第67話 三人での会議

 玄関を開けたそこには、うつ伏せになって倒れている悠真ゆうまさんがいました。私の頭の中には今起こり得る最悪の事態がよぎります。


「おい、悠真!!大丈夫か!」


 一足先に戻ってきた健一けんいちさんが悠真さんに近づき安否確認をします。顔元に手をかざし、手首を取り心拍を確認します。その後にすぐさま胸元に顔を近づけて心拍の確認をしました。


「大丈夫。心拍も普通だし呼吸もちゃんとしてる。家に入って今まで張り詰めていたものが切れて倒れたんだろう」


 どうやら最悪の事態にはなっていなかったようです。私は大きく胸を下ろしました。


「ただ、体温はものすごく高いし、顔も赤く汗も酷い。相当酷い状態だと思う。ったく、こんなになるまで隠しやがって、この前お前が俺に言った言葉忘れたのかよ」


 ただ、体調が悪く酷い状態なのは変わりありません。

 健一さんは倒れている悠真さんを持ち上げ、悠真さんの部屋に向かって行きます。


「俺は1回こいつのことをベッドに寝かせに行くから食材とか冷蔵庫に入れといてくれ」

「分かった」

「分かりました」


 私と美由みゆさんは買ってきたものを持って中に入ります。冷蔵庫を開けると中は空っぽでした。正確には少しだけ入っていたのですが、何も料理が出来そうなくらいには食材がありませんでした。


「流石に寝てるやつの体温を測るのはキツイから起きてからにするとして、何しよっか」

「悠真さんは大丈夫なんでしょうか」

「多分な。あいつ自身も分かってたからだろうから。ほら、そこに風邪薬が出てるだろ?多分それ飲んでたんだろうよ。おそらく昨日から」


 悠真さんは周りを心配させないように、バレないように薬を飲んで症状を抑えていたようです。

 でも、今こうしてみんなが集まっているんですから逆効果です。それに、こうなるんですから今度からは隠さないように釘をささなきゃいけませんね。


「良かったね、美月ちゃん」

「はい。玄関での姿を見たときは血の気が引きましたけど」

「あー、あれね。あれは私も驚いたな」


 玄関を開けたら人が倒れてるなんてミステリー小説でしか見たことがありませんでしたから。


「俺たちのことくらい頼ってくれて良いんだけどな」

「やっぱり過去のことを引きずってるんですかね」

「え?美月さんも知ってるの?悠真のこと」

「はい、少し前にお話を聞かせていただきました」


 健一さんは私が悠真さんの過去にあったことについて私が知っていることに驚いているようでした。

 それもそうですよね。話を聞いた限りでは、ほとんどが学校内で起きていたわけですし、違う中学校に通っていた私が知っているはずがないですから。


「え、じゃあ知らないの私だけ?」

「美由さんは知らないんですか?健一さんが知っているので知っているものだと」

「何も知らないよ。なんなら高校入るまで悠真のこと知らなかったし」

「そうそう、内容が内容だから俺から話すのも違うかなって」

「そうですね。あの内容は本人の許可がないと言えないですよね」


 でも、悠真さんにとっては思いだしたくもない過去でしょうし、私としても思い出してほしくない過去です。


「ずーるーいー、私だけ仲間外れいーやーだー」

「まあまあそう怒んなって。悠真の大事なことだからさ。あいつに黙って言うのも違うだろ」

「それはそうだけど」

「ま、少しならいっか」

「健一さん!?」


 さっきまでと言ってること違くありませんか!?さっきまで悠真さんが話すまで待つみたいに言ってましたよね。なんでそうなるんですか。


「詳しい内容は省くけど、悠真は中学校の頃にいろんなことが積み重なったせいで人のことが信じられなくなったんだよね。それで、自分にも蓋をするし、周りとも一歩引いたところからみたいになったんだ」

「それってさ、もしかしてバスケって関係ある?この前の林間学校のときに悠真がバスケって単語に凄い反応してたから」


 あのときは私も何も知らなかったですが、ひどい血相をしてました。なにかに怯える子供みたいな顔をして。


「全く関係わけじゃないけどほとんど関係ないかな。中学校のときに打ち込んでたことだから中学の頃を思い出すキッカケになるからだと思う。前の体育の授業のときは大丈夫だったんだけどな」

「もしかしたらですけど、私のせいかもしれません」

「え?美月ちゃんのせい?」

「はい。悠真さんが中学校のときに起きたあれのことを思い出すようなことをしてしまったので」


 あの時二人で出掛けたときに電車に乗りましたが、乗りたくなかったのかもしれません。あんなことがあった後に乗ろうと思う人はいないですから。だから悠真さんは家から電車じゃなくて自転車で行ける距離に住んでる気がします。

 それに、あの時電車に乗るときに満員電車を見送ろうとしていたんでしょう。電車の揺れでとはいえ私のところに近づいたのはトラウマがフラッシュバックするには十分過ぎる条件です。


「あー、もしかして二人で出掛けたときか?」

「はい。あのときです」

「それなら大丈夫だと思うぞ。あの後の悠真はいつもと変わってなかったし。まあ、美月さんのせいっているのはあながち間違ってないけど」

「やっぱり私のせいでしたよね」


 私のせいだったんですね。あの時悠真さんが、林間学校のときに悠真さんが落ち込んでいたのは私のせいなんですね。

 もしかして、あの時私が側にいたのって迷惑だったのでしょうか。それでも、私は自分のせいだと分かっていたとしても側にいたと思います。だって、好きな人が落ち込んでいたら無視できないですから。


「あーそうなんだけど、そうじゃないんだよね。美月さんがしたことのせいじゃないから気にしないで欲しい」

「そうなんですか?」

「そうそう。これに関しては本当に美月ちゃんが悪いわけじゃないから。むしろこれは悠真が悪いね」

「悠真が悪いかは微妙なところだけどな」


 ?。お二人がなんのことを言っているのかさっぱり分かりませんが何かあるのでしょう。悠真さんの秘密に関わることでもありそうなのでしょうがないです。本当は秘密にしないで話してほしいですけど。


「そうだ。今日って美月ちゃんこの後の予定って何かあるの?」

「いえ、何も無いですよ」

「じゃあさ、ここに泊まって看病してあげなよ」

「・・・え?」


 私が悠真さんの家に泊まって看病?でも何も持って来ていないし、三人で泊まってってことなのでしょうか。


「それいいね。寝具なら俺の家の美由が使ってるやつかしてやれるし」

「着替えも私のやつ使っていいいよ」

「お二人はどうやって寝るんですか?」

「え?私達は泊まらないよ。泊まるのは美月ちゃんだけ」

「困ったら俺が隣に住んでるから声かけてくれたらいいから」


 私が一人でお泊り?それも悠真さんの家に?


「とりあえず、私とけんくんで荷物持ってくるから」

「あ、はい」


 そう言ってお二人が立ち上がりました。私も何もしないで待っているのもあれなので夜ご飯を作って待つことにします。三人で食べるかもしれないので少し多めに作りましょうか。持ち帰って食べることも出来ますし。

 料理を作っているときに悠真さんの部屋からゴソゴソと物音がしたのですが、私の頭の中はそんなことを気にする程余裕はありませんでした。

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