第68話 二人きり
「
「あ、悠真は体調悪いから今日は手を出さないで我慢してね♪」
「そんなはしたないことしませんから!!」
玄関から出ていくときに健一さんからは悠真さんのことを頼まれましたが、
急に泊まって看病することを提案したのも、私一人で看病するように提案したのも美由さんですからね!?なんでそんな事言うんですか。まあ、悠真さんと二人きりになれるので役得なのは否定しませんけど。
二人が帰ったあとに私は自分用の夜ご飯を作りました。悠真さんは風邪を引いていますし、消化に良いものを後で作りましょう。
料理も終盤に差し掛かったタイミングで再び悠真さんの部屋から物音がしました。起きたのでしょうか。少し待ってみると勢いよく扉が開き、顔が赤くなっている悠真さんが部屋から出てきました。
「・・・え?」
「悠真さん、起きたのですね。もうすぐ出来ますけど食べます?」
「あ、はい。・・・じゃなくてなんで美月さんがここに?」
部屋から出てきた悠真さんはなんでここに私がいるのかと困惑しているようです。それもそのはずです。さっきまで出来事も何もかもが悠真さんが寝ているときに起こったことなので記憶にないのです。
「体調は大丈夫ですか?」
「まだ良くはないです」
「そうですか」
「そんなことよりなんで俺の家にいるんですか?俺の記憶では健一と美由と一緒にいると聞いていたのですが」
顔が真っ赤なのでまずは体調確認です。やっぱり全快したようではないようです。それより悠真さんとしては私が今ここにいることが不思議で仕方ないようです。
「一緒に近くのファミリーレストランでお昼ごはんを食べました。その後の予定は決まっていなかったのですが、建一さんがなんだか考え事をしていて上の空に鳴っていたことに美由さんが気づきまして」
ここで本当のことを言うのか悩みましたが、私は隠すのは得意でも、嘘をつくのは苦手なので正直に言うことにしました。
「話を聞いてみると悠真さんの様子が変だって言ったんです。今日は誘っても来なかったし、普段とは違う様子だったと言いました。それでもしかしたら何かあったのかもしれないということになり、三人でこのマンションに来たんです」
本当は私が心配していることが顔に出ていて来ることになったんですが、恥ずかしいので隠しておきます。
「そしてインターホンを鳴らしても反応がなかったので健一さんの家から合鍵を持ってきて開けたら悠真さんが玄関で靴を脱いですぐに倒れていました。慌てて近づいて見ると寝息をたてていて、健一さんが悠真さんのことをベッドの上まで運びました」
悠真さんのことを見つけてときは心臓が止まったかと思うほど驚きました。人が倒れているのを見つけるのは二度目でしたから。
「健一と美由は?」
「健一さんと美由さんは帰りました。私は悠真さんの看病をするために残りましたが」
私だけが悠真さんの家にいることが不思議なのでしょう。私は正直に看病するために残ったと伝えました。本当はお二人の企みによって私だけが残ることになったのですが。
「私が悠真さんの看病をしたかったんです。それに悠真さんに言いたいことがありましたから」
「?。なんですか?」
「なんで体調が悪いことを隠してたのですか」
「それは・・・」
それでも看病をしてあげたかったのは本当です。
「今回のテストで勝負をしていたので美月さんに心配かけたくなかったので」
やっぱりでした。悠真さんは自分のことではなく、周りのために自分の体調について隠していました。
「でも体調が悪い中受けたのでしたら成績は良くないですよね。今回の勝負は無かったことにしましょう」
「いや、そんなことは無いです。俺はしっかりテストが解けましたよ。それに俺はこれでも学年次席ですから」
「え・・・え!?」
私が勝負してほしいとお願いしたことも言い出しづらかった原因になっていますし、こんな状況で受けたテストの結果なんて想像出来ます。なので勝負を水に流そう、そう思ったのですが。
学年次席ですか?それって私の次に入試の点が良かったってことですよね。知らなかったとはいえ、そんな相手にハンデまで着けてしまっては勝てるはずがありません。
「じゃあ今回ハンデいらなかったじゃないですか」
「美月さんがくれるというのでありがたくもらっただけですよ」
ハンデをあげたのは私ですけど、断ってくれても良かったじゃないですか。悠真さんひどいです。
「だから今回の勝負は負けないんですよ」
「うぅぅ、ずるいです。悠真さんのズルっ子です」
「知らないまま勝負をしてきた美月さんが悪いんですよ」
「悠真さんにしてもらいたいことがあったのに」
このままでは悠真さんともう一度デートに行こうとお願いしようと思っていたのに出来ないじゃないですか。どうしましょう。
「もう大丈夫ですよ。今からでも建一たちと遊びに行ってきてください」
「何言ってるんですか?行かないですよ。こんな状態の悠真さんのことをおいて行くわけ無いじゃないですか」
明らかに貼って着けたような無理した笑顔をこちらに向けてそんなことを言う悠真さんに少しだけイラッとしました。なんでそんなに頼ってくれないんですか。
「俺は大丈夫ですから。せっかくテストが終わったんですし楽しんで来てください」
「嫌です。それに遊びに行くのは悠真さんが治ってからみんなで行きましょう」
せっかく四人で仲良くなれたので四人で集まって遊びたいんです。誰かが欠けているのは嫌です。悠真さんと二人で出かけたい願望もありますが、それはそれ、これはこれです。
「悠真さん、顔が赤くなってますけど熱上がってませんか!?」
「っ、上がりましたね」
悠真さんの顔がみるみるうちに赤くなっていきます。熱が上がっても大変なので悠真さんは自室に戻っていきます。
私は悠真さんが戻ってから料理の仕上げに取り掛かります。
完成した後に、悠真さんの部屋に様子を見に行きます。様子の確認のためです。決して寝顔を見たいという欲望のために行くわけじゃないです。
ベッドの上で寝ている悠真さんの寝顔はなんだか苦しそうでした。なにか悪い夢でも見ているのでしょうか。
私は布団から出ていた左手を握りました。少しでも苦痛が和らぎますように。
そして、人の暖かさが伝わりますように。
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