第70話 お約束《冬城美月視点》
「上がりました。次入ってください」
「はい、、」
「あの、
「・・・あ、はい。ではお風呂を借りますね」
私は悠真さんに背を向けて急いで洗面所に向かいます。そして、扉を締めた後にその場に座り込みました。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
ものすごく大きく息を吐きました。
あの悠真さんは反則じゃないですか?お風呂上がりだから顔が少し火照っていて。いや、風邪を引いていたので今日はほとんど火照っていましたが。
水分を多く含んでいる髪を搔き上げて、いつもは前髪の後ろに隠れている目が、私のことを優しく見つめていていつも以上にドキドキしました。
やっぱり男性の、それも好きな人のお風呂上がり姿はかっこよすぎますし色っぽくてずるいです。
私はお風呂に入りながら心拍を落ち着かせます。でも、好きな人の家でお風呂に入っているというだけでもドキドキします。どうにかして落ち着かせないと私の心臓がもたなそうです。
「今は我慢です。悠真さんの看病のために来たんですから」
そのためにもこのお風呂の中で落ち着かせないと。
私が湯船から上がり、身体の水分を拭き取っているときに同じ湯船に悠真さんが入っていたことを意識してしまって顔が真っ赤になったのはまた別の話です。
お風呂から上がった後は脱いだ服や下着を持ってきたバッグの中に入れて、悠真さんの部屋に向かいます。扉を開けると何故か悠真さんはベッドの上で座禅を組んでいました。
「お風呂いただきました。悠真さん、その格好はどうしたんですか?」
「何でもないです。精神を落ち着かせようとしてただけです」
「?、そうですか?」
そんなに精神を落ち着かせなければ行けないほど体調が悪いんでしょうか?それにしては元気そうですけど。それに、なんだかいつも以上に視線を感じます。
「私に何か着いていますか?」
あまりにも私の事を見てくるので気になって確認してしまいました。それも、私は自分でも意識してないうちに悠真さんの顔の近くまで迫っていました。
悠真さんに近づいて鼻に入ってくる香りが私の身体からもします。
改めて私の身体から悠真さんの匂いがすることがなんだか悠真さんに包まれているみたいです。
「ち、近いです」
「え、あ。す、すみません」
私はその言葉で現実に戻ってきて、悠真さんから離れます。もしかして、私が近くにいるのが嫌だったのでしょうか。
「ほら、俺は風邪を引いてるわけだし、そんなに近くにいると移してしまうし」
「あ、なんだ。悠真さんならいいのに」
「ん?なにか言いました」
「いえ、何も言ってませんよ」
思わず口から出てしまいました。け、決して悠真さんに看病してもらえるかもしれないなんて下心からそう思ってわけでは無いんですから。
でも嫌がられていたわけではなく、私の身を心配してのことでした。やっぱり悠真さんは優しすぎます。
「じゃあ、薬を飲んでゆっくり寝てくださいね。いま薬を持ってきますから」
「はい、お願いします」
これ以上起きていてもあれですし、早く寝たほうが風邪が治りますしね。私は悠真さんの部屋を出て、この家に来る前に寄って買ってきた風邪薬を取りに行きます。
薬と水の入ったコップ、水分補給用のスポーツドリンクをお盆に乗せて持っていきます。
薬とコップを渡した後に、持ってきたスポーツドリンクの入ったペットボトルを枕元に置きます。
「しっかり寝てくださいね」
「はい」
「では、おやすみなさい」
リビングに戻って、私も寝ようとしたのですが、何故か悠真さんが私の服を掴んで離してくれません。
「悠真さん?どうしました?」
「え?」
「いや、私のことをつかんで離さないので」
数分経っても離してくれないので聞いてみました。
「す、すみません。お、おやすみなさい」
反応から見ても、どうやら無意識のうちに私の服をつかんでいたようです。なんだか悠真さんの仮面の内側にある、寂しそうにしている少年の顔が少しだけ見えた気がします。
「悠真さん、もしよければこの部屋で一緒に寝てもいいですか?」
「え?でも布団は無いし」
思い切って提案してみました。せっかく泊まるんですから一緒に寝たいですし、もしかしたら仮面の中の、本当の悠真さんの願いかもしれません。
人肌に触れていたいということが。
「それは大丈夫です。
もうリビングに敷いてあるのでその布団を持って来るだけですので。問題ありません。
「ダメ、ですか?」
「う、いいですよ」
もう一緒に寝るつもりでしたので断られたらどうしようと思っていました。
「ありがとうございます。じゃあ持ってきますね」
私は一度リビングに戻り、布団を持ってきて悠真さんのベッドの隣に敷きました。
「え、隣?」
「あ、もしかしてダメでした?」
「いや、隣なんだなと思い」
隣に敷きますよ。だって一緒に居たいんですから。
