく聞き取れなかった。だけど、すぐ後にニヤニヤした美由がすぐに復唱した。
そんな美由のことを顔を真っ赤にしながらポコポコと殴ってる。可愛い。いつまででも見てられる。
「悠真さんも違いますからね!いや、違くはないんですけど違いますからね!」
「あ、はい」
俺は美月さんの勢いによって俺は首を縦にふることしかできなかった。
「早くお弁当食べようよ」
「あ、俺いいところ知ってるからそこ行こうぜ」
「良いところって?」
「それはついてからのお楽しみってことで」
健一はニヤっと笑った。
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