第59話 定期テスト1日目

 そして約二週間の時が過ぎ、定期試験当日の朝を迎えた。

 今日は余裕を持って学校に着くようにいつもより早めに家を出た。すると隣の家のドアが開き、不健康そうで今にも倒れそうな顔をしたお隣さんが出てきた。


「どうしたんだお前」

「・・・悠真か。今日テストだろ?少しでも点数取れるようになろうと思って徹夜した」


 どうやらお隣さん、建一けんいちは今日のテストのために徹夜して勉強していたらしい。よく見ると目の下に隈ができていた。


「徹夜するとパフォーマンス下がるし次からはやめろよ」

「・・・はい」

「それにテスト中に寝たら本末転倒だから気を付けろよ」

「・・・気をつけます」


 寝不足で頭が回っていないからか俺との会話の返答がいつもより遅い。こんな状況でテストを受けて大丈夫なのか?しかたがない


「明日もテストなの分かってるよな」

「・・・おう」

「今日はテスト終わったら俺の家に来い。飯も全部作ってやるから」

「・・・おう。って、え?」

「明日に響かないように俺が世話してやるって言ってんだよ」


 正直そんなことする意味はないんだが、俺のことを日頃から助けてくれている建一に対してだし、なによりこんな状況の友人のことを放っておくのは俺には出来ない。


「・・・まじで?」

「ああ。お前一人増えたところで構わん。それに今回のテストは余裕だしな」

「・・・助かる」


 そして俺たちは学校に向かうためマンションのエントランスを出る。もちろん一緒に登校するので今日は徒歩だ。この状態の健一を放っておけなかったのと自転車に乗せたらどうなるか分からないからだ。一人で行かせたらそこら辺で倒れている気がする。


「朝飯は食べたのか?」

「・・・食べてない」

「ったくしゃあねぇな。ほら、おにぎりだ。食え」

「・・・ありがとう」


 俺は鞄の中からおにぎりを取り出して健一に渡した。テストの間に小腹が空いた時用のおにぎりだったのでサイズは小さめなのだがないよりはマシだろう。


 学校に着いて教室のドアを開けると既に半数の生徒が席に座ってテスト勉強をしていた。そうやらみんな考えることは同じなようだ。


「あ、悠真くんおはよう」

「おはよう」

「健一くんも」

「おはようさん」


 さっきまで死んだような顔をしていた健一はそこにはいなかった。あいさつをされて元気よく返答していた。

 なんだよ腹が減ってただけかよと思ったが、そこには顔色が未だに回復していない健一がいた。教室に入った時に周りに気を使われないようにを装ったのだろう。仕方ない、


「健一、最後の追い込みやるからこっちに来い」

「ん、今行く」


 俺の机の方へ行ってしまえば少しは距離を取れるし無理する必要も無くなるだろう。


「まじサンキュ、もう少しあっちにいたらボロでてたわ」

「そりゃよかった。そんな状態でテスト出来ると思えないんだけど大丈夫なのか?」

「どうにか頑張るしかないやろ」


 そういう健一の目は死んでいた。仕方ない、今日はゆっくり休ませてやるか。


 定期テストが始まり、一教科目の現代国語、二教科目の数学Ⅰが終わった。今日は四教科なので残りは二教科だ。と言っても残りは副教科の家庭科と体育なので時間は短い。

 健一がこの疲労から解放されるまで残り数時間だ。耐えれるのかあいつは?そう思って見てみると机の上で顔を真っ赤にして倒れていた。


「おい、健一大丈夫か?」

「・・・」

「健一?」

「・・・」

「おい、大丈夫かって聞いてるだろ。って熱っ」


 健一からは応答がない。変に思い揺すって起こそうとして触れてみるとものすごく熱かった。


「おい、熱あるなら早く言えよ」

「・・・大丈夫だ」


 もうすぐで次の教科のテストが始まる。でもこんな状態の親友を放っておく訳にはいかない。


「ごめん、こいつのこと保健室に連れていくから先生に言っておいて」

「え、うん。大丈夫なの健一くんは?」

「分かんないけど今は受け答え出来てたから大丈夫だとは思う」


 俺はすぐ近くにいた学級委員長の小森こもりさんに一声かけて保健室に健一を運ぶ。


「今から保健室に行くから背中に乗れ」

「・・・」

「よし、行くぞ」


 俺は健一を背中に背負い教室を出て保健室へ向かう。

 俺はバスケを辞めた後もトレーニングを続けていたので簡単に運べると思っていたが、やっぱり現役の時より力は落ちていて汗が止まらなかった。

 熱のある健一を早く休ませるために急ぐけど、体調の悪い人を揺らす訳にも行かないので急ぎ過ぎずに運んでいく。


相澤あいざわ先生、こいつ熱ありそうなんでお願い出来ますか」


 保健室のドアを開けて保健室にいる相澤先生に背負っている健一のことを説明しながらお願いした。


「今日はテストだし仕事ないと思ってたんだけどな。そこのベッドに寝せな。あとは体温を測るのは任せていいか?他の準備をしてくるから頼んだ」

「はい、分かりました」


 そう言って氷などの準備を始めた相澤先生から体温計をもらい健一の体温を測った。その体温計には『39.6℃』と表示された。


「高熱じゃねえかよ。ったく俺の前でも平然を装ってたのかよ」

「・・・すまん」

「いいから喋んなって。ゆっくり休んどけ」

「そうだぞ、この薬飲んでさっさと寝ろ」


 相澤先生はそう言って薬と水の入ったペットボトルを持ってきた。健一は一度体を起こして薬を飲み、再びベッドに横になって瞼を閉じた。


「こいつはいつからこうなんだ?」

「今日の朝から体調は悪そうでした」

「なるほどね。まあ寝てれば落ち着くだろうしテスト終わったら荷物持って迎えに来てやんな」

「はい、ありがとうございます」

「私は自分の仕事をしただけだよ」


 そう言ってパソコンに向かい合った相澤先生を背にして保健室を出た。


「あ、そうそう。テスト中だからこの今日か終わるまでここにいてね。優花ゆうかちゃんには私から言っとくから安心して。」

「そういうの出る前に言ってくれませんか!?」


 保健室を出てすぐに戻ってきた。

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