第73話 今の関係
下の売店で白地にイルカの絵が書いてあるTシャツと色が明るめのジーパンを買い、試着室をお借りして着替えさせてもらった。俺はその間に美月さんの着替えの服の会計を済ませてしまう。
「お会計は5960円になります」
「6000円からでお願いします」
「40円のお釣りとレシートになります。ご利用ありがとうございました。彼女さん可愛いですね、デート楽しんでください」
レジ担当の店員さんが丁寧に対応してくれたのだが、最後に爆弾を落としてきた。俺と美月さんはまだ彼女ではない。これがどうなるかは俺が自分を見つめ直したときに見つけた答えとそれ自体を行動できるかどうかの一歩を踏み出せるかだ。
「おまたせしました。どうですか?」
「似合ってますよ」
シンプルな服装なのに目が惹かれるようなのはスタイルがいいからなのだろうか。周りに花が浮いているように見えるし、なんだか光っているようにも見える。
「すみません、私が前に行きたいといったあまりに濡れてしまって」
「楽しかったから良いんじゃないですか?」
「では、この服買ってきますね」
「あ、その服は会計してあるので大丈夫ですよ」
「え??」
さっきの会計は美月さんに何も言わないでしたので知らなかったのだろう。だって
「せっかく二人ででかけてるんですし、男らしいことをさせてくださいよ」
「でも、」
「いいから。じゃあ俺からの今日のプレゼントってことで」
そう言って無理やりではあるけど納得してもらった。すこし納得してない部分はあるだろうけどプレゼントって言ったら渋々だけど納得してもらった。
「あ、ちょっとトイレ言ってきて行ってきて良いですか?」
「あ、はい。この辺りで待ってますね」
俺は美月さんを置いてトイレに向かう。
売店近くだからか人がいて少し待つことになったが、用をたして手を洗い美月さんの元へ戻ろうとする。
その時だった、事件が起きていたのは。
「お姉さんいま一人?」
「いえ、一緒に来ている方がいますので」
「その子も女の子でしょ?俺たちもちょうど二人だしさ一緒に回ろうぜ」
「いや、ちょっと」
明らかにナンパされている。頭の本の片隅に知り合いという可能性を残しておいたが、美月さんの反応からみてもその線は限りなく0であるだろう。
俺が今できる行動は2つ。
一つは、警備員さんに話しかけ、この問題の対処をしてもらう。ただ、これは美月さんがナンパされているのを認めるかつ男どもが自分たちの日を認めなくてはいけないため、煙に巻かれて見逃される可能性がある。それに大事になってしまうため、そんなことできる限り避けておきたい。
となると2つ目の案、俺自身が美月さんを助けるということだ。男どもは体つきもよく、おそらく大学生だろう。暴力行為に走られると非常に面倒くさい。それでも、美月さんは困っているし、俺がやるしか無い。
「すみません、、」
「ああん?何だお前」
やっぱりこうなるよな。コイツ等からしたら邪魔な存在だもんな。それに勝手に女子同士で来てたんだと思ってたっぽいしな。
「彼女は俺の連れなんで」
「ふっ、ははは。お前が彼女の連れだって?笑えるにもほどがあるぜ」
なんだコイツ失礼だな。俺はさり気なく男と美月さんの間に身体を入れ込む。後ろにいる美月さんが小刻みに震えていることが分かる。怖いに決まってるよな。ごめんね。
「あの、もう良いですか?俺たちまだ見たいものもあるんで」
「良いって言うとでも思ったのか?調子のんなよ英雄気取りが。どうせお前は彼女の連れでもなんでもなくて格好つけたいだけなんだろ?」
「そうだな。さっさとぼくちゃんは一緒に来た友だちのところに行きまちょうね」
俺の言葉が気に食わなかったのか、俺の胸ぐらを掴んできた。見た目通りキレると手まで出してくるようだ。はぁ、仕方がないか。
「何回も言ってますよね、彼女が僕の連れだってこと。あと、これは暴力ってことですよね」
「あ?なんだと、、、」
俺は言ったからな。確認もしたからな。まあ、返答は待たないけど。
俺の胸ぐらをつかんでいるす男の腕を掴んで投げ飛ばした。
「グハッ」
何も分からないうちに天井が見えて背中に衝撃が来たことだろう。周りにいた人たちも何が起きたか分からず、固まってしまった。
「て、てめぇコノヤロー何したんだよ」
一緒にいた男が殴りかかってきたので右手で受け流して左手でみぞうちを殴る。実践は久しぶりだし、もし利き手で殴っていたらやりすぎてしまう気がしたからな。
「投げやがって、カチンと来ちゃったよ」
さっき投げ飛ばした奴がフラフラしながらも立ち上がってこっちに向かってくる。俺は軽く足払いをした後に腕を背中に回させて床に押さえつける。
ある程度大人しくなってから二人のことを立ち上がらせてしっかりと伝える。
「彼女は俺の連れです。これで分かりましたか?」
「は、はい」
「だったら早く去ってもらえますか?俺たちはまだ水族館を楽しみたいんで」
俺が誰が見ても明らかに怒っているとわかる笑顔を浮かべて話しかけた。男たちは逃げるように俺たちから離れていき、水族館を出ていった。
「美月さん、大丈夫でしたか?」
「は、はい。大丈夫ですけど、悠真さんに怪我はないですか?」
「はい。全くです。俺が一人にしたあまりにこんな目に合わせてしまって」
「悠真さんは悪くないですよ。悪かったのはあの男性方です」
それでも美月さんを怖がらせてしまったのは事実だ。しかも俺自身が『俺の連れ』としか喋ってない気がする。
「悠真さんに助けてもらえましたし私は大丈夫ですよ」
「そう言ってもらえると助かります」
「あ、もうすぐペンギンの散歩が始まるらしいですよ」
「え、もうそんな時間!?早く行きましょ」
「はい。あ、悠真さん」
「はい?」
ペンギンのもとに行こうとした美月さんに呼ばれて振り返ると耳元に寄ってきて、
「かっこよかったですよ」
かっこよかったですよ、かっこよかったですよ、かっこよかったですよ。俺の頭の中で同じ言葉がずっと反芻していた。
その後に見たペンギンの散歩はあんなに楽しみにしていたのに、美月さんのことばっかに集中していて可愛かったということしか頭の中に入らなかった。この可愛かったはペンギンなのか美月さんのことなのか。
それにしても、俺の連れか、この関係はもう少し後に変わることになるかもしれないな。いや、変わるんだ。今日、俺はそのために動くんだ。
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