第57話 約束②

「今日の夜お前の家行っていいか?」

「ん?いいけど、なんでだ」

「ほら、来週日本史の小テストあるって言ってたじゃんか」

「ああ、その勉強ね。しょうがない、いいぞ」

「助かる」


 健一けんいちは自分が食べ終わったあとに、聞いてきた。その後に起きたことの衝撃が強すぎてすっかり忘れていたがそんなことも言われてたな。別に断る理由もないしいいだろう。


「けんくんだけずるい。私も勉強教えて欲しい」

「馬鹿言うなよ、俺の家に夜遅くまでお前を呼ぶわけにも行かないだろ」


 いくら建一の義妹兼彼女(?)とはいえ夜遅くまで家に呼ぶのはまずいだろ。健一が同伴するとしても家の門限とかもあるだろうし。


「じゃあなんでこの前みんなで集まったときは良かったの?」

「あれは休日で次の日学校じゃなかっただろ。明日は学校だし今日はだめだろ」

「では、休日ならいいのでしょうか?」


 美由みゆに対して説明していると美月みつきさんが声をかけてきた。


「別にだめではないけど」

「では、今週の土曜日に四人で勉強会しませんか?」

「四人でですか」


 四人で勉強会!?俺の家に四人で集まって勉強するってことだよな。別に勉強するのはいいんだが


「美月さんって頭いいですよね?教えることは無いと思うんだけど」

「そうですね、首席で合格してますし頭はいいほうだと思いますよ」

「じゃあ、一緒にしなくてもいいのでは・・・」


 美月さんは入試を首席合格してるから新入生代表をやっているわけだし、俺が教えることもないし一緒に勉強しなくてもいいのでは?

 そんなことを思っていると、頬を膨らましてこちらを見ている美月さんがいた。何その顔、可愛い。


「私も教えられますよ。それに、私だけ仲間はずれになるのはいやです」

「そうゆうつもりじゃ」

「ではいいですか?」

「わかった。でもさ、重要なことを一つ忘れてるよね」

「なにか忘れてましたか?」


 俺たちは土曜日の勉強会についてずっと話していた。でも、肝心なことを確認していなかった。それは、


「二人共、土曜日って予定空いてるか?」

「やっと聞いてくれたよ。私は大丈夫だよ」

「俺も予定ないな。それに、勉強会については俺からお願いしたいくらいだ」

「そうそう。ってことで美月ちゃんに教えてね」

「はい、任せてください」


 そうして今週の土曜日の勉強会が決まった。




「なあ、ここなんだけどさ」

「あ、そこは」


 元々予定していた通り健一が家に来て勉強していた。日本史の小テストの勉強をするために来ている。と言っても、課題で渡されたプリントをやるだけなのでそこまで大変なものではなかったりする。


「腹減った」

「人の家に来て言うセリフじゃねえだろ」

「まあまあ、いいじゃないかよ。それで今日の夕飯は何なんだ?」

「今日はサバの味噌煮だよ」


 あらかじめ昨日のうちに作り置きしておいた鯖の味噌煮を温めてテーブルに並べる。一緒に弁当に入れていたきんぴらごぼうとさっき作った味噌汁も用意する。


「相変わらずお前の料理美味しそうだよな」

「そりゃどうも」

「じゃあ食べますか」

「だからなんでお前が仕切ってるんだよ」


 俺たちは二人揃って食べ始める。健一はいつも俺の料理を褒めてくれるので作るのが吝かではない。俺の気分もあがるしな。


「なんでこんなに料理できるんだよ」

「俺の親に聞いてくれ。高校入学まで家にいる間に親から学んだものだからな」

「そうか、じゃあ今度聞いてみるか。てことで、親紹介してくんね?」

「あほか。冗談に決まってるだろ」


 何言ってるんだこのアホは。親に聞くなんてくだり冗談に決まってるだろ。美月さんならまだしもなんでお前を親を紹介しなきゃいけないんだよ。


「そうだよな、お前が紹介したいのは俺じゃなくて美月さんだもんな」

「ば、なんでそうなるんだよ」

「お前見てたらすぐにわかるよ」


 俺ってやっぱり顔に出やすいのかもしれない。今日だけで何回言われたか分からないくらい言われてるし。


「それよりよ、美月さんと何があったんだよ」

「なにもねえよ」


 絶対に言う訳にはいかない。美月さんに告白みたいなことをされたと言っても信じてもらえるか分からないし、信じたとしても絶対にからかわれるに決まっている。

 それに、美月さんにに黙って他の人に伝えるのはなんだか違う気がする。


「いや、告白されてることは知ってるし、その後の話だよ」

「なんで知ってるんだよ!?」

「まじか、本当にされてたのかよ」

「・・・は?」

「カマかけたら自白したお前が悪い」


 はぁぁぁぁぁ!?知らなかったのかよ。ん?てことは、俺が自分で教えたってことだよな。もし言わなかったらバレなかったってことだよな。


「美月さん、ごめん」

「やっぱお前のリアクション面白いな」


 俺の目の前では腹を抱えて笑っている健一がいる。そんな健一を見ているとなんだか腹が立ってきた。


「人のことをからかうな!!」

「悪かったって、すまんすまん」


 口だけで謝りやがって。後で見とけよ、仕返ししてやるから覚悟しとけ。


「それでなんて返事したんだ?」

「う、それは・・・」

「それは?」

「・・・答えてないです」

「は?」


 いや、自分の中ではっきりとした答えが出てなかったのと今はいらないって言われたから答えてないです。はい。もちろん俺が悪いのは分かってます。


「なあ、悠真」

「はい」

「俺さあんまり友人には言いたくなかったんだけどさ」

「はい」

「ヘタレすぎてるしこじらせすぎてるし馬鹿なんじゃないのか」

「仰る通りでございます」


 本当に返す言葉もございません。俺が100%悪いです。


「美月さんのことをどんだけ待たせるつもりなんだ」

「はい」

「まあ、分かってると思うけど、さっさと答えでもなんでも出して返事しろ。長引けば長引くほど美月さんのことを苦しめるし、悲しませるだけなんだからな」


 健一はそう言って俺の家から帰っていった。

 俺は外の空気が吸いたくてベランダに出ると、雲に覆われて星と月は隠れていた。


「そんなこと分かってるよ」


 そんな俺の言葉は空の雲が吸収していったように、誰の耳にも届かなかった。俺の耳にも。


「やっぱり夜はまだ肌寒いな。早く風呂に入って寝るか」


 そんな独り言をつぶやいて中に入っていった。

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