第77話 デート「撮影」
「よし、じゃあ撮っちゃおうか」
「さっきと同じ感じで良いんですか?」
「いや、服もメイクも違うんだし別路線で行ってみようか」
「うーん、ちょっとふたりとも表情が固くない?」
「こうですか?」
「うーんまだ硬いんだよね〜」
しょうがないだろ、田端さんが指示してくるポーズとか立ち位置が
「もう少し離れることはないんですか?」
「あら、最初に行ったと思うけど今回のテーマはカップルなのよ。そのためにも距離感が近くないといけないじゃないの」
確かに田端さんの言っていることは正しい。正しいんだけど、こんなに近くに美月さんがいて普通にしてられるわけがないだろ。
目の前にシミが一つもない雪のような白い肌と、いつもの透き通ったような銀髪は撮影用の光を反射して、服にあるように髪型がいつもと違って頭の上に結んでまとめている。
「ちょっと休憩にしましょう。撮影なんてなれないことして疲れているだろうし、一回休んでから撮りましょうか。それでいいですよね田端さん」
「そうね、プロじゃないんだから要求しすぎたわね。ちょっと休憩にしましょ。
「わっかりましたー。にひ、私が気になっていたケーキを持ってきますかね」
俺が表情が固くなってしまって撮影を止めてしまって申し訳ない気持ちが湧いていて休憩する気にはなれなかった。
「すみません、まだできます。もっと頑張るんでお願いします」
「いや、一回休憩にするのよ。リフレッシュしてから撮影に臨んで頂戴。まぁ、私もあなた達が来る前から仕事してたから疲れてるのよ」
そう言ってウィンクをした田端さんの話を無下にすることはできないので大人しく休憩をとることにした。
それでも、休憩に入った俺は休む気にはなれなかった。
「なになに、悩んでるのかな少年」
「渡邊さん、そうですよ悩んでますよ」
「お、素直だね少年」
「隠しても無駄ですから」
なんだかこの人には何を隠しても無駄な気がする。すべて見透かされるような、そんな気がしている。これが大人の女性の経験っていうものなのだろうか。
「少年、私はお姉さんだよ」
「急になんですか」
やっぱりこの人こわい。渡邊さんはケーキを持って戻ってきた。
「さぁ、ケーキを持ってきたよ。好きなもの選んでちょうだい」
「やったー、じゃあ私はこのモンブランにしよー」
「
「ほら、美月ちゃんも選んじゃいなよ」
「え、良いんですか」
「良いんだよ。ほら何にする?もしかしてモンブランが良かった?」
美咲さんは自分のケーキを選んび、向かい側に座っている美月さんになんのケーキにするか聞いていた。
「では、ショートケーキでお願いします」
「お、いいね。それも美味しそうだなぁ。ねえ、後で一口交換しない?」
「いいですよ。モンブランも美味しそうです」
「ほんとに美咲は自由ね。で、少年はどれにするんだい」
「俺は・・・」
俺はもらっていいものなのだろうか。こうやって撮影を中断させているのも俺のせいだし、それなのにケーキなんて食べてていいのか。
「もしかしてケーキ嫌いだった?來海ちゃん他にも何かあったっけ?」
「あ、いや甘いものは好きです」
「じゃあさっさと選んじゃいなさいよ」
「いや、俺が食べて良いものかと」
「何言ってるの?せっかく大人のお金で食べれるチャンスなんだから遠慮なく食べちゃいなさいな。私はこのチーズケーキにするわ。來海ちゃんありがとね」
「社長からはお金取ろうかしら」
俺が悩んでると知ったかからか田端さんがとんでもないことを言った。そんなことで悩んでたわけじゃないんだけどな。いや、気づいててスルーしたんだろう。
「少年、一個じゃ足りないっていうのか?男子高校生の食欲はすごいっていうしな。しょうがない、二個たべていいわよ」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「あら?そうなの?」
「え、じゃあ私二個食べたい」
「あなたはダメよ。それに甘いものをたくさん食べると太るわよ」
「う、それはやだ」
渡邊さんは俺に一個じゃなくて二個食べたらとすすめてきたが、流石に俺はそこまで卑しい訳じゃない。
そんな俺が断ったら美咲さんがもう一個ほしいとねだっていたが、渡辺さんの一言に屈していた。俺から見たらここいいる女性陣(?)は全員スタイルがいいし、太るとは無関係に見えるんだけどな。
「で、何にするんだい?」
「じゃあ、チョコケーキで」
「少年、キミは肩肘張り過ぎなんだよ。私達はあくまで自然体の写真をとることが目的なんだからこのケーキでも食べてリラックスしな」
そう言って俺の前にチョコケーキを置いてくれた。
「ねえ、なんでそんなに落ち込んでるの?」
美咲さんが俺に急に質問してきた。それも本当に不思議だと顔をしながら。
「なんでってこんなふうに撮影がうまくいかないのも、みんなに迷惑かけてるのも俺のせいだし」
「なーんだ、そんなことか」
そんなふうに言った美咲さんに俺は少し腹がたった。もちろんこんなのがお門違いなのはわかってるし、間違っているのは俺だとわかっている。
