第56話 食堂
食堂に着くと中庭に近い位置の席に二人で楽しそうに話してる
「あ、きたきた。
「あ、美由さん、今行きますね。ほら、行きますよ
美月さんは少し駆け足気味で美由の待っている席に向かっていった。俺はその後ろを歩いてついていく。
「それじゃあ食べよっか」
「はい、いただきます」
「「「いただきます」」」
美由と健一は先に食堂に着いていたので料理を頼んでいた。美由はオムライスを、健一は麻婆定食を頼んでいた。俺と美月さんは弁当なのでそのまま昼食をとりはじめた。
「悠真さんはいつも手作りなんですよね」
「昨日の夕飯の残りを入れたりして楽してますけどね」
「それでもすげぇよな。俺なんて弁当作って持ってきたことないんだよな」
美月さんは興味津津で俺の弁当の中身を覗き込んできた。今日の弁当は昨日の夕飯の残りの野菜炒めに卵焼き、後は作り置きのきんぴらごぼうなどを詰め込んだものだ。
「なあ悠真、そのきんぴらごぼう俺の麻婆豆腐と交換してくんね?」
「いいぞ。ほれ」
「サンキュー。この小皿に入れとくな」
「おう」
小皿の上にきんぴらごぼうを置いて、俺は麻婆豆腐をもらった。いつもこんな風におかずを交換しているので流れるように交換したのだが、そんな動作を真剣な目で眺めている人が一人いた。
「あの、美月さん?どうしました?」
「いえ、なんでもありません」
こんなのを見てどうしたんだろう。ただおかずを交換しただけなのに。あ、もしかして、
「俺のおかず食べます?」
「はい!食べたいです!」
やっぱり。この前のときもだけど、美月さんは俺の料理を割りと気に入ってくれている(俺調べ。根拠はなにひとつない)。だからさっきのやり取りを見ていたとしても納得がいく。
「私、悠真さんの卵焼きが食べたいです」
「分かった。弁当の上に置いていいか?」
「はい」
俺は自分の弁当から卵焼きを美月さんの弁当に移した。俺の卵焼きは母親に教わった通りに作っていて、白だしと砂糖を入れたもので少し甘めのだし巻き卵になっている。
「じゃあ、私も卵焼きをあげますね。他のおかずは母が作ったものですけど、卵焼きだけは私が作ったので」
「じゃあお言葉に甘えて」
そう言って入れてもらおうと弁当を美月さんの方に差し出したのだが、
「違いますよ。口を開けてください」
「え?」
「早く開けてください。あーん」
美月さんは卵焼きを俺の口元に運んできた。え、どうゆうこと?これ今どんな状況?
「恥ずかしいんですから早く食べてください」
「いや、でも、」
「は・や・く・し・て・く・だ・さ・い」
美月さんの顔も俺の顔も少しずつ赤く染まっていく。ここまで来たら覚悟を決めるしか無い。俺は意を決して口元に運ばれてきた卵焼きを口の中に入れた。
「ど、どうですか」
「美味しいです。とても」
美月さんの作った卵焼きはとても美味しかった。でも、絶対に卵焼きからでは無い強烈な甘さが口の中に広がった。
「わたしたちの前でイチャイチャしないでくださーい」
「ばっ、何いってんだ美由」
「だって、ねぇ、目の前で、ねぇ」
「何言ってるのか全くわからないんだが!?」
まったく、美由のやつがでたらめなこと言いやがって。俺が美月さんとイ、イ、イチャイチャなんてするわけがないだろ。お前らみたいに付き合ってるわけじゃないんだからな。
「なあ、お前らの関係って何なん?」
「あ、それは私も気になってました」
美月さんも気になっていたらしい。親同士が再婚したとしてもお互いに好きなのわ変わらない。それに、別れなければならないわけでもない。だからこそこの二人の今の関係性が分からなく、気になっている。
「うーん、なんだろうね」
「うん、わからんな」
「は?」
「仕方ないだろ、深く考えたことは無いんだから」
楽観的だといいのか、能天気なことを嘆けばいいのか。でも、なんだか二人らしいと思った。
「別に付き合っていけない法律なんて無いし彼氏彼女でいいんじゃないか?」
「それもいいな」
「ちなみに義理の兄妹は結婚出来るぞ」
「「それは知ってる」」
なんでそれだけ知ってるんだよ。まあ、二人なりに考えてみて決まったことだろうし特に口出しするつもりは無い。
「美由さんと建一さんが義理の兄妹である、もしくは彼氏彼女の関係であることを知っている方っているんですか?」
「私は誰にも言ってないよ」
「俺も言ってないな」
「では学校ではどのように接していても良いのかもしれませんね」
なるほど。誰も知らないならどんな関係なのかを自分たちでどう伝えるのか決めていいのか。彼氏彼女であるのか、義兄妹であるのか、はたまた別の関係性なのか。
「まあ、俺としては二人が楽しく学校生活送れればいいと思ってるよ」
「そうか。美由、どうする?」
「私はけんくんと一緒にいられたらそれでいいかな」
「じゃあ、聞かれたら答えるって感じでいいかな」
「りょーかい」
まあ、これでどう変わることも無いだろう。そう考えた俺が馬鹿だったのかもしれない。
「もう周りに隠す必要ないし、いつもみたいな感じでいいよね」
「美由がそうしたいなら」
「じゃあそうする」
そう言って美由は健一の口元に料理を持っていった。
「はいあーん」
「あーん」
「どう、美味しい?」
「さっきよりも美味しいよ」
さっきは俺たちのことを散々言ってきたのに、自分たちは当たり前のように目の前でやりだして・・・
「目の前でいちゃつくなこのバカップルが」
俺の隣を見てみろよ。美月さんなんて見ていられなくて手で顔を覆って、いや、これ指の隙間からガッツリ見てますね。はい、顔が真っ赤ですもん、わかります。気になりますもんね、見ちゃいますよね。
この後も目の前のバカップルはいちゃついていた。もしかしたらとんでもないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない(?)
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