第58話 勉強会

「「「お邪魔します」」」


 今日は約束していた勉強会の日。健一けんいちの家は散らかっているし、美由みゆの家と美月みつきさんの家は親がいるから厳しいということで、またもや俺の家に集まることになった。

 もちろん図書館などの公共施設で勉強するという案が出たが、人に教えるという点で誰かの家のほうが良いという意見になった。


「これ、ちょっとしたお菓子です」

「ありがとうございます。じゃあ休憩の時にでも食べますか」

「よっしゃー。楽しみができた」

「ちゃんと勉強したやつにしか出さないからな」

「分かってるって」


 今回の勉強会は赤点取りそうな健一とそれより少しだけ勉強のできる美由のことを教えるのがメインになっている。

 その健一と美由だが、しっかり集中している。健一に関してはだが、普段勉強しないでサボっているだけで勉強ができないわけではない、はず。


「なあ、ここって」

「そこはこのxに3を代入すると答えが出るぞ」

「まじか、3だったのか。俺−3代入してたわ」

「符号注意しないと」

「そうだよな、数学めんどくせー」


 健一は中学までの基礎がある分少し教えるだけで自分の中に落とし込む事ができる。だから全く新しい知識が増えることが少ない数学は解きやすいのかもしれない。苦手らしいが。


「数学は公式を覚えるだけだから覚えることが少なくて済むし楽だぞ」

「勉強できる悠真と一緒にしないでくださーい」


 俺たちは軽口を叩きながらも勉強が捗っている。向かい側でやっている美由と美月さんを見てみると、


「なるほどー。そうやって解けばよかったんだ」

「はい、ここの化学式は係数が2なので気を付ける必要がありますね」

「わかりました美月先生」


 ちゃんと勉強していた。正直美月さんはありえないと思うが美由は真面目に勉強するとは思っていなかった。


「む、なんだか悠真が失礼なことを考えてる感じがする」

「何いってんだよお前は」


 美由はエスパーかなんかなのか?この前のときといい俺の頭の中を覗かれてる感じがする。


「美由さん、悠真さんはそんなことしませんよ」

「そうだぞ、美月さんが言う通りだ」


 本当は考えていたけどここは美月さんの助け舟に乗らせてもらいながら逃げることにしよう。


 ぐーー


 そんな音が静かな部屋に鳴り響いた。


「すまん、腹減っちゃって」

「ったく、ってもうこんな時間か」


 健一の腹時計を聞いて時計を見てみると十二時を過ぎてもうすぐ一時になるような時間だった。


「もうこんな時間になってたんですね」

「集中してて気が付かなかったね」

「お腹も空いたし昼休憩にしますか」

「なんで家主じゃないお前が仕切ってるんだよ」


 最近こいつ俺の家を自分の家のように振る舞うようになったよな。今度しっかり指導しなくてはいけないかもしれない(?)


「全員お腹も空いてるだろうから作り置きのものとかでいいか?」

「はい、お願いします」

「おっけー」

「了解」


 俺は冷蔵庫の中から作り置きしていた料理を取り出した。今日は簡単に食べれるものにしようと思ったのでもともと作っていたハンバーグを焼いた。一緒に隣のフライパンで目玉焼きを焼いて、ご飯の入った丼ぶりの上に乗せる。


「今日のお昼ごはんはロコモコ丼です。手抜きなのはご愛嬌ということで」

「とても美味しそうです。手抜きになんて全く思えませんよ」

「ロコモコってこんな感じなんだね」

「俺初めて食うな」

「冷めないうちに食べるぞ」

「「「「いただきます」」」」


 今日の料理は丼物ということもあり、手軽に美味しく食べれる物になっている。


「うまっ」

「美味しい」

「美味しいです。特にこのハンバーグが私は好きです」

「あ、ありがとう」


 なんてことの無い、俺に向けられていなく料理に向けられたものであっても、美月さんの『好き』という言葉に同様してしまっている自分がいる。


「うー、悠真の顔赤くなってる」

「なってない」

「いえ、いつもより赤くなってますよ。料理が褒められて照れてるんですね。可愛いですね」

「可愛いくない」


 美由すぐに俺のことに気が付くし、美月さんには可愛いなんて言われてしまうし。男子は可愛いって言われるの結構屈辱的みたいなところもあるからな。特に相手が女子だとなおさら。

 でも、料理のことで照れてると勘違いしてくれてよかった。


 お昼ご飯も食べ終わり、少し雑談をした後にまた勉強を再開した。とりあえず今日は四時までは勉強するって話だからな。


「悠真さん、悠真さん」

「どうしたんですか?美由の方は大丈夫ですか?」

「今は自分で復習してる部分なので大丈夫です。それより、次のテストで私と勝負しませんか?」

「勝負というのは?」

「単純に主要教科の点数の合計で勝負です。もちろん私は学年首席で入学してますのでハンデはなしです」

「接続詞の使い方間違ってない!?」


 学年首席だからハンデが必要なんですよ。


「仕方ないですね。では悠真さんだけ合計点にプラス十点でどうですか」

「もう少し欲しいですけどわかりました。」

「負けた方は勝った方の言うことをなんでも一つ聞くということでいいですね」


 なんでも一つ、そう言われると俄然やる気が出てくる。でも、元々負ける気はしないけどね。だって、


「美月さんは何点で学年首席なんですか?」

「入試は五教科483点でしたね」

「なるほど、楽しみにしておきますね」

「?。わかりました?」

「美月ちゃん、ここなんだけどさ」

「はい、今行きます。悠真さん、ちゃんと約束は守ってくださいね」

「分かりましたよ。負けても文句言わないでくださいね」

「私が負けることはほとんどないと思いますが分かりました」


 そう言って美月さんは美由の方へ寄っていった。

 美月さんの言葉から分かるように、今回の勝負は自分が絶対に勝てると思って挑んできている。でもね、相手のことをしっかり調べてないことと圧倒的な余裕のせいで負けることになるなんて思ってないだろうね。

 俺はさっきの話をして今回の勝負の勝ち確信した。だって俺『    』だからね。


「何その笑い。気持ち悪いぞ」


 俺がニヤけてる姿を見て健一がそんなことを言ってきた。

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