「私だってうまく撮れないよ。それこそ何回も社長たちに迷惑だってかけてる。それでもね、みんな良いものが撮れるまで付き合ってくれるし、私のことを責めたりなんてしない。それに、悠真くんたちは初めてなんだからうまくいかないことくらい最初から分かってたよ」
「じゃあなんで俺たちが」
「そんなの決まってるじゃん。それでも良い写真が撮れると思ったからだよ」
そんなことを言う美咲さん目はどこか昔を見つめるようだった。
「だからさ、今は全力で休憩して、この後に撮影しよ」
「美咲、あなたたまには良いこと言うわね」
「たまにはって何よ、たまにはって」
「だって普段は、ねえ」
「ちょっと、それどういう意味よ」
さっきまでみたいな真面目な空気は一瞬で消えて、明るくて元気な空気が戻ってきた。
「悠真さん」
「はい?なんですか?」
隣でショートケーキを食べていた美月さんがこちらを向いて話しかけていた。
「撮影で表情が固くなっていたのは私も同じです。次はさっきより良い写真を撮れるように頑張りましょうね」
「はい、そうですね」
俺と美月さんは二人で向かい合って、自然と笑みがこぼれた。
「うん、ふたりとも、二人だけの世界に入るのはやめようか。私達がここに居るからね」
「そ、そんなつもりは」
「まぁまぁ、付き合ったばかりなんだろうし初々しくて良いんじゃない?」
「それもそうね」
「なんでそうなるんですか!?」
やっぱりこの三人が揃うとおもちゃにされそうだ。
みんなで休憩してケーキを食べたと、もう一度撮影を始めた。
「いいじゃない。じゃあ次はこのベンチに座ろうか」
「いいね、次は階段なんか使ってみてみよう」
休憩後の撮影はすんなりといき、なんとか終了することができた。
「お疲れ様、今日は本当にありがとう。おかげでいい写真が撮れたし助かったわ」
「いえ、こちらこそ迷惑かけちゃってすみません」
「あんなの迷惑でも何でも無いわよ。それに、なんにもしらない素人が一日で撮れるようになる方が凄いんだから」
そう言って田端さんは俺たち二人に紙袋を手渡した。
「はい、これは今回の報酬よ」
その紙袋の中には服が入っていた。よく見てみると今日着た服に加え、控室に置いてあった服だった。
「あの、これは?」
「申し訳ないけど今お金を持ち合わせていなくてね、だから今回使った服と使う予定だった服ほ上げることにしたの」
「こんなの受け取れませんよ。俺なんてそんな立派な仕事をしてないんですから」
「そうかしら?私としては十分働いてくれたと思うし、それに見合う報酬だと思うわ」
「でも、」
「それに、大人の好意はすんなり受け取っておくものよ」
そう言って田端さんは俺たち二人に対してウィンクをした。やっぱり田端さんのウィンクには逆らえないなにかがある。
奥から片付けをしていたはずの美咲さんが駆け寄ってきた。
「あ、悠真くん、美月ちゃん、今日はありがとう。おかげで撮影も終わったから助かったよ」
「今おんなじこと田端さんに言われたよ」
「うそ!?アチャー、先に言われちゃってたか。でも助かったのは本当だから。ありがとう」
「美咲、片付け残ってるわよ」
「やばっ、戻らなきゃ。またねふたりとも。学校でね」
「はい、また学校で」
「同じクラスだしよろしくな」
そう言って戻っていく美咲さんはなんだか嵐のような人だった。なんだか
「美咲さんって少し美由さんに似てませんか?」
「俺も今同じこと考えてた」
俺たちはショッピングモールを出て帰ろうとしていた。
「今日は楽しかったですね」
「そうだね、結局買い物はできなかったけどね」
「良いじゃないですか、貴重な経験もできましたし。それにこんなにたくさんの服をもらえたんですから」
「そうだね。ってこれ有名なところのやつじゃん」
今日のデートは慌ただしく、そして楽しいものだった。
もうすぐショッピングモールを出るというところで俺は足を止めた。
「美月さん」
「はい?なんですか?」
「俺と、俺と夏祭りに行ってくれませんか?」
俺は勇気を出して誘った。今日このタイミングを逃したらもう来ない、そんな気がしたから。
「じゃあ、美由さんと
「いや、違います」
「え?」
「二人でです。二人で行きたいです」
俺は言い切った。口から心臓が飛び出しそうだ。今も断られるんじゃないかとドキドキしている。
「本当ですか?」
「はい」
美月さんが口を閉じる。そして口を開く。
「行きたいです」
そう言った美月さんの頬は赤らんでいた。後ろからは夕日が差しているが、そんなのではないと俺でも分かるほど頬が赤らんでいた。
「じゃあ、集合時間とか詳しいことは後で」
「はい、楽しみにしてます」
そう言って俺たちは今度こそショッピングモールを後にした。
俺はここでOKもらったことが嬉しくてあまりこの後のことを覚えていない。覚えているのは俺が興奮しすぎて顔が熱くなったことだけだった。
俺は決心していた。この夏祭りで答えを、そして想いを伝えることを。
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