「では、今度こそ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そう言って部屋の電気を消して布団の中に入ります。
目をつぶって寝ようとするんですが、全く眠くなりません。隣に悠真さんがいるって考えると眠れません。
隣を見てみると悠真さんがぐっすり眠りについています。寝顔が可愛いです。
写真にとって待ち受け画面に登録したいですけど、シャッター音で起きてしまいますし、盗撮はいけません。絶対駄目です。いまは。
明日の朝ごはんも作るので早く寝ないと。私はもう一度目をつぶり眠りにつきました。
目が覚めて、目を開けると、目の前に悠真さんの顔がありました。
ドキドキして心臓が止まると思いました。私は十分程寝顔を眺めた後、朝ごはんを作るためにキッチンに向かいます。もう少し悠真さんの寝顔を見ていたかったですけど仕方ないですね。
半分くらい作り終わった頃に部屋の扉が開いて悠真さんが起きてきました。
「起きたんですね。おはようございます」
「おはよう」
「体調はどうですか?」
「もうバッチリ。心配かけですみませんでした」
「謝らないでください。それより謝られるより感謝される方が嬉しいです」
「看病してくれてありがとうございました」
「はい、どういたしまして」
悠真さんの体調が良くなって何よりです。もしまだ体調が悪かったとしても今日も看病をしていましたが。
「ご飯は普通に食べれますか?」
「はい」
「じゃあもうすぐ出来るのでそこで座っていてください」
「いや、俺も手伝うよ」
「病み上がりなんですから言う事聞いてください」
「うっ、はい、、」
せっかく悠真さんに手料理を食べてもらえるんですからさせてください。と言っても私は料理が得意じゃないのであんまり作れないんですけどね。
「出来ましたよ」
私は完成した料理を皿に盛り付けてテーブルの上に運びました。
「「いただきます」」
向かい側に座った悠真さんと一緒に食べます。なんだか同棲したてのカップルみたいでドキドキします。
「美味しいです」
「口にあって良かったです」
やりました。悠真さんに美味しいって言ってもらえました。この朝ごはん勝負は私の勝ちです。えっへん。
「「ごちそうさまでした」」
私は食べ終わった食器をシンクに運び、洗い物を始めようとしました。
「洗い物は俺がやるんでいいですよ」
「でも私が、」
「朝ごはんまで作ってもらったんでこのくらいはやらせてください。それに、美月さんのお陰でもう風邪は治ったので」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ここまで言われては変わるしかありません。でも、悠真さんがここまで元気になってくれてよかったです。
「美月さん、看病のお礼と言ってはなんですけど何か欲しいものとかってあります?」
「え?」
「いや、ここまでしてもらってるのに何もお返しできないのは嫌なので」
「私はそんなことして欲しくてやったわけじゃなくて」
「知ってます。でも俺の気持ち的にも何かさせてください」
どうしましょう。特に今欲しいものは無いのですが。あ、せっかくですし、この前のテストの勝負も負けた可能性が高いのでそのときに頼もうとしていたことにしましょう。
「そうですね。あ、ではまた今度一緒に出掛けてください」
「え、そんなことですか」
そんなことってなんですか、そんなことって。私にとって悠真さんを出かけるのに誘うのはとても緊張してるんですよ。断られたらどうしようかって。
「はい、それこそ今回の勝負でお願いしようとしていたことはこれでしたので」
「そうですか。分かりました。次の土日でどうですか?」
「大丈夫です」
「じゃあ日曜日に行きましょう」
「はい、楽しみにしてますね」
最後に約束をして、私は悠真さんの家を後にしました。健一さんの家の布団は悠真さんが後で返しておいてくれるというのでお言葉に甘えました。こんなに早い時間にお邪魔するのは迷惑ですしね。
家に帰りました。
「ただいま」
「おかえり。朝早かったわね」
私は昨日の夕方に、友だちの家に泊まると伝えていたので、こんなに早く返ってくるとは思っていなかったようです。
友だちで間違いじゃないです。今はまだ。私としてはここで終わるつもりは無いのでこれからも頑張ります。
私は自分の部屋のベッドにダイブした後足をバタバタさせていました。
やりました。またデートの約束が出来ました。次の日曜日まで楽しみで仕方ありません。なんの服を来て行きましょうか。
「お姉ちゃんうるさい」
ベッドの上でうるさくしていた私のことを注意しに妹の
最近の私は浮かれ過ぎなのでしょうか?
次はデート回(二回目)です。
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