第63話 定期テスト終わり

 俺が目を覚ますと、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってきた。そうか、俺は玄関で意識が飛んで・・・ここはベッドの上だし自分で戻ったのか。そろそろ何か腹に入れないとな。

 俺はそう思いまだ重たい身体を起こしてベッドから降りようとしたときにようやく気がついた。何故かキッチンの方から何やら物音がすることに。

 俺は一人暮らしをしていて近くに親が住んでいるわけでもない。そして、今日体調を崩していることを誰にも言っていない。このことから俺は空き巣に入られたのだと思い勢いよく自室のドアを開けた。

 そしてキッチンの方を見ると、そこにはエプロン姿の美月みつきさんが立っていた。


「・・・え?」

悠真ゆうまさん、起きたのですね。もうすぐ出来ますけど食べます?」

「あ、はい。・・・じゃなくてなんで美月さんがここに?」


 俺は美月さんのことをこの家に呼んだ記憶も招き入れた記憶もない。いや、どうやってこの部屋に入ってきたのかは心当たりはある。


「体調は大丈夫ですか?」

「まだ良くはないです」

「そうですか」

「そんなことよりなんで俺の家にいるんですか?俺の記憶では健一けんいち美由みゆと一緒にいると聞いていたのですが」


 俺も健一に誘われていたが自分の体調が優れていなかったので誘いを断った。


「一緒に近くのファミリーレストランでお昼ごはんを食べました。その後の予定は決まっていなかったのですが、建一さんがなんだか考え事をしていて上の空に鳴っていたことに美由さんが気づきまして」


 健一が考え事、なにかそんなに重要なことがあったのか。俺には今日の健一は考え事をしているようには見えなかったけどな。いや、俺が体調悪くて気が付かなかっただけかもな。


「話を聞いてみると悠真さんの様子が変だって言ったんです。今日は誘っても来なかったし、普段とは違う様子だったと言いました。それでもしかしたら何かあったのかもしれないということになり、三人でこのマンションに来たんです」


 やっぱり健一には気づかれてたか。会話の返答も遅れてたからな。でも、バレたってことは健一が責任を感じてそうだな。あいつは悪くないんだけどな。


「そしてインターホンを鳴らしても反応がなかったので健一さんの家から合鍵を持ってきて開けたら悠真さんが玄関で靴を脱いですぐに倒れていました。慌てて近づいて見ると寝息をたてていて、健一さんが悠真さんのことをベッドの上まで運びました」


 えマジか。俺は玄関で寝てたんだ。たしかに自分でベッドまで行った記憶はなかったけど記憶がないだけだと思っていた。俺を運んでくれた健一には感謝だな。あとでお礼を言わないとな。

 ここまで話を聞いてもう一つ疑問が出てきた。


「健一と美由は?」

「健一さんと美由さんは帰りました。私は悠真さんの看病をするために残りましたが」


 なんで美月さんだけ残して帰ったの?ちゃんと美月さんのことも連れて行ってあげなさいよ。一人で看病なんて大変なんだし、帰らせないならせめて一緒に居てあげなさいよ。


「私が悠真さんの看病をしたかったんです。それに悠真さんに言いたいことがありましたから」

「?。なんですか?」

「なんで体調が悪いことを隠してたのですか」

「それは・・・」


 これは正直に言うべきなのだろうか。美月さんにも気を使わせてしまうし言いにくい。でも、ここまでしてもらっておいて今更だよな。


「今回のテストで勝負をしていたので美月さんに心配かけたくなかったので」

「でも体調が悪い中受けたのでしたら成績は良くないですよね。今回の勝負は無かったことにしましょう」

「いや、そんなことは無いです。俺はしっかりテストが解けましたよ。それに俺はこれでもですから」

「え・・・え!?」


 美月さんが驚いた顔をしていた。学年首席は入学挨拶とかで仕事があるのだが、次席以降は何も無いので本人が言わないと気が付かない。俺も小林こばやし先生に言われるまで知らなかったんだけどね。


「じゃあ今回ハンデいらなかったじゃないですか」

「美月さんがくれるというのでありがたくもらっただけですよ」


 ちなみに健一も俺が学年次席なことを知っている。俺が小林先生から言われたときにその場に居た一人だからな。


「だから今回の勝負は負けないんですよ」

「うぅぅ、ずるいです。悠真さんのズルっ子です」

「知らないまま勝負をしてきた美月さんが悪いんですよ」

「悠真さんにしてもらいたいことがあったのに」


 そんな風に少し悔しがる美月さんが可愛らしかった。


「もう大丈夫ですよ。今からでも建一たちと遊びに行ってきてください」

「何言ってるんですか?行かないですよ。こんな状態の悠真さんのことをおいて行くわけ無いじゃないですか」


 だから嫌だった。俺のせいでみんなが我慢しなきゃ、気を遣わなきゃいけなくなるのが嫌だから。


「俺は大丈夫ですから。せっかくテストが終わったんですし楽しんで来てください」

「嫌です。それに遊びに行くのは悠真さんが治ってからみんなで行きましょう」


 そんな事を言った美月さんは天使のような微笑みを浮かべていた。そんな顔をみて体温が上がっていくことを感じる。


「悠真さん、顔が赤くなってますけど熱上がってませんか!?」

「っ、上がりましたね」


 体調が悪化して熱が上がったわけではない。いや、今このことについて言及すのはやめよう。まだ熱が上がりそうだし。

 ただ、俺は本調子では無いのは確かなので自分の部屋に戻って休ませてもらうことにした。

 俺はベッドに入ると眠気が襲って来てもう一度眠りについた。なんだか手元に暖かさを感じた。